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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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おや、メアリィの様子が……

 ドタバタ騒ぎから一夜明け、マギルカは一度家に戻った後、昼過ぎには再び学園に戻っていた。

 四年生になると受ける授業数は減り、一日授業が無いときもある。

 そういえば、今日はメアリィはお休みだったなとマギルカは少しつまらなそうに少ない授業を済ませると家に帰らず、そのまま調べ物をすることにする。

 昨日の鏡が不発に終わったので、なにか代わりの良い情報がないかと考えたのだ。まぁ、自分のテーマの件もあるのでそのついででもある。

 旧校舎のいつもの談話室へ顔を出してから、図書館へ行こうと思っていたマギルカは、ふと談話室の入り口近くに集まる女生徒達の会話にメアリィの名が出てきて足を止める。

 会話の内容は先ほどまでメアリィとなにかしていたらしかった。

 今日は授業がないはずだがと不思議に思うマギルカはついつい、その女生徒達に問いかけてしまう。

「ちょっと、宜しいかしら?」

「あ、マギルカ様。ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 そこでマギルカはその女生徒達の顔ぶれに一つの接点を思いだした。

「あなた方は確か被服創作研究会の方々……でしたかしら?」

「はい、私達は学科を越え、皆で知恵を出しあい、日夜新しいファッションを研究しております。マギルカ様達が創設なさった制度のおかげで私達の創作の幅が広がりましたわ」

 確かめるようにマギルカが聞くと、どうやら正解だったようで会の一人が目を輝かせて答えてくる。

「失礼ですが、先ほどメアリィ様がどうとか……」

「あっ、はい。朝早くから私達の会に来られて、なにやらまた新しいファッションをご教授いただき、先ほどお渡ししたところです」

「急拵えで作ったものでしたが、なかなか斬新でした。さすがはメアリィ様です」

「私達もあれを土台に更なる物を作りたいと思いますわ」

 マギルカの質問に嬉しそうに答える女生徒達。

 そういえば、自分が着ているこの服もクラスマスターの服もメアリィがデザインしたと聞くや、ちょくちょく彼女達が談話室を訪ねてくるので顔を覚えてしまったのだとマギルカは嘆息する。

 メアリィが学園に来ていることを知り、マギルカはお礼を言ってその場を後にした。

 とりあえず、当初の予定通り談話室に顔を出すと、予想に反して誰もおらず、マギルカはそのまま図書館へ行くことにする。

「メアリィ様……あまり新しい服を作るのに乗り気ではなかったのですが、今日はどうしたのでしょう?」

 まさか先日の空気になるための衣装ではないのかと、マギルカが少し不安になりながら窓の外を見てみれば、白銀の髪が横切っていくのが見えた。

「メアリィ様?」

 人気のないあのような場所を駆けていったメアリィらしき人物にマギルカは疑問を感じ、そちらに足を運ぶ。

 マギルカは校舎を出て小さな森へと入っていった。程なくして人影を発見すると、向こうはこちらに気づいておらず、背中を向けている。よく見ると、隠れているようにも見えるのだが、あの銀髪はメアリィだと確信し、マギルカはそっと近づく。

「メアリィ様」

「ふにゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 後ろからマギルカが声をかけると本当に気づいていなかったのか、目の前の少女が変な声を上げて飛び上がった。

「な、ななな、なんだマギルカか。びっくりしたぁ~」

 慌ててこちらを見たメアリィにマギルカは小首を傾げる。

 彼女を見た瞬間、なにか違和感を感じたのだ。

 そう、メアリィの頭上、そこにピョコンッと冠羽のような一本の毛が立っていたのである。

「はて、あんなのあったかな?」とマギルカは記憶を辿ったが、まぁ寝癖か、メアリィなりのファッションなんだろうと、考えるのをやめた。

 それよりも違和感があるのはメアリィの格好である。

 首から下がマントで覆われていたのだ。

「こんなところでなにをしてらしたんですか?」

 出で立ちも疑問に思うがそれよりもメアリィがこんな人気のない森でなにをしているのか気になったマギルカは質問をする。

「ふぇ、あ~……ううん、なにも聞かない方が良いわ。あなたは私を見なかったことにしてここから立ち去りなさい」

 とても真剣な表情で答えるメアリィにマギルカは内心驚きでいっぱいだった。

 いつもは頼ってくるメアリィが自分を遠ざけようとしている。それだけ、なにか重要なことなのか、それとも危険なことなのか、今の段階では計り知れないが、彼女の態度を見る限り冗談を言っているようには見えなかった。

「そ、そんなこと言われたら引き下がれませんわ」

「……これ以上は、あなたも闇の世界に足を踏み入れることになるわよ」

 闇の世界。そのような言葉をメアリィから聞かされ、マギルカは息を呑む。

 メアリィの話が突飛すぎて頭の中で整理が追いつかないマギルカだが、ここで立ち去ってはいけないと心が訴えかけていたのだ。

「……か、構いません。前にも言いましたが、私はあなたの力になりたいのです」

 前に言ったときとはニュアンスが違うが、マギルカの気持ちは同じだ。それが伝わったのか、メアリィがこちらを見てくるのでマギルカも見返す。

 数瞬の後、メアリィが折れたように溜め息を吐いた。

「仕方ないわね、不本意だけど……っ、伏せてっ!」

 メアリィがマギルカに近づき苦笑を浮かべた次の瞬間、彼女はあさっての方向を見るや、マギルカの肩を掴んでしゃがませる。

「な、なに?」

「しっ、黙って。くっ、『機関』がここまで来ていたなんて迂闊だったわ」

 苦虫を噛みつぶしたような表情でメアリィがある方向を見つめる。マギルカもそちらを見るが誰かいるようには見えなかった。

 マギルカはよく見えるように中腰になってそちらを凝視すると、サッと人影らしきモノが動いたのが微かに見え、慌ててしゃがみ込む。

 メアリィの言っていたことは本当だったのだと理解するとマギルカは先ほど彼女が零した言葉に引っかかりを感じた。

『機関』

 闇の世界と機関、そのワードだけで物騒なものが想像できてしまうマギルカだった。だが、自分達は学生に過ぎない。そのような機関に目を付けられるようなことは……そう思い、マギルカはふと思いだす。

 詳しくは知らされていないがエインホルス聖教国に潜む、闇の組織が確か『栄滅機関』と呼ばれていたはず。そして、この機関が暗躍する事件に自分達は遭遇していた。

 まさか、かの機関とメアリィに結びつきがあるのだろうかとマギルカは考える。

「……メアリィ様。もしかして、『あの』機関が学園内に?」

「ん? う、うん」

 マギルカの問いに一瞬戸惑いを見せたメアリィだが、きっと正直に答えようか迷った結果だろうと彼女は解釈する。

「私は『その』機関の魔の手から逃げ、戦っているの」

「なぜメアリィ様が狙われるのですか」

「それは、私が『力』に目覚めたからよ。機関はその力を恐れているの」

「ち、力ですか?」

「そう、その力というのが『魔法少女』なのよっ!」

「まほっ、えっ?」

 拳を握りしめ熱く語るメアリィとは対照的にポカーンとするマギルカ。

「ハッ、ここは仲間が増える展開というのも良いわね……」

 メアリィはしたり顔でさらになにかを呟いているが、今のマギルカには彼女がなにを言っているのか理解が追いつかず、そのままスルーしてしまう。

「マギルカはここで隠れていてっ!」

「あっ、メアリィ様っ!」

 頭の中で情報を整理していたマギルカを置いて、メアリィは隠れていた草むらから飛び出し、姿を晒す。

「私の心が力となる!」

 虚空に向かってメアリィは叫ぶと、装飾に意匠を凝らした手の平サイズのハート型ブローチを取り出し、構えた。

「へっ?」

 さらに理解の範疇を越えた展開が目の前で繰り広げられ、マギルカはただただ傍観するのみとなってしまう。

「フローム・マイ・ハートッ!」

 メアリィは持っていたブローチを天に掲げると、光魔法を小声で発動させ、周囲が閃光で一瞬見えなくなった。

 そして、視界が再びクリアになった時、メアリィの姿が変わる。

「孤高にっ、輝くっ、白銀の心ぉっ! プラチナ・ハートッSRゥ!」

「ん――――っ?」

 メアリィはあの瞬間に髪型をサイドテイルに変えて、いや、よく見るとそれは地面に届きそうな程長く、ボリュームがありすぎだ。彼女の髪色と似た色の毛束を装飾として頭に付けているのだとマギルカは推測する。

 さらに、ババッとポーズを決めているメアリィのそのポーズもさることながら、台詞も突飛すぎてマギルカの脳に入ってこない。

 極めつけはその衣装だった。

 白を下地にフリルをふんだんに使ったヘソ出しミニスカ衣装と無駄に大きく長いリボン。先ほど出していたブローチがリボンと一緒に胸に付けられ主張されている。

 なんだろう、見てはいけないモノを見てしまったのではないかとマギルカはチラリと考えてしまう。

「メ……メメメ、メアリィ、様?」

「違うわっ! 今の私は闇の世界で人知れず悪と戦い続ける光の使者、プラチナ・ハート、SR、よっ!」

 台詞の合間合間にポーズを決めて堂々と答えるメアリィ、もとい、プラチナ・ハートSR。

 そこへ、草むらをかき分け現れた者達がいた。

「え、ゴーレム?」

 誰が召還したのか土ゴーレムが数体、メアリィ達に向かって来たのだ。その造形は人の形をシンプルにし、顔には仮面のようなモノを付けているものだった。メアリィの前世的に言えば、全身タイツに仮面を付けたといった感じだ。まぁ、シンプルすぎて関節とかクニャッと曲がっていて人と呼ぶのも微妙ではあるが……。

「くっ、機関の戦闘員ねっ! でも、この程度プラチナ・ハートSRの敵じゃないわっ! トォゥッ!」

 マギルカが現状を把握するのに精一杯の中、メアリィだけがその戦闘員とやらに突撃していく。

 そして、『魔法』少女と言っている割にはグーパンチなど物理攻撃でゴーレムを粉砕していくプラチナ・ハートSR。

 そんなことを心の中で思うくらいには現状を観察できるようになってきたマギルカであった。

 これといって特筆すべき苦戦もなく、しばらくしてゴーレム達は全て土へと帰る。

「……終わりましたの?」

 怒濤の展開にマギルカは自分が終始見ているだけの状態になってしまっていたことに気が付き、臨機応変に動けない自分を口惜しく思う。

 次こそは……そう思い、メアリィを見るがその格好を見てちょっと尻込みしてしまうマギルカであった。

「どうやら機関も引いたみたいね。でも、戦いが終わった訳じゃないわ。また奴らは現れる」

「で、でしたら他の方々の助力を」

「それはできないわ。これは魔法少女である私の使命であり、宿命なの……だから、部外者を巻き込むことはできないわ」

「部外者……」

 メアリィの言葉に自分も当てはまるのかとマギルカは意気消沈する。そんな彼女にメアリィは近づき両手を掴むと、自分の胸にまで引き寄せた。

「でもね、私はあなたは違うって思うの。ここで出会ってしまったのは偶然じゃないわ。きっと運命の糸が絡み合ったのよ。マギルカ、あなたの中に眠る心を解放すればきっとマジカルハートがあなたの前に現れるはずっ」

「マ、マジカル?」

 手を握りやたら興奮気味に語るメアリィの話の半分もマギルカは理解が追いつかなかった。

「……そうなると、本格的に小道具とか欲しいわね。新たな衣装の方は研究会の子達にまた頼むとして……」

「メ、メアリィ様?」

「ねぇ、マギルカって明日、授業ないよね?」

「へ、あ、はい」

「じゃあ、王都で買い物しましょう。正午に噴水前に集合よ」

「えっ、でも明日はっ」

「それじゃあね、マギルカ。トォゥッ!」

 怒濤の勢いでしゃべり終わるとメアリィはマギルカから離れ、一足飛びで高い木の枝に飛び乗る。そして、静かな森の奥へと消えていくのであった。

 残されたマギルカはしばらくの間、メアリィが去った先をただただ見つめ、立ち尽くす。

「……メアリィ様は明日、授業があるとおっしゃってませんでしたか?」

 そして、先ほど言おうとしたことを独り言のように呟くのであった。

 

 ガサッ

 

「ひっ!」

 突然、静寂に包まれたマギルカの元に、草をかき分け誰かが現れたことで、油断していた彼女は小さな悲鳴とともに身構える。

「おや? マギルカじゃったか。こんな所でなにをしておるのじゃ?」

 マギルカの前に現れたのは彼女の祖父にして、学園長のフォルトナであった。

「お、驚かせないでください、お祖父様」

 驚き上がった心拍数を落ち着かせるように、マギルカは深く息を吐く。そんな彼女を見守りながら学園長は質問の答えを無言で待っていた。

「別に私もこんな所でなにかをしようと思っておりませんでした。ただ、メアリィ様を見かけたので声をかけただけです」

「メアリィちゃんが?」

「ええ、ここでぇ……」

 そこでマギルカは言葉を切る。先ほどの出来事を他人に言っても良いものかと思ったからだ。

「いえ、なんでもありません。ただ、メアリィ様、今日は授業がなくて学園には来ないと聞いていましたのにいらしていたので驚きました。しかも、明日は授業があるはずなのに王都で買い物しようと誘われて……なんだか、腑に落ちませんわ」

 マギルカは当たり障りのない疑問を口にして、この場を誤魔化すことにする。学園長は彼女の発言を聞くと、少し考える素振りを見せた。

「ふむ……まぁ、先生の方でなにか都合があって変更されたんじゃろう。それよりも、マギルカに頼みたいことがあるんじゃが良いかのう」

「なんでしょう?」

「王都で儂が贔屓しておる魔道具屋は知っておるのう?」

 急な話の展開にマギルカは意図が分からず首を傾げるが、その後質問に答えるように頷く。

「明日王都に行くのなら、ついでに手紙を一通、届けてくれぬかのう」

「手紙ですか……ええ、まぁ、その程度なら」

 祖父の頼みごとなので届けるのも吝かではないが、なぜそのようなものを自分に頼むのか些か疑問に思うマギルカであった。

「そうかそうか。では、学園長室に戻って手紙を渡すとしよう」

 学園長がそう言って、ホッとするというよりもどこかニヤリと笑ったような気がして、マギルカは訝しがる。そんな彼女の視線から逃げるように学園長は踵を返して森を出ていき、マギルカも後ろから付いていくのであった。

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