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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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イヤな予感はしていた……

 王都に向かう途中からイヤな予感はしていた。


 心がざわつくというか落ち着かない感じだった。だから、私は学園に引き返したのだ。その途中でスノーが暇つぶしにこちらに来たのは僥倖だった。

 学園に戻るとなんだか慌ただしく、王子に聞いたところ私と反対の方向、学園の外で争いがあったそうだ。その中に私とマギルカ、ザッハが確認されているとのこと。

 それを聞いた瞬間、私はスノーの背中に乗っていた。


 イヤな予感はしていたのだ。


 スノーに空から追跡してもらい、ザッハ達と合流してマギルカ達が先行し砦跡にいることを知ると、スノーに無理を言って全速力でその場所に向かってもらった。

 その間、心のざわつきは大きくなっていった。

 砦跡に着くと黒ずくめ達とグリフォンが争っていて、私が降り立つとなぜか黒ずくめ達が「なぜ、魔法少女がここにいるのだ」と驚き、慌てふためいていた。

 私は黒ずくめ達の驚きの声から砦の中へマギルカ達が入っていったことを知り、その場はグリフォンとスノーに任せて内部へ走っていく。

 内部では地響きが続き、下の方でなにか大きなモノが暴れているのが分かった。

 私は迷わず地下を目指す。階段を下りた先、通路の向こうで小さくだが金髪縦ロールの少女を見た時、私はホッとするよりも心のざわつきの正体を知った気分だった。

 マギルカは魔法が使えないくらいに傷つき、ボロボロだった。

 そんな彼女に歪なモンスターが接近しているのを確認した瞬間、私はそのモンスターに向かって剣を投げつけていた。


「マギルカァァァッ!」


 私が叫ぶと彼女は柔らかな笑顔を見せ、そのまま床の崩壊とともに落ちていく。

 

 落ちていく?

 

 目の前の光景が許容できず頭の中で処理できない。私は無意識に走るスピードを上げていた。おおよそ人とは呼べないくらいのスピードが出ていたと思うがそんなこと気にする余裕など今の私にはなかった。

 偶然なのか意図的な設計なのかそんなものはどっちでも構わないが、崩れた床の下は大きな穴が存在していた。そこに見た感じ魔法が使えないくらい弱っているマギルカが落ちたのだ。浮遊魔法も使えずに……。


「マギルカァァァッ!」


 私は迷うことなくそのままマギルカが落ちた穴へとダイブする。彼女が消えてすぐに飛び込んだのでそんなに差がついていなかったのは幸いだった。


「……メ、アリィ……様」


 うっすら開く瞳と目が合い、私はホッとする。

(大丈夫だ、このまま彼女を掴み浮遊魔法で……)


「ガァァァァァァッ!」


 その時、私の横から咆哮と共に巨大な物体が襲いかかってきた。驚くことにこのモンスターは背中の羽らしきもので空中でも多少思うように動け、私が投げた剣を突き刺したまま平然と動いていた。

 私の横腹から牙を突き立て噛みつこうとするが、全く歯が通らず砕け散る。だが、勢いは止まらず私は横から咥えられて壁の方へと追いやられてしまった。そのせいで落ちていくマギルカとの距離が広がっていく。


「邪魔をするなぁぁぁっ!」


 焦りと苛立ちで私は乱暴に巨大な蛇の口を掴むと、強引に引きちぎる。もはや、人の所業とは思えない光景だが、そんなこと気にしている余裕などない。

 マギルカに見られていようがそんなことは今の私にはどうでも良かった。彼女が救えるのなら私は何だってする。

 私はそのままこのモンスターを足場にして、落ちるマギルカに向かって飛んだ。と同時に、マギルカの背に地表が見えてくる。


「間に合えぇぇぇっ!」


 私は限界までグッと手を伸ばし、マギルカの体を掴む。一気に自分の方へ引き寄せ、抱き包むとその瞬間、地表が目の前に迫った。

 暗い空間にドォォォンと轟音が響く。

 間一髪、私はマギルカを抱き抱えながら地面に立っていた。

 結構な高さから落ちたのに、私はなんの魔法の補助もなくマギルカを抱えながら立って着地してしまったのだ。


「……メ、アリィ様……」


 うっすらと開き続けていたマギルカの瞳が私を見てくる。おそらく、今までの出来事を彼女はぼんやりとした意識の中で見ていたに違いない。


「大丈夫、マギルカ?」


 私は努めて平静を装い、彼女の状態を確かめる。

 やはり気になるのは肩の傷だった。

 なにか大きなモノに刺された、もしくは噛まれたような痕があり、その周りが紫色に変色している。

(この傷のせいでマギルカはひどい熱を出しているのかしら。もしかして毒? そういえば、あの変なモンスター、蛇みたいな頭だったわね。こ、これは、あの伝説の傷口を吸って応急処置する時ではっ! わ、私が、マギルカの肩をカプッと……あ、でもあれって噛まれてすぐじゃないとダメかしら?)

 今はそんな場合ではないのだけど、マギルカの露わになった肩を見てなぜかゴクリと唾を飲み込んでしまう変な私。

 やるかやらないか、そんな葛藤に苛まれていると、轟音と共に大きな肉塊が私達の近くに飛来してきた。


「気をつけ、て、ください……あの合成獣は、再生……しま、す」


 熱で苦しそうなマギルカはそれでも状況を見て、私に助言してくれた。彼女の言う通り、私が引き裂いたはずの頭が歪な肉塊となって蠢いている。いろんなモノが混ざり合って、もうなんのモンスターなのか分からないくらい醜悪だった。


「ちょっとだけ待っててね、マギルカ。すぐに終わるから」


 抱え上げていた手をマギルカからソッと離して、彼女を隅の床に寝かせる。相手に背を見せた状態になり、もちろんと言っていいのか合成獣(?)らしきモノが大きな頭をこちらに伸ばして襲ってきた。

 私はそれを片手で掴み、止める。


「ファイヤー・ボール」


 掴んだ私の手から火球が放たれ、合成獣は悲鳴なのかなんなのか分からない叫びをあげて後退する。見ると、その火は徐々に消えていき、当たって傷ついた部分はボコボコと隆起を繰り返して元に戻っていった。

(これでは焼き尽くせないか……それにしても、あの能力、なんかヒュドラに似ているわね。時間をかけたくないわ、速攻で片を付けよう)

 私は一度深呼吸をし、相手を睨みつける。


「聞けぇっ、罪深き魂よっ! ここに至る道は絶対であり、汝に与えるは慈悲である。今ここに神が与えし煉獄の扉を開こうっ」


 私の言葉に呼応して魔力が収束していき、合成獣の床周りを取り囲むように魔法陣が四方に形成され、そこから炎の扉が屹立した。


「その罪、その穢れ、そのことごとくを許し、全てを浄化の炎で焼き尽くさんっ」


 さらに、炎の扉が開くと炎の鎖が飛び出し、合成獣をグルグルに拘束した。空中に吊し上げられ、鎖づたいにその身を十字の炎で焼かれる合成獣。その絶叫と炎の轟音が辺りを支配していく。


「フレイム・オブ・ピュリフィケーション・フロム・パーガトリーッ!」


 私の力ある言葉に応え、炎の鎖で焼かれる合成獣の頭上に一際大きく豪奢な炎の扉が出現し、ゴゴゴゴゴッと重く開いていく。

 轟音と共に開いた炎の扉から全てを焼き尽くす炎が飛来し、それと共に四方の鎖も扉も燃え広がって一つの炎の固まりと化す。


「終わりよッ」


 私の言葉と共に巨大な炎の固まりは天の炎扉へと昇っていき、扉がそれを呑み込むと再びゴゴゴゴゴッと重く閉まっていった。

 ヒラヒラと残り火を落としながら炎の扉が消え、残されたのは降り注ぐ灰と私の剣、そして偽私が持っていたアイテムだけだった。


「マギルカッ!」


 剣とアイテムを回収し安全を確認した後、私はマギルカの元へと駆け寄る。彼女は目を閉じてはいたが呼吸を確認できてホッとした。

 マギルカを抱え上げ、浮遊魔法で上へと戻ってみれば、程なくしてイクス先生率いる部隊が私達の元へ駆けつけてくる。

 ついてきた治療魔法の先生に彼女を預けた後、私はプハ~と大きく息を吐き、緊張の糸を切って脱力した。

 今更なのだが、なにがなんだか分かりもせずに無我夢中でマギルカを助けていた自分に気がつく。

(うんまぁ、マギルカが無事だったから良しとしましょう。あれ? そういえば、あのお騒がせな二人はどこへ行ったのかしら?)

 私は偽物が持っていたアイテムを見た。

(そもそも、なんでこのアイテムがあの合成獣の中から……ん? ちょっと待って、もしかして丸飲みされたの?)

 私は思いも寄らなかった考えに青くなる。


「いやいやいや、それはない、ない」


 自分で自分の考えを否定しながら、私は砦を離れることにした。後のことは大人に任せ、詳しいことはマギルカに聞けば良い。

(私が合成獣と一緒に偽私を燃やし尽くしたなんてことは……ないよね、神様?)


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― 新着の感想 ―
[気になる点] メアリィは治療魔法使えないの?
[一言] 終わりよッ ってもう完全に口癖というか自分のにして… 自らすすんでやってるようでは、私は騎士様じゃないと否定できませんよメアリィさん…
[一言] 命を直接焼き尽くす炎かな
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