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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 四年目
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夜の学園です

「ホウホウ、研究レポートのために夜の学園を探索したいとは、メアリィちゃんは変わっておるのう」

 時計塔に入ってマギルカと二人、学園長に説明したところフリード先生みたいなことを言われて若干ヘコむ。

(私のやることなすこと変なのか、変なのか?)

「それで、学園長。ご了承いただけますか?」

「ふむ、今日は泊まろうと思っておったところじゃから問題はないじゃろう」

 というわけで思いの外あっさり承諾を得て、今日はマギルカと二人で学園にお泊まりと相成った。

 さっそくテュッテは準備とかでその部屋へと赴いており、私の送り迎えにきていた馬車の御者には両親にこのことを伝えてもらうことにした。マギルカの方も学園長が手を回している。

「ところでメアリィちゃんは学園のなにを調べようとしておるのじゃ?」

 レポートのテーマ探しのために深夜の学園を探索するという漠然とした説明しかしておらず、詳しい内容を伝えていなかったので学園長が少し興味を持ったようだ。

 まぁ、そんなんで良く了承したものだ。ここら辺の杜撰さが今のカオスな学園を築き上げたに違いない。

「えっと、学園でまことしやかに囁かれる『自己幻視の魔鏡』というものを調べようかと」

「ホ~……じ、まっ、ゲホッゲホッ」

 私の台詞に一呼吸置いてなぜか驚きむせる学園長。そんなに驚くような話だったのだろうか。

「大丈夫ですか?」

「あぁ~、うん、大丈夫じゃ、問題ない。そ、そうじゃったか、随分と古い噂話を持ち出したのう」

「学園長もご存じなのですか?」

「ん、まぁ、噂程度にはのう」

 そう言ってなぜか学園長は私から視線を逸らす。

(怪しい……なんかよく分からないが怪しい……)

 私は訝しげな顔で学園長を見ていると、彼は沈黙を破るようにゴホンと咳払いをした。

「あ~、儂は用事を思いだしたのでな。なにかあったら言っておくれ」

 そして、そそくさと出ていく学園長。

(なんか怪しいが、まぁいっか)

 挙動不審な学園長はよく見るので私は彼の行動を不問に付すことにした。

 そして、いよいよ学園に夜が訪れる。

「さぁ、探索開始よっ!」

「本当に行かれるのですか、お嬢様」

 テンション高めの私とは反対に、オロオロするテュッテ。未だにこういったホラー系には弱いみたいだ。完璧メイドにも弱点があると思うとなんかホッとする。

 月明かりで全く見えないというわけではないが、明かりが全く灯されていない学園は想像以上に静かで真っ暗だった。

(やばい、変に想像が膨らんで怖くなってきてしまったわ。夜の学校って、想像以上に怖いわね)

 アリス先輩のせいでこの手のものには耐性がついたかと思っていたが、かえっていろいろ想像できてしまい、怖いイメージが膨らんでいく。

 闇に吸い込まれそうな暗い通りを眺めながら、私はブルッと身震いし先ほどまでのテンションが急降下していくのを自覚した。

「えっと、テュッテの言っていた通りはこちらですね」

 ブルっている私とテュッテを置いて、一人全く動じずにスタスタと歩き始めるマギルカ。

「……マギルカは頼もしいわね」

「な、なんですの、突然」

 先を進むマギルカについて行きながら私が素直な感想を口にすると、驚いた彼女が振り返った。

「いや、マギルカって怖いものないんだなぁって」

「そんなことありませんわよ。私だって怖いモノの一つや二つありますわ。ただ、侯爵家の人間として、常日頃から平常心を……」

 マギルカが突然しゃべるのをやめて、私達の後ろを凝視している。

(やめてよ、その反応。振り返るの怖くなるじゃん)

 とはいえ、振り返らないわけにはいかず、私は恐る恐る後ろを見た。

 

 カサカサカサ……。

 

 そこにいたのは甲殻蟲モンスター。私で言うところのゴキもどきである。その幼体なのかサイズが非常にアレと酷似していたため、その気色悪さを増幅させていた。いろいろモンスターを見てきたが、やはりといっていいのかアレは生理的に受け付けない。

「「でたぁぁぁぁぁぁっ!」」

 予想外のモノの出現に私とマギルカが二人抱き合って、まるで幽霊を見たかのような反応をする。

「あ、甲殻蟲ですか。これだけ広いとやはり根絶は無理っぽいですね」

 私達とは打って変わって、今度はテュッテが全く動じない。

「ファ、ファイ、ファイ、ヤー」

「マギルカ様、ここで炎魔法を使われると周りに引火するかもしれません」

「テュ、テュテュテュ、テュッテ、どっかやって、どっかやってぇぇぇっ」

 幽霊とかオカルトめいたモノが対象ではないのだが、夜の学園で恐怖に震え上がる私とマギルカ。テンパる私は冷静なテュッテに向かって失礼にもシッシッと手を振り、追い払うジェスチャーをしてしまった。

「はい、では失礼して」

 テュッテはキョロキョロと周りを見て良い感じの木の棒を拾うと、おもむろに振り上げアレに近づいていく。

「せいっ」

 テュッテが躊躇いなく振り下ろした木の棒をアレはカササッと素早く避け、事もあろうにこちらへ向かってきた。

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」

 それを見たマギルカが涙目で絶叫し逃げだす。先ほどの冷静な彼女とは大違いだった。逃げるモノを追いかけるみたいな習性でもあるのかアレもマギルカに向かって走り出す。私はというと、壁に背中を張り付かせ、全力で気配を消してアレをやり過ごしていた。

「テュ、テュッテ。なんとかしてくださいぃぃぃっ」

 暗闇の中でマギルカの助けを呼ぶ声だけが聞こえてくる。

「え、で、でも、この先は真っ暗で……怖いです」

 アレには物怖じしないテュッテが暗闇の通りを見て震えていた。

(えぇぇぇい、苦手なモノって人それぞれなのねぇぇぇっ)

 二つともダメっぽい私が言う資格はないが、こうして、夜の学園探索、第一歩目からドタバタの私達であった。

 

「うぅぅ、夜の学園は恐ろしいですわ」

「そ、そうですね」

 一見マギルカとテュッテの会話は噛み合っていそうで、噛み合っていないような気がする。

 あれから二人とも私にひっついて離れないときたものだ。両手に花とは正にこのことなのだろうが、私もいろいろと怖くなってきたのでぜひ怯える側につきたい。

(ま、まぁ、変に想像したり不意打ちさえなければどうってことないわよ。平常心、平常心)

「とはいえ、随分荒れた感じよね」

 私は持っていたランタンで辺りを照らす。人通りが少ないせいか掃除も行き届いていない感じである。

 私は通りに面したところに扉を見つけて中に入ると、人が少ない理由がちょっとだけ分かった。

 その部屋は物置のようにいろんな備品が乱雑に置かれていた。よく見ると壊れているモノも見受けられる。処分を後回しにして、そのままになっているようだった。埃と蜘蛛の巣がひどい。

「なるほど、ここ一帯は不要物を置く場所に使われて授業に使われないから生徒も先生も通らなくなったのですね」

 マギルカも私と同じ結論に至ったみたいである。

「う~ん、こんな雑多な中にあるとは思いたくないわね。神秘感ゼロだもん」

 私はランタンをかざして部屋を見回す。幸か不幸か魔鏡が鎮座しているようには見えなかった。

「あの、お嬢様。あちらの奥、やたらと物が積み重なっていて違和感があるのですが。気のせいでしょうか?」

 お片づけのエキスパート、メイドのテュッテらしい視点で私には気がつかないことを指摘してくれる。

「私にはどれも同じでそんな違和感ないんだけど、テュッテが言うならちょっとどけてみようか」

 私はランタンをマギルカに預けて、そちらへ近づく。

「よいしょっと」

 そして、埃まみれの木箱をひょいっと持ち上げ積み重なったものを退けようとする私。

「あの、お嬢様。その箱、重くないですか?」

「ん? 全然重く……ちょっと手伝ってくれるかしら、テュッテ」

「はい」

 即座にテュッテが尋ねてきて、一瞬意図が分からなかったが、もし重い物だったらマギルカの前で平然と持ち上げていることになる。

 マギルカが周りを片づけながら、ふとこちらを見てきたので慌ててテュッテに手伝ってもらった。

(危ない、危ない)

 こうして、テュッテの指示の元、邪魔な物を退ける作業が始まり、十分も経たないうちに、その後ろから現れたのは大きな布に覆われたなにかであった。

「ね、ねぇ? これって魔鏡かしら?」

「布に全部覆われていて分かりませんが、形からしてそれっぽいですね」

 なんかいきなり当たりを引いてしまったっぽいのだが、こう神秘的な登場とかそういったモノがないので釈然としない。

 もしこれが例の魔鏡なら、普通に物置に置かれて普通に発見されたことになる。不思議もなにもあったもんじゃない。

「布、取ってみる?」

「ど、どうなんでしょう。もしこれが本物なら鏡に映ってしまったら……」

 私の案にマギルカが慎重になった。

「ちょ、ちょっとだけ。ちょっとめくってチラ見程度ならギリセーフじゃないかな?」

 なおも食い下がる往生際の悪い私。

「う~ん、それなら大丈夫、でしょうか」

 マギルカが若干疑問形ではあるが了承し、私は自分が鏡に映らないようにしながら、そぉ~っと被せてある布を少しだけ捲る。

 そして、ランタンの光にキラッと反射する部分が少し見えたので、慌てて布を戻した。

「どう思う?」

「鏡……でしたね」

「え? これが例の魔鏡なのでしょうか?」

 私の問いにマギルカが微妙な表情で答え、テュッテが驚く。

(ぐおぉぉぉ、見間違えじゃなかったか。えぇ~、これが魔鏡なの? なんか発見の仕方が普通すぎてやだ。もっと、こぉ~、月の光に照らされてフワァ~と出現するとかを期待してたのに)

 などと、心の中で駄々をこねる私。

「いえ、まだ決まった訳ではありませんわ。これはただの姿見で、たまたまここに保管されてあっただけかもしれませんし」

 マギルカもこれがそうだというのがお気に召さないらしく、ごもっともな可能性を示唆してきた。

「そ、それじゃあ……か、鏡……覗いちゃう?」

 私の悪魔の囁きに、一同ゴクリと唾を飲み込む。

「で、でも……」

「大丈夫。私だけ映ってみるから」

(私なら、最悪なにか起こっても大丈夫な気がするし)

「そ、そんなことメアリィ様一人にさせられませんわ」

 握っていた布を引っ張ろうとしたら、マギルカが慌てて私の手を掴んできた。

「ご一緒しますわ」

「……マギルカ」

「どうじゃっ、なにか見つかったかのう!」

「「わぁぁぁっ!」」

 二人で心温まる静寂空間を醸し出していたら、扉の方から空気を読まぬ第三者の大声が入り込んで、私達はハモって驚く。

「お、お祖父様っ、驚かせないでください!」

 扉の先にいたのは学園長だった。

「あぁ~、びっくりした」

「……お、お嬢様、マギルカ様……」

 ホッと胸を撫で下ろしているとテュッテが青い顔で私の手を指さしてくる。なにごとかと思い、握ったままの布を持ち上げた。

(あれ? 布が落ちてない?)

 私は驚いたときに、握っていた布を無意識にたぐり寄せてしまったのだ。

 慌てて鏡を見ると、こちらを見る私がいる。

 鏡には私とマギルカがしっかり映り込んでしまっていた。

「や、やばっ! 鏡に映っちゃっ……たぁ?」

 条件反射で顔を隠すように防御の態勢をとってしまう私。うん、意味ないね。

 そして、なにも起こらないことに気がつき、私は防御の態勢を解いていった。

「えっとぉ~、もしかして、これってただの鏡?」

「……のようですわね」

 肩すかしを食らった私とマギルカが唖然として立ち尽くす。

「ふむ、どうやらお目当ての物は見つからなかったようじゃな。まぁ、今夜はこのくらいにして戻ろうかのう」

「……そうですね。なんか疲れたわ」

 学園長に言われて脱力する私はトボトボと扉の方へと歩いていく。私につられて二人まで疲れた感じで歩き始めた。

「まぁ、その前にお前さん方はシャワーを浴びてきた方が良いぞ。埃まみれじゃわい」

 三人揃って部屋の外に出ると、学園長がそんなことを言ってくる。

 そして、初めて私達は自分達が埃まみれだということに気がつくのであった。

 

「あぁぁぁ~ぁ、ここまで盛り上げといて不発とは……ないわぁ~」

 私はシャワーを浴びながら壁に額をつけて項垂れる。

「まぁ、簡単に見つかるものなら噂話で終わらないですよね」

 隣からマギルカの声が聞こえてくる。なんか私と同じ位置から聞こえてくるのでもしかしたら私と同じポーズを取っているかもしれない。

 テュッテは私達の着替えを取りに学園長と一緒に時計塔へと戻っている。だが、学園長もなにか用があるらしく、暗い中テュッテ一人でここへ来なくてはいけないと知った私は、三人で戻って三人で来れば良いんじゃないかと案を出したが、彼女は大丈夫だと言って戻っていった。

(暗くて怖いの苦手なのに、大丈夫かな~テュッテ)

「きゃぁぁぁっ!」

 心配している矢先に近くでテュッテの悲鳴が聞こえる。私は考えるより先に声のした所へ駆けだしていた。

 シャワー室から出たすぐの廊下にテュッテが尻餅をついて、扉ではなく廊下の先を見つめている。

「どうしたの、テュッテ! 大丈夫?」

 私はテュッテに駆け寄り、声をかけた。

「……あ、あちらに……し、白い人影が……」

 私の声に反応してフルフルと震えながら廊下の先を指さすテュッテ。

「人影……ですか?」

 マギルカも駆けつけてきて、テュッテが指さす方を見る。私もそちらを見るが誰もいない。

「誰もいないわよ?」

 とその時、テュッテが指さしていた廊下の角からひょこっと誰かが顔を出した。

「「「っ!」」」

「ど、どうしたのじゃ、悲鳴が聞こえたぞ」

 それは学園長だった。

 驚いた顔で近づいてくる学園長を見て、息を止め緊張していた私はハァ~と息を吐き、緊張を解く。二人も同じだったのか深く息を吐いていた。

「お、驚かさないでください、お祖父様」

「ん? なんじゃ」

「テュッテが学園長を幽霊かなにかと見間違えたんです」

 安堵しながら私とマギルカが学園長に説明する。

「……そ、うなのでしょうか。髪が長かった、ような……」

 小さな声でテュッテが呟く。

「テュッテ?」

「ふむ、驚かせてしまってすまんのう。まぁ、それはそれとして、ふむふむ、三人とも将来が期待できそうじゃなっ♪」

「え?」

 テュッテの言葉が気になり聞こうとしたが、それ以上に学園長の言葉が気になって、私はマジマジと見ている彼の視線をたどる。

「「「――――ッ!」」」

 私とマギルカが同時に自分達が裸で飛び出したことを自覚した。テュッテも尻餅をつきスカートが盛大に捲れ上がってあられもない姿になっているのに気がつく。

「「「いぃやあぁぁぁぁぁぁっ!」」」

 静かな夜の学園に私達の悲鳴が響き渡っていった。

 思わず学園長をグーで殴るところだったが、踏みとどまって逃げたその時の自分だけは誉めてやりたい。


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