人、それを黒歴史と呼ぶ
「なによぉぉぉっ、その格好はぁぁぁっ!」
「なにって、私の隠された力よ」
「か、かかか、隠された力?」
私の猛抗議に偽私は当たり前だろみたいな顔で答えてくるが、私には身に覚えがない。
「え? メアリィ様は魔法少女なのではないのですか?」
私が混乱しているとマギルカがまさかの回答をよこしてきた。
「ま、まほ、魔法少女……え、どゆこと?」
「え? メアリィ様は魔法少女という秘められた力に目覚めて日夜、機関と戦っているのではなかったのですか?」
「え? マギルカはそんな話を信じたの?」
「…………」
私の質問に気まずそうにプイッと顔を背けるマギルカ。
目眩がする思いで私は頭を抱える。いや、まぁ、そんなモノに憧れた時期が私にもありましたよ。だが、それはあくまで前世であって今世ではない。そもそも魔法が使えるこの世界で魔法少女って……。失笑案件である。
「ふふふっ、そのとぉ~り! 日夜、機関と戦う孤高の魔法少女プラチナ・ハートSRが天に代わぁってぇ~」
「それはやめてぇぇぇぇぇぇっ!」
私が一人頭の中で話を整理していると、偽私がまたぞろ恥ずかしげもなく、羞恥レベルMAXな台詞とポーズをぶっこんできたので、思わず絶叫して我を忘れそうになる。
「お嬢様、落ち着いてください」
「テュ、テュッテ」
私が錯乱していると駆け寄りテュッテが優しく手を握ってくれた。その温もりに私の精神は……。
「え~、じゃあ……悪あるところ即参上っ、プラチナ・ハートSRぅ☆」
(みぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!)
落ち着かなかったでござる。
目の前で再び偽私が恥ずかしい格好でこれまたキラッ的な恥ずかしいポーズを惜しみなく繰り出してくるのだから仕方ないだろう。
私は膝から崩れ落ち、ワナワナと震える自分の手のひらを見つめる。
「お、お嬢様、大丈夫ですか?」
「……こ、これが、ダメージというものなのね」
「あっ、良いわよねその台詞。うんうん、カッコいいよねぇ~、一度は言ってみたいよねぇ~。分かってるじゃない、私」
「ごふぁっ!」
ふと零した台詞が認められたくない人に高評価をいただき、私にもその気がある疑惑が浮上して、ショックのあまり血は出てないが私は喀血するかのような素振りをしてしまった。
「お、お嬢様、しっかりしてください」
そのまま倒れそうになったところをテュッテに支えてもらう。
「テュ、テュッテ……私は……違っ……」
「お嬢様、大丈夫ですよ。あちらのお嬢様もお嬢様も大して変わりませんからっ、気にしないでください」
「がはぁっ!」
フォローのつもりで言ったテュッテの言葉がまさかのトドメとなり、私は再び喀血風に言葉を濁し、ガクッと項垂れた。
「あれ? お嬢様、お嬢様ぁっ」
心を失い、テュッテに揺すられるままの状態がしばし続いた後、私の中である決断がくだされた。
「……よし、滅ぼそう。ここにあるもの一切合切消滅させて、皆の記憶を消去して無かったことにしよう」
「お、おおお、お嬢様、いけません。冷静に、そう、冷静になりましょう。はい、深呼吸ぅ~」
ゆらりと起きあがった私が半笑いのまま決断を口にすると、後ろから慌ててテュッテが抱きついてくる。羽交い締めと言っても過言ではなかったりするが、テュッテが後ろでス~ハ~と深呼吸してくるので釣られて私も深呼吸する。
ちょっと冷静になった気がす……。
「フッ、ついに闇へと落ちたわね、悲しいことだわ。しかし、私は負けないっ! 私には守らなければならない世界があるのっ! え~と、あ、プラチナ・ハート・ブラックRよっ!」
「もしかしなくてもそれは私のことかっ! 白か黒かどっちなのよっ! 後、Rってなに?」
なけなしの冷静をツッコミに注ぐ私。
「レアに決まってるでしょう」
「おのれはスーパーレアで私はレアかぁぁぁっ! 闇落ちは希少だからSSRくらいにしなさいよぉっ!」
「やだっ、私よりレア度高いのは」
「ぬわんですってぇ~」
そして、しょうもない言い争いを始めるしょうもない私達。
「フッ、所詮私達は水と油。決して混ざることのできない悲しい宿命なのよ」
「……一蓮托生とか言ってなかったっけ?」
「忘れたわ」
「こぉらぁぁぁっ!」
「あ、あのぉ……」
私達がキャンキャン言い争っていると、恐縮そうに間に入ってくる者がいた。言わずもがな、ここの店主である。
「こんな所で立ち話もなんですから、部屋へ行きませんか? 案内しますよ」
彼の台詞で私は人様の店の廊下で大騒ぎしていたことに気がつき、恥ずかしくなる。
「大騒ぎして申し訳ございません」
「だが、断るっ!」
「うぉい!」
店主に謝る私の後ろでなぜかドヤる偽私。
「機関と内通している人間の言うことなんて聞けないわ。あなたの企みはお見通しよっ」
「え、機関? も~、なに言って、ええぇぇぇっ!」
おかしなことをのたまう偽私を失笑し、私は店主の方を見ると彼は笑顔のまますっごい量の汗が滴り落ちているではないか。
「そ、そそそ、そんな、たたた、企むだ、ななな、なんて」
(めっちゃ動揺してるんですけどぉっ。そんな態度とられたら偽私の言うことが本当に思えちゃうじゃない)
「ま、まさか……あなた、本当に機関の」
「は? 機関ってなんですか?」
恐る恐る聞いてみると、店主は先ほどとは打って変わって冷静、というか素に戻って普通に答えてきた。良くも悪くも嘘がつけないタイプに見える。そんなんで商人やっていけるのかと心配にはなってくるが、まぁ、余計なお世話だろう。
「で~すよね~。すみません、あやつが変なことを口走ったもので」
「むっ、そう、分かったわ、フェアリーツー。彼は機関に上手く操られていて自覚がないのね。くっ、なんて周到な奴らなの」
耳に指を当て急に独り言をしゃべり出す偽私。だが、マギルカ達はその異変に気がつかないのかスルーしていた。
「ぷぷっ、急にどうしたのかしらね? 変なものでも食べたのかしら?」
「え? 誰かと会話なさってるんじゃないでしょうか。お嬢様がスノー様と話されているときと変わりませんよ?」
おかしな奴だと失笑半分でそばにいたテュッテに聞いてみた。が、まさかここでスノーと会話している自分の異質な光景を目の当たりにすることになろうとは思いもよらず、恥ずかしさのあまりクラクラしてくる。
「…………」
「お、お嬢様、急にどうしたのですか?」
倒れそうになって再びテュッテに支えられる私。
分かっていた。スノーとしゃべる自分が痛い子みたいだということは自覚はしていたが客観的に見ることができなかったので、いまいち自覚にかける部分があった。
だが、まさかここでその光景を客観的に見せつけられるとは……。
(ぐおぉぉぉぉぉぉ、恥ずかしいぃぃぃぃぃぃっ!)
両手で顔を覆い、私は羞恥に身を震わせテュッテに支え続けられる。
「あなたとの決着は後回しよ、プラチナ・ハート・ブラックR。私は再び宿命の戦いに身を投じなければいけないわ。だから、テュッテ、マギルカ、私にあなた達の力を貸して。私にはあなた達が必要なのよ」
なんか偽私が言ってるが恥ずかしさのあまり、私は今彼女の全てを遮断して、テュッテの腕の中で悶えまくっていた。
「申し訳ございませんが、現在私はこちらのお嬢様の看病をしておりますので」
「え、え~と……」
「もちろん、どこまでも着いていきますわ、メアリィ様ぁ~」
サラッとお断りするテュッテと言い淀むマギルカ。代わりに嬉々して承諾する偽マギルカの声が聞こえる。が、私は恥ずかしさのあまり現実から逃避中なので、聞こえているだけだ。
「うぅ~、テュッテのぶぁかぁぁぁぁぁぁっ! でも、諦めないからねぇぇぇっ!」
なんか偽私が涙声で叫び遠のいていくような気がする。そして、次のマギルカの台詞で私は現実に戻された。
「あれ? これって逃げられた、のでしょうか?」
「……なんですってぇぇぇっ!」
勢いよくテュッテから離れて辺りを見渡す私。
そこにアホ毛をつけた二人の姿は見あたらなかった。
「どうして止めてくれなかったの、マギルカ」
「え、でも、機関と戦う使命がメアリィ様にはございましたので、邪魔してはいけないのかなぁ~と……」
「そんなもの妄言に決まってるでしょう。なんで私が機関とか言うものと戦わなくちゃいけないのよっ」
「え、えっとぉ、メアリィ様なら……ありなのかな~と思いまして」
「マギルカ……あなたとは一度じっくり話し合う必要がありそうね」
「と、とにかく、追いかけましょう」
マギルカは私から逃げるように出口へと走り始め、私もそれに続く。
店を出て辺りを見渡すと、二人の姿はなかった。
「いない。逃げ足が速いわね」
「よくよく考えましたら、あのような恥ずかしい私が王都を歩いていると思うと不安で仕方ありませんわ。知人に会ったりしたら……」
「それもそうだけど、遠く離れた地域に逃げられたらそれこそ探しようがないわよ」
あんなこっぱずかしい存在を野放しにするなどあってはならないのだ。しかも、向こうは私と違って目立ちたがり屋のかまってちゃんである。私の能力をフルに使われたらどうなるのか、考えるだけで恐ろしい。私の能力が露呈されるのだけは断固として阻止しなくてはならない。
「それは大丈夫だと思いますよ。彼女達は自己幻視の魔鏡から一定の距離以上離れられませんから」
「へ~、そうなんで……ん、よくあれが自己幻視の魔鏡の仕業だと分かりましたね」
「え、あ、そ、そそそ、それは、えっとた、たまたまですよ」
なにがどうたまたまなのか分からないが、うっかり口走ってしまった店主は私の指摘にしどろもどろになっていた。なにかを誤魔化そうとしているのがバレバレである。
(ほんと……この人商売人には向いてないような気がする)
「メアリィ様が機関と繋がりがあるとおっしゃってましたが、もしかしてなにか隠しているのでは……」
「そ、そんな隠すだなんて。私はただ魔鏡を売ったのがこの店だったというのを知られ、あっ」
聞いてもいないのに勝手に自爆していく店主であった。
(マジでこの人商売人には向いてない気がする。まぁ、それよりも……)
「マギルカ……」
「……メアリィ様」
私は店主の自白よりも重要なことをマギルカに告げるべく近づく。マギルカも私の真剣な顔つきになにかを察したのか、緊張してこちらを見た。
「言ったのは私じゃなくて偽私ね。そこ重要だから間違えないように」
「「…………」」
「お嬢様、今重要なのはそこではありませんよ」
私の訴えにテュッテがツッコんできて、マギルカと店主が半目になりながらコクコクと頷いている。
「いやいやいや、私にとっては重要なのよ。アレと間違われたら大変なのよっ」
「そんなことよりも、店主は鏡の件でなにかをしようと私達を部屋に閉じこめましたよね?」
「へっ? と、閉じこめるだなんてとんでもない。私はただフォルトナ様に頼まれて、あっ」
私の意見がそんなこと呼ばわりでスルーされたのは納得いかないが、マギルカが店主を問いつめると、やはりと言って良いのか店主が自爆した。
「この件にお祖父様が関わっているのですね。つまり、あの魔鏡を売ったのがこの店で、それを買ったのはお祖父様といったところでしょうか」
「……な、なぜそこまで……」
呆れた顔でマギルカが推理すると店主は驚愕した顔で後ずさる。
(学園長、マジックアイテム集めるの大好きだからね~。それを知ってる人なら行き着く結論だわ)
「詳しく、お聞かせいただけますか?」
マギルカがにっこり顔で店主に詰め寄った。まぁ、目は笑っていないのが誰の目にも分かるが……。
その後、程なくしてこっそりやってきた学園長が私達が待ち受ける部屋に案内されて、ご対面したのは言うまでもなかった。
コミックウォーカー様より「どうやら私の身体は完全無敵のようですね」のコミカライズ第20話が更新されました。ついに、あのお姫様が…。