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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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機関の陰謀?

 マギルカはソワソワしていた。

 王都でメアリィと二人で買い物をするといっても、テュッテがいるので実質二人きりではない。そう思っていたのだが、いざメアリィが来たときテュッテはいなかったのだ。

 メアリィがテュッテを連れてこないという予想外の出来事に驚きつつも、先の考えがマギルカに二人きりということを余計意識させてしまった結果である。

 ついでに、相変わらずメアリィはマントで着ている服を隠した状態だった。それもソワソワというか、気になってしまう要因の一つでもある。

「め、珍しいですわね。メアリィ様がテュッテをお連れになっていないとは」

 会話に困り、ついついそこを指摘してしまうマギルカ。

「うっ……ま、まぁ、彼女には私の裏の顔は秘密にしているから……」

 痛い所を衝かれ、戸惑うような素振りを見せた後、メアリィはどこか遠くを見るように語ってくる。

 そのどことなく寂しげな表情にマギルカは配慮が足りなかったと反省した。と同時に、テュッテにも話さない秘密を自分に話してくれたという嬉しさが入り交じって、マギルカは複雑な気持ちになる。

「……くっ、あの時一緒に映ってさえいれば、私にだってぇぇぇ」

「はい?」

 寂しげな表情から一転してメアリィが口惜しそうに親指の爪をギリギリと噛みながら呟くその内容を、マギルカは聞き取れず聞き返す。

「あ、気にしないで、只の独り言よ」

「はあ……あ、えっと、それで、メアリィ様はなにをご所望なのでしょうか?」

「そうね、私のソウルにビビッとくるモノが欲しいわ」

「ソウル? ビビッと?」

「ん~と、魔法少女的なこう~、なんていうか~、アレよ、アレッ」

「は、はあ……」

 一人盛り上がるメアリィを見ながらマギルカは彼女の言うアレがなんなのかまったく理解できずに曖昧に答えるだけだった。

「と、とりあえず、メアリィ様がご存じなお店を回ってみましょうか」

「うっ、そ、それは危険だわっ」

「へっ、危険?」

 なにはともあれ行動しようと、マギルカが提案し歩き出そうとすれば、メアリィが慌てて否定してきた。その言葉にマギルカは訝しがる。

「えっ、あ~ぁ、う~ぅ、え~ぇ……コホン。今の私は裏の顔で動いてるの。あまり大っぴらにできないわ」

「メアリィ様……」

 メアリィが物憂げに返答するとマギルカは若干、いや、だいぶ釈然としない顔で彼女を見るが、メアリィには自分には理解できないなにか意図があるのだろうとこれ以上追及するのをやめた。

「では、私がいろいろご案内しましょうか。メアリィ様が知らないお店とかもありますよ」

「そ、それは良いわね。それで行きましょう」

 ホッとした顔でメアリィが賛成してくるので、マギルカは頑張って彼女が喜びそうなお店を考えるのであった。

 

 数時間後。

「ちょっと、マギルカ。いつまでカーテンの後ろに隠れてるのかしら?」

 メアリィの指摘通り、今マギルカは自分が知っている服飾店の着替え用個室の前に敷かれたカーテンでその身を隠している状態だった。現在、マギルカはなぜかメアリィの着せかえ人形状態である。

「で、でもぉ……これはちょっと派手というか恥ずかしいような……」

「大丈夫。私が見立てたんだから問題ないわよ。観念して出てきなさい」

「ううぅ~」

 メアリィに詰め寄られてマギルカは観念したようにカーテンから離れる。

「ほうほう、思ってたより良いわね」

「……そ、そうでしょうか。ちょ、ちょっとスカートの丈を短くしすぎていませんか? 気になって仕方ありませんわ。あと、なんだか作為的に胸が強調されているような気が……」

「あ、その点は大丈夫大丈夫。私がそこ意識して選んだんだから問題ないわ」

「大丈夫じゃありませんわっ!」

「う~ん、もう少しフリル感が欲しいところね。後、マギルカならイメージ的には黄色……いや、赤というのも有りかしら」

「…………」

 マギルカの抗議も空しく、メアリィは恥ずかしがる彼女をジロジロと余すことなく観察して、なにやら思案してきた。

「ねぇ、赤をベースにしたモノはないかしら?」

 これでもう何回目か後ろに控えていた店の者にメアリィが言うと、探してきますと一旦離れていく。それを半分諦めた顔で見送るマギルカはどうにもスカートの丈が気になって押さえたままでいると前屈みになってしまった。

「むふふ、そうしてるとなかなか色っぽいわよ、マギルカ。セクシー担当ってのも有りかもっ」

「な、なにを言っているのですかっ! と言うより、私ばかりでメアリィ様の買い物はどうなされたのです?」

「ん? 今日はとりあえずマギルカの衣装とか小物を探しにきたんだけど?」

 耳まで真っ赤になって抗議するマギルカに対して、メアリィはシレッと買い物理由を吐露してきた。

 機関との戦いに関係しているのだろうかと一瞬考えたが、現状とそれが上手く結びつかず、マギルカは深く考えるのを止めたくなってくる。

 それよりも現在の状況から逃げ出すことを考える方が良いのではないかとさえ考え始める始末であった。それほどに恥ずかしいのである。

「え、え~と、あ、そうですわ。小物、小物も探すとメアリィ様はおっしゃってましたよね。そちらも探しに行きませんか?」

「小物……う~ん、良い感じのマジックアイテムとかあるかしら?」

「例えばなんでしょう?」

「……う~ん、変身アイテム……とか?」

「……変身? え、えっとぉ……そ、それでしたら、ちょうどお祖父様が贔屓にしている魔道具屋に用がございましたので、そちらへ行きませんか?」

「へぇ~、あの学園長が贔屓にね。それはなにかありそうね、行ってみようかしら」

「そうですか、それでは案内しますわ。少々お待ちくださいね、すぐに着替えますので」

 メアリィがなにを求めているのかいまいち理解できていないマギルカであったが、現状の着せかえ状態から逃げられるのならばと、強引に話を進めていく。

「え? そのままで――」

「す・ぐ・に、着替えますのでっ!」

 メアリィの言葉を遮り、カーテンを閉めるとマギルカは急いで着替え、その後メアリィを引っ張るように、実際は彼女のマントをちょこっと摘んだ程度という控えめな動作で店を後にするのであった。

 

 程なくして、その魔道具屋に到着した二人は、中に入る。メアリィはさっそく店内にある品々を見学し、マギルカは用事を済ませようと店主を呼んで貰った。

「お待たせしました、フトゥルリカ侯爵令嬢」

 さほど待つこともなく、一人の紳士がマギルカの前に現れると、彼女はさっさと用件を済ませようと手紙を差し出した。

「祖父の手紙を届けに参りました」

「これはこれは、わざわざすみません」

「祖父の話ではすぐに読んで欲しいとのことです」

「えっ、今すぐにですか?」

 よほどの緊急性があるのかと店主は驚きつつも、マギルカから少し離れて手紙を開封した。

 マギルカはメアリィの元へと戻ろうと踵を返すが、その時彼の表情が驚愕に変わったのを見て、思わず足を止めてしまう。

「ま、さか、そんな……いや、でも、あの冠羽……」

「どうかしましたか?」

「へっ、あっ、いえ、な、ななな、なんでもございません」

 マギルカに声をかけられ、メアリィを見ていた店主がしどろもどろに答えてきた。些か釈然としないが問いつめるような立場でもないのでマギルカはそのまま踵を返し、メアリィの元に戻ろうとする。

「あ、お、おまちください、フトゥルリカ侯爵令嬢」

「はい?」

「え、えっと、その……あっ、そうだ。あの、お渡しする魔道具がございますので、少々お時間を頂けませんでしょうか?」

「? それは手紙と関係あるのでしょうか?」

「え? え~、あ~、は、はい」

「そうですか、では問題ございませんわ」

「そ、それではお連れの方とお部屋でお待ちください。案内します」

「……メアリィ様、よろしいでしょうか?」

「ええ、問題ないわっ」

 恐縮する店主にマギルカは笑顔で答え、メアリィにも聞くと彼女も承諾し、店主はホッとした表情で二人を奥の部屋へと案内するのであった。

 

「それでは、少々お待ちください。す、すぐ戻りますので」

 部屋に案内すると店主は慌てるように部屋を出ていく。そんなに慌てて、それほどまでに緊急な案件だったのだろうかとマギルカは疑問に思った。そもそも、そんな大事なものなら自分に託すなどしないだろう。

 考えても答えが出てこないし、これといってすることがないので、マギルカは大人しくソファに座り店主が戻ってくるのを待つことにした。

 だが、メアリィはソファに腰を下ろすどころか、なにかを警戒するようにそっとドアの方へと忍び寄っていく。

「…………分かってるわ、フェアリーツー。問題ない」

 そして、急にボソボソと独り言のようにしゃべり出すメアリィを見ていながら、マギルカはなんの疑問も持たなかった。

 なぜなら、メアリィは去年からスノーと名付けた神獣とあんな感じで独り言のように会話していたのだから。

 そのせいで、マギルカはこのメアリィの奇行に耐性がついてしまい、スルーしてしまっている。

「ええ、そうね。おそらく機関が絡んでいるわ。私の方は自分で何とかする。心配しないで」

 メアリィの独り言が続き、マギルカはその中の機関という単語を耳にして、スルーすることができなくなった。

「メアリィ様、今の言葉はどういう意味ですか? 機関って……まさか」

「……ええ、機関の連中が迫っているの。私達はここに閉じこめられたのよ」

「え? そ、そんなっまさかっ」

 メアリィの言葉に驚き、立ち上がるマギルカ。そんな彼女を見ながらメアリィは扉を軽く開けようとして開かないような素振りを見せた。

「……あ、あの店主が」

 祖父が贔屓にしている店が機関と繋がりがあるかもしれないという衝撃にマギルカは混乱していく。

 知らない内にかの機関は自分の身辺にまで忍び寄っていたのかと思うと恐怖すら覚えるくらいだった。

「……もしかすると学園長が渡した手紙は機関からすると面倒事だったのかもしれないわね。それを届けにきた私達をどうするか、店主は機関の指示を仰いでいるのよ」

「……さ、さすがメアリィ様。それにしてもどうやってそこまで知ったのですか? 調べているような素振りはなかったように見えましたが」

「ふえっ? え、えっとぉ~…………ええ、分かってるわ、フェアリーツー。情報は引き続き入手しておいて」

 マギルカの素朴な質問に驚いたかと思えば、メアリィは再びそっぽを向いて独り言を言い始める。

 その台詞からマギルカはおそらくメアリィはスノー、もしくは同等の強力な味方をつけていて、その人は密かに彼女をサポートしているに違いないと解釈した。

「と、とりあえず、ここから脱出しないといけませんわね」

「……そうね。見つからないように脱出しましょう。段ボールがあると良かったんだけどねっ」

「だんぼーるとはなんですか?」

「フッ、スニーキングのお約束アイテムよ。あ、木箱でもいけるかしら?」

「は、はあ……」

 機関が絡んでいると言っていたわりになぜかウキウキしているメアリィにマギルカは頭に疑問符が浮かび上がる。

 メアリィはそっと扉を少し開けると、その隙間から廊下を見渡した。

「……あれ? 開かないのでは?」

「えっ、あぁ~、うん、私の魔法で開くようにしたのよ」

「そ、そうですか。それにしても、なんだかメアリィ様、コソコソする動作が手慣れてませんか?」

「うっ、ま、まぁ、逃げ回ってるからね」

 メアリィの扉への言い訳にマギルカは若干モヤッとするところがあったがそれは置いておくことにする。それよりも、逃げ回るとは機関から逃げているのかと思ったが、そもそも魔法少女とかいう力で撃退しているのだから逃げ回るという言葉はおかしいのではないかと気がつく。

 ではなにから逃げ回っているのか。

 単純に考えると撃退できない相手がいるということだろうか。

 あのメアリィですら撃退不可能な敵が機関にいるというのはあり得ないことではない。同時に、それは自分にとっても脅威以外のナニモノでもなかった。

 背筋がゾッとするマギルカは頭を振って、見もしない相手のことを考えるのはやめ、今は脱出することに集中する。

 と、すぐそこでメアリィがなにやらゴソゴソとしていた。

 何事かと覗き見るとメアリィはいつの間にやら大きな木箱を持ち出して来ており、蓋を取り除き中身を無くしていたのだ。

「あの、メアリィ様。それをどうするのですか?」

「もちろん、被るのよっ!」

 そう言って、メアリィは開けた部分を下にして、そのまま中へと入り込んでしまう。

 まさかあの状態で移動する気ではないのだろうかと、マギルカは一抹の不安を隠せないでいた。

「よし、完璧。なかなか良い感じね」

「あの……メアリィ様。普通に歩くのではダメなのでしょうか?」

「やだ、そんなのつまらないわよ。スニーキングゲームと言えばこれでしょう。ほら、マギルカも早く入ってっ」

 メアリィの「これでしょう」が全く理解できないマギルカは大丈夫なのだろうかと思いながらも、メアリィの指示に従い、しゃがみながらスゴスゴと箱の中へと潜り込んでいくのであった。

 そして、廊下をモゾモゾと動く木箱が完成する。

 端から見たら、皆ギョッとするだろうが、幸いなことに今のところ誰にも遭遇していなかった。

 だが、それも終わりに近づく。

「ねぇ、あの木箱動いてない?」

 そんな声が聞こえて、マギルカの鼓動が高鳴った。

 と同時に、その声が聞いたことのある声に気がつき、「あれ?」と思うマギルカであった。

「ねぇ、どう思う?」

「はい? 私、今は貴方様しか見ておりませんので分かりませんわぁ」

 さらに大変聞き慣れた声がマギルカの耳に届いて「あれあれぇ?」と頭の中がパニックになっていく。

 そんな中、メアリィだけが移動したため、ガンッとマギルカが箱の中でぶつかってしまう。

「きゃっ!」

「ほら、やっぱり動いた。しかも声がしたわよ。誰か入ってるんじゃない?」

 こちらに近づいてくる足音にマギルカは咄嗟に息を殺し、さらに手で口を覆い隠す。自分のせいで見つかってしまったことに罪悪感が募っていった。

「致し方ないわね。マギルカ、私が立ち向かうからあなたはその隙に逃げるのよ」

「そ、そんなことできませんっ」

 覚悟を決めたというかなんというか、メアリィがニヤリと笑いながらそう言うと、マギルカの言葉を聞かず、箱を持ち上げ立ち上がった。

「ふはははっ、さすが機関の人間。私の隠密技術を見破るとはたいしたものね」

「メアリィさ、ま?」

 視界が一気に明るくなり、マギルカは立ち上がった「メアリィ」を見、そして、ちょうど対峙する形になった相手を確認する。

 

 そこには「メアリィ」が立っていた。

 

「えぇ――――――ッ??」

 マギルカの思考がパニックを越え、フリーズしたのは言うまでもない。


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