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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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聖域に到着したのだが……

 私達は長い時間、延々と洞窟内を彷徨い歩いていた。

「ちょっとぉ~、まだ着かないの?」

 私的には体力的に問題はないのだが、いい加減歩くのに飽きてきたので前を行くシェリーに声をかける。

「ハッハッハッ、すまないね、もうすぐだと思うよ。なにぶん聖域はこの迷路のような洞窟で偶然見つけた場所なんだよ。これでも私達が知る限りでは最短距離を歩いているつもりなんだが」

 私の問いにシェリーが笑顔で答えてきた。

「……エルフは自然に従い洞窟内に新たな道を作るようなことはしないし、その技術も乏しい。後、村に来て分かったが、エルフのベテラン技師達は既存の風習や技術に執着し新しいことに挑戦しようとしない」

 私が嘆息していると、後ろにいたフィフィが補足説明と最後に私としてはいらない情報をいれてきてちょっとばかりディスッてくる。

 何か新しい創作刺激を求めて付いてきたフィフィにとってはちょっとした愚痴みたいなものだろうか。

「ホウホウ、言うね~。旅に出て聞いているよ、確かキミの師匠であるギルツさんはなにかと新しいことに挑戦してはその資産と資源を台無しにして、挙げ句周辺を巻き込んで大事件を起こしたことが過去に数十件あるとかないとか。なんか、最近もそんなことしたって噂だし。なんでもかんでも新しいことをすれば良いという訳じゃないと思うな~」

 ニンマリといやらしい笑みを見せてシェリーが返すと、フィフィがプイッとその視線から顔を逸らした。

「……あのジジィ。帰ったらお仕置き……」

 そして、ボソッと恐ろしいことを呟くお狐様に、私はこれ以上は触れないでおくことにする。

 ふと、キョロキョロしているレイン様が目に入り私は首を傾げた。

「どうかしましたか? レイン様」

「あ、いえ、洞窟に入る前にシェリーさんはモンスターが普通に徘徊しているとおっしゃっていましたのに、こんなに歩いて一度も会いませんので……」

 シェリーのトラップ事件ですっかり忘れていたが、そういえば彼女がそんなことを言っていたことを今更ながらに思い出す私。

「そういえばそうだね、なんでだろう? まぁ、安全なら良いじゃないか。おっ、それよりも着いたよ。あの先だ」

 レイン様の疑問を軽く流したシェリーは、前方に大きな扉が見えてきたので、そちらを見る。

「扉……ですか。これはシェリーさん達が作ったのですか」

 大きな両開きの鉄の扉が私達の前に立ちはだかり、随分と凝った意匠の扉にレイン様が唖然としながらシェリーに聞いた。

「ふっふっふっ、凄いだろ。なんだか聖域の前って感じしない?」

「どちらかというとゲームで出てくるボス部屋の前って感じ」

「げーむ? ボス部屋?」

「いえ、なんでもありません」

 自慢げに私達の感想を求めてくるシェリーに私は素直な感想を述べてしまい、慌ててなかったことにする。

「……待った。向こうから妙な臭いがする」

 私達の後ろで扉を見ていたフィフィが嫌なことを言ってきた。獣族の嗅覚が何かを察知したのだろうか。

「よぉし、それじゃあ聖域へ突入だっ」

「……おい、よぉしじゃない」

 フィフィの忠告などなんのその。シェリーは元気良く扉を開けてしまう。ギギギッと重い軋み音が洞窟に広がり、扉の向こうが見えてきた。

 その奥には薄く光る綺麗な地底湖が広がっており、そして、その中央に何やら巨大な生物がいることに気が付く。

「キングッ、おっとっ」

 相手のフォルムを見た時の衝撃で私は思わず叫んでしまい、慌てて自分で自分の口を押さえた。だが、声が響いてしまったせいでその巨大生物は、「ん?」とこちらを見、そして私達と目が合ってしまう。

(やっぱりあれはボス部屋の扉だったのねぇぇぇっ!)

 互いが呆然と見つめ合う中、私一人心の中で悶絶する。

『いやぁ~ん、エッチィィィッ!』

 そして、巨大生物からのまさかのあり得ない台詞に私はキョトンとしたままそれを眺めていた。

「え、えぇ~と、スノー、『あれ』なに?」

 私は湖の中央で未だクネクネしている巨大生物を指さす。

『見たところヒュドラね。か~なり厄介な相手よ』

 私の問いにスノーはすぐに答えてきた。

(厄介か……ある意味厄介そうね)

 私はヒュドラの先程の台詞を思いだして面倒くさそうな性格してそうだなと直感的に思った。

 私は改めて相手を見る。

 ヒュドラ――。

 見たところ、一つの巨大な胴体に三つの首を持った巨大な蛇。前世のゲームや本とかにも出てくる結構有名なモンスターであり、こちらの世界では首の数は九だの百だの一だのと曖昧であった。

(授業では、切り落としたら増えるとか、強さによって数が増えるとか曖昧だったんだよねぇ。そして、この子は首が三つ……あぁ、ダメだわ。どう見てもキングなアレにしか見えない)

『ちょっとぉ、いくら同性同士だからって水浴び中、裸をガン見するなんてマジありえないっすけどぉ。あ~あ、これだから低脳種族はぁ』

(同性って、あの子女の子だったの。全然分からなかったわ)

「というか、裸って、あなた年がら年中その格好でしょうがぁぁぁっ!」

 ヒュドラの物言いに私はとりあえずツッコミを入れてみる。

『はあ? あんたバカっすか。何マジに受け止めてるんすかね。プププッ、そこは空気読めって感じっすよ』

 なんだろう、ノリツッコミをしたつもりが、マジで怒られバカにされてしまい、私の心がモヤッとする。

「お~い、メアリィちゃん。なんかさっきから一人でぶつくさしゃべっているけど気は確かかい?」

 後ろからシェリーに声をかけられ、その言葉に私は衝撃を受けて振り返った。

 シェリー達はすでに扉の向こうから顔を出し避難していた。部屋の中にはヒュドラ、私とテュッテ、スノーとリリィくらいしかいない。レイン様も中に入ろうとしているがフィフィに止められているのがチラチラ見えた。

 そして、私は恐る恐るテュッテを見つめると彼女は私が何を聞きたいのか察したらしく、悲しい顔をしながら首を横に振る。

(またこのパターンかぁぁぁっ!)

 ちょっと前からなんかそうじゃないかと私も感じていた。だって、言葉がスノーみたいに頭の中に響いてくるのだから。

 スノーと会話しすぎて私はこの現象に慣れてしまい、今の今まで気が付かなかったのだ。いや、気が付きたくなかったというのが正直な気持ちだろう。

 だが、幸いなことにここにいるフィフィのおかげで、また私しか会話ができないことをノイローゼと思う者はいなかった。今のところシェリーを除いてだが……。

 おそらく、そこら辺はフィフィが説明してくれてるだろうから、私は本題に入る。

「ちなみになんですけど、シェリーさん。あの湖にヒュドラがいると儀式の邪魔ですか?」

「邪魔といえば邪魔なんだけど、退いてくれと言ってはい、分かりましたとなるかね?」

 どうやらフィフィの説明を受けて、シェリーは私がこのヒュドラと会話できるというのをとりあえず理解してくれたみたいだった。

 そして、彼女の意見の通り、面倒事は極力避けたいところだが、話し合いが通じない相手の場合は拳で語る必要が出てくるだろう。

 そうなると厄介なのがそれを観戦している皆さんだ。

 幸いにして、皆扉の向こうに避難しているので、私は開いていた扉を閉めにかかる。

「メ、メアリィちゃん?」

「これから会話ができる私がヒュドラを説得してみます。皆さんはここで待っててください。いいですか? 私が開けるまでこの扉を開けて中を覗いてはいけませんよ」

 私は扉を閉めながらどっかの昔話に出てきそうな台詞を言う。

「えっとぉ、ちなみに覗いたらどうなるのかな?」

 好奇心を刺激されたのかシェリーが怖い物見たさに聞いてくるので、私はにっこりと笑った。

「連帯責任で全員お尻ペンペンです」

 そう言って私は扉を閉めるのであった。

『ちょっとぉ、本人を前に邪魔とか言わないでくれるっすかね。超気分悪いんすけどぉ』

 私達の会話を聞きながらも律儀に待っていたのか、湖の中央からこちらへ近づき、長い首を一つこちらに向けて相変わらず妙な話し方で抗議してくるヒュドラ。

「あ、ごめんなさいね。えっと、私はメアリィと言うの。でね、いきなりな話なんだけど、ここエルフの聖域なのよね。ここで儀式をしたいんだけど、ちょっと退いてもらえないかしら?」

 私もまた湖に近づきヒュドラを見上げながら、愛想笑いで一気に用件を伝えた。

『ハッ、やだっ』

 即答である。

 ヒュドラは鼻で笑って私の要求をバッサリ切り捨ててきたのだ。

『プププッ、あんた心底バカっすねっ。エルフの聖域、そんなん知るかっての。ここ結構お気にだから誰にも渡したくないっつうかぁ、人風情にお願いされてはい、そうですかって動くと思ってるところがおバカ過ぎて、マジうけるんすけどぉ、キャハハハハハハッ!』

 ケラケラと器用に三つの首をウネウネ動かしながらヒュドラが笑ってくる。

「いえ、そこを何とかっ」

『うっさい、ウザいんすよっ! 人の分際で私に指図なんてマジ有り得ないっつうのぉっ!』

 そう言うとヒュドラは問答無用で私に向かって口から毒液をぶっかけてきた。

「お嬢様っ!」

『メアリィッ!』

 私は毒液を頭から被りビチャビチャになる。だが、私のスキルによってそれは毒液ではなく、ただの唾液に成り下がっていたので私には何ともない。いや、なんともないというのは嘘になるだろう。なぜなら、私からしたらこの蛇野郎に唾を吐きかけられたということになるからだ。

(つ、唾吐きかけられたぁぁぁ、私なにもしてないのにペッて唾吐きかけられたぁぁぁぁぁぁっ!)

 そして、あまりのショックに私の中のモヤモヤ感がどんどん膨らんでいき、やがてピークに達するのであった。

『メ、メアリィ、大丈夫?』

 私を心配してくれるのか、スノーのオロオロした声が私にだけ届く。

「……大丈夫よ、スノー。心配しないで」

『良かったんだけど、なんで平気なの?』

『え? なんで平気なんすか? 訳わかんないんすけどぉ』

 私がベチャベチャになった髪を拭いながらスノーに返答していると、ヒュドラが驚愕して彼女と同じことを言っているが、あえてそれは無視することにする。

「それよりさぁ、スノー。私の記憶の中にね、ヒュドラとヘラクレスの戦いっていうのがあるのよ」

『へら? え、ちょっとなに言い出すの突然……』

 私の話についていけずにさらにオロオロしだすスノーを放っておいて私は話を進めていった。

「でね、ヒュドラって本体以外の首を飛ばしてもすぐに再生するらしいじゃない。だからね、首をはねたところを火で炙り再生できなくさせて、最後に本体の首をはねた後、埋めたとかそんな感じだったのを思い出したのよ。それってこの世界でも有効よね?」

 コテンと首を傾げ、私はうっすらと笑みを見せながらスノーに聞いてみる。

『怖い怖い怖いっ。話もそうだけど、メアリィの目が果てしなく怖いわよっ』

「ちょうどさぁ、私、ヴィクトリカの城でこっそり新しい魔法を覚えたのよぉ。なんか封印されてたっぽいんだけど、知らずに本を開けちゃってさぁ、そこに『フレイム・オブ・ピュリフィケーション・フロム・パーガトリー』ってなっがぁ~い名前の炎魔法があったのよ。アハハッ、私もそれ使ってヘラクレスみたいに焼いちゃおっかなぁ。ねぇスノー、どう思う?」

『メ、メメメ、メアリィ。そ、そそそ、それって、ろ、ろろろ、ろく、ろくかいきゅう……』

 ダークサイドのオーラを発し、瞳に光を失った私の笑顔を見たスノーとヒュドラが私の言葉の危険性にガクガクと震えだす。

「お、おじょ、お嬢様。お気を確かにっ」

 離れたところにいたテュッテが彼女にしがみつくリリィを抱きしめながら私に声をかけてきたところで、私の中にあったモヤモヤ感がスゥ~と消え始めていった。やはり、私にとってのストッパーはテュッテなのだろう。

「……なぁ~んちゃって。いやね~、冗談よ。なに震えてるのさ、スノーってば神獣のくせに」

 私はクスクスと笑いながらスノーを見る。私の言動にスノーとテュッテ、リリィがホッとし胸をなで下ろした。ついでにホッとしようとしたヒュドラを確認した私は笑顔をフッと消す。

「ただし、事と次第ではマジで実行するっ」

 私は低い声でそう言いながらヒュドラの方を横目で見てやった。

 私に睨まれたヒュドラは先ほどより高速に震えだし、うわぁ、ヒュドラってあんなに汗をかくのかぁと驚くほど、その体から滝のように汗が吹き出していく。

『で、でます! 退きます! だからそのへらなんとかっていうのはマジ勘弁してぇぇぇっ!』

 震えていたかと思ったらヒュドラはその首を盛んに縦に振って、私に懇願してくるのであった。

 

 

 

「皆さ~ん、おまたせしましぃ~、た?」

 私は扉を開け、向こうで待機していたレイン様達を見ようとしたがすぐに視界に入ったのはフィフィだけだった。

 私は首を傾げながらフィフィが床の方を見ているのに気がつき視線を下げる。

 床にはシェリーが俯せになり、レイン様によって後ろ手にロックされた状態で悶えている姿があった。

「ギブ、ギブ、ギブ! 腕が、腕がもげるぅぅぅっ! 見ないって、絶対覗かないから放してぇぇぇっ!」

 涙目で上に乗るレイン様に懇願し、空いた方の手で床をパンパン叩くシェリー。

 彼女の台詞でだいたい察しがつくと、私は深いため息を吐いた。

「……んっ、メアリィ様、本当に話をつけたのね。さすがは白銀の聖女。真の強者は戦わずしてかっ」

「それはもう良いから、準備してくれます? ついでにそこで取り押さえられている誰かさんも」

 私は感嘆している(?)フィフィの台詞を遮って、彼女達を作業へと促した。

 二人が準備をしている間、私はテュッテを後ろに、リリィを足下に、そしてスノーとヒュドラを左右に陣取らせて事の成り行きを見守っていた。

(なんだろう、この配置。端から見たら猛獣使いに見えるのかしら?)

「ところで、ヒュドラさんはどこから入ってきたの? 私達が入ってきた入り口を通ったのならエルフの誰かに気が付かれていたはずなんだけど」

『は、はいぃ、私はあちらから来たのでありますでございます』

 暇だったので隣でビクビクしながら待機しているヒュドラに声をかけると、彼女は意味不明な言葉使いで答え、頭で方向を示した。

 そちらを見ると落石か何かで崩れた大穴が見える。どうやら、この聖域は他の洞窟と繋がっていたようだった。

『こちらはなかなかよろしいであります場所でございますので、私、お気に入りになりましてございまして、そこに邪魔立てする者が現れたところなんやかんやで黙らせ、ついでに五月蠅いのも皆、黙らせたでございますです、はい』

 もう滅茶苦茶なヒュドラのしゃべり方に私は半分くらいしか頭に入ってこなかった。

「無理に丁寧に話そうとしなくて良いわよ。かえって理解し辛いから」

『え、マジでぇ。ラッキィ』

 私の許しが出た途端、先ほどの言葉使いに戻るヒュドラ。その落差が激しすぎて、私はその言葉使いがもうどうでもよくなってくる。

 話を解読すると、つまりここまでモンスターに出くわさなかったのはこのヒュドラのせいだったということになるのだろう。

(ん? というと、こっちに繋がったあっちの洞窟ももしかして同様に……)

「まさか、あっちの洞窟も殲滅したってことはないでしょうね?」

『うん。なんかぁ喧嘩売ってきたんでぇ、ムシャクシャしたからやったっす。皆マジ弱すぎで、楽勝だったすよぉ』

「へ~、そう。流行ってるのかしらね~、その言い訳」

 彼女の発言に自分も心当たりがあって私は曖昧な返事をする。にしても、このヒュドラ、ここら一帯のモンスターを倒してしまうなんて、かなり強いのだろうか。私にはとてもそうには見えないのだが、まぁ、私基準で考えるのはやめておこう。

『あ、でも一種だけ激可愛だったんで残しておいたっす。あと、マジでヤバいときの非常食も含めて。あいつら丸飲みできて結構美味しいんすよねぇ』

 ヒュドラがその味を思いだしたかのように舌をチロチロ出しながら語ると、その台詞に私は「ん?」となった。

「ちょっと待って。その一種ってもしかして大鼠じゃないでしょうね?」

『せぇぃかぁ~い』

「犯人はお前かぁぁぁぁぁぁっ!」

 驚いたのか目を見開きこちらに顔を寄せるヒュドラの頭を私は鷲掴みにして、怒鳴るのであった。

活動報告にも書きましたが、コミカライズ第15話が更新されました。書籍版第4巻も2019/4/27発売予定ですのでよろしくお願いいたします。

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