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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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そうだ、療養しよう

 あの事件から数日過ぎていた。

 あれからいろいろと王国や学園内ではバタバタしていたと話を聞く。私はというと、この事件の当事者なのだが、じゃあ説明をと言われても事を大きくしたのが偽私な為、詳細を語れないという微妙な立ち位置にいた。唯一の当事者であるマギルカは体調を考慮し、今も学園を休んでいる。

 病気や怪我の治療、療養。そういったワードに敏感な私としてはなんだか気が気でなく、日に日にネガティブな想像が膨れ上がってくるのでマギルカの姿を見て落ち着きたい。

 そう思った私は……。


「……だからと言って、わざわざこちらに来られなくても……しかも、スノー様の背に乗ってまで」

「……だぁって、耐えられなか、もとい、心配だったんだもん」

「メアリィ様……」

『なにがだぁってよっ。可愛く言ってもダメだからねぇ~、横暴よ、横暴っ、私こう見えて神獣なんだからねっ、待遇の改善を求めるわぁ~』


 目の前のマギルカにモジモジアピールしてみれば、後ろにいたスノーにテシテシと頭を叩かれ抗議される。

 私は今、マギルカと共に庭先でお茶をしていた。彼女の体調は良くなっており、本人的にはすぐにでも学園へ行きたいらしいのだが両親が心配して療養させているらしい。

 そう話していた時のマギルカは口では困ったように話しているのにちょっと嬉しそうだった。

(元気そうで良かったわ。そういえば、マギルカと面と向かって話すのってあの夜以来かな~)

 久しぶり(?)に見たマギルカにホッとした私は、ふとあの砦跡の夜のことを思いだす。

 

 

 

 砦跡の暗くて狭い部屋の中、私の告白の後、静かな時が過ぎていた。


「……どんなモノにも負けない、力……」

「……うん……簡単に言えば人知を越えた力、かな」


 マギルカがこちらを見つめてくるので私も逃げずに見つめながら答える。


「…………」

「……怖い?」


 沈黙するマギルカに私は耐えられなくなって自虐的な笑みを零しながら聞いてしまった。すると、マギルカは小さくだが首を横に振る。


「いいえ。それはメアリィ様が神様から頂いた祝福ですから」

「祝福?」

「はい……私達は生まれた時に神様からなにかしらの才能という名の祝福を頂けると聞いております。それを活かすも殺すも私達の人生、私達の可能性なのだと。ほら、神託の儀を覚えておりますか? メアリィ様が授かったモノがそれだった、ただそれだけです。驚きはしますが、忌避することは絶対にありません」

「……マギルカ」


 神様との行き違いというか勘違いから過剰に頂いたチート能力。それを神様の祝福とか、生まれもっての才能として妥協するには私は小者過ぎた。突然なにもしていないのに大金頂いてどうぞ好きなだけ使ってくださいと言われてオロオロする小市民、それが私なのだ。

 それでもマギルカの言葉は私の重荷を軽くしてくれた気がする。


「……あの、不躾ながら聞いても良いですか?」

「うん、何でも聞いて」


 横になりながらもモジモジするマギルカが可愛らしくて、私は微笑みながら彼女を促す。


「あの合成獣を葬ったメアリィ様の魔法は何階級だったのでしょうか?」

「えっ…………えっとぉ~……ろ、ろく……階級、だったような……」


 どんと来いと構えていたにも関わらず、尻込みしてしまうダメな私。視線を逸らして答えたのでマギルカがどう反応するのか怖くて見られない。


「……六階級……」

「……」

「すごいじゃないですか、メアリィ様。もしかして、メアリィ様はそれ以上の、いえ、すべての魔法を網羅していらっしゃるのですか?」

「ふぇっ? ぜ、全部って。いやいや、知らない知らない。学園で学んだモノ以外ではちょこっとくらいよ」


 ずずいっと迫ってくるマギルカの好奇心の瞳に映る困った顔の自分の姿に苦笑しながら私はモゾモゾと彼女から逃げた。


「そうなのですか。でも、可能性がないわけではないのでしょ?」

「う、うん……たぶん」

「なら、世界中を旅してあらゆる魔法を習得し、前人未踏であったあの八階級魔法の謎に迫ろうじゃありませんか。そしてその知識を王国に献上すれば王国の魔法水準が上がるかもしれません。あぁ、伝説の賢者メアリィ=レガリヤの誕生ですわ。ウフフッ、良いですわね、目指す相手が高ければ高いほど……」

「ならないからっ。伝説の勇者とか賢者とかそんな物騒なモノにはならないし、目指さなくて良いからっ。帰っておいで、マギルカ。私は平々凡々な生活を希望してるの」


 なんだか夢見る乙女のような顔して物騒なことを言ってくるマギルカに、私は昔テュッテに言ったような台詞を彼女に投げかける。


「えぇ~っ」

「えぇ~って、あなた……」


 私の意見がお気に召さなかったのかマギルカが抗議の声をあげ、プクッと頬を膨らませ不貞腐れる。そんなマギルカが可愛らしくて、私は再び近づき彼女の頬をツンツンしてやった。


「とにかく、私は目立たず平凡な暮らしがしたいの。だから、このことは内緒にして欲しいんだけど……」

「え? 目立たず平凡……」

「う、うん……平凡」


 私のお願いに違和感を覚えたのかマギルカが首を傾げてきたので、私は言い淀んでしまう。

「約束っ」


 そう言って私は強引に事を進めるべく自然と「指切り」のために小指を彼女の前に出した。


「?」


 当然のごとく私の行動にマギルカが再び首を傾げる。

(可愛らしいなぁ、こんちくしょう……じゃなかった。指切りなんて風習、この世界にはないよね)


「メアリィ様、それは?」

「えっと、約束を守るという証としてする行為なんだけど、ごめんごめん、勝手なことして」

「証……良いですね、やりましょう。どうすればよろしいのですか」

「えっと、こうやってお互いの小指を絡ませるの」


 私が言うとマギルカがスッと自分の小指を私の指に絡ませてきた。


「ゆ~びきりげ~んまん、嘘つ~いたら針千本飲~ます。ゆびきった」


 私が一方的に事を進めていくのをマギルカはなんだか楽しそうに眺めていた。


「……つまり、約束を破ったら針千本飲まされるのですね。う~ん」


 さすがに一方的すぎてマギルカも難色を示したのだろうか、ちょっと考え込んでいる。


「あっ、ごめん。一度やってみたかったの、いやならなかったことに」

「いえ、イヤじゃないのですが。針千本って……用意するのも大変じゃないですか?」

「え? 心配するとこそこなの?」

「はい。まぁ、破る気は更々ないのですが、気になってしまって。千本用意するくらいなら魔法の方が良いのではないでしょうか? なにか針でなくてはいけないことがあるのでしょうか? もしかして、これはなにかしらの魔術儀式なのでしょうか?」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って。落ち着こうか、マギルカ。変なスイッチ入ってるわよ」


 ちょっと憧れてた指切りにまさかここまで喰いついてくるとは思いもよらず、私は慌てて彼女を落ち着かせる。

 気がつけば、先ほどまでの緊張感はどこへやら。いつも通りのマギルカの雰囲気に私は感謝の気持ちで一杯であり、そんなことよりもっとあるだろとツッコミたくなるようなそのマギルカの好奇心にクスッとしてしまうのであった。

 

 

 

「どうしましたの、メアリィ様」

「ううん、なんでもなぁ~い」


 思いだし笑いをしてしまった私にマギルカが訝しげな顔で聞いてきたので、私は膝の上で丸くなっているリリィを撫でながらはぐらかす。ポカポカ陽気に誘われてリリィがフア~と欠伸をするので顎の方をウリウリと撫でてあげると気持ち良さそうに目を細めていた。

(あぁ、和むわ~。なんかの~んびりした一時を過ごしたくなってきたわね)


「そうだ、療養に行こう」


 私はのんびりしているリリィを眺めながら、ふとそんなことを口走る。


「いきなりどうしたのですか?」

「いや、リリィ見ていたらね。マギルカは療養中だし、この際療養しにどっか行こうかなっと思ったわけなのです、はい」

「療養のために……ですか。どこかございますの?」

「ん~、どこかの街とかは答えられないけど。そうね~、あっ、温泉、こういう時は温泉と相場が決まってるものよっ」


 マギルカの質問に私はナイスアイディアとばかりにポンッと手を打って答えた。


「おんせん?」


 そして、お約束かのようにマギルカはぴんときていない表情をする。

(はい、温泉ありませんでした。いや、このパターンは知らないだけで存在はするというパターンのはず。ないなんてことはないわよ、ねっ、神様)


「温泉っていうのはなんていうのか、こう、地熱で熱せられたお湯で作られた天然のお風呂って感じかしら」

「天然のお風呂ですか……私の周りでは聞きませんね……」


 人というのはないと言われると欲しくなる性質というものなのか、チラッと思っただけの提案だったのに、私の中で温泉に行きたい熱が沸々と沸き起こってくる。ちなみに私の周りでも聞かない。あったら、とっくの昔に私が入り浸り倒してるだろう。

(温泉といったら火山かな~。ここらで火山ってあったっけ?)


『ねぇねぇ~、メアリィ』


 私が無い知恵を振り絞って思案していると、呑気な声でスノーが話しかけながら私の頭をテシテシしてくる。


「なによ、スノー。今大事な相談中なの、おやつのおかわりなら後にして」

『失敬な、私はあなたみたいな食いしん坊キャラじゃないんだからねぇ~』

「ホホゥ、聞き捨てならないことを言ったわね。よぉし、戦争だ」


 スノーの暴言に私は彼女を見ながらゆらりと立ち上がる。そんな私の笑顔を見てスノーが尻尾を垂らして後退りした。


『待って待って、暴力反対。私はただ温泉というモノに心当たりがあっただけよ』

「えっ、スノー、温泉の場所知ってるの?」

『う、うん、なんか泉から煙出てるなぁ~て興味本位に前足つっこんだらお湯だったわ。びっくりしたから覚えてるのぉ~』

「マジでっ、えっ、どこどこ?」

『オッホン、では問題です。そこは一体どこでしょう~』

「はい?」

『ヒント、そこには一度行ったことがある~』

「え? 行ったことがある。はて、温泉があったならすでに入っているはずなんだけど? え、もうちょっとヒントちょうだい」

『マギルカちゃんは行ってな~い』

「え? マギルカは行ったことないの? じゃあ、私が個人的に行ったのかな? も、もうちょっとヒントを」

『ん~と、印象的には山というよりかは渓谷~かな』

「渓谷……私が行ってマギルカが行っていないところ……あっ、はいはいっ! 分かった、ブラッドレイン城でしょう!」

『せ~いか~い。正解者には私が貪り食ったお菓子の残しを差し上げます』

「いらんわっ!」


 スノーとの問答を終え、ふと二人を見ると微笑ましい表情でこちらを眺めていた。


「え、なに?」

「「いえいえ、お可愛いことで」」


 二人がハモってそんなことを言うものだから、私は先ほどのやりとりを思いだして恥ずかしくなってしまう。端から見たら単なる独り言ではしゃいでいるみたいに見えたからだった。慣れというのは恐ろしいとつくづく思う今日この頃である。


「コホン……そ、それで、ブラッドレイン城に温泉があるって言うことなの?」

『城にあると言うよりはその地域と言った方が正しいかしら~。ほら、あの城で待たされてたときに、ちょっと周辺をぶらついてたのよ~』

「なるほどね。確かにあそこは山々に囲まれてたものね~。でもな~、ブラッドレイン城か~、ヴィクトリカに会うことになるのかしら」


 ん~と、私は悩ましげに天を仰ぎ見る。正直、あのお騒がせ吸血鬼には会いたくない。会ったが最後、妙なことに巻き込まれる気がしてならなかった。


「あの……無理に温泉とやらに行かなくてもよろしいのでは?」


 私が渋っているせいでマギルカが至極もっともな意見を言ってくる。


「いいえ、マギルカにはぜひとも温泉でゆっくりと療養して、温泉の良さを知ってもらいたいのよ。ついでに、私も温泉に入りたいぃっ!」

「ついでの方が言葉に気持ちが籠もっていらしたのは気のせいでしょうか?」

「き、気のせいよ」


 私の思惑を見透かすようなマギルカの言葉に私は視線を泳がせながら誤魔化そうとする。


「そ、それに温泉回といったら水着回に並んで外せないイベントなのよっ! だから、行かなきゃ」

 焦ってなに言ってるのか自分でも分からなくなっていくの図。

「なにがだからなのかよく分かりませんが、私のために無理をなさらないでください。どうしてもというなら個人的に……」

「分かってない、分かってないわよマギルカ……起伏に乏しい私だけが行っても撮れ高は足りないのよ。あなたじゃなきゃダメなんだからぁぁぁ」


 もう自分でなに口走ってるのか分からなくなっていた私は勢いのまま自虐に走ってしまい、拳を握って涙ながらに語った。


「……温泉に行きたいという情熱と、私に対してなにか失礼なことをおっしゃっているのだけは伝わりましたわ」

「…………」


 私の熱弁空しく、マギルカは半目になって私を見てくる。なんだか雲行きが怪しくなる一方で、私の焦りが絶賛上昇中である。


「行きたい、行きたい、温泉に行きたいぃっ! マギルカと一緒に温泉い~きた~いぃっ!」


 そして、私は最終奥義「駄々を捏ねる」を発動し、説得するのを放り投げる始末。


「分かりましたっ、分かりましたから落ち着いてくださいませっ」

「ほんと? やったぁっ! えへへ、だから、マギルカは好きよ」


 予想通りマギルカが折れてくれ、私はパッと駄々を捏ねるのを止めて満面の笑みを浮かべながら喜んだ。我ながらめんどくさい私だなと反省しつつも、なんだかんだ言っても優しいマギルカに感謝感激する私なのである。


「……もう、調子の良いお人ですね」


 マギルカはほんのり頬を染めてフンッとそっぽ向く。怒っているわけではなく照れているのだと付き合いの長い私にはすぐに分かった。


「さてそうなると、いかにヴィクトリカに気づかれずにそこへ行くか、よね」

「いえいえ、そこは普通に挨拶しに行きましょうよ」

「えぇ~~~」

「えぇ~~~ってあなた……」


 立場は変わったがデジャヴを感じるやりとりに私は可笑しくなって思わず吹き出してしまう。


「そもそも、その場所はお城にあるのですか? それとも近くの村とかにあるのでしょうか? ただその温泉というのがちょこんとあるだけなのでしょうか?」

「そういえばそうよね。そこんところ、どうなのスノー?」

『うまうまっ♪ このお菓子美味しいわね~。私サイズに合わせてもっと大きなモノにしてくれないかしら~』


 私が話を振ってみると、振られた人というか神獣はテュッテによって再び大量に装われたお菓子を貪り食っていた。


「おい、そこの食いしん坊。余所様のお菓子を貪ってるんじゃないわよ」

『モガガ……ングモグ……フガグガガ……』

「やぁね~、スノーったら。食べるかしゃべるかどっちかにしてちょうだい……って言うと思ったかぁぁぁっ! あんた、口でしゃべってないでしょうがぁぁぁっ!」


 口をモゴモゴさせながら、私の頭の中に直接語りかけてくるスノーに私は一人ノリツッコミをする。


『やぁねぇ~、あなたがよくやるのを真似しただけじゃなぁ~い』

「よぉし、良い度胸だ。表に出ろっ」

「あの、メアリィ様。お二人の会話は分かりませんが、話が逸れているということはなんとなく分かるので、話を戻してもらえますか?」


 再びユラリと立ち上がる私にマギルカがやれやれといった感じで私達の会話に割って入ってくる。


『え、えっとぉ、なんだっけ? 正確な場所だっけ? そ、そうねぇ、お城からは離れるけどそんなに遠くはない~と思うけど飛んでたから正確には分からないわね。見た感じ人気はなかったわよ』

「ふ~ん、近くに村がないのか~。くっ、残念。あったらお城すっ飛ばしてそこへ行ったのに~」

「まぁまぁ、そこは温泉へ行けると思って妥協してくださいませ」

「う~ん、まぁ~、そうよね。うん、よぉし、温泉に行くわよぉ~っ!」


 私一人だけオ~っと拳を掲げてテンションを上げていく。視界の端でテュッテがマギルカに頭を下げ、彼女が困ったような顔でなにか言っているのだが気にしないでおこう。

(だって、温泉に行きたいからっ! あると知った以上、もう私のこの想いは誰にも止められないわよっ!)

 こうして、療養という建前で私達の温泉旅行が強引に決定したのであった。

私事で更新が滞ってしまい申し訳ございません。『湯けむり温泉編』スタートです。

コミックウォーカー様より「どうやら私の身体は完全無敵のようですね」のコミカライズ第25話更新されました。暗黒の島だぁぁぁっ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] メアリィとマギルカが尊い。 もう、メアリィはマギルカに惚れてもいいんじゃないかと思う。 [一言] 最近の話しを読んでると百合じゃねと思う。 とても良い
[一言] 撮れ高……いまのとこ最強はエリザベス様かな? ヴィクトリカの所寄ったら偶然来てたりしないかなw
[気になる点] これはチート能力の話はしたけど異世界転生者な事は話してないんですね。 転生者である事を知ってるのは未だテュッテだけ。 マギルカに話したら怒涛の質問責めに会いそうだけど。
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