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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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やはり来ました、お約束

「っというわけで、決行日は今晩とする。良い感じに皆大鼠騒動に意識が向いているからね」

 翌朝、集まった皆にシェリーが伝える。なんだか悪いことを……いや、たぶん悪いことなんだろうけど、企む悪の組織よろしく部屋の中で密談する私達。

「姫、聖域まではこのシュバイツが案内しよう」

「なにを言ってるんだ、兄さん。この騒ぎに氏族長代理がいなくなったらダメだろう。兄さんは大人しくお留守番だ」

 当たり前のような顔でエスコート役を買って出たシュバイツに、これまた当たり前のような顔でシェリーがごもっともなことを言う。

「そ、そんな、バカなぁぁぁ」

 もの凄い驚愕そうな顔でシュバイツはその場に膝をついた。

(あ~、策士策に溺れるとはこのことね、ご愁傷様です)

「ウフフッ、でしたらエスコートはこのヴィクトリカが務めますわ」

 両手両膝を地に着け項垂れるシュバイツを勝ち誇った顔で眺めながらヴィクトリカが嬉しそうに言う。

「いや、キミもお留守番だよ。村の上層部、特に警備隊にはまだキミは警戒されているから、キミがついてくるとすぐにバレてしまう」

「がぁぁぁ~ん」

 余程ショックだったのかわざわざショックの擬音を口にしながらヴィクトリカはシュバイツと同じく、両手両膝を地に着け項垂れた。

(よし、いける! 今、この流れなら私もお留守番組になれるかも)

 私は聖域やら妖精やらと大層な場所に行くとなんかやらかしそうなので、ここで大人しくしていたかった。だから、この流れならたぶんシェリーは私もお留守番を言い渡すだろう。

「じ、じゃあ、私がレイン様についていこ~かな~」

「うん、そうだね。それが良い」

 チラチラとシェリーを見ながら恐縮と期待を込めて私が言うと、彼女はすんなり私の意見を受理した。

(なぜだぁぁぁぁぁぁっ!)

 自分から言ってしまった手前、今更撤回することはできず私は心の中で絶叫する。

「あの、私達はどうすれば?」

 私が一人心の中で悶絶しているとマギルカがシェリーに聞いてくる。

「悪いんだけどキミらもお留守番かな。一応聖域なんでね、部外者をゾロゾロと連れて行くわけにはいかないし」

「異議ありっ! 私は良くてなんでマギルカ達はダメなの。私も部外者でしょっ」

 頼りの皆がついてこれないと知って私は慌ててシェリーに抗議した。

「う~ん……保険、かなぁ~」

 私を見ながらシェリーが意味不明な理由を言ってきて、私は唖然として数瞬言葉を失う。

「……ほ、保険って?」

「ん? ああ、ヴィクトリカから聞いてるよ。キミ、あのボーン・ドラゴンをふんさっ」

「うわあぁぁぁぁぁぁっ! そうですか、保険ですか。じゃあ、しょうがないですねぇぇぇっ!」

 シェリーがすっごい笑顔で今の今まで隠し続けていたあのブラッドレイン城での戦い、というか私がやらかしてしまった出来事を暴露しようとしてきたので、私はお行儀悪いが声を上げ話を遮りこの話を強制終了させる。

「ここにいたのかっ、シュバイツッ!」

「ん、ああ、なんだ……ロイ」

「うわぁ、わ、わわわ、私達はまだなにもしていないぞ」

 扉が勢いよく開かれ、昨日とまるで同じような感じでロイが入ってくると、テンションだだ落ちのシュバイツと、昨日と全く同じ反応をするシェリーがいた。

「どうした、シュバイツ。なぜそんなに気落ちしている?」

「に、兄さんは放っといて。それで、どうしたんだい、ロイ」

 あまりの意気消沈っぷりにロイが訝しげな表情でシュバイツに聞いてくると、シェリーが彼の代わりに話を進めていった。

「ああ、そうだった。昨日から大鼠の群れを注視し、その群れを見つけた者がいてな。そいつに案内されて行ってみたら……メアリィ」

「ふぁいっ!」

 いきなり私の方を見てロイが声をかけてくるので私は驚くあまり返事の声が上擦る。

「お前の言う通りかもしれない」

 そして、ロイは自分が目にした事実を私達に話した。

 彼の話によればこの村からかなり離れた場所にある洞窟に大鼠の巣があったそうだ。洞窟を入り口付近から観察しただけでももの凄い数の大鼠が存在していたという。今、外にいる大鼠はおそらくそこから溢れ出始めた者達だろうということだった。

「メアリィ様の考え通りでしたね。さすがです」

 ロイの話を聞きながら冷や汗ダラダラの私に向かってサフィナが尊敬の眼差しを向けてきた。

「……やはりエリザベス様が目をつけるだけのことはある」

 さらに、フィフィまでそんなことを言ってくるので私はどうしたものかと困り果ててしまう。

「う、うん、まぁ、皆。私のことはどっかへ置いておいて、もっと重要な話をしましょうね」

 私は空気の箱を持ち上げ横へ置くジェスチャーをしながら、軽率な発言をした私をうやむやにしようと試みる。

「くっくっくっ、大鼠の大群なんて私にとっては些末なもの。お留守番の腹いせに殲滅してあげましょう」

「ん? 留守番とは何のことだ?」

 血に飢えた獣のようにニヤリと笑みを見せるヴィクトリカがポロッと零した言葉にロイが聞き返してくる。

「あ~、この子今日は満月だから変なテンションになってるんだよ。ソッとしておいてあげてくれ」

「そ、そうなのか」

 シェリーのフォローにロイが少し引き気味に了承する。

「ちょ、だぁ~れが変ですって。大体、あなたが私を留守番っ」

「ヴィクトリカ、ステイ、ステイよ」

 せっかくのフォローを台無しにするかのようにヴィクトリカが何かを言おうとしたところで私が押さえて黙らせた。彼女のことだ、ペラペラしゃべらすとうっかり計画のことを口走りそうで怖い。

 ヴィクトリカも散々私に日光浴の刑をさせられているせいか、私が押さえると途端大人しくなるようになった。

(うん、嬉しいやら悲しいやら、複雑な気分だわぁ~)

「え~、じゃあまぁ~、ロイを中心に狩りの準備を整えてくれぇ~。そんでなんか良い感じに大鼠達をどうこうしてくれぇ~、よろしくぅ~」

 ものすっごい雑な指示を飛ばしてくる氏族長代理様にロイを含めて私達が半眼になって見つめた。

 完全にやる気を失ったシュバイツは部屋にあった机に突っ伏して手をヒラヒラさせて動こうとしない。

「どうした、シュバイツ! しっかりしろっ」

「しっかりしろだとっ! お前に留守番の辛さが分かるかぁぁぁっ!」

「何を言ってるんだ、きさまはっ!」

 だらけきったシュバイツを起きあがらせ怒鳴るロイにシュバイツも負けじと怒鳴り返す。私としてはロイの気持ちは分かるがシュバイツの気持ちは分かりたくもないのが正直な感想だった。

 ふと、シェリーがレイン様に近づき何かを耳打ちしている光景が目に入る。

「えっ、それを私がやるんですか?」

「そう、お願い」

 何を聞いたのか驚き小声でシェリーに言うレイン様に彼女は拝むように手を合わせている。

(シェリーさんってば、レイン様になにさせる気?)

「シュバイツ様ッ」

 一度深呼吸をしたレイン様が一歩前に踏み出し、シュバイツを見据えると、両手を握り祈るようなポーズで彼を見上げる。その期待に潤わす瞳にシュバイツは釘付けになった。

「この村の危機を救えるのは貴方だけです。私に貴方の勇姿をお見せくださいっ」

「はい、喜んでっ!」

(ここは居酒屋かぁ~い……まぁ、行ったことないけど)

 おそらくシェリーに言われたのだろうレイン様渾身のおねだりに、俄然やる気を出すシュバイツの返事を私は心の中でツッコムのであった。

「さぁ、いくぞ、ロイッ! 何をボーとしている、私に続けぇぇぇっ!」

 そう言って先ほどまでのダラダラ状態が嘘のようにキビキビとした態度でシュバイツは部屋を出ていき、数瞬ポカ~ンとしていたロイもハッと我に返ってシュバイツを追いかけ出ていった。

 それを黙って見送る私達。

「さて、ヴィクトリカ」

「は、はい、お姉様っ」

 先ほどまでの光景に一人嫉妬心をメラメラ燃え上がらせ歯噛みするヴィクトリカに向かってレイン様が毅然とした態度で声をかけてくる。

 その後ろに隠れるようにシェリーがいて、何かを耳打ちしているのが私からは丸見えなのだが……。

「ダメな兄、じゃなくて、シュバイツ様を焚きつけましたが本当はあなただけが頼りです。ヴィクトリカ、お利口なあなたならこの意味が分かりますよね」

「お、おね、おねえ、さま」

 うっすらと笑みを浮かべてレイン様が硬直したヴィクトリカの頬を優しく撫でた。

「私の期待に応えてくれますか? 私の可愛いヴィクトリカ」

「はい、喜んでっ!」

(お前も居酒屋かぁ~い)

 頬を紅潮させ嬉々して返事をするヴィクトリカに私は再び心の中でツッコミを入れる。

 そして、シュバイツ同様テンションマックスで部屋を飛び出していくヴィクトリカを私達は静かに見送るのであった。

「はい、オッケェ~。いや~、名演技だったよ、ありがとね、レインちゃん」

「はぁ~、恥ずかしかったです」

 出ていった者達の気配が感じとれなくなったのか、シェリーがレイン様を誉め、感謝する。

 二人の間でなにがあったのか見ていればおおよその見当がつくので、私はあえてシェリーに聞かないでおく。まぁ、上手くいったのだから良しとしようではないか。

「さぁ~て、こちらもさっそく動くぞぉ。皆、手伝ってくれ」

「おぉ~!」

 なんだか楽しそうなシェリーが一人テンションをあげ、オ~と拳を振り上げるのに釣られて、ザッハが拳を振り上げる。それを見て残りの我々は恥ずかしがりながらも小さく拳をあげて「お~」と小声で呟くのであった。

 

 

 

「……で、なぜ私がアシスタントをしなくてはいけない」

 不服そうなのだが無表情なのでよく分からないフィフィが用意されている道具類を確認しながらシェリーに文句を言っている。

「まぁまぁ、良いじゃないか。これも勉強のうちだと思ってさ。もしかしたらこれをきっかけにエルフの魔工技術に魅入られるかもしれないよ」

「ハ・ハ・ハ……それはない」

 シェリーのお誘いを棒読みの笑いで返すフィフィ。どうにもこのエルフさんと狐さんは反りが合わないみたいだ。

 私から見ると同じ部活動をする女の子達で、片や直感的お気軽な子、片や理論的でお堅い子という感じでアニメとかならなんやかんやで結局イチャイチャしそうな展開なのだが。

「ハッ! まさか、フィフィさんはツンデレ要素を持っているのでは?」

「お嬢様、また一人で暴走しないでください」

 私が思わず考えていたことを口にしてしまい、それを耳にしたフィフィが何のことか分からずこちらを見て首を傾げていた。そして、私の後ろで静かにツッコミを入れるテュッテがいる。

「皆さん、お気をつけて」

「マギルカ達も何かあったら上手く誤魔化しておいてね」

 私はテュッテのツッコミによって妄想を切り上げ、心配そうに声をかけるマギルカに答えた。

「さて、準備はできた。日が暮れる前に聖域へ向かうよ」

「シェリーさん、声が大きいです」

 仁王立ちで私達に声をかけるシェリーの声量は確かに大きく、隠すつもりがないみたいに思える。それをレイン様が指摘すると、シェリーは大丈夫大丈夫とお気楽そうに返していた。

(この人に任せて本当に大丈夫なのかしら)

 ここにきて一抹の不安を抱きながらも、私達は人知れず出発する。

 そして、私は荷物を運ぶためムンズッと白くて太い尻尾を掴んだ。

『いやだぁ~、メアリィに付いていくと禄なことがないものぉ~。私達はここにいるぅ~』

 私にズルズルと荷物のごとく引きずられていくスノーの悲鳴が聞こえるが私にしか聞こえないので周りは静かなものだ。

「あきらめなさい、スノー。リリィは喜び勇んでレイン様に付いていってるのよ。お姉ちゃんが行かなくてどうするの?」

『うぐっ!』

 私の指摘に痛いところをつかれたのか、スノーが渋々といった感じで抵抗をやめ普通に歩きだした。

「あの、今更ですがシェリー様。スノー様が付いていって私達、目立ちませんか?」

「あ~、大丈夫大丈夫。私達は神獣様のすることを尊重し敬ってるから、彼女を注視したり、行動に干渉したりしないの。まぁ、簡単に言えば空気扱いね」

『こぉらぁぁぁっ、言い方ぁぁぁっ!』

 レイン様の心配事にシェリーがあっけらかんと答えると、その答えにスノーが憤慨する。が、それは空しいことに私にしか聞こえていなかったりする。

 こうして、私達は人知れず村を出て、聖域を目指すのであった。

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