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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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決断の時

 村に戻るとまるで皆の姫様のようにエルフ達がレイン様に笑顔で声をかけてくる。だが、私を見てちょっと尻込みするので誤解を解いていくのが大変だ。

(あぁ、笑顔の作りすぎで表情が戻らなくなりそう)

 私が頬をグリグリとマッサージしながら表情を戻していると、レイン様が心配そうに私を見てくる。

「ヴィクトリカさんへの警戒心を解くためとはいえ、あなたがその警戒心を代わりに背負うなんて……」

「えっ? いえいえいえいえいえ。そんな大層な覚悟で行ったわけではなりませんから。つい、勢いですよ、勢いで」

 私がうっかりやらかしただけなのになんだかとても自己犠牲的な覚悟で行ったモノだと勘違いされ、私は全力でそれを否定した。

「しかしっ」

「も、もう良いじゃないですか、その話は。ヴィクトリカも受け入れられ、皆が笑顔で暮らせているのですから」

 なおも食い下がるレイン様に、私は強引にその話を終わらせようとする。このパターンは私が望まぬケースになりがちなので早々に終わらせたいというのが素直な気持ちであった。

「皆が笑顔……」

 私の台詞になにか引っかかったのか、レイン様は少し考える素振りを見せた。

「……レイン様」

「フフッ、あなたは予期せぬ所で私の背中を押してくれますね。さすがはメアリィさんです」

 一人何かを納得したように微笑んだと思うとレイン様は私を誉め、清々しい顔で歩き始めた。

 私は言い訳していたポーズのまま固まり、視線だけレイン様を追う。

「あれ? 私、またなんかしたの?」

「……さすが、お嬢様です」

 私の独り言にテュッテがそう答えて、レイン様の後に続いていった。

「あぁぁぁっもぉぉぉっ! なんか知らないけど、私のバカァァァッ!」

『うおぅっ! ちょっと、いきなりモフモフするのはやめてぇ~』

 なんだか釈然としない私は隣にいたスノーに抱きつき、顔を埋めてグリグリとそのモフ味を堪能し、気持ちを落ち着かせるのであった。

 

 

 

「シェリーさん、私は妖精と交渉します」

 シェリーの工房へ行き、彼女に会うなりレイン様は堂々と決意表明する。

「うむ、そうか。キミならそういっ、ぐっ」

「いけませんわ、お姉様。危険ですっ!」

 レイン様の言葉を聞いてシェリーが笑顔でそれに応えようとすると、横から押しのけられてヴィクトリカがレイン様に詰め寄った。

「危険は承知です。ですが、私は決めました。変えるつもりはありません」

 詰め寄るヴィクトリカの視線を逸らすことなく見つめ返すレイン様に、ヴィクトリカの体がフルフルと震えている。

(あ~、怒ってるのかな~、心配してるのかな~、思い通りにならなくて憤っているのかな~。まぁ、とにかくヒステリックになる前に止めないといけないわね。最悪、また日光浴の刑に)

 私は震えるヴィクトリカにジリジリと寄っていき、いつでも捕まえられる距離まで来て、彼女の表情を伺った。

「あぁぁぁ~、凛とした態度、頑なな意志を伝える瞳、お姉様す・て・きっ、ゾクゾクしますわぁぁぁあああ」

 そこにはうっとりして打ち震えるヴィクトリカがいて私は呆れたようにガックリと脱力する。

「姫、私は貴女の決断に従おう。私はいつだって貴女の味方あぁうっ」

「邪魔しないでくれます、この腐れエルフがぁぁぁっ! 今は私とお姉様、二人だけの一時なのですわよっ!」

 レイン様とヴィクトリカの間にサラリと割り込んで、彼女の両手を包み込みにこやかに言うシュバイツ。だが、その決め台詞も最後まで言わせてもらえず、ヴィクトリカに引き離されていた。

 レイン様が決断しシリアスな展開になるはずが、なぜかワイワイガヤガヤと騒がしくなって、場が締まらない我々であった。

「はいはい、とにかくだ。レインちゃんがそう決めたのなら準備をしないとね」

 騒がしくなった場を静めるため、パンパンと手を叩きシェリーが話を進めていく。

「ならば、我が氏族が代々守ってきた聖域を使おう。あそこなら妖精との交渉もしやすい」

 シェリーの話にシュバイツが乗り、なんだかとんでもない場所を提供しようとしてくる。

(自分達の聖域に余所者が入って良いのかしら?)

「良いのですか? 聖域だなんて」

「貴女のためなら、私は村の皆を敵に回しても構わっふごっ」

 私と同じことを考えていたレイン様が恐縮そうに訪ねると、その手を握りしめながら爽やかな笑顔で格好良いことを言うシュバイツ。まぁ、最後はヴィクトリカの回し蹴りを受けて決まらなかったが……。

(ふと思ったんだけど、氏族長代理に対してこの仕打ちは果たして大丈夫なのかしら? 心配になってきたわ)

 気になってシェリーの方を見たが、彼女は吹っ飛ぶ氏族長代理様を見ながら腹を抱えて爆笑していた。

(うん、大丈夫そうね)

 私はそう勝手に結論づけてこの議題を終了させる。

「まぁ~、兄さんが言う通り聖域を使うのはレインちゃんの負担が軽くなって良いと思うよ」

 笑いすぎて涙目になっていたシェリーは涙を拭きながらレイン様にシュバイツの案を勧めてくる。

「しかし兄さん。氏族長代理の判断だけで聖域を使わせてもらえるわけじゃないよね。氏族長しかり、その他お偉い方にも許可を得なくちゃいけないよ。あの頑固ジジィババァどもに……」

 何を思いだしたのか心底面倒くさそうな顔でシェリーが言ってきた。

「あいつら昔、私が旅に出たいって言ってるのになぁ~かなか許可出さなかったんだよね。ほんと、あったま堅いったらありゃしない」

 しまいには一人ブツブツと愚痴めいたことを言い始めるシェリー。

 氏族長はいわばシェリーの父だろうし、村の偉い人達に対して『あいつら』呼ばわりとは、いろいろあったのだろうか。なんだか先行き不安になってくる。

「フッ、良いことを教えてやろう、妹よ。バレなきゃセーフだっ」

 氏族長代理ともあろうお方とは思えぬお言葉に私は絶句した。

「……なるほど、その手があったか」

 そして、それにポンッと手を打ち同意するその妹。

「となると、行動は早い方が良いね」

「そうだな、しかもこちらに目がいかないような事件があると、なお良い」

 私達を置いてきぼりにしてエルフの兄妹がなんかとんでもないことを相談し始める。

 とその時、私達がいる部屋の扉が勢いよく開かれた。

「ここにいたのか、シュバイツッ!」

 入ってきたのはロイであった。

「ど、どどど、どうした、ロイッ!」

「わ、わわわ、私達はまだ何もしていないぞ」

 ロイの登場になぜか挙動不審になる兄妹を一瞬訝しげに見るロイであったが、自分がここに来た理由を思いだしたのかすぐに真顔になった。

「大変だ、シュバイツ! 森に異変が起こっているっ!」

 なんだか一大事のような雰囲気を醸し出すロイを見て、私は緊張し固唾を呑んでシュバイツ達を見ると、この兄妹ときたらニヤリと悪い笑みを見せるのであった。

「どうした、シュバイツ。なぜ、ニヤケる?」

「え、あ、いや、天は我に味方した……じゃなくて、詳しく話を聞こうか」

 シュバイツの反応に疑問を持ったロイが聞くと、彼は思っていることをうっかり吐露しそうになり、隣にいたシェリーに肘で小突かれ話を変える。

「……ここ最近、やたらと大鼠に遭遇する者達が増えていただろう」

 なんだか釈然としない様子を見せていたロイだがそんなことを気にしている場合ではないと気がつき、報告を始めた。

(くっ、やっぱりなんかフラグっぽいのが建ってしまったわね)

「あ~、そう言われるとそうだな。まぁ、大鼠の一匹や二匹、脅威にもなるまい」

「それが一匹や二匹だったらな」

 あまり問題視していないシュバイツに対してロイの方は深刻な表情をしている。

「どういうことだ?」

「今日、狩りに出かけた者達が大鼠の群れに遭遇したと報告を受け、加勢に行ったのだが……フォレスト・ボアが大鼠の大群に襲われていた」

「バカなっ! あの巨体な猪が鼠ごときに捕食されたというのか?」

 ロイの報告を聞いてシュバイツが信じられないといった顔で声を大きくする。

「ああ、あの巨体を呑み込むほどの数がそこにいたんだ。少なくとも五十匹はいた。しかも、その大鼠は俺達が今まで遭遇していた奴らより一回りも大きかったぞ」

「「「…………」」」

 ロイの報告が終わったのか、部屋に沈黙が訪れる。

「もしかしてそれって、所謂スタンピードっていうやつかしら?」

 私はマンガやアニメでよく出てくるモンスターが異常に増えるこういった兆しのお決まりなパターンを思いだして言ってみた。すると、皆が驚いた顔で私を見てくる。

「あ、ごめんなさい。今のは聞かなかったことにっ」

 あまりに皆が驚いた顔をするので、余計なことを言ってしまったと私は気がつき、先の発言はなかったことにする。

「大鼠がか……この森の中でも常に捕食される側に入るモンスターがスタンピードを起こすほど数を増やしたというのか?」

 私の発言はなかったことにして欲しかったのに、私の気持ちを察せないロイが私の案に疑問を持ちながらも乗っかってくる。

(ぐぬぬぬ、この男はまたしても余計なことを~)

「可能性がないというわけではないけどかなり低いね。にしても、スタンピードかぁ、よくこんな少ない情報の中でその結論に至ったね、メアリィちゃん。もしこれが正解だったらすごい洞察力だよ」

「ふぇ?」

 私がロイの行動に憤りを感じているとシェリーが話を進めた挙げ句、私を持ち上げてきた。

「……それは当然のこと。メアリィ様はあのエリザベス様から高く評価されている」

 ここでまさかのフィフィによる援護射撃にエルフ一同が「お~、あの氷血の魔女に」と感嘆の声を上げた。ヴィクトリカだけ歯噛みしてこちらを睨んできているが、彼女はスルーしておこう。

「ちょ、フィフィさん、変なこと言わないで」

「……事実。メアリィ様のおかげでレリレックス王国は危機を脱しっ、んぐっ」

 さらに畳みかけてくるこのお狐様を黙らせるべく私は彼女の口を塞いだ。

「あははは、すみません、話の腰を折ってしまって。ささ、私の発言は忘れて話を進めましょう」

「……まさかとは思うがスタンピードの可能性を視野に入れて奴らの巣を探しだし、調べた方が良さそうだな、シュバイツ」

(ま、またしてもこの男はぁ~)

 せっかくフィフィを黙らせ、私の発言をうやむやにしようとしたのにまたしてもロイが私の気持ちを察することなく話を継続させてきた。

「ふむ、そうだな。すまないがその線で少し調べてくれないか。後、外に出る者にも注意を促しておいてくれ」

「ああ、分かった」

 シュバイツの決断にロイは頷くとすぐさま行動すべく部屋を後にする。

「フフフ、さすがはメアリィちゃん。なかなかの策士だね~」

 一同がロイを見送った後、ニヤニヤしてシェリーが私を見てきた。

「へっ? なんのことですか」

 シェリーがいきなり何を言いだしたのか理解できず私は首を傾げる。

「とぼけるな。姫を聖域へこっそり連れていけるように小さな出来事をさも大きくさせて注目させたのだろう?」

 さらにシュバイツまでもが私におかしなことを聞いてきた。兄妹揃ってのまさかの勘違いに私は返答に焦る。

(えぇぇぇっ! どうする、どうするぅぅぅっ! どう答えたらいいのぉぉぉっ、教えて神様ぁぁぁっ!)

 私は繰り返される運命の選択に迫られ、パニックを起こしていた。今のところ、その運命を変えられた例しがない。

「……あははは」

 そして、私は新たなる選択肢、笑って誤魔化すを発動させてみるのであった。

「……お嬢様。それは暗に肯定しているようなものですよ」

「えっ……」

 私の気持ちを察することのできるテュッテがそっと耳打ちしてきて、私は笑顔を引きつらせたまま周りを見てみると、皆何か納得したような顔をしているではないか。

 私はまたしても運命を変えられず、精神的ダメージを受け、心の中で打ちひしがれる。

「……仮に本当にスタンピードだったら早期発見できる。そうでなかったとしても鼠退治に皆が注目してこちらは行動しやすくなる。どちらに転んでも問題なし。あの瞬間にそこまで考えるとは、さすがメアリィ様」

 そして、打ちひしがれる私に追い打ちをかけるようにフィフィがそう締めくくるのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] イベント遭遇率も評価もどんあものにも負けない加護でしょうか。
[一言] メアリィ様の評価が天にも昇る勢い( ̄▽ ̄)
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