表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
175/288

古今東西のお約束です

 翌日。

 マギルカはトボトボと馬車に乗り込むメアリィを見送っていた。

 どうやら、メアリィは仕事で王都に滞在していた父、フェルディッドに今回のことで呼び出されてしまったようだ。

 我が子可愛さ故の行動なのだろうとマギルカはちょっとばかり羨ましく思いながら見送る。

 彼女も決して家族に愛されていないわけではない。ただ、父も母も、いや、家系的なものなのか全体的に仕事優先なところがあった。

 かくいうマギルカ自身も、仕事を優先することに異を唱えるつもりはない。なので、不満はない……のだが、時折このようにふっと寂しいと思うときもあったりする。

 まだまだ未熟だなと自嘲しながら、それでもこれから残った自分がしっかりと仕事をしなくてはと思ってしまい、また自嘲する。


「さて、まずは魔鏡についての情報をできる限り入手しなくては。後、検証とかもできると良いですわね」


 これからのことを考えて、魔鏡に関する情報はなるべく得ておいた方が良いだろうとマギルカは考える。検証というところは、単に自分の研究心と好奇心からくるものではあるが……。

 とりあえずの今後の方針を口にして振り返れば、当事者である偽物二人のうち、偽メアリィが口惜しそうに馬車を眺めていた。


「ぐぬぬぬ、テュッテは残って欲しかったのにぃ~。まぁ、お父様に会いに行った私の側に彼女がいないというのはどうなのっと言われたらなにも言えないけどさぁ」

「まぁまぁ、メアリィ様。私が側におりますわ、いつでもどこでも、うふふ」


 あえて視界から外していたが、偽マギルカが偽メアリィにくっついてくるのでどうしてもその存在を外すことができない無念さにマギルカは深いため息を吐く。

 とりあえず、アレは他人の空似、自分とは別人だと思い込むことでマギルカは心の安寧を保つことにしていた。


「気持ちを切り替えていこう。邪魔者がいなくなった今こそ、私達がとるべき行動は一つ」


 マギルカがモヤモヤしている中、偽メアリィが高らかに宣言し、なにやら行動しようとしている。


「メアリィ様、大人しく時計塔に戻ってください」

「……はぁ~い」


 最初、メアリィは父親に説明するためと、監視を込みで偽メアリィも連れて行こうとしていたが、魔鏡から離れられないと彼女はそれを拒否していた。

 王都であれだけ歩き回っていて、なにを……と見ていたマギルカは思ったが、頑として譲らなかった偽メアリィのせいで時間がなくなり、結局メアリィは一人で王都に行くことになったというわけだ。その時、メアリィから偽物を野放しにしないでとお願いされてしまった手前、彼女に好き勝手に動かれては困ると即座に注意してみれば、あっさりそれを受け入れ、時計塔に戻っていく偽物達。

 少々拍子抜けをしてしまったが、根本はメアリィなので聞き分けが良いのかと油断してしまうマギルカであった。

 結果、ちょっと目を離した隙に、時計塔から偽物達がいなくなったことは言うまでもなかった。



 

「マズいです、マズいですわ。また学園内で騒がれたらどうしましょう。いえ、昨晩の様子だと例の闇の機関とやらを探そうと学園の外へ行った可能性もありますわ」


 部屋に二人がいないことを確認し、さらに偽メアリィの例の衣装が見当たらないところを見ると、後者の可能性も否定できない。

 ことメアリィの行動は子供の頃から付き合っているマギルカでも把握できない程の突拍子もない時があるのだ。

 まさか、自分から危険に飛び込んでいくような人ではないと思いつつも、それを鵜呑みにできない自分がいることをマギルカは重々承知していた。

 頼みの学園長はといえば、こういう時に限って仕事が重なって身動きとれない状態である。

 救いなのは偽物達が魔鏡から遠く離れることができないということだろう。だが、その正確な距離は分かっていないし、その領域を通過した場合どうなるのかは知らないようだった。

 なぜ詳しく知らないのに、離れられないと思ったのだろうか。魔鏡による刷り込みでもあったのか。ちょっと調べてみたいなと、知的好奇心を刺激されたマギルカだったが不謹慎だとすぐにその考えを拭うように首を振る。


「学園内と外、どちらとも探すには人手が足りないですわね」


 ここでマギルカは心強い仲間のことを思い浮かべるが、あの破廉恥極まりない自分をその仲間に見せるのはとても恥ずかしく、逡巡してしまう。


「お~い、マギルカ。なにしてるんだ?」


 マギルカの頭上からザッハの声が聞こえてきて、彼女はびっくりしたように上を見上げる。すると、そこにはグリフォンに乗ったザッハがこちらを見ながら高度を下げているところだった。

 授業中に、自分がいたからといってザッハが授業を放棄して降りてきたとはマギルカは思えなかった。ザッハももう四年生だ。クラスマスターも経験している彼が大層な理由もなくそのような軽率な行動はとらないだろう。


「ザッハ、そのグリフォンは?」

「ん? あぁ、ちょっとした散歩だよ。たまに飛ばさないと不貞腐れるからな、こいつは」

「空を散歩。では、どなたか空にいたとか、移動していたのを見てはいませんか?」


 ザッハの話から彼が学園の空を遊泳していたと分かると、マギルカは一つの可能性を確認する。


「あ~、ん~、そういえば二人ばかりいたかな。遠かったけどあの銀髪はメアリィ様だろ? なんだ、メアリィ様か~ってスルーしたけどマズかったのか?」


 マギルカの質問にザッハは思いだしながら方向を指さす。


「やはり、時計塔から飛んで逃げましたのね。問題はその区域に降り留まったのか、そのまま外へ出てしまったか……ですわね」


 走って行って確認するには時間が掛かり過ぎる。迅速に動くならばこちらも空から行くしかないと思いつつも、マギルカは尻込みしてしまう。なにせ彼女は高いところは不得手なのだから。

 逡巡しているマギルカの横にバフンと風が巻き起こり、ザッハがグリフォンを一旦着陸させていた。


「乗れ、マギルカ。なんか知らないが問題発生なんだろう?」


 グリフォンに乗ったまま手を差しだし、ザッハがマギルカの騎乗を促してくる。


「え、えっと……」

「付き合い長いんだから、様子を見れば分かるぜ。急いで移動したいんだろ? グリフォンで空から行った方が早いぜ」


 なにも言っていないのに察するこの男に、不覚にもマギルカはちょっぴりドキッとしてしまったが、そこまで察することができるなら、自分が高いのが苦手なことも察してくれたら良かったのにと、マギルカは詰めの甘い彼に複雑な気分になる。

 だが、この事態を招いたのは自分の油断である。そう考えたマギルカは意を決して、差し出されたザッハの手を握り、グリフォンに乗った。


「あなたが見たという区域まで行ってください。最悪、そのまま外に出ます。大丈夫でしょうか?」

「まぁ、大丈夫だろ。王都の上空を飛ばなきゃな」


 マギルカの懸念を払拭するようにザッハが冗談混じりに笑って答える。そして、マギルカの指示通り、グリフォンは空に舞い上がり、目的地点へと飛んでいった。

 下を見ればクラクラしそうになるので、マギルカは極力下を見ないようにする。だが、それでは探し人が見つからないので、勇気を振り絞って下を見た。


「それで、なんでメアリィ様を追ってるんだ?」

「…………」

「マギルカ?」


 どう説明して良いものか、そもそも彼に話して良いものかとマギルカは一瞬躊躇ってしまったが、ここまで巻き込んでしまったからには事情を説明し協力してもらった方が効率が良いのは確かだ。だが、その前にマギルカは彼に釘を刺しておかなくてはならない。


「……これから話すことは他言無用です。そして、これから見るだろうことは全て終わったら忘れてください、良いですね?」


 自分で言ってて無茶苦茶だなと自嘲するマギルカ。


「なんだかよく分からんが、安心しろっ! 記憶力に関しては定評のない俺だぜ、物覚えが悪いのはお前も知ってるだろ?」


 そこは誇って良いのかとマギルカはツッコミを入れたくなったが、彼なりの気遣いと解釈しておくことにする。

 そして、マギルカはザッハに今回の事件を端的に説明するのであった。




 

「すげぇな、それ。自分が出てくるなんて、俺もその鏡に映りたい」

「あなた、私の話を聞いていましたの?」

「ああ、だって今の自分だろ? じゃあ、そいつと戦って勝ったら文字通り今の自分に打ち勝ったってことでさらに強くなるじゃないか」


 マギルカが一通り説明した後のザッハの感想であった。なんともポジティブな意見ではあるが、あの羞恥地獄を知らないからそんな暢気なことが言えるのだとマギルカは嘆息する。


「とにかく、私とメアリィ様の偽物にあっても他言無用、思うことがあっても表には出さないように」

「え~、もし表に出したら?」

「聞きたいですか?」

「いえ、出さないように努力します」


 マギルカからの強烈なプレッシャーを感じてザッハはそれについての話題を即座に終わらせた。こういう危機察知というか察しが良いのも助かるところであるとマギルカは思った。まぁ、付き合いが長い分、彼の扱いに慣れたところもあるのだが。


「ところで、マギルカ。学園内を見下ろしていたけどメアリィ様らしき人は見当たらないぜ。彼女は銀髪だから目立つはずなんだが。やっぱ、お前が言う通り外に出たんじゃないのか?」


 話をしながら気を紛らわせていたマギルカに代わって、意外と視力の良いザッハが目標を探していたのだが、どうやら最悪の事態になりそうである。


「仕方がありません、このまま外へ出ましょう。そう遠くには行っていないはずですわ」

「よし、分かったっ」


 なんだか楽しそうなザッハに若干非難の視線を浴びせながら、マギルカは学園の外まで捜索範囲を広げていった。

 そのまま学園の外に出ると、王都とは逆方向で街道と平原が続いているのが見える。

 上空を見回しても二人の姿が見えないところをみると、地上に降りたと考えて良かった。さらに、こんな開けた場所なら、上空からならすぐにその姿を捕捉できるだろう。


「あ、いた。街道に二人。あれじゃないのか?」


 ザッハに言われて指さす方を見るが遠すぎてよく見えず、目を細めるマギルカ。というか、そのまま目を瞑ってしまう。なぜかって、こんな高度のパノラマ風景を凝視するなどマギルカにできるわけがないからだ。


「……と、とにかくそちらに向かってください」

「いや、ちゃんと確認しろよ。ほら、目を開けて」

「い、いいから、さっさと追ってくださいっ!」


 この中途半端に察せない男は、マギルカに凝視するように強要してきて、彼女は思わず声を荒げてしまう。

 ザッハはグリフォンに指示して、目標との距離を一気に詰めていく。そして、彼が言う通りマント姿のメアリィ達が見えた。

 向こうもこちらに気がついたのかなぜかこちらを見て手を振っていたりする。


「あなた達も来たのね。私と一緒に闇の機関を叩き潰す旅に」

「いえ、連れ戻しに来たのです。だいたい、メアリィ様に鏡から離れられないと駄々を捏ねて、外へ出なかったのはどちらさまでしたっけ?」

「さあ? そんな昔のこと、忘れたわ」

「ほんの少し前の話ですよ。さぁ、戻りましょう」

「それはできないわ。だって私は魔法少女なのだからっ!」


 なにがだってなのか今一分からないが、自信を持って発言する偽メアリィにマギルカは返す言葉を失ってしまう。

 そんなマギルカは置いておいて、ザッハがグリフォンを偽メアリィ達の側に着陸させると、彼女は興味津々といった顔で近づいてきた。


「……良いわね、グリフォン。私の愛馬として使えそうだわ」


 偽メアリィに好奇な目を向けられて、グリフォンはゾワァッと身震いすると、背から降りたザッハの方へソソソッと近づき、彼女から離れる。


「お~、本当にメアリィ様とマギルカだ。こ、これが例の魔鏡の力ということか。すげぇな、ますますもって俺も映ってみたくなったぞ」

「よろしくね、アレイオン。私とともに機関と戦いましょう」


 まったく会話がかみ合っていないザッハと偽メアリィに挟まれて且つ勝手に名前までつけられて、どうして良いのか分からないのかグリフォンがキョロキョロと味方……というか、常識人を探し始める。

 なんだか可哀想に思えてきて、マギルカはグリフォンにこっちへ来いと手招きした。それに気がついたのか、グリフォンが喜び勇んでマギルカの後ろへと移動する。


「おお、なんか格好良い名前だな、それ。あっ、機関とやらと戦うのなら俺も協力するぜっ」

「ん~、これは魔法少女と機関との戦いだからね~。男の子は……」

「そうですわっ、男に用はございませんわよ、シッシッ!」


 ザッハが嬉しそうに偽メアリィに近づけば、それを牽制するかのように偽マギルカが彼女に近づく。


「…………」

「な、なんですの?」


 牽制する偽マギルカを見ながらザッハが考え込んでいるようで、彼女は怪訝な顔で聞いてきた。


「ああ、なんかこのパターン誰かに似てるなぁと思ったら、あのヴィクトリカにそっくりだな、マギルカは」

「あぅっ!」


 ザッハの容赦ない感想がマギルカの心を抉る。以前会った吸血鬼の当主様に対して、変態……もとい、かなり個性的だなとどん引きしていた自分が、偽物とはいえその人とそっくりだなどと言われたら、ショックのあまり頽れても仕方ないことだろう。


「どうした、マギルカ? 急に座り込んで」

「……ザッハ、約束」

「あっ……」


 座り込んだマギルカを不思議そうに眺めるザッハに彼女は恨めしそうな視線で見上げながら低い声で呟くと、彼も気がついたのかサッと視線を逸らした。

 と、その時、グリフォンがなにかを察知したのか声を上げる。

 偽メアリィ達女子三人がなにごとかとグリフォンを見る中、ザッハだけグリフォンが見る方向を凝視していた。


「気をつけろっ! なにか来るぞ」


 ザッハの叫びを皮切りに、近くの森からガサッと飛び出してくるモノがいた。


「ん? 野犬か?」


 ザッハが飛び出してきたモノをいち早く把握するのだが、どうも歯切れが悪い。

 それもそのはず、向かってくるのはよく見る大型犬に似ていて、どこか違っていたのだ。

 単純な感想で言うと、なにかが混ざっている……であった。

 そんなどこか歪な野犬達がまっすぐこちらに突進してきた。明らかにこちらを襲う気満々の形相だったので、ザッハは剣を抜き戦闘態勢をとる。

 自分以外は魔術師なので後衛にまわってもらい、自分が前衛に出るのが無難だろうと判断して、ザッハは野犬達を迎え撃つことにした。


「フフッ、機関も本気で私を倒しに来たようね。だがしかぁ~し、この私に、いえ、私達に勝てると思わないことねっ! いくわよ、マギルカ」

「はい、メアリィ様っ!」


 ザッハよりも前に飛び出す偽物達を唖然とした顔で眺める彼の前で、偽物達は意匠の凝ったアイテムを掲げた。偽マギルカの持つ物は偽メアリィとは別物で、これもまた祖父から強奪……もとい、借りた物なんだろうなぁとマギルカは他人事のように思う。


「「私の心が力となる!」」


 二人が揃って叫び、そして……。


「フロッ、危なっ!」

「きゃぁっ!」


 目測を誤ったのか、ここで野犬達が到着してしまい、前に出ていた二人に飛びかかってきてしまった。


「こぉらぁぁぁっ! 変身中に攻撃するとはどういう了見よぉぉぉっ! 空気読みなさいよねぇぇぇっ!」


 そう言って飛びかかってきた野犬達に回し蹴りを喰らわせる偽メアリィ。


「メアリィ様はなにがしたかったんだ? 一瞬、なんかカッコいいと思ったんだが」

「質問も感想もなしっ! 偽物達のすること全てスルーして援護しなさいっ」


 唖然としていたザッハが我に返り近くにいたマギルカに聞くと、彼女は無茶苦茶な要求をして、二人の援護に入る。


「フリーズ・アロー!」


 マギルカの力ある言葉に氷の矢が近くにいた野犬に刺さる。

 だが、野犬は氷の矢が刺さったのに怯みもせず、マギルカの方へと駆け寄ってきた。

 間にザッハが入り、野犬を盾で押し返すとそのまま一刀する。


「野犬のくせにすげぇ力だった。ほんとに犬なのか?」


 ザッハの言う通り、マギルカもこれを犬と呼んで良いのか疑問に思っていた。近くで見て分かったのは、自分が知る犬種が土台だが、要所要所がなにか別の生物のパーツになっているように見える。

 仮にこれらがモンスターとしても、犬型モンスターの中に当てはまるモノが見つからなかった。

 幸いなのが、この野犬達の力が普通の犬とモンスターの中間くらいで、今のマギルカ達には勝てないというレベルではなかったということか。

 おまけに、こちらにはグリフォンがいるので野犬達も苦戦している。


「……まさか、グリフォンまで用意してくるとはな」


 野犬達の攻撃がピタッと止み、後ろへ下がり始めるとそこに黒ずくめに奇妙な仮面をつけた者達が現れた。


「来たわね、闇の機関」


 どこか興奮気味の偽メアリィが皆の前に立ち、ビシッと相手を指さす。


「馬車に乗り込んだのを確認していたが、まさかあれがフェイクで逆方向から出てくるとは……我々が学園の外で襲撃することを読んでいたということか」


 黒ずくめの言葉にマギルカは「ん?」となる。彼の言葉から、どうやら魔鏡の影響でメアリィが二人いることを知らないようだった。


「……そのとおぉ~りよっ!」


 そして、偽メアリィがなぜか訂正することなく、向こうと話を合わせるようにドヤ顔で答えて胸を張った。


「そうか。だが、残念だったな。裏をかいたつもりだったろうが、見ての通り我々から逃げようなんて不可能なことだ。大人しく、お前の持つ力を渡してもらおうか」

「この力は世界を守るための力っ、あなた達悪党に渡すわけにはいかないわっ。いくわよ、マギルカ!」

「はい、メアリィ様」


 二人の会話が噛み合ってしまったので横から訂正を入れるタイミングを逸したマギルカは、なんだかさっき見たような展開に気が重くなってくる。


「「私の心が力となる!」」


 予想通り、例のアイテムを再び掲げる偽物達。


「それだ、その力貰い受ける」

「フロッ、危なっ!」


 案の定、なにかする前に距離を詰められ、偽メアリィが敵の攻撃を避けた。


「くぉらぁぁぁっ! 獣風情は知能がないから仕方なかったけど。あなた達っ! 古今東西、変身中と合体中は攻撃しちゃダメって、親に教わらなかったのかぁぁぁっ!」


 偽メアリィが憤慨するポイントが全く分からないマギルカは、心の中でそんなこと親に教わったかなと記憶を探ってしまっていた。


「メアリィ様、加勢するぜ」


 あまり物事を深く考えないザッハは、マギルカとは違って現状に流されるまま偽メアリィの加勢に向かい、他の黒ずくめに阻まれる。

 と、その黒ずくめにグリフォンが攻撃を仕掛けた。


「くっ、さすがグリフォン。すばらしい、あの混じり具合が素敵だっ」


 攻撃された黒ずくめの一人が下がりながらなんだか興奮したというか、うっとりしたというか、なんか嬉しそうな声を出す。

 グリフォンはというと、ゾワァッと身震いし慌てて飛び離れ、マギルカの後ろへと着陸した。すっかり、そこが定位置になってしまったようだ。


「チッ、時間を掛けすぎたみたいだな」


 偽メアリィと対峙していた黒ずくめが忌々しく舌打ちすると、遠くから馬の駆ける音が近づいてくる。おそらく、学園側も気がつき、イクス先生あたりがこちらに駆けつけているのだろう。


「退くぞ」

「あ、こら、逃げるなっ! 私に変身させなさいよっ!」


 黒ずくめ達が後退し、それを援護するように殿として残された野犬達が再びマギルカ達を襲い始めた。


「えぇぇぇい、逃がすかぁぁぁっ! 来て、アレイオォ~~~ンッ!」


 交戦中だというのに偽メアリィは例のアイテムを天に掲げて叫んだ。

 その言葉に皆が「誰?」と固まる。なぜか、野犬達までもが……。

 そして、マギルカは自分の後ろにいるグリフォンの方を見ると、釣られて皆がそちらを見る始末。

 視線を浴びるグリフォンは「?」と首を傾げていた。


「あなたを呼んでいるようですよ、メアリィ様は」


 マギルカに言われて、グリフォンは偽メアリィの方を見てみれば、彼女は涙目にふくれっ面で自分を見ているではないか。

 グリフォンは慌てたように一鳴きして、バタバタと偽メアリィに駆け寄っていくのであった。


「よしよし、良い子ね」


 グリフォンが来てくれたことで機嫌が良くなったのか偽メアリィはふくれっ面から笑顔に変わると、グリフォンの背に颯爽と乗る。


「あいつらを追うわよ、マギルカ」

「はい、メアリィ様」


 呼ばれて偽マギルカもグリフォンの背に乗った。自分同様、高いところは苦手ではないのかとマギルカは思ったが、全くそんな素振りがないことに、些か不満を感じてしまう。


「お待ち下さい、メアリィ様。深追いはいけません、ここは学園に戻って下さい」

「いいえ、ここであいつらを倒すわ。でなきゃ、次は学園の皆に被害が出てしまう可能性があるもの。そんなこと絶対にさせないわ、魔法少女の名にかけてっ!」


 偽メアリィの意見にマギルカはハッとする。彼女の言う可能性は確かに高い。なんやかんや言っても、さすがはメアリィ。自分ではなく皆のことを考えて行動しているのだなぁとマギルカは素直に感心した。

 実際は、偽メアリィの中にあるお決まりの台詞、一度は言ってみたい台詞集を口にして悦に入っているだけなのだが。


「ザッハさん、ここは任せたわ」


 偽メアリィは一人で野犬達を牽制しているザッハに声をかける。


「えぇ~、俺もついて行きたいんだけど。こいつらはもうすぐ来る先生達に任せても良いんじゃね?」

「おばかぁぁぁっ。ここは、俺に構わず先にいけっていうところでしょうがっ」

「いや、それ、死亡フラグとかなんとか言ってなかったっけ、メアリィ様?」

「そんなフラグ、叩き折ってしまいなさい」

「えぇ~~~っ」

「えぇ~~~じゃないっ!」


 交戦中だというのに呑気に口喧嘩している二人を見て、まぁ大丈夫だろうとマギルカは判断すると、残ることを強制的に決められたザッハと伝達魔法を発動させ、連絡を取れるようにする。これで、ここを片づけた先生達がザッハの案内で自分達に合流できる寸法だ。


「マギルカ、急ぐわよ」

「へ? わきゃあぁぁぁぁぁぁっ!」


 マギルカの後ろから偽メアリィの声が聞こえたかと思うとクイッと襟をグリフォンに摘み上げられ、空中に放り投げられる。

 偽メアリィが座ったままそれを上手くキャッチして、グリフォンが飛び立つのであった。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっとメアリィ様あ~ぁ」


 空中に放り投げられて心拍数が上昇したところに、まさかのお姫様だっこ状態での飛行で、マギルカの思考はパニック寸前だった。


「うぉのれぇぇぇ~、私の分際で、なぁんて羨ましいことうぉ~ぉ」


 だが、偽メアリィの肩越しから聞こえる自分から自分への恨み節にパニックになっていた思考がスゥ~と沈静化していく。


「待ってなさい、闇の機関。今度こそしっかり変身してやるんだからねぇぇぇっ!」


 決意を新たにする偽メアリィに「もしもし、目的が変わっていますよ」と心の中でツッコミを入れるマギルカであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ