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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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噂話の真相とは

「マギルカや。なぜ儂は正座とか言うモノをさせられておるのかのう」

 現在、私達が待ち構えていた部屋に学園長が案内され、彼はマギルカにソファーの上で正座させられるという珍妙な状態になっていた。ちなみにこの正座は私が彼女に教えたものである。

「ご自分の胸に聞いてみてください」

 にっこり笑いながら答えるマギルカは相変わらず、目が笑っていない。その迫力に圧されて学園長も反射的に従ってしまっているみたいだ。

「はて、思い当たる節が……」

「自己幻視の魔鏡ですわ」

 すっとぼけようとした学園長はマギルカの台詞で言葉を詰まらせ、あさっての方を見始める。

(密室で私達と学園長だけ。なんだか取り調べみたいだわね。これはカツ丼を用意しないといけないかしら)

「な、ななな、なんのことやら……」

「ここの店主が自供しましたわ、お祖父様」

「す、すみません、フォルトナ様。魔鏡の件でいただいた手紙の通りにしゃべり行動せよとの指示がありましたがうっかり指示以外の、あっ」

 学園長が言い逃れできないようにと自爆製造機である店主も部屋に残ってもらったが、さっそくその力を発揮してくれたみたいだ。

「な、な、なんのぉ、ことやらぁ」

 それでもしらを切ろうとする学園長。

「やはりカツ丼が必要かしら?」

「メアリィ様、かつどんとは?」

 私の案にマギルカが首を傾げて聞いてくる。残念ながらこの世界には取り調べの最終兵器であるカツ丼はないので、別の方法で学園長を自白させなくてはならない。

 私はふともぞもぞする学園長の足を見、そして、悪魔のようにニタァ~と笑うのであった。

「致し方ないわね、少々心苦しいけどこれも学園長が正直に話さないからいけないのよ」

 そう言って私はワキワキと指を動かしながら学園長に近づいていった。

「な、なにをするのじゃ、メアリィちゃん? 老人は労るものじゃぞ」

 私の怪しい動きに学園長が戦慄し、正座を解いて逃げようとしたが足が痺れたようで上手く動けないでいる。

「あ、足が、しび、痺れっ」

「学園長、今ならまだ間に合いますよ。正直に話してください」

「じゃから、なんのことや、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 最後通牒をつきつけたが、学園長がまだしらを切ろうとしたので私は痺れている彼の足を容赦なくツンツンする。そして、学園長の情けない悲鳴が部屋に響いていくのであった。

「それ、ツンツン♪」

「やめ、あぁぁぁ、やめぇぇぇっ!」

「さぁさぁ、学園長。正直にっ」

「あぁぁぁっ、話すぅぅぅ、話すからやめ、あぁぁぁっ!」

 身動きとれないのを良いことにだんだん楽しくなってきてツンツンしまくる外道な私。

「メ、メアリィ様……こうなると予想して正座なるモノを勧めたのですね。恐ろしい人……もしかして尋問に慣れてます?」

「慣れてない慣れてない。成り行きよ、成り行き。恐ろしいこと言わないでちょうだい」

 私の所行に心底ドン引きするマギルカであった。

「……でも、本当に闇の世界で戦っておられたのなら尋問の一つや二つ……あ、でもそれは語ってはならないこと……」

「マ、マギルカ?」

 ドン引きしてたかと思ったらなにやらブツブツと呟き始めるマギルカ。その内容が些か看過できない内容だったりするのだが。

「あ、いえ、なんでもございませんわ」

「その察したような笑顔でサラッと流さないでくれる。違うから、なんかよく分かんないけど違うからねっ」

 私が必死に訴えるとマギルカは分かっていますと言わんがごとく、ニッコリ笑顔で答えてきた。

「さて、話を戻しましょう。お祖父様、自己幻視の魔鏡について教えていただけますか?」

「……ちょ、ちょっと待っておくれ。あ、足が……」

 マギルカの詰問に大の大人である学園長が情けない声で懇願してくる。

 少し時間を空けてから話を聞くと、事件は十年ほど前に戻った。つまりが例の噂話が起き始めた頃に戻る。

 どうやらあの魔鏡はこの店の売り物ではなくコレクションとして保管されていたらしい。それを店主がうっかり口を滑らせ学園長に話してしまったことが事の発端だった。

 まぁ、学園長が喰いつくのも無理はない。あの魔鏡は妖精が作ったとされており、伝説級のマジックアイテムなのだそうな。

 そういうことで学園長の執拗なお願いに根負けして、店主が魔鏡を売ってしまったらしい。

「ちょっと待ってください」

「ん? どしたの、マギルカ」

「その時期は確かお祖母様に叱られてお祖父様はアイテムの購入を禁止されていたと聞きましたが?」

 マギルカの指摘に学園長が汗だくになってあさっての方を向く。

 話を聞くと、当時アイテム収集癖が今よりひどく、行き着くとこまで行って領内の貴重な資金にまで手を出そうとしていたらしい。本人的には後で返すつもりだったと供述しているのだが。

(アウトだよ、アウト。要するに自分の趣味に皆の血税使おうとしたって事でしょ、しかも多額の……)

 こうしてマギルカのお婆様に袋叩きにあって今後一切のアイテム購入を禁止させられたのだという。

 なのに、魔鏡を持っているとはこれ如何に。

「学園長……」

 私は話を聞いて、学園長をまるでダメ人間を見るような目でドン引きしながら見た。

「し、仕方なかったんじゃぁぁぁっ! で、伝説級のアイテムじゃぞっ。仕方なかったんじゃぁぁぁっ!」

「……どうするマギルカ?」

「お祖母様に報告します」

 仕方なかったと繰り返し弁明するダメなご老人を眺めながら、私はマギルカに聞くと、彼女は無慈悲にもバッサリ切り捨てた。

 その言葉にかなりショックを受けたのか、学園長がフリーズしてしまう。

「それにしても、こうならないようにお祖母様はアイテムを一カ所に集めて管理させておられたはずなのですが」

 フリーズしてしまった学園長を見るのを止め、マギルカはチラッと控えていた店主の方を見る。その視線に気がついて店主がギョッとして後ずさりした。

「わ、私は知りませんよ。家では監視されているから学園に備品と偽ってこっそり持ってきてほしいと言われただなんて、あっ」

(この人はもう、なんかそういう呪いにでもかかっているんじゃないのかしらね。見事な自爆っぷりだわ)

「なるほど、学園に直接……確かに家よりは監視の目が緩くなりますわね。とはいえ、学園長室に置いてあればその内気づかれるのでは……」

「あっ、だから学園内の誰もいないところに置いて、隠していたんじゃない?」

 未だフリーズし続ける学園長は放っておいて、私はマギルカと謎解きを続けた。

「なるほど……そこで運悪く生徒に見つかってしまったと……」

「もしかして、出現位置がコロコロ変わってたのは誰かに見つかったら学園長がこっそり移動させていたとか?」

「あり得ますわね。運悪く魔鏡の被害に遭ってしまった方達はどうしていたのでしょう?」

 私達は謎解きを一旦ストップして、二人で店主の方を見る。

「な、なんですか、わ、私は関係ありませんよ。魔鏡で作り出された人達を鏡に戻す手伝いをしていたなんて、あっ」

 もはや期待して振っていたので、それに見事応えてくれる店主に賞賛してしまいそうになるほどの見事な自爆っぷりであった。

「なるほど、お祖父様の手伝いをしていたのですね。では、戻す方法を教えてください」

「え~、あ~、私はただ魔鏡で作り出された人達を預かっていただけですので、詳細はちょっと……」

 ここにきて店主が言葉を濁すが彼の場合、本当のことなのだろう。今日会ったばかりなのにそう思えるほど彼には絶大な信頼感が私にはある。

(ある意味、客としては絶大な信頼関係を築けそうよね、この人となら……あれ? じゃあ、商売人としては良いのかな?)

「……そうですか。では、お祖父様に聞くしかありませんね」

 マギルカも私と同じことを考えていたのか、すんなりと彼の言い分を受け入れ、詰問先を変える。

「お祖父様、いつまで呆けているのですか? 話は聞いていたのでしょう?」

「……マギルカや、おじいちゃんショックを受けておるのじゃぞ。もうちょっとこう、労りの……いえ、なんでもありません」

 やっと動き出したかと思ったら、このおじいちゃん、拗ねたことを言い始めた。が、マギルカの顔色を伺った瞬間、それも引っ込めた。

 私はマギルカを見ていなかったのでどんな表情をしていたのか分からなかったが、学園長の反応を見た限りでは労りの表情ではなかったのだろう。

「それで、この後どうなさるおつもりだったのですか?」

「……次の満月に魔鏡を起動させ、鏡に押し込めるのじゃ」

「押し込める?」

 私は学園長の「戻す」のではなく「押し込める」というワードに反応して、思わず話に割って入り聞き返してしまった。

「ふむ、聞き分けが良ければ自分から戻っていくのじゃが、まぁ大抵の場合、嫌がるのでな。その時は力ずくじゃ」

「……随分と物騒な話ですね」

「まぁ、儂としては魔鏡の能力を研究・観察できる貴重な時間なので、穏便に事を済ませたいのじゃが、本人的には早々に片づけたいのじゃろうなぁ。結局、当人達のガチバトルとなる。ハハハ」

「……もしかして、噂話の本人が鏡の中に押し込まれるって話、あれ、これのことを目撃した人の話じゃ……」

 噂話の真相が紐解かれていけばいくほど、なんだかな~とメルヘンやらオカルトやら神秘といったモノから遠ざかっていく真相にげんなりな気分であった。

「……おそらく、そうでしょうね。まぁ、私としましても、あのような破廉恥極まりない私をのんびりと放置しておく気にはなれませんわ」

 マギルカは偽マギルカの所行を思いだしたのか顔を赤らめ、俯いてしまう。

 かくいう私もあのような黒歴史たっぷりの私を放置する気はなかった。なにせ私の精神に悪すぎる。

「それにしても、なんであんな感じの性格になったのかしら? コピーしたんじゃないの?」

「ふむ、良いところに気がついたのう。儂がいろいろ研究・観察してきた結果なのじゃが、あの魔鏡から生み出された者は、見ての通り姿はもちろんのこと、その能力と知識をもコピーするという優れモノなのじゃった。さすがは、伝説級! どういう理論なのかさっぱりじゃが、さすがは妖精といったところじゃろうっ」

 私の疑問に学園長が興奮気味に説明し始め、その急な熱気と早口に私は若干引いてしまう。

「しかも、そこが摩訶不思議な妖精といったところか、ただコピーするのでは飽きたらず、すごいことにその性格構成に手を加えよったのじゃ。それが……」

 ここで一旦言葉を切って変な間も持たせる学園長。それに釣られて私もゴクリと唾を飲み込み、話を聞く。

「映し出された本人が偽物を見た時、とてつもなく恥ずかしがる、もしくは嫌がる性格を、コピーした知識からチョイスするようにしたらしいのじゃよ」

「…………ど、どうしてそんなことを?」

「ふむ、そこら辺は諸説あるのじゃが、今のところ有力なモノは……」

 再び言葉を切ってもったいぶる学園長だが、私はイヤな予感しかしなくてこれ以上聞きたくない衝動に駆られた。

「……その方が面白そうと思った、じゃ」

(こんちくしょうめぇぇぇっ! そんなこったろうと思ったわよぉぉぉっ! こぉの愉快犯めぇぇぇっ!)

「……とにかく、私達がすべきことは、これ以上騒ぎが大きくなる前に粛々と偽物を鏡の中に戻すことですわね」

 学園長の説明に私は表向き冷静さを装いながら、心の中でそんなふざけた発想をしよった作り手を罵っていた。そんな中、マギルカは怖いくらいに冷静な態度で今後についての話を進めてくる。

 あの偽物を早急に鏡の国へとお帰り願うのは賛成だ。だが、現状逃げられてしまっているし、もう一つ気になる点があった。

「でも、帰すには次の満月がどうのこうのと言ってなかったっけ?」

「……確かに。魔鏡の力が発動するのが満月の日というのなら、その日以外では只の鏡と言うことなのでしょうか?」

「残念ながらその通りじゃ。よって、今の段階では彼女達を鏡へは戻せぬ。じゃから、儂はこっそり彼女達を匿い、魔鏡の能力観察をっゲフン、ゲフン」

「「…………」」

 最後に余計なことを言ってしまったと気がつき、学園長が咳払いして誤魔化してくるが、しっかり聞いていた私は冷ややかな目で彼を見つめることで非難を浴びせることにした。

「なるほど、つまりあの子達の面倒をお祖父様がみていたのですね。今思えば私達が魔鏡を見つけたあの日、テュッテが見たという人影はお祖父様ではなく偽の私達で、そばにお祖父様がいたのですね」

「……う、うむ……」

「では、私が遭遇したあの機関の戦闘員なるモノはなんなのですか?」

「あ、あれは……なんかよく分からん設定とやらをメアリィちゃんに聞かされ、実行するようせがまれてのう。あの時は離れたところで見ていたのでっ」

「学園長、そこは私ではなく偽っ」

「お嬢様、今は流しましょう」

 マギルカと学園長の会話に看過できない点があったので、私は反射的に訂正を求めてしまい後ろからテュッテに窘められた。私は口をん~と引き結び、ごもっともだとそれに従う。

 話の腰を折ってしまったが、とにかく、現状私のすべきことはあのこっぱずかしい偽私を捕まえ、騒ぎを起こさせないよう監視し、来る日にお帰りいただくということだ。

(まずは逃げたあの子達を確保しなければ。歩いてどこまで行ったのやら。私ならもしかして全力で走るととんでもないことになりそうだけど、偽マギルカがいるからそんな無茶なことはしないよね……し、しないよね?)

 一抹の不安を抱きながら、一通り話を聞き終えた私達はお店を後にするのであった。

 そして、すぐに私は一つの事件に巻き込まれた。

 なんと、私の馬車がなくなっていたのだ。

 考えるまでもない。

 あの偽私がシレッと利用したのだろう。事情を知らない御者に私と偽私を見極めろと言うのは酷な話だ。

「ど、どどど、どうしよう」

「落ち着いてください、メアリィ様。馬車に乗ったからといって遠くへ行けるわけではありませんわ。彼女達は魔鏡から離れることができませんもの。それに偽とはいえメアリィ様と私が二人で移動して御者が不思議に思わない場所は限定されます」

 慌てる私とは反対に頼もしいマギルカの言葉。あぁ、マギルカがいてくれてほんと助かる。

「そ、それは?」

「学園ですわ。あそこは魔鏡もあり、隠れる場所もいっぱいあります。なにより、私達二人が向かっても御者が不審に思わない場所ですわ。メアリィ様ならそう判断なさると私は思いますけど、違いますか?」

 マギルカの意見に私はどうだろうと首を傾げてしまう。だって私だぞ。そんな臨機応変に頭が回るだろうか。たぶん、勢いで突っ走って後でどうしようかとオロオロしているに違いない。

「あ、だからマギルカに頼るのか」

 自分がその立場になった時どうするか、シミュレートした結果、私はポンと手を打って納得する。おそらくというか、断言しても良い。偽私は絶対この後どうしようかと偽マギルカに頼っている。

 そして、偽マギルカが馬車を利用し、学園へ戻ると提案したのなら絶対それに従う。あんなデレデレの偽マギルカでもマギルカなのだから、こちらのマギルカと考えることは一緒のはずだ。ならば、学園に戻ったと考えても良さそうだろう。

「なら、私達も学園へ戻りましょう。マギルカの馬車に乗せてくれるかしら?」

「構いませんが、今戻ったら日が暮れてしまいますよ」

「構わないわっ。その時はまた学園で一泊よっ! 良いですよね、学園長っ」

「ああ……大丈夫じゃぞ。あの子達を匿っていたからそこら辺の準備は万全じゃ」

 トホホといった感じで肩を竦めて答える学園長を尻目に私達はさっそく学園へ戻ることにするのであった。

 このままいけば、学園にはもう人はいないので、万が一見つけだした際に偽私がなにかしでかしたとしても、私への精神的被害のみで多くの人達に周知されることはないだろう。まぁ、できることならその精神的被害も受けたくはないのだが。

(頼むから、妙なことはしないでおくれよ、向こうの私ぃぃぃっ!)


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