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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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突入ですっ

 すっかり日が落ちた頃、暗い森の中でマギルカ達が木々に隠れて様子を伺っている。

 あれから闇の機関とやらは途中、待機させていた馬に乗り、移動していた。そのせいで、かなりの距離を追ったなとマギルカは暗い森を見回す。

 追いついたところで偽メアリィが、このまま彼らのアジトまで案内してもらおうと提案し、まさか本当にアジトまでたどり着いてしまうとは思いもしなかったとマギルカは困惑していた。

 余談ではあるが、偽マギルカは今もまだ青い顔をして座り込んでいる。別に暗いところが怖いとかではなく、先ほどまで気絶していたからだ。

 そう、偽マギルカはマギルカ以上に高いところが苦手で、上空に上がって、下を見た瞬間に気絶していた。

 なら、なんでついてきたと意識を取り戻した彼女にマギルカが問いつめれば「そこにメアリィ様がいるからです」と答えて、まだ自分が上空にいることを知るとまた気絶した。

 グリフォンは目立つということで、少し離れた場所で待機している。

 伝達魔法を使ってザッハに場所は知らせてあるので、待っていれば援軍がくる手はずだ。


「よし、突入するわよ」


 偽メアリィが先に見える砦、昔に破棄され朽ち果てた砦跡を見ながらそんなことを言ってくる。


「メアリィ様、これは罠です。彼らはきっと私達が追っていることを承知でここへ案内したのですって。援軍が来るまで待ちましょう」

「招待されたのならば、伺わなくちゃいけないわね。よし、行こう」


 マギルカの忠告も空しく、偽メアリィは敵のアジトに突っ込む気満々であった。


「なぜ、そんなに好戦的なのですか」

「なぜかって? フフッ、愚問だわ。そこに悪があるからよ」


 偽マギルカと似たようなことを理由にする偽メアリィにマギルカは思わず嘆息してしまう。


「怖いのでしたら、あなたはここに残っていればよろしいのでは? メアリィ様には私が付いていきますので」


 やっと復活した偽マギルカが偽メアリィとマギルカの間に割り込んでくる。


「ささっ、メアリィ様。行きましょ、行きましょ」

「よぉし、行くわよ、マギルカ」


 一人ならいざ知らず、二人となるとさすがのマギルカも止められず、二人は暗闇に紛れて砦跡へと向かっていくのであった。

 このままここで援軍が来るのを一人待っていても良かったのだが、二人が心配なあまりマギルカは慌てて二人を追う。

 そして、マギルカは驚愕な光景を目にした。

 なんと、偽メアリィはこっそりどころか、正面の入り口から堂々と中に入ろうとしていたのだ。


「ちょっ、メアリィ様ぁっ!」

「闇の機関に告ぐっ! そこにいるのは分かっているのよ、武器を捨てて大人しく投降しなさい。さもなくば、この魔法少女があなた達に正義の鉄槌を喰らわせることになるわよっ!」


 正門で大声をあげて警告するというまさかの所業に及んだ偽メアリィ。奇襲を自ら捨てた方法にマギルカは唖然としてしまった。

 さらに唖然とさせたのが、ここまでしたのに向こうからの反応がないということだった。

 不意打ちを狙って隠れ潜んでいるのだろうかとマギルカは警戒する。


「あれ? 聞こえなかったのかしら。誰も出てこないわね」

「単に隠れて様子をうかがっているのでは」

「じゃあ、ちょっと様子を見てくるからマギルカはここで待っててね」


 そう言って、偽メアリィだけスタスタと砦跡へと入っていってしまった。

 取り残されたマギルカ達はポカンとした顔でお互いを見合い、慌てて彼女の後を追いかける。


「お待ち下さい、メアリィ様。危険です、戻りましょう」

「いえ、戻ることはありませんわ。メアリィ様のお好きなようになさってくださいませ」

「ちょっとあなたは黙っててください」

「なんですって。あなたこそ黙ってて下さい」

「こらこら、二人とも喧嘩しない」


 同一人物のはずなのに、性格が変わるだけでこうも違うのかとマギルカは目の前の自分に文句を言いながら思う。


「よぉ~こそ、我らがアジトへっ!」


 突然男の大きな声が辺りに響き渡り、それを合図に黒ずくめの男達がマギルカ達を大きく取り囲むように姿を現した。

 そして、開けた場所を一望できる場所に、今までの黒ずくめとは違う豪奢な仮面の男が姿を見せる。


「所詮は子供か。我々がここまでおびき出したことに気づかず、まんまと罠にはまりよって、バカな奴らめ」

「失敬なっ! これが罠だってマギルカは分かってたわよ。単に私が言うこと聞かなかっただけなんだからねっ。彼女に謝ってっ」

「はあ?」

「謝ってっ!」

「え、いや……」

「謝ってっ!」

「……すみま、っじゃなくてっ!」


 偽メアリィの物言いに気圧されたのか男は謝りそうになって慌てて訂正するのであった。


「ええい、調子狂うわっ! もう良い、子供といえど容赦はしない。アレを出せぇぇぇっ!」


 一人憤慨する男はそう指示すると、砦内の広場の奥から、ズシ~ンズシ~ンとなにか大きなモノが接近してくる足音が聞こえてきた。


「な、なんですの、アレは」


 砦の奥から現れたモノを見て、マギルカは驚愕する。

 それはマギルカ達の背丈を余裕で越える巨大な兎であった。

 その頭上には大きな角が屹立している。

 マギルカは即座にこれが最弱モンスターに分類されるボーンラビットだと判断した。だが、これほどまでに大きな体格だったかと疑問が残る。象徴の一本角も三本生えており、その愛くるしい瞳が兎の目ではなく、爬虫類独特の瞳に変わっていた。

 極めつけはその尻尾だ。

 ズルズルと引きずられて動かないが、蛇型モンスターがくっついている。あのような不完全で歪なモンスターがいるはずがない。いるとしたらそれは人為的……マギルカはある一つの結論に至った。


「……もしかして、合成獣キメラ

「ホウ、なかなか博識ではないか。その通り、我らが機関の目的は正にそれだ」

「合成獣の研究は命の冒涜としてこの国では古くに禁忌の部類になっているはずです。資料や技術も破棄されてこの国ではその研究は困難なはず」

「くっくっくっ、よく勉強しているな。確かにこの国では研究資料を集めたり施設を作るのは困難だよ。この国ではな」


 男がこの国ではと繰り返すと、マギルカは相手が他国の者ではないのかと勘ぐる。合成獣もまた魔法技術の一環であり、その存在だけは学習していたマギルカは、その技術を了承している国はどこかと思いだす。

 最初に浮かんだのはエインホルス聖教国だ。

 彼らはこの生命の冒涜を『新たな存在を生み出す』神に等しい技術として了承していた。

 かの国の印象が悪いため、どうしてもそちらと結びつけてしまうのは早計だなとマギルカは考えを保留する。

 そして、新たな疑問なのがこの機関とメアリィの関係だった。

 魔鏡から生み出された偽メアリィが合成獣を作る機関とどう関係するのか、それがいまいち分からないとマギルカは首を傾げる。

 その疑問をポロッと口にしてみれば、偽メアリィがさも当然のように自信を持って答えてきた。


「そんなの決まってるじゃない。この魔法少女の力、つまりは新たな存在を生み出すこの力が欲しかったのよ」


 そう言って、例のアイテムを掲げる偽メアリィ。


「……なにを言ってるのですか、そんなわけ――」

「そのとぉ~りだっ!」

「ええぇぇぇぇぇぇっ!」


 偽メアリィの言葉に嘆息してみれば、なんと向こうがそれを肯定してきて、マギルカは驚きのあまり叫んでしまった。

 メアリィの話によれば、偽メアリィのいう魔法少女というのは妄想の領域でそんなものは存在しないと釘を刺されていた。

 その妄想の存在を必要としている機関があるということなのかとマギルカは混乱してくる。


「ふっふっふっ、やはりこの力が欲しかったのね。私が魔法少女として授かったこのマジカル・ハートがっ」


 意気揚々と偽メアリィは例の祖父から強奪、もとい借りたマジックアイテムを男に見せつける。

 メアリィの言い分では、単に変身アイテムとして形がハート型だしちょうど良かったから使っているだけで、そのアイテムに魔法少女とやらの変身効果はないだろうとのことだった。祖父に聞いてもそんな効果はないはずと言質は取れている。

 では、あのアイテムはなんだというのだとマギルカはふと思った。

 今更なのだが偽メアリィのインパクトが強すぎてアイテムはお飾りとなり、影が薄くなってしまっていたので深く考えてこれなかった。

 確か祖父の話によると、用途不明で名前すら分からない超レアアイテムとの触れ込みに思わず買ってしまった代物らしい。他国から流れてきた物らしくこっそり調べようと学園に持ち込んで研究していたのを偽メアリィに持っていかれたそうだった。


「メアリィ様、そのアイテムって……」

「え? マジカル・ハートだけど」

「いえ、勝手につけた名前ではなく――」

「そのとぉ~りだぁっ! そのマジカル・ハートが必要なのだっ!」

「えええぇぇぇぇぇぇっ!」


 まさかの肯定にマギルカはまた驚きの声を上げてしまった。


「渡さないわ。あなた達は私が倒すっ、魔法少女の名にかけてっ!」

「くっくっくっ、大人しく渡せば良いものを……よかろう、ならば我らが作りし合成獣『モッコモコン三世』が相手をしてやる」


 益々混乱してくるマギルカを余所に、奇跡的に話が噛み合った二人だけが盛り上がるこの始末。

 ツッコミどころ満載な場面なのに、ツッコミ役のマギルカは混乱していてスルーしてしまっていた。


「ふっふっふっ、キタキタキタ。この最高の盛り上がりの中で、私の真の力が発揮されるのよ。いくわよ、マギルカッ」

「あ、はい、メアリィ様」


 瞳をキラキラ輝かせながら、興奮気味に偽メアリィが話に付いていけずにポカンとしていた偽マギルカを呼び寄せる。


「「わたっ」」

「やれっ! モッコモコン三世」


 偽メアリィ達がなにかを言う前に男の指示で合成獣が動き出す。


「ちょっとぉぉぉっ! ついには台詞すら言えないって、どういうことっ! お約束を守るのが暗黙のルールでしょうがぁぁぁっ! ラスボスとして恥ずかしくないのっ!」


 半ギレ気味に偽メアリィは叫びながら、合成獣から離れた。


「メアリィ様、そんなに変身とやらがしたいのならどこかで隠れてしたらよろしいのでは」

「ダメよっ! それじゃあ、誰が変身したか分からないじゃないっ! 私が変身したってところを見せたいのっ、見~せたぁいのぉっ」

「メアリィ様……どうしてそんな面倒くさい人になってしまったのですか……」


 合成獣との距離をとりながら、マギルカは偽メアリィの拘りというか、我が儘に思わず本音が漏れ出てしまう。


「では、私が相手を牽制してますので、そのうちにパパッとお願いしますね」


 マギルカは慎重に合成獣を観察する。

 いくら最弱モンスターの角兎を素体にしていると言ってももはやその面影は兎と言うことくらいだけだ。大きさもその凶悪さも全然違う。

 幸いなのは周りで距離をとっている黒ずくめ達がなぜか合成獣の活躍を観戦しているところだろうか。

 と、合成獣は痺れを切らしたのかマギルカ達に向かって突進してくる。


「アース・ウォール」


 マギルカの土魔法が発動し、突進してくる合成獣の前に土壁が屹立した。あれだけ図体がでかいのだから粉砕されるのは分かっている。が、それでも時間稼ぎにはなるだろう。

 

 ゴンッ! ゴロゴロゴロ……ポテッ。

 

「えっ」


 マギルカは目の前の光景に驚き硬直した。

 まさか合成獣が土壁も破壊できずにぶつかって後ろにコロコロと転がっていったなどとあの見た目で想像できるだろうか、いやできない。


「あぁぁぁっ! モッコモコン三世、大丈夫かぁっ! 無理して突っ込んじゃダメっていつも言ってるだろっ。お前は見かけ倒しのパワーしかないのだから」


 悲痛な男の叫びになぜそのようなモノを連れてきたのかと思うマギルカであったが、これで時間は稼げたはずだ。

 それは二人も分かっていたようで、マギルカの前に立ち、すでにアイテムを掲げていた。


「「私の心が力になるっ! フローム・マイ・ハートッ!」」


 多少早口になっていたのは、また邪魔が入らないように焦っていたのだろうかとマギルカは思いながら、以前見た時のように光魔法で一帯が閃光に包み込まれていった。

 そして、視界が再びクリアになった時、メアリィ達の姿が変わる。というか、マントを脱いでいた。そこで、マギルカは事の重大さに今更ながら気づかされる。


「孤高にっ、輝くっ、白銀の心ぉっ! プラチナ・ハートッSRゥ!」

「魅惑にっ、煌めくっ、黄金の心ぉっ! ゴールド・ハートッSRですわっ!」

「あああぁぁぁぁぁぁっ!」


 偽物達の名乗りと、マギルカの羞恥に染まる悲鳴が辺りに木霊していくのであった。


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