シェリーに会い、そして……
しばらく森を歩いていると、視界が開け人工建築物らしきものが見えてくる。
どうやって建築しているのか分からないが、それは正に森と一体化したような作りで太い木々の上、下、もしかすると中にまで居住スペースがあるように見えた。
「これがエルフの村……」
私は皆と一緒におのぼりさんのように上を見上げてその圧巻な風景に呆けている。
「……要所要所に外には伝わっていない技術が使われている。これは興味深い」
一人だけ違う視点でジロジロといろんな所を見ているフィフィがこれまた問題行動を起こさないかとふと思い、感動的な場面が途端ハラハラドキドキ空間に変わってしまった。
「フィフィさん、そういうのは後に……」
「……分解したい」
「待って待って、勝手に人様の物を分解しようとしないでっ!」
言ったそばから問題発言をぼそりと言うフィフィに待ったをかけると、フィフィは無表情のままこちらを見てくる。その心情はフィフィの表情からでは窺いしれないのでなんとも言えないが、とにかく彼女が常識人であることを祈るしかない。
「くぉら、この腐れエルフっ! シレッと神獣から降りるお姉様に手を貸さないでくれますっ! それは私の役目ですわっ!」
「ハハハッ、こういうのは早いもの勝ちだ。遠慮している方が悪い、覚えておくんだな」
「あなたは慎みってものを習いなさい。いえ、習う必要はありませんわ、今この場で灰にしてくれる」
(あぁぁぁぁあ~)
私がフィフィの方を見ていたら、別の場所でなんだか問題が発生している模様に私は思わず顔を両手で覆って悶えてしまう。
「マギルカ。悪いんだけど、フィフィさんが変なことしないように見張ってて。私はあのバカを黙らせてくるっ」
信頼と常識を兼ね揃えたマギルカにこの場を任せて、私はヴィクトリカとシュバイツに挟まれ、奪い合いの対象にされているレイン様を救うべく近づく。
レイン様は先ほどヴィクトリカを泣かせてしまいそうになったせいか、強く出れなくなっているみたいだった。ここに来るまでにレイン様は自分の現状を王子ということだけ伏せて説明したのだが、この二人、全く信じていなかった。まぁ、完璧なお姫様を目の前にして私は男だって言われても信じられない気持ちは分からんでもないが……。
周りを見てみるとヴィクトリカの剣幕に集まった村の人達が彼女のことに気がつき、怯え始めている。また村に災いをまき散らすのではないかと警戒する者まで出てきていた。
「ヴィ~クトォ~リカァ~」
私はヴィクトリカの後ろから彼女の頭を鷲掴みにし、地の底から響いてくるような低く凄んだ声を出す。私に頭を捕まれ、ビクッと体を震わせたヴィクトリカはダラダラと冷や汗をかいていた。
「ちょっとあっちで私とお話ししましょうか、ヴィクトリカ♪」
私は凍える笑顔で彼女の頭を鷲掴んだまま、ズルズルと日差しが強いところへ引きずっていく。
「いえ、私は今忙しっ、んきゃぁぁぁっ! あっつぅぅぅぅぅぅっ!」
そして、ヴィクトリカが以前やらかしたボーン・ドラゴン一発芸事件で被害を受けた(主に精神的に)エルフの方々が見守る中、魔女の火炙りの刑、ならぬ、吸血鬼の日光浴の刑を執行するのであった。
「はい、ドラゴン召喚して皆さんに迷惑かけてごめんなさいは?」
「あっつ、あっつぅぅぅ! ごめんなさい、ごめんなさぁいぃぃぃっ!」
字面的には生優しい感じだが、それを見ていた人達は大抵ドン引きしながらもう止めてあげてとお願いしてくるくらい吸血鬼にとっては過酷なものである。もっとも、ハイブリッドなヴィクトリカだからこそできることであって、他の吸血鬼だとたぶん洒落になってないだろう。
「ぜ~は~、ぜ~は~、ア、アルディアの白い悪魔ですわ、白い悪魔がここにいますわ。悪いことをするとお仕置きに来るという伝説は本当だったのですね」
村の人達に許されて日陰に避難したヴィクトリカがプシュ~と全身から薄い煙を上げ、両手両膝を地につけて項垂れながら呟いている。
「あなたがやらかした罰だと思って受け入れなさい。後、白い悪魔言わない。あれは白銀の騎士様であって私のような一村娘ではないわ」
『いやいや、そんな残酷な刑を平気で執行するあなたなんて村娘の皮を被った悪魔よ、悪魔。現に皆ヴィクトリカよりあなたの方を怖がってるわよぉ~』
「えっ!」
呆れかえって言うスノーの言葉を聞いて私は慌てて周りを見渡すと、ビクッと体を震わせ、こちらを見ていた村のエルフ達が青い顔して慌てて目を逸らしたり、走り去っていったりしているではないか。
「う、うそでしょ。私はただの村娘のはずなのに……」
私は項垂れるヴィクトリカの横で同じように両手両膝を地につけ項垂れる。
「お嬢様があのような所業をポンポンするからいけないのです」
「……なんかムシャクシャしたから、つい」
「それ、ヴィクトリカ様がお嬢様の邪魔をしたときの理由と同じですよ。お二人は思考パターンまでそっくりですね」
「あぅっ!」
精神的ダメージを受けている私にテュッテの容赦ない言葉がグサッと突き刺さり、さらにダメージを受けるのであった。
「おや? ヴィクトリカが広場で日光浴の刑に処されていると聞いて駆けつけてみればもう終わってたのかい?」
その時、項垂れる私達に声をかけてきた女性エルフがいた。
「……シ、シェリー……私を助けに来てくれたのですか? さすがは友っ」
「いや、キミがそんな状況になるなんて滅多にないから、どんな感じに焦げていくのかぜひとも観察したくて見に来たんだけど。見れなかったのは残念だ」
話しかけてきたシェリーと呼ばれる女性エルフは、ヨロヨロと起き上がり喜びの表情を浮かべるヴィクトリカに対してすこぶる良い笑顔で身も蓋もないことを言ってのけた。
「あぁ、そういえばあなたはそういうお人でしたわねぇっ! がっかりですわぁっ!」
「と言われても、日光程度でどうこうなるようなキミじゃないだろ? 心配するだけ無駄じゃないか。それよりも希少な機会を有効に使わないと」
すでに完全復活を遂げたヴィクトリカがシェリーと呼ばれるエルフに詰め寄る。
(んっ? シェリーと呼ばれる……)
「って、シェリーさんっ!」
精神的ショックで、話しかけてきたエルフが目的の人だとやっと理解した私はガバッと起き上がり、彼女を見た。
エルフ特有のピンと先の尖った長い耳、森人を象徴するかのような薄黄緑色の髪は肩辺りで綺麗に切り揃えられ、エメラルドブルーの瞳が興味津々といった感じでヴィクトリカを眺めている。
「おや、シェリー。来ていたのか」
マジマジとシェリーを見ていた私の後ろから近づいてきたシュバイツが彼女に話しかけてくる。
「あれ? 兄さんこそ、結界の異常を調べにいったのではなかったのかい?」
「!」
結界の異常というワードで私の緊張が高まり、鼓動が激しくなった。村に迷惑かけたヴィクトリカに散々あんなことしておいて、いざ自分もっとなると、ヴィクトリカの仕返しが怖い。というか、そもそも誤魔化す自信がない。自然と、私は近くにいたテュッテに近づき身を隠そうとする。
「結界の方は一時的なものだったので老朽化が原因かもしれないな。大昔に作った物のままだからそろそろ修繕工事が必要かもしれない」
シュバイツの斜め上の見解のおかげで私がやらかした疑惑は回避され、私は人知れずホッと胸をなで下ろした。
「まぁ、そのおかげで私は運命の人に出会ったぞっ!」
「あ~、はいはい。それは何回目の運命なんだい。いい加減聞き飽きたんだけど」
興奮して言うシュバイツに対して興味がないというか、信じていない感じでシェリーが聞き流している。
(何回目? 今、何回目とか言わなかった?)
私はシェリーの言葉に一抹の不安を抱いた。もしかして、あのエルフ、単に惚れっぽいだけではないのだろうかと……。
「こちら、レイン姫だ。お前に会いに来たそうだぞ」
「ですから、姫ではぁ…………は、はじめまして、シェリー様。あなたに会えて光栄です」
シュバイツにさり気なく腰に手を回され、紹介されるレイン様はどうして良いのか一瞬困ったが、すべての問題を解決してくれる人を目の前にした今は、そんな些細なことを気にしている場合ではないと自覚し、そのまま話を続けていく。ちなみにレイン様の腰に回したシュバイツの手は即行でヴィクトリカに抓られ、離れている。
「堅苦しい挨拶はエルフには不要だよ。ふむ、レインちゃんか、ふむふむ」
紹介されたシェリーはレイン様をジロジロ観察し始めた。さすがは魔工技師、その探るような瞳はフィフィ同様すでにレイン様の身に起きたことのなにかしらを感じ取ったのだろうか。私は固唾を呑んでシェリーの次なる言葉を待つ。
「エルフの私でも美人だと見惚れてしまう人だね。兄さんにはもったいないよ」
うんうんと何を納得したのか知らないが魔工技師の瞳はどこにもなく、そのあさっての方向の言葉を聞いて私同様期待していたのかレイン様ががっくりと肩を落としていた。
「あの、横から口を出して申し訳ございませんがシェリー様。レイン様の額のサークレットに見覚えはございませんか?」
業を煮やしたのかマギルカが横槍を入れて強引に話を進める。
「サークレット?」
マギルカに言われて、シェリーはレイン様の額を見た。
「これは……」
さすがにもう気がついたのだろう。その真面目な表情に一同、再び固唾を呑んだ。
「ププッ、随分と稚拙なデザインのサークレットだね。誰だいこんな素人仕事した人は? ちゃんと人は選んだ方が良いよ」
「あなたが製作に関わったものでしょうがぁぁぁっ!」
口に手を当て笑いを堪えるシェリーにもうズッコケたい気分のところをグッと堪えて私は思わず言い返す。
「えっ、私が?」
心底驚いた表情を見るところ、とぼけているようには見えず本当に気がついていないみたいだ。
「はぁ~、いつものことですわ。シェリー、どうせ契約書を用意しているのでしょ、それを確かめたらどうです?」
私達がどういうことだと混乱している中、嘆息しながらヴィクトリカがシェリーにアドバイスらしきことを言う。
「あ、なるほど。では、申し訳ないが私の工房まできてくれないかな」
ヴィクトリカの言葉にポンッと手を打ち納得して、シェリーは私達を自分の工房へと案内するために歩き出した。
(あれ? 契約書を常に書くなんて忠実でお堅いエルフなんだなと感心していたけど。もしかして、単に忘れっぽいから……とか?)
シェリーの後をゾロゾロと付いていきながら、私は考えてはいけないことを考えるのであった。
「おお、あった、あった。あぁ~、はいはい、あぁ~これかぁ、懐かしいなぁ~」
シェリーの工房らしき家に案内され、思い思いの場所で待っていた私達に一枚の紙切れを持って感慨深げにシェリーが言う。
(なんだろう。シェリーさんってば私達よりちょっと年上の容姿をしているんだけど、おばあちゃんに見えてきた)
「あ~そうかそうか、あの俺様坊やは元気かい?」
なんかもう言い方が昔を懐かしむおばあちゃんにしか見えなくなってきて見た目とのギャップにモヤッするのでやめて欲しい。
「元気ではありますが、あのシェリーさん、単刀直入に言います。このサークレットを外してください」
「え? 外せないのかい?」
(あ、なんかデジャヴを感じる)
緊張した面持ちのレイン様の願いにあっけらかんとした顔でシェリーがどっかで聞いた台詞を言ってきた。そして、スチャッと眼鏡のような物を取り出すと、レイン様の額に光るサークレットを凝視する。さらに、聴診器のようなものまで取り出してペトッとサークレットに押し当て始めた。
(ここは技師の部屋だよね、診療所じゃないわよね?)
私は一部始終を見守りながら心の中で静かにツッコムのであった。
「ふむ……誠に残念だが、これは外せないね」
シェリーさんが出した機材を戻しながらそう告げると、フラッとレイン様が椅子から崩れ落ちそうになってマギルカが慌てて支える。
「あ、すまない、言葉が足らなかった。すぐには外せないと言いたかったんだ」
「……やはり外せないのは妖精の悪戯が原因?」
近くで見学していたフィフィがシェリー達の会話に加わってきた。
「おや、よく分かったね。もしかして同業者かい?」
「……同業者、ちょっと違う。私はフィフィ、魔族側の魔工技師」
「ああ、あの堅物側の技師だったのかい」
サラッと笑顔で言ったシェリーの言葉に無表情のフィフィだったが私は見た。その大きな耳がピクッと動いたことを。
(おや? もしかしてエルフ派と魔族派の技師って仲悪かったりするのかしら?)
どこの業界も派閥争いというものはある。まさか、魔工技師業界にもそういった派閥があるのだろうか。そういえば、フィフィもエルフ派のやることを邪道と言っていたことを私は思いだした。
「あの、すぐにはということは、外せる方法はあるのですか?」
あまりのショックだったのかまだ呆然と虚空を見るレイン様を介抱するのをサフィナとテュッテに任せてマギルカが二人の会話に割り込んできた。レイン様の方は本来なら言わなくてもヴィクトリカがやるはずなのだが、今彼女は別室で寝ている。日差しを浴びすぎて疲弊してしまったらしい。
「ん、ああ、フィフィちゃんが言ったように、妖精の悪戯が悪さをしていて今は外せないんだ」
エルフの長寿からしたらここにいる皆、子供のようなものなんだろうけど、ちゃん付けされたフィフィの耳がまたピクッと動いた。
(フィフィさん怒らせると怖いのよ。あぁ、もしかしてフィフィさん無表情だけど耳とか尻尾で表現しているかもしれないと分かったら超気になってハラハラするぅぅぅっ)
私が関係ないことで緊張しているところで、シェリーの説明が始まった。
それによれば、『妖精の悪戯』とは文字通り妖精が悪戯を起こした怪現象らしい。そもそも妖精はこの世界とは別の空間にあるとされる精霊界と呼ばれる世界の住人で、私達にははっきりと認識するのが困難な存在だ。
そして、その世界は私達がいる世界とはいろいろ法則が異なっていて、今回のような摩訶不思議な現象も起こせてしまうという。それを逆手にとって、困ったときは何でもありの妖精頼みがエルフの悪手だとフィフィが愚痴っていた。精霊や妖精と交流できるエルフだからこそできる反則技なのだが、全く未知のものなので暴走、制御不能など日常茶飯事だとシェリーは語る。
「つまり、このサークレットは今、暴走、制御不能状態と言うことですか? なぜ、そのようなことに?」
「いや~、ちょっとの間だけ男の子を女の子に変えて欲しいとお願いしただけなんだけどね。せっかく協力したのにその力を使わずに箱にしまわれてしまって気分を悪くしたらしいんだ。っで、何とか使わせようと語りかけていたら埋められてしまって、拗ねてしまった」
マギルカの質問にいや~、まいったまいったといった感じで空笑いしながらシェリーが答える。つまりジョン・オルディルの軽率な行動が妖精を怒らせ、現在レイン様に牙を向いているということになる。
「長い年月の間悶々と絶対使わせてやるぞと執念のようなものを募らせていたらキミが付けてくれたので、もう今までの鬱憤を晴らすかのようにくっつき続けているみたいだよ」
「どうにかして外せないでしょうか?」
ようやく復活して現状を理解したレイン様が恐る恐るシェリーに聞く。
「う~ん、私達は妖精達に協力を請うことはできるけど強制はできないんだ。だから向こうの気が晴れるまで変身させられ続けるというのが一番簡単な方法かな?」
「それはどのくらいでしょうか?」
「妖精は気分屋だからね。それこそ、閉じこめられていた年月分かもしれないし、それ以上かもしれない。ただ言えることは今すぐは無理。最初は鬱憤晴らしにくっついていたらしいんだけど、今は見ててとっても楽しいんだってさ。良かったね、妖精に気に入られて」
その言葉を聞いて、再びレイン様が椅子から崩れ落ちそうになった。閉じこめられていた年月というと単純に十年以上はある。妖精にとってその十年はとても短く感じるだろうが、私達人にとっては結構長い。
「……エルフの特注品は質の悪い物ばかりで困る。粗悪品の方がまだまし」
あんまりな展開に茫然自失している私達を見てボソッとフィフィがシェリーをディスりだした。
「おやおや、それを言うなら製作に時間とコストが掛かる割には扱える者を限定してしまい、結果誰も使えない物を製作するどこかの製作陣営なんて粗悪品以下だろぉ」
フィフィのつぶやきに長く尖った耳をピクッと動かし、シェリーが笑顔で返してくる。
笑顔と無表情の二人だが、私には見える。二人の間に火花が散り、後ろに竜と虎がにらみ合っている光景が。
(ん? この場合、フィフィさんは虎というより狐にした方が良いのかしら?)
「ほ、他に方法はないのですか?」
私がどうでも良いことを考え始めると、サフィナ達に支えられていたレイン様をチラチラと見ながらマギルカがシェリーに食い下がった。
「ん~、あまりお勧めしないけど直接交渉するっていうのがある」
「交渉……ですか。でも、先程シェリー様は妖精とお話しして現状を知ったのでは。それで外せないとなると」
シェリーの言葉にマギルカは自分の考えを伝える。
「あ、違う違う。交渉するのは私じゃない。キミがするんだよ、レインちゃん」
そう言ってシェリーはようやく再起動したレイン様を見るのであった。「わ、私がですか? ですが、私にはそのような能力は……」
「そうだね、通常人族が妖精と語り合うなんてそれこそ神か精霊に愛されし特別な者しかできない芸当だ。でも、私達エルフの力と技術でサポートすればできないわけではないよ」
「ではっ」
解決への光明が見え、レイン様が即決しようとすると、待ったをかけるようにシェリーが彼女に向かって手の平を見せる。
「さっきも言ったけどこれはお勧めできない。なぜならあまりに危険だからだ」
「危険……ですか」
妖精と会話するだけなのになぜ危険なのか今一ピンとこない私達サイドが首を傾げていると、シェリーは言葉を選んでいるのか返答に困っていた。
「……妖精は実体が曖昧、だから交渉するなら精神で繋がる。それは人にとってとても負荷が高く、精神崩壊する可能性がある。また、それを免れたとしても妖精によって無防備な精神が呑み込まれる可能性もある」
「……その通り、よく勉強しているね」
単刀直入に答えるフィフィに嘆息しながらシェリーが頷いた。
「見たところ、レインちゃんは簡単にその身を危険に晒せる立場の人じゃないよね。言っとくけど、この方法はエルフですら失敗する者もいる」
「……でも、長い時を待つよりは……」
シェリーに痛いところをつかれてレイン様が言い淀んだ。
「よ~く考えると良い。キミ達をこの村にしばらく滞在させてもらえるよう私から兄さんにお願いしておくから」
「……はい」
シェリーに会えばパパッと事件解決かと思ったのだが、ここにきてレイン様に試練が舞い込んできた。さすがにこればかりは私の力を持ってしてもどうすることもできないので、私達はただただ彼女の決断を待つしかなかった。