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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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オンとオフが酷いです

 日が沈みかかった夕暮れの中、私達は学園に戻った。果たして、想像通り彼女達はここに戻っているのだろうか。

 とりあえず、学園長室へ行き、今後のことを話し合うことにする。

「さて、私達にバレたのだから、あの子達はすでに身を隠しているかもしれないわね」

「そうですわね。そちらを探すのも重要ですけど、魔鏡を確保することも考えておいた方が良いかと。彼女達が隠してしまう可能性がありますわ」

「……確かに。それをされると厄介よね」

 私は話しながら学園長室へと入った。とりあえず、ちょっと休もうかとソファーに向かう。

「魔鏡の方は学園長に任せて、私達は偽物うぉ~……」

「ん?」

 今後の行動を模索しながら私は座ろうとしていたソファーに目を向け、先客と目が合った。

「「…………」」

 そこにいたのは私だった。いや、正確には偽私だ。

 しかも、あのこっぱずかしい衣装を脱ぎ、ラフな格好でこれまただらしなくソファーに寝転がっているではないか。

 よく見ると、口がモゴモゴ動いている。たぶんお菓子を食べている最中なのだろう。完全に寛ぎモードであった。

 向こうもいきなりの遭遇に理解が追いつかないのか、ソファーに寝転がったまま頭だけをこっちに向けて固まっていた。口はモゴモゴしているが……。

 数瞬お見合いした後、偽私がゴクンと口に入れていたモノを飲み込んだことで時が動き出した。

「「なんでここにいるのぉっ!」」

 綺麗なハモりを披露する私達。

「「それはこっちの台詞よっ!」」

 また、ハモってしまったでござる。

 まさかこうもあっさりエンカウントするとは予想外だったので、なにを言って良いのか分からなくなった私はとりあえず目先の問題を指摘することにした。

「それは置いておいて。なんて格好してるのよぉぉぉっ! 後、だらけすぎぃぃぃっ!」

 そう、目の前の偽私は薄着一枚でだらしなくソファーに寝転がっていたのだ。さらに、寝ながら本を読み、お菓子を食べているという体たらくっぷりである。

「私室にいるんだからだらけても良いじゃない」

「ここは私室じゃなくて学園長室よぉぉぉっ! 人が来るところだからシャキッとしてぇぇぇっ! いやもう、ほんとお願いしますっ」

 怒っているのか懇願しているのか、もうどっちか分からないくらい私は焦っていた。それほどに今目の前の偽私はだらしないのだ。完全にオフモードである。

「なによ、家ではいつもこうしてるじゃない」

「こらぁぁぁっ! 誤解を招くようなこと言わないでっ。いつもじゃないわ、たまによっ」

 自分の恥ずかしい一面を体現暴露されていってもう私はパニックである。マギルカ達がいるというのに大声あげて慌てふためいていた。

(ハッ! それよりも見ているマギルカ達にも弁解をっ)

 私はちょっと冷静になって状況を整理し横で見ていたマギルカを見た。すると、マギルカも顔真っ赤で唇をワナワナさせている。

「な、なにしてますのぉぉぉっ、そこの私ぃぃぃっ!」

 珍しくマギルカが叫んだ。

 どういうことかと彼女の目線を追うと、偽私が寝転がっているソファーの近くでこれまた薄着であられもない姿の偽マギルカが床に座り込んでいた。

「うふ、うふふふっ♪ メアリィ様の御身足ぃ。うふふふふふっ♪」

 周りが見えていないのか、マギルカの叫びも届いておらず偽マギルカは恍惚とした表情で偽私のだらしない姿を座り込んでガン見していたのだ。

 なんか、目がハートになって涎を垂らしそうな勢いの笑みである。

 足を差し出したら頬ずりしそうな体勢なのは気のせいだろうか、うん、きっと気のせいだろう。

 とにかく、マギルカはマギルカで魔鏡の嫌がらせ(?)を受けていて、偽私の姿をどうこういう余裕はないようだ。

(うん、良かった、良かった。いや、ホッとしている場合じゃないわよ)

「とにかく、シャキッとしてシャキッと」

「えぇ~」

「えぇ~じゃないっ!」

 改めて私は偽物を叱りつけると、ふてくされる偽私。

「……お嬢様」

 後ろからテュッテの声が聞こえ、私はホッとしている場合ではないことに気がつく。

「あ、テュッテ、あれは私じゃないのよ。私はあんなだらしないことしない、わぁ……」

 なんで私が弁明しているのか分からないが、とにかく私はテュッテに言い訳していた。だが、さっき自分でたまにだけだと言ってしまったことを思いだし、言葉が尻込みしていく。

 というか、テュッテの前で散々だらしない自分を見せてきた私が今更言う台詞ではないなと気がつく私であった。

 諦めた私は、さらに後ろで待機していた学園長に気がつく。

「あ、学園長、これは、えっとぉ」

「ははは、大丈夫じゃよ、メアリィちゃん。ここ二日、あんな感じで過ごしているのを見てきたから今更驚かんよ」

 私の慌てっぷりに気を利かしたのか学園長が笑顔で爆弾を投下してきた。

(あぁぁぁぁぁぁっ! 穴があったら入りたいぃぃぃっ!)

「ふっ、裏の裏をかいたつもりだったけど、ここにたどり着くとはなかなかやるわね」

 私のせいじゃないのに、目の前の偽私のせいで恥ずかしさに悶えていると、よっこらせとソファーから立ち上がった偽私がほくそ笑みながら言ってくる。

 裏の裏をかいたってそれは結局のところ表なのではというツッコミを入れたいところだが、それよりも先に言っておきたいことがあるのでそちらを優先する。

「ふんぞる前にちゃんと服着なさいよっ、恥ずかしいっ」

「私は気にしない」

「私が気にするのよぉぉぉっ!」

 ほんとに私かと思うほどの厚顔っぷりな偽私に私は思わず声を荒げてしまう。見ている本人が嫌がる、もしくは恥ずかしがるという妖精の意図にしっかりマッチした偽私。もしかしたら私が恥ずかしいと思っている行為全てをこの子は何とも思わず実行するのではないかと思えてならない。

 なんて恐ろしい魔鏡を作ってくれたのだと作った本人捕まえて文句の一つも言いたくなってきた。

 まぁ、映ったお前が悪いんだと言われたら、返す言葉もありませんが……。

「お嬢様、こちらのお嬢様もおっしゃってますし、あちらで着替えましょう。ささ、そちらのマギルカ様も」

「「はぁ~い」」

(ぐぬぬぬ、本人の言うことは聞かなくて、テュッテには素直に従うのね。これも嫌がらせの一環なのかしら……)

 テュッテに連れられて、隣の部屋に引っ込んでいく二人を見送りながら歯噛みする私なのであった。


 しばらくして、着替え終わった二人があっさりと戻ってきた。どさくさに紛れて逃げるかと警戒していたのにちょっと拍子抜けである。

「今度は逃げ出さなかったようね」

 あれだけ恥ずかしい思いをさせられたのだからちょっとくらい嫌味を言っても罰は当たらないだろう。

「ふふっ、たとえどんな敵でも臆さず、私は立ち向かうわ。え? どうしてかって。そ・れ・は・ねっ☆ 私が魔法少女だからよっ」

 私の嫌味など粉砕するかのような、はっずかしい台詞とかわいこぶった仕草を繰り出してお答えする偽私の破壊力というか、羞恥力は半端なかった。

(ぐおぉぉぉ、頼むからそれはやめてぇぇぇ)

 両手で顔を覆い、私は羞恥を隠すのに精一杯で言い返す余裕もなく、正直な話、もうギブアップしたい気持ちで一杯だった。

 とはいえ「ギブなので鏡に帰ってください」「はい、分かりました」とはならないのが厳しい現実であろう。

 いやいや、希望を捨ててはいけないと偉い人も言っていたはずなので諦めずに何事もチャレンジだ。

「お願いだから次の満月まで大人しくして、素直に鏡に帰って」

「やだ」

 やはり、厳しい現実であった。

「オホン。さて、それについて私達はしっかり話し合わなければならないと思い、ます、がぁ~」

 私はがっくりと項垂れながらソファーに座ると、隣に座ったマギルカが話を切りだしてきた。が、なにか思うところがあるのかフルフルと震えだす。

「そこの偽私。メアリィ様にベタベタとくっつかないでくださいっ!」

 マギルカが向かいに座った偽物に抗議する。彼女の言う通り、先ほどから話そっちのけで偽マギルカは偽私にベタベタくっついて離れないでいた。

「ふふん、あらあらぁ~、私がメアリィ様とくっついているのがそぉんなに羨ましいのかしら、ねぇ~?」

「んなぁっ!」

 そんなマギルカになぜか勝ち誇ったような顔で返してくる偽マギルカに、彼女は絶句してしまう。

「マギルカ?」

「はっ、あ、メ、メアリィ様。私は羨ましくなんて思っておりませんから。ええ、これっぽっちもぉっ!」

「う、うん、分かったから落ち着いて」

 私の問いに顔を真っ赤にして答えるマギルカ。誤解を生むような言動をされて恥ずかしい気持ちなのは分かるけど、面と向かってそう言いきられると私的にはちょっと寂しかったりもする。

「あ、でも、くっつくのが決してイヤというわけではないので……えっと、その」

 私がショボ~ンとしてしまったのに気がついたのかマギルカは慌ててフォローを入れてくれた。

「……ひとまず、お茶でも飲んで落ち着いてください」

 そこへ着替えついでに準備していたのかお茶を差しだし、勧めるテュッテであった。

「「「「…………」」」」

 四人で一斉にお茶をいただき、一時和む。

「……さて、話を戻しましょう。私的には無駄な争いもなく、話し合いで決着させたいのですが」

 一息ついて再びマギルカが話を切りだした。

「先ほどメアリィ様がおっしゃたように、私達はあなた方に大人しくしててもらい、鏡に帰って欲しいのですが」

「それはできないわ。私は鏡の国からこのマジカル・ハートを授かり、魔法少女となって闇の機関からこの国を守る使命があるのだからっ!」

 などと、意味不明な使命とやらを力説する偽私であった。

 なんか鏡の国とか新たな設定がプラスされたようだが、どうも設定がガバガバなような気がする。もしかして、彼女自身まだ設定が安定していないのだろうか。そもそも明確な設定がなく、現在絶賛模索中なのかもしれない。

(え? なんでそう思うかって? そんなの簡単よ。だって相手は「私」なのだからっ! 私がそんなしっかりした設定作れる訳ないじゃんっ! 絶対周りに影響受けすぎてブレッブレになるわよっ! はははっ、これが主体性のない私なのだぁっ……あぁ、涙出そう……)

 私は心の中で自暴自棄になりながら、ふと偽私が見せたマジカル・ハート(?)なるアイテムを見る。

 パッと見ただけだが、結構作りが本格的で、小道具というよりもなにかのマジックアイテムに見えるのは気のせいだろうか。あんなものどこから持ってきたのだろうかと思ったが、学園長に駄々こねてそれっぽいモノを貸してもらったと考えれば、ありなのかなとも思えてくる。

 ここでふとマギルカと目が合った。向こうはどうしたものかと困った顔をしているので、私も話し合いに加わることにする。

「……要するにあなたは魔法少女としてその闇の機関とやらからこの国を守れれば、使命を終え、鏡の国に帰ると言うことよね?」

「ん? えっと、あれ? そうだっけ」

「そうよ。あなたは鏡の国からやってきた魔法少女。同じく鏡の国からやってきた闇の機関からこの国を救うべく鏡の国の女王様が遣わした光の戦士なの」

「う、う~ん……」

「そして、使命が済んだら鏡の国に帰るというお別れ感動のシチュエーション付き。想像してみて、この世界で仲間になった大事な人との突然の別れ、涙涙に説得し、そして二人、笑いあってお別れするの」

「……ゴクリ、そ、それはとても魅力的……」

(よしよし、影響されてる影響されてる)

 ここはあえて否定せず、相手の設定に乗ってこちらの要望をシレッとねじ込むという姑息な手段に私は出る。

(これも全てガバガバ設定な私だからできるのよ。はははっ、見たか、主体性のない私。あぁ、なんだろう、この空しさは)

「メアリィ様……お話の意図は分かりますが、その闇の機関とやらはどうするのですか?」

「ふふふ、それはもうこっちで用意するしかないでしょう」

 私の話を聞いて驚いたマギルカが小声で聞いてきたので、私も小声で返す。

「なるほど。つまり、全てメアリィ様の手の上で動かす状態にするのですね。強引に相手を抑えつけるのではなく、あちらの考えを利用し、こちらの思惑へと誘導する。さすがです」

「……そ、そうなんだけど、そうじゃないというか、なんというか」

 また有らぬ誤解が生じようとしているが、どう返して良いのか分からず、私は言葉を濁すだけに止まった。

(あれ? ちょっと待って。こちらのマギルカが私の誘導に気がつくと言うことは向こうのマギルカも当然気づいている、よね?)

 ふとそんなことを考えた私はチラッと偽マギルカを見る。彼女は私の視線に気がついたのかこちらを見てにっこりと笑った。

(気づいてる。気づいてるけど、どうでも良いといったところかしら。彼女の今までの言動から考えると、私と一緒にいられるなら後はどうでも良いといった感じかしら)

「……そうなると、マギルカは私から離しちゃだめね。ずっとそばにいないと」

「メ、メアリィ様。それはど、どどど、どういう意味でしょうかあ?」

 ポロッと零してしまった心の声に隣にいたマギルカが反応し、挙動不審になっている。

「ん? いや、あっちのマギルカは大人しく従ってるけど、私から離すとなにしでかすか分からないなっと思って」

「あ、あ~、あっちの……」

 私の返答を聞いて頬を赤らめながらも、冷静になっていくマギルカ。

「……あれ? もしかしてこっちの話の方が良かった?」

「べ、べべべ、別にそんなことありませんわ」

 ムフッと小悪魔的な笑みを見せ、私が言うとマギルカはそっぽを向いて反論してきた。

 デレデレのマギルカも可愛いが、ツンデレのマギルカも可愛い。これは、正義である。

 とにかく、偽私がフラフラとあっちこっちで騒ぎを起こさないよう、こちらが手綱を握っていなくてはいけない。そのためにも、彼女の言う闇の機関をこしらえないと。

(これは……皆にも協力を仰いだ方が良いかもしれないわね。はぁ……気が重い)

 私は一人深いため息を吐いて、ひとまずこの話し合いは終了するのであった。

 

 夜。

 皆が寝静まった時間に私は部屋を出る。

(なぜかって? 偽私がこの時間にコソコソとなにかしないように見回りよ)

 案の定、部屋に偽私の姿は見あたらない。

「遅かったか……」

 魔鏡の方はさっき確認してきたので、持ち出したということはない。まぁ、あんな大きな鏡を一人で持ち出すのは至難の業だが。いや、私なら背負っていけるのかなとも思ったが、考えるのを止めることにする。

「まったく、どこへ行ったのやら。世話を焼かせるんじゃないわよ」

 私は時計塔から外に出る羽目になり、悪態をつきながら周りを見渡した。

 暗~い学園内。そこにポツンと一人佇む私。

(あ、やばっ。ちょっと怖くなってきた)

 ブルッと一度身震いして、私は一人で来たことを後悔し始める。

(でも、誰かと一緒に行って、偽私がこっぱずかしい妄想を繰り広げているのを見られたら、私が羞恥で悶え死ぬ)

 気持ちを切り替え、私は暗い学園を見渡し、歩き出す。

 とその時、私の視界の隅でなにかが動いたのが見えた。

 反射的にそちらを確認すると、そこは暗い路地だった。恐る恐る、私は路地へと向かう。

「お~い、そこにいるのは分かってるのよ~。観念して出ていらっしゃい」

 暗い路地に向かって小さく声をかけながらも、暗いのが怖くてなかなか奥へと進まないヘタレな私。

 マゴマゴしていると、暗い奥からゆらりと誰かが姿を現した。

(やっぱりいたのか。大人しく出てきてくれて良かった、わ?)

 偽私が大人しく出てきてくれたと思ってホッとする私だったが、それは私の想像と違って身長が高く、大人の男性だった。

 ついでに、全身黒ずくめで奇妙な仮面を付けているというおまけ付き。

「所詮小娘だと油断をしてしまったようだ」

 くぐもった低い声が仮面の奥から聞こえてくる。その迫力はまさに闇の者であった。

(あちゃ~、もしかして学園長が用意してくれたエキストラさんかしら? 私と偽私を間違えちゃったのかな? これは悪いことしちゃったわね)

「え、えっとですね……」

「まぁ、良い。やることに変わりはないっ」

 私がどう伝えようかと困っているとボソッと言い放った黒ずくめは短剣を抜いた。そして、闇に紛れ一瞬にして距離を詰めると私に向かって短剣を突き出してくる。

 

 バキッ!

 

 完全に油断していた私は呆けた顔でそれをまともに受け、胸に刺さったはずの短剣の刀身が無惨に折れる音が響いた。

「なぁっ!」

 向こうもさすがにこれには驚いたのか、声をあげると慌てて距離を取る。

 私は呆けた顔のままそれを確認すると、次に落ちた刀身を見た。見た感じでは、模造ではなく本物の剣のようだった。

 それは、つまり……。

(あれ? もしかして、私今、殺されかけたの? Why?)

 お互い現状で起こったことが理解できず、静寂が広がっていくのであった。


活動報告にも書きましたが、コミック第3巻が10/9(水)に発売です。皆様、買ってね。後、コミカライズ第21話公開です。

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