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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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遺跡探索とは?

 その遺跡は山々に囲まれ、見つけにくい所に存在していた。山をくり抜き作ったみたいで最初に見た瞬間は、どこかのアドベンチャー映画を観ているかのような感動を覚え、思わずお~と声を漏らしたくらいである。

 中に入るとそこは大きくドーム状になっており、芸術的な石像や石柱が風化したように崩れてその面影だけを残していた。またそれが良い味を出しており、パッと見、随分昔に建造されたものだと錯覚してしまう。が、これはパチモンである。もう一度言おう、これはパチモンであって、なにかしらの先文明の名残とかそういったロマンはないのだ。


「あのさぁ……今更感があるんだけど、なんで古代遺跡に温泉なの?」


 本当に今更感があるのだが、私は前を歩くヴィクトリカに聞いてみた。


「さあ? お父様は思い立ったら即行動。考えるのは終わった後の反省会で一緒にするというのがモットーでしたので。まぁ、途中で温泉でも見つけて軌道修正してしまったのかもしれませんわね」

「そんな行き当たりばったりな……」


 いろいろ言いたいことはあったのだが、余所様の家のことをあれこれ言うのも無粋かと思い、私はこの吸血鬼一族のことは深く考えないことにした。

(ほら、あれよあれ、あの魔法の言葉。だってレリレックス王国だからぁっの派生系よっ)


「……オホンッ……あ~、それにしても、凝ってるわね。裏事情を知らなかったら本当に古代遺跡と思うかも」

「くっくっくっ、これが我がブラッドレイン家の本気ですのっ」


 私が遺跡を眺めてお上りさんになっているとヴィクトリカが自分がやり遂げたみたいにドヤッてきた。本気出して本格的な遺跡作るような職人気質を果たして「さすが、吸血鬼」と称賛すべきか甚だ疑問ではあるが……。


「確かに……これなら冒険者の方々にもなにかの遺跡じゃないのかと思われそうですね。遺跡調査に学者様も来てしまうのではないでしょうか」

「そうでしょ、そうでしょ。まぁなんてったってブラッドレイン家の本気ですからっ!」


 マギルカがよいしょするのでどんどんつけあがっていくヴィクトリカではあるが、吸血鬼として本当にそれで良いのか、お前様よ。


「遺跡調査の学者さんか……考古学者っていうのよね。どんな感じの人なんだろう。学者さんのイメージって線が細くて眼鏡をかけた優男風みたいな感じなのよね」

「はぁ? なにを言っていますの。考古学者は危険な遺跡を巡っているのですから、トラップやモンスターと渡り合える筋骨隆々な男性に決まってるでしょう」

「いやいやいや、そういうのは冒険者に任せるものでしょ。分かってないわね~、ヴィクトリカは」

「いえいえいえ、資金面や効率を考えたら自分の身一つで調査に行く方が良いじゃないですか。分かってないですわね~、メアリィは」


 考古学者に勝手な妄想を繰り広げた挙げ句に、解釈違いで衝突する私達。喧嘩はダメとマギルカに怒られたばかりなのでお互い笑顔のままでなんとかステイしているが、こめかみあたりがピクピクしており今にも爆発しそうであった。


「ん~、声がすると思いきや。お~い、君達っ、こんな所でなにをしているんだいっ! ここは危険だよぉっ!」


 私達が不穏なオーラを醸し出しあっていると男性の大きな声が響いてきた。慌てて辺りを見回すが人影は見あたらない。


「はははっ、驚かせてしまったようだね。上だよ、上。遺跡の調査中でね。ちょっと待ってて、今、降りるから」

「上?」


 言われて私は見上げると、暗く高い天井付近でなにかが動くのを確認できた。どうやら、天井にあるなにかを調べているようだ。見た感じ一人のようである。


「遺跡を調査……もしかして考古学者さんかしら。まさか、こんなに早く会えるなんてね」

「くっくっくっ、ちょうど良いですわ。これでどちらが正しいのかはっきりさせようじゃありませんか」

「ふっ、望むところ……」

「とぉっ!」

「「「「とお?」」」


 ヴィクトリカが挑戦的な顔で私を見てきたので、対抗してなにか言おうとしたところ、上の方から予想外な掛け声が聞こえてきた。

 ポカ~ンと私達が見上げると、それはズドォォォンとけたたましい音を鳴らして落ちてきた。そう、天井というからには縄かもしくは魔法で浮いていて、ス~と降りてくるのかと思いきや、落ちてきたのだ。ここの天井はかなり高く、飛び降りて良い高さではないはずなのに……。


「「「……………」」」

「ん? これはこれは、随分と可愛らしい子達が迷い込んだものだね」

「「「……………」」」


 そんな高さを物ともしない安定した構えのまま着地した男性に対して、私達は無言になる。というのも、登場の仕方もさることながら、そのルックスが私とヴィクトリカを無言にさせた。

 シュッとした顔立ちにボザボザの長い髪を後ろで縛り、丸みのある眼鏡をかけた優しそうな青年。正に私が思い描いた学者さん風な顔立ちだった……のだが、その下が……その下が予想外だった。

 彼は想像以上に長身で、私の父に負けず劣らずのガチムチマッチョな青年だったのだ。薄着なうえシャツとかパンパンなせいで余計そこら辺が誇張されており、下だけ見たら屈強な狂戦士が鎧を脱ぎ捨てた感全開である。

 まぁ、とにかくなにが言いたいのかというと、二人の意見が混ざり合ったルックスだったのだ。私はこれを別々にして想像していたので、まさか合成されてくるとは思いもよらず、線の細いイケメンのフェイスをボディービルダーの体に雑コラしたような錯覚に襲われて脳が目の前の光景を処理できなくなっていた。


「……ど、どうも……冒険者の方ですか?」


 唖然と見上げていた私とヴィクトリカを尻目に復活したマギルカが応対してくれる。


「はっはっはっ、僕の名は『ファルガー』。よく聞かれるけど、見ての通りそこら辺にいるありふれたただの考古学者さっ」

「「うっ――」」


 爽やかボイスの回答に私とヴィクトリカが思わず「うそだぁっ」と言いそうになり、お互い「失礼だろっ」と咄嗟に相手の口を塞ぎあう。

 とりあえず私の考古学者像の件は置いといて、あちらが名乗ってきたので私達も名乗っておくことにした。

 が、若干一名、その正体を隠すべきかどうか一瞬悩み、私はヴィクトリカを眺めてしまう。それを自分で名乗れと勘違いしたのかズイッと前にでて胸を張るヴィクトリカ。


「くっくっくっ、我が名を聞き、恐怖と絶望に震えるが良いですわ。我が名はヴィクトリカッ! 最強にして最古の吸血鬼、ブラッドレイン家の当主であぁるっ!」


 私の心配を余所に、なにも知らない一般市民にぶちまけるこのポンコツ吸血鬼。実際は話せば分かる理知的生物であるヴィクトリカではあるが、広く一般的に伝わる伝説の吸血鬼は、人の血を吸い破滅をもたらす悪しき魔物とされていた。いわゆる、害悪的ポジションだ。もしかすると、ファルガーはそういったモノを許すまじな人かもしれなかった。


「きゅ、吸血鬼……しかも、伝説のブラッドレイン家……」


 やはりと言って良いのか、ファルガーが驚くような反応をする。彼が万が一にも我々を危険視したのなら、このポンコツ吸血鬼を日光浴の刑に処して危険人物ではないアピールをしよう。エルフの時はこれでなんとかなったのだから、今回も……というわけで、私はス~とドヤッているヴィクトリカの後ろに回り込む。


「そうかそうか、お嬢ちゃんは吸血鬼の伝説に興味があるんだね。でも、空想の人物、一族を高らかに名乗るのは宜しくないと思うよ。ましてや、当主などとは盛りすぎじゃないかな」

「だぁれが空想の人物ですのっ! 私は正真正銘、最古のぉんぐっ」

「あははは、もぉ~この子ったら初対面の人に困ったものね~。すみません、この子ったら吸血鬼の伝説が大好きでして~、時折、なりきっちゃって、ほんと、軽く流していただけると幸いです」

「ああ、なるほどなるほど。そうだね、気持ちは分かるよ。僕もロマンを追い求めるあまり、妄想にドップリとハマったことがあったなぁ~。いや、すまないすまない。そうだね、吸血鬼はきっといるよね」


 ファルガーが爽やか笑顔でどこか遠くを懐かしむような素振りを見せた。大事にならなかったのは良いことなのだが、考えなしに私は彼の言葉に乗っかってしまい、結果ヴィクトリカが妄想癖の強い子として扱われることになってしまった。

(うんまぁ、ヴィクトリカには悪いけど、このままちょっぴり痛い子としていてもらおう)


「と、ところで、ファルガー様はどうしてこちらに?」

「ははっ、様なんて柄じゃないからさんくらいで良いよ。もちろん学者として調査に来たんだ。いや~、こんな所に遺跡があるなんて知らなかったよ。周辺にそのような伝承なんてなにもなかったからね」


(それはパチモンだからじゃないでしょうか……)

 慌てて話題を変えてきたマギルカに興奮気味に答えるファルガーを私は心の中でツッコンでみる。


「それで、君らみたいなお嬢ちゃん達がなんでこんな所へ?」

「なんでって、私達は温せ――」

「あぁぁぁ~っ! 実は私達もこの『謎の古代遺跡』の秘密を探るために来たのですわっ」


 ファルガーの質問に私は何の迷いもなく温泉を見に来たと告げようとしたが、解放したヴィクトリカに今度は私が口を塞がれ、彼女は妙なことを彼に告げるのであった。


「ちょっと、なに言いだすのよ、ヴィクトリカ」

「宣伝ですわよ、宣伝。あの自称考古学者にこの古代遺跡の存在を伝えてもらう為にお父様が作ったのではなく、本当の遺跡だと思いこませるのですわ。くっくっくっ、我ながら機転の利いた名案ですの」

「……そんな行き当たりばったりなことを~」

「あなたが宣伝しろって言ったんでしょ。代案があるなら今すぐ言ってみなさいな。ほらっ? ほぉ~ら?」

「うっ……ありません」

「では、お黙りですの」

「うぐぐぐぐぐぐ……マギルカァ~、ヴィクトリカが苛めるぅ~」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと、メアリィ様。急に抱きつかないでください」


 ファルガーに背を向け、ヒソヒソ話をしていた私は、ヴィクトリカに言い負かされて隣で見守っていたマギルカに慰めてもらおうと抱きつくのであった。


「ふむ……君らみたいなお嬢ちゃん達がこの遺跡に……はっ、もしかして先ほど言っていたことと関係が……しかも、神獣らしきモノを引き連れるほどの……」


 ファルガーがブツブツと呟きながら私達を見、そして後ろでのほほんと毛繕いしていたスノーを見ながら一人でなにかを考察していた。

(ん~、これ以上ややこしくなるのは避けたいから、とっとと温泉を確認しよう)


「えっと、この遺跡はここ以外になにかありましたか?」

「ん~、そこなんだけど、ここ以外で先に進むところがないんだよ。通路はあったんだけど、行き止まりでね」


 さり気なく温泉の存在を聞いてみると、予想外な回答がきた。


「どういうことよ、ヴィクトリカ」

「どうと言われましても、作ったのはお父様だし、私は一度もここへは来ておりませんから分かりませんわ」


 再びファルガーに背を向けコソコソ話をし始める私とヴィクトリカ。


「でもね、その行き止まりの壁が怪しいんだ。調べてみたらそれは扉じゃないのかと思えてきてね。なにか開けるヒントでもないかと調べている最中だったんだよ」


 興奮気味に説明しながら歩き出すファルガーに私達は自然と付いていく。スノーにはなにかあるかもしれないので保険としてここに残ってもらうことにした。というか、この駄豹、明らかに面倒くさくなって温泉が見つかったら教えてねとお昼寝しよったのだ。

 程なくして大きな壁にたどり着くと私はその精巧な作りの大きな壁をほあ~とお上りさんよろしく見上げてしまう。確かに見ようによっては扉にも見えたが、ドアノブもなく押したり引いたりできそうになかった。


「……メアリィ様。転びそうになってうっかり壁を破壊しないで下さいね」

「……マギルカ、それはやれという振りかしら?」

「そんなわけないでしょ」

「で~すよねぇ」


 ファルガーの後ろで今度はマギルカとコソコソ話をし出す私。内緒話が多いなぁと思いつつもマギルカに確認してみれば、ジト目で返されて深読みし過ぎた自分に反省をする。


「あら? これはぁ~」


 私達がコソコソ話をしているとヴィクトリカが壁になにか気になるモノを見つけたらしく、しげしげと見つめていた。


「ほほぉ、そこにいち早く気が付くとはこの遺跡に訳ありで来るだけのことはあるね」


 ヴィクトリカの行動にファルガーがニヤリとする。完全に置いてきぼりを食らった私とマギルカは揃って首を傾げていた。


「それはこの遺跡を作った古代文明の文字ではないのかと僕は考えているんだよ、見たこともない記号なので憶測の域だけどね」


 クイッと眼鏡をかけ直して学者さん風に格好良く語るファルガーだが、私はいまだに雑コラ感が拭えずモヤッとする。確かに壁には私の知らない模様が刻まれていた。それが文字と言われればそれっぽいのだが、一体どこの文字なのだろうか、私も全く見当がつかない。


「あっ、なるほど。そうですわね、そうそう、これはこの遺跡を作った今は失われし謎の古代文字ですの」


 明らかに今便乗しましたみたいな反応で手をポンと打ちながら答えるヴィクトリカ。

(大丈夫か、そんな行き当たりばったりな返答で)


「ん? 言い切るところを見るともしかして君達はこれが読めるのかい?」


(おぉっとぉ、ここでまさかのとばっちりだぁい)


「いえ、私達は無関係です。あるとしたらヴィクトリカだけですよ」


 というわけで、すかさず笑顔で逃げる薄情な私。実際読めないので嘘は言ってない。マギルカもコクコクと私に同意するように頷くと、残されたヴィクトリカに皆の視線が集まった。


「へ? あ~、ん~……くっくっくっ、そこに気がつくとはさすがですわね。仕方ないですわ、ここは特別に我が叡智の記憶で解読してあげましょう」

「ほうほう、そんな能力が」

「……紐解け、我が叡智の記憶っ」


 グイッと背筋を反らし、右手を天井に左手を眼帯にあて、片足を上げた妙なポーズを決めこむヴィクトリカはそのまま横目で壁を見つめていた。なぜそんな数秒で全身がプルプル震えだして今にも倒れそうなポーズをいちいち取ったのかと小一時間問いつめたいところだ。

(痛い、痛いよ、ヴィクトリカ。せめてちゃんとした魔法でやって欲しかったわ、そういうことは。そもそもファルガーさんには痛い子だって思われてるだろうに、そんなんじゃ、完全に痛い子認定されちゃうよ)


「おおっ、これは……もしかして先祖代々に伝えられた儀式的ななにかだろうか……ふむふむ」


 さすがにおかしいと思われるかと思いきや、どうやらこの考古学者様は斜め下暴投気味な解釈で一人考え込んでいた。なんとなくだが、この人からポンコツ臭がしてくるのは気のせいだろうか。


「くっくっくっ、解読できましたけど高度な言語のためこちらの言葉でどう伝えたら良いのかお二人と相談しますわね」


 今にも倒れそうだったポーズを解くとヴィクトリカはそそくさと私達に近づいてくる。

(え~と、それはつまりこの後どうして良いのか分からないので二人とも助けて下さいということかしらね)


「僕も微力ながら手伝おうかい?」

「くっくっくっ、我らが高貴な神域に部外者が触れることはできませんわ。聞き耳を立てず、大人しくそこで待ってて下さい」


 ヴィクトリカの言葉に当然のごとくファルガーが助力しようとしてくるので、彼女は慌てて拒否るのだが、高貴な神域とはなんぞやとツッコミたくなりそうだった。

(さり気なく我らとか言って、私達を巻き込まないで欲しいのだが)

 些か不満を抱きながらも私とマギルカはヴィクトリカに手を握られ、彼から離れていく。


「だ~から行き当たりばったりは止めろと言ったのよ。あれだって文字でもなんでもないんじゃない? 素直に謝ったらどうなの」

「失敬ですわね。あれはちゃんとした文字ですわよ。我がブラッドレイン家にだけ伝わる闇の暗黒文字ですわ」

「……闇で、暗黒ってあなた……」


 再び円陣を組んでコソコソ話を開始する私達。


「そのような文字があるなんて知りませんでした。もしかして吸血鬼一族にだけに代々伝わる隠された特殊な文字、とかなのでしょうか?」


 私がそのネーミングセンスに呆れているとマギルカは知的好奇心に勝てないのか、ちょっとウキウキした感じで質問してきた。


「いいえ、そんな大層なものではありませんわよ。お父様が突然三日三晩寝ずに考えて自慢してきた『俺が考えた最高にクールで格好良い形のオリジナル文字』ですわ。読めるのはお父様とその格好良さに共感した私くらいですけどね、くっくっくっ」

「親子揃って中二病か?」

「ちゅうにびょう?」

「……なんでもないわ、続けて」


 ヴィクトリカのあんまりな返答に私は思わずツッコミを入れてしまって、慌ててはぐらかす。


「えっと、読めるのでしたら、そのままファルガーさんにお伝えすればよろしいのでは?」

「いやですわよ、せっかく盛り上げたのにあの内容では」


 高度な言語とか言っておいて、その実ただの創作文字というオチをつけておいて、なぜかヴィクトリカはそれを伝えるのに気乗りしていないみたいだった。


「ちなみに、なんて書いてあったの?」

「ようこそ、夢の古代遺跡へ。入場希望の方は入り口横におります受付係までお申し付け下さい……ですわ」

「ん~、ごめん。あなたのお父様は古代遺跡をなんだと思ってるの?」


 遺跡とテーマパークを履き違えているとしか思えないその文章は、せっかくの謎多き遺跡感を台無しにしていた。これではほんとに遺跡タイプのアトラクション施設である。


「そうですわよ。せっかく作った古代遺跡にそんなどこの遺跡にもありそうな定型文で出迎えるなんてありえませんわ」

「ん~、ごめん。あなたも古代遺跡をなんだと思ってるの?」


 ヴィクトリカといまいち意志疎通ができなくて、私は目を閉じ項垂れながら眉間を軽く押さえる。


「じゃあ、あなたの中の遺跡像では今私が言った内容をどう伝えるのか教えてくれません?」

「え? えっとぉ……」


 ヴィクトリカに問われて言い淀む私。よくよく考えてみると遺跡という物をよく知らない私は映画やアニメなどに出てくる情報しかなかった。もしかしたら、遺跡の入り口にはヴィクトリカが言う文章が普通に書き込まれていて、私が非常識なのかもしれない。


「マ、マギルカはどう思う?」


 頼れるメイドが不在なので、自然と私は頼れる友人に話を振ってみた。


「そうですわね。謎の古代遺跡感を出したいのなら、もっと文章を直接的ではなく、遠回しに謎めいた感じにしてみてはどうでしょうか?」

「「なるほどっ」」

「では、とびっきりの謎めいた言葉で伝えましょう、くっくっくっ」


 マギルカの助言に納得して、なにやら得意げにヴィクトリカはファルガーの下へと向かう。


「そこの文字を解読しましたわ。よく聞きなさいっ」


 ヴィクトリカは、バッと手を振ったかと思えば、そのまま顔に近づけなにやらよく分からないポーズを繰り出す。

(この子はなにか言うとき、ポーズをとらなくてはいけない病にでも罹ってるのかしら?)


「え、えっと~……そ、そこにあるのが入り口で~……そのぉ~、まぁ~、周辺にそれを開けるなにかがあるかもしれませんわ、よ?」


(それのどこが謎めいてるんだぁぁぁいっ! しかも、なぜに疑問形?)

 期待させておいて、なんの捻りもない発言に私はついついツッコミそうになって心の中だけに止めておく。


「なるほど、それは謎だね」


 私の心情とは裏腹にファルガーが難しい顔で答えてきた。思わず「そんなわけあるかぁぁぁい」とツッコミそうになったが私はこれまた自制することに成功する。もしかして、いや失礼ながらもしかしなくても、彼は私とは異なる思考回路をお持ちなのではないだろうか。そうなると、益々私が非常識なのだろうかと思えてくる。謎解きといったらもっとこう、難しい言葉で間接的に伝えて来るものではないのだろうか。


「はっ、なるほどそういうことだね」


 私が心の中で葛藤と戦っているとファルガーがなにかに気が付き、辺りの壁を調べ始めた。


「これだっ! あの模様が文字だというのなら謎は解ける。あそこに描かれた記号の一部とここにある物が一致しているね。これは偶然か、それともここになにかあるのかもしれない」


(それは多分『受付』という文字が書かれているのではないでしょうか……)

 興奮気味に語るファルガーは差し詰め、謎を解いていく考古学者といった感じなのだが、頭から下がマッチョすぎて学者というよりは冒険家である。おまけに本当の文章を知っている身としてはオチが見えていて、悲しいかな謎が解かれる興奮よりもスンッと冷静になってしまった。


「ん~、どこかになにか仕掛けのようなモノはないかな。ん、ここの石が、押せそうな……」


 ワサワサと壁をまさぐるファルガーを少し離れたところで見守っていると、彼はピタッと動きを止めて、慎重になにやら壁の一部を押していった。

 とその時、ガコッとなにかが外れた音がしてファルガーの前にある壁がドアサイズで抜け、こちらに倒れてくる。


「ファルガーさん、危なっ」

「フンッ!」


 かなりの重量を持つ岩壁がファルガーに倒れてきて、私は行動よりも先に言葉が出てしまった。が、私の心配を余所に普通の人間には支えられそうにない岩壁をファルガーは難なく支えて、横投げした。


「なに、心配はいらないよ。こんなものは遺跡では日常茶飯事でね、何回もやってる内に支えられるようになったのさ」


 爽やか笑顔とサムズアップでキメてくるファルガーに私はなんと言葉をかけて良いのか分からず、はははっと空笑いする。

 だが、その空笑いもすぐに消えた。

 空いた壁に背中を向けていたファルガーの後ろからスケルトンが現れたからだ。


「ファルガーさん、うしっ」

「フンッ!」


 私が言うよりも早くファルガーは行動に移り、なにかしようと出てきたスケルトンに回し蹴りをお見舞いする。


「なに、心配はいらないよ。こんなものは遺跡では日常茶飯事でね、何回もやってる内に対処できるようになったのさ」


 飛ばされたスケルトンとの距離を一気に詰めるとファルガーは笑顔で私達を安心させながらスケルトンをボコ殴りしていった。その一撃一撃が重く、破壊力があるのかスケルトンは見る見る内にひび割れ、バラバラになっていく。

(私の中の考古学者像もオラオラされて、木っ端微塵に砕け散っていく気分だわ)


「……あの……受付の部屋で待機していたら呼び鈴を鳴らされて、お客様だ、さぁ案内をと外に出てみたら蹴り飛ばされてボコボコにされた……ように見えるのは私だけでしょうか?」


 一部始終を観戦していた私の横で同じく静観していたマギルカがボソリと聞いてきた。


「……世の中にいる遺跡のモンスターさん達は日夜、そういった誤解と戦っているのかもね……」


 マギルカが変なことを言うものだから私もそうとしか見えなくなってしまい、物悲しげに答えるしかなくなる。


「さて、こういったパターンではこのアンデッドが次なる鍵を握っているのだが……ん、これかな?」


 私達がしんみりと語り合っている内にファルガーは木っ端微塵になったスケルトンからなにかを取り出していた。手のひらサイズの石版で例の文字が刻まれている。おそらく意味は『鍵』なのだろう。


「……あの……殴り倒した従業員から鍵を強だっ」

「それ以上言わないで、モヤッとするから」


 再びマギルカが変なことを言いそうになって、私は慌てて彼女の言葉を遮る。でないと、今後遺跡冒険談の感情移入先が狂いそうだから……。


「よし、これを使えそうなところはないかな」


 私がポケ~としている間に、ファルガーはどんどん事を進めていった。彼的には出だしは難しいけど、進んでしまえば後はお約束なパターンみたいな感じなのだろう。迷いもなくスケルトンが現れた一角を覗き込み、なにかないかと探している。


「あった、この窪みとさっき拾った物が一致しそうだね。これをはめ込めば……」


 ファルガーがゴソゴソと作業しているのを離れて見ていると、再びガコッと鈍い音が響き渡り、入り口とされていた壁が音を立てて下へと下がっていく。

 本来ならここで「やったぁ、開いたぁっ」と喜ぶところなのだろうが、なぜか素直に喜べない自分がいることに私は乾いた笑いしか出てこなかった。おそらく、入り口まで行って従業員さんを呼んで、その従業員さんに鍵を使って扉をあけてもらって門を通るだけのはずだっただろうに……。

 そう考えると、遺跡への謎解き冒険感なんてどこへやらである。もしかして、世の中の遺跡って蓋を開けてみると実はこんな感じなのかなと思えてきて、私はワクワクドキドキ感を大事にしたく考えるのを止めた。

(ここは遺跡じゃないの、ここは温泉施設、温泉施設よ。だから、私が考える遺跡とは違うの、うんうんうん、よし、これで大丈夫。もうなにが来ても怖くないわ)

 私は自分に言い聞かせながら、入り口へと入っていくのであった。


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[良い点] > そう考えると、遺跡への謎解き冒険感なんてどこへやらである。もしかして、世の中の遺跡って蓋を開けてみると実はこんな感じなのかなと思えてきて、私はワクワクドキドキ感を大事にしたく考えるのを…
[気になる点] ヒトデが専門の海洋生物学者だってオラオラな風体してますものね…
[一言] 受け付けスケルトンさん……不憫
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