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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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森の中でエンカウント

『う~ん、複雑だわぁ~。本当なら美少年を背中に乗せて悦に入れるはずなのに、客観的に見ると美少女乗っけてるだけなのよね~』

 砦に到着し馬車から降りて森へと向かう私の頭の中にスノーのどうでも良い悩み声が響いてくる。

 というのも現在、スノーの背にレイン様が横座りで乗り、リリィはそのレイン様の膝の上にまったりしている状態であった。

 レイン様は自分だけというのは……と渋っていたが、万が一のとき、彼女だけでも即離脱できるようにとの計らいであることをマギルカに説得されて恐縮そうに腰掛けている。

(うん、格好が格好だしリリィまで膝にいるから、正に神獣に愛される黄金の姫って感じね~。私より絵になるわ~)

「メアリィさん、スノー様が何かおっしゃっているのですか? やはり私は降りた方が……」

 私がレイン様達をジッと見ているものだからレイン様が気を使って聞いてくる。

「いえいえ、レイン様を乗せて悦に入っているんですよ、このど変態しんっ」

『くぉらぁぁぁっ! 確かに悦に入るとは言ったけどど変態とは失敬なぁぁぁ。訂正しなさい、訂正っ』

 レイン様の方を見上げながら言う私の横に併走するスノーが鼻先をグリグリと私に押しつけてきて会話の邪魔をしてくる。

「ちょ、やめてよスノー、くすぐったいじゃない。ごめん、ごめんって、さっきのは失言だったわね。えっと、レイン様の馬になれて悦に入るどへんっ」

『悪化しとるわぁぁぁっ!』

 スノーはそう言って今度は私の頭をガジガジと甘噛みしてくる。ふっ、その程度でダメージを受ける柔な公爵令嬢ではないのだが、皆がギョッとしているのでスノーに謝ってやめてもらうことにした。

「そこの白銀の聖女、なにを遊んでいますの? 緊張感が足りませんわよ。ねぇ、お姉様ぁ~」

 日傘片手にレイン様の隣をフヨフヨと浮いているヴィクトリカが私の方を見ながら言ってきた。すごいと言うべきかずぼらと言うべきか、とにかく力の無駄使いを披露する最強のヴァンパイア様は、同意を求めるようにレイン様に寄っていくと膝の上で気持ち良さそうに撫でられていたリリィが頭を上げてヴィクトリカを見、ウゥ~と唸る。

 それに対してヴィクトリカもリリィを見ながら牙をむき出しにしてウゥ~と唸り声をあげた。

 リリィはレイン様の膝の上で撫でられるのがお気に入りになったらしくヴィクトリカに邪魔されたくないようだ。そして、くっつきたくてもリリィが邪魔でくっつけないヴィクトリカとの威嚇という名の攻防が続く。

「はい、そこの大人げないヴァンパイア、幼子に向かって威嚇しない。あと、白銀の聖女言うな。今の私は村娘メアリィ・レガリヤなんだからねっ」

「あの、お嬢様。レガリヤと名乗っている時点で村娘ではありませんよ」

 堂々とヴィクトリカに宣言する私の横で似た格好をしていたテュッテがこっそり耳打ちして指摘するので、私はウグッと言葉を詰まらせる。

「皆さん、森が見えてきました」

「うわぁ、すげぇ。ここからでも広大なのが分かるな」

 案内のため先頭を歩いていたサフィナの言葉に続いてザッハの驚きの声に私は前方を見るとそこは地平線を埋め尽くすかのような広大な緑林が広がっていた。これで、一部だというのならいにしえの森の全容は計り知れない広さである。その圧倒的スケールに私達は足を止め、しばらく唖然としていた。余談ではあるが、今まで護衛についてきてくれた人達はここからは野営し後方支援にまわる。ヴィクトリカが言うにはエルフの中には人を良く思っていない者も多く、大勢で押し掛けると問答無用で戦闘になりかねないらしい。まぁ、吸血鬼もいるし神獣もいるのでそこまで危険はないだろうし、自ら争いの火種を持っていくのもどうかということで皆、渋々といった感じで承伏してくれた。

「……ここから先はヴィクトリカさん頼みですので、よろしくお願いしますね」

「はい、お姉様。このヴィクトリカ・ブラッドレインにお任せくだ、あっつぅぅぅっ!」

 呆けてる私達を尻目に、レイン様に頼られ俄然張り切るヴィクトリカは器用にも空中で腰に手を当て胸を張り堂々と立った。おバカなのか日傘を下ろすというおまけ付きで……。結果、もろに日の光を浴びて、絶叫している。

(なんか心配になってきたわ。ちゃんと案内できるのかしら、あの子)

 私の心配を余所になんちゃってパーティは森へと入るため、再び歩き始めるのであった。

 

 

 

 日の光を遮るかのように空を埋め尽くす枝と葉。そのせいで所々差し込む光の帯が森全体の雰囲気を何となく幻想的にしている。さらに、見たことがないほどの太さと高さを誇る木々に取り囲まれ、自分が今どちらに向かって歩いているのか分からない状態だった。

(これがいにしえの森。確かに素人が入ってはいけない場所だわ)

 私は圧巻の風景を見上げながらも皆からはぐれないように注意する。ふと、サフィナが私達が通りやすいようにと枝や葉を切っているのが見えた。ついでに目印をつけているのかもしれない。

「サフィナは随分と慣れているのね」

 私の考えではこんな所に来たら一番ビクビクしてそうな彼女だったのに意外であった。

「はい、カルシャナ領は森に対しての防衛線でもあり、森の恩恵を多く受ける領土でもあります。なので、私もよく森に連れてかれました。嫌々でしたが……」

 最後はハハハッと空笑いで誤魔化すサフィナ。

「でも、今はそれが皆さんのお役に立てて、とても嬉しいです。えへへ」

 空笑いの後、ちょっぴり恥ずかしそうにモジモジしながらはにかむサフィナはとても可愛らしい。

「あぁぁぁん、もう、なんて可愛らしいのかしら。ねぇ、噛んで良い、ちょっとだけだから、ね、ちょっとだけだから」

 頬を紅潮させ先頭を歩いていたはずのヴィクトリカがサフィナにはぁはぁと息を荒げて迫ってくる。

「良いわけないでしょ、この変態吸血鬼! ちゃんと案内しなさい」

 迫るヴィクトリカからサフィナを守るように私はしっかりと彼女を抱きしめると、シッシッと手でこの変態吸血鬼を追い払った。

「くっくっくっ、村娘の分際でこの最古にして最強の吸血鬼、ヴィクトリカ・ブラッドレイン様に指図、あっつぅぅぅぅぅぅっ!」

 なんか知らないが偉そうにしているので、口上中に私はそっとヴィクトリカの日傘を傾けてやる。すると、彼女はちょうど森から差し込む日に当たって転げ回るのであった。

「……そんなことよりも」

「ちょっとぉぉぉっ! そんなこととか言わないでくれますっ!」

 フィフィの無情な言葉にヴィクトリカは転げ回るのをやめて彼女を見る。が、フィフィの方はそんなこと気にすることなく、というか表情が変わらないのでどう思っているのか全然分からないが周りを見ていた。

「……何かが近づいてくる」

 そして、フィフィは全く危機感のないトーンですんごいことを言ってきた。さすがは獣族の聴覚と嗅覚だ。皆も慌てて周りを注視する。

「このようなまだ浅い場所でモンスターでしょうか? 普段ならそんなことは……」

 サフィナが警戒しながら誰に聞いたわけでもなく呟いた。

「どうする、ただの獣かもしれないしやりすごすか?」

『囲まれてるわね、この臭いはモンスターよ』

 スノーも見なくても分かるのか周りを警戒する。リリィもウゥ~とレイン様の膝上で唸っていた。

「囲まれているみたいよ、相手はモンスターだって。皆気をつけて」

 ザッハの提案にスノーが答えたので私はそれを皆に伝える。

「くっくっくっ、モンスターがどれだけ束になってかかってこようともこの私、ヴィクトリカ・ブラッドレインの敵ではっ」

 悠然と日傘をクルクル回して皆より前に出ながら言うヴィクトリカに向かって草むらからガサッと何かが飛びかかってきた。

「口上中に無粋ですわよっ」

 そう言って、ヴィクトリカはまるで自分の近くを飛ぶ虫を払うように片方の手を払うと、それに当たった何かがものすごい勢いで後方へ飛び、木の幹にぶつかり落ちた。

 おバカなヴィクトリカが印象深かったので、その力に私は唖然としてしまう。

「大鼠です。皆さん、気をつけてください」

 あっけなく返り討ちにされたモンスターの正体をいち早く確認し、サフィナが皆に伝えてきた。

「大鼠かっ、ならいけそうだなっ! そら、かかってこい! 『プロボーク』」

 ザッハが皆の前に出て盾を構えると、なにやら魔法を唱えた。確か、相手の注意を自分に集中させる魔法だったか。いつの間にそんな魔法を覚えていたのかと私が驚いている中、大鼠達が誘い出されるようにザッハに向かって一斉に飛びかかってきた。

「アース・ウォール」

 その数三匹ほどだったが、計ったかのようにマギルカが大鼠とザッハの前に土の壁を屹立させると、一匹がもろにそこへ激突する。

「抜刀!」

「残りは任せろっ」

 慌てて横へ避けた残りの大鼠も狙ったようにサフィナとザッハに撃退され、土壁に激突して気絶している大鼠もザッハがトドメを刺す。鮮やかな、というか手慣れた感じの連携プレイであった。

「……にしても……」

 私は皆の格好も相まってなんだかアニメに出てくる冒険者を見ている気持ちになり、感激しながら眺める反面、自分の方にモンスターが一匹たりとも近づいてこない怪現象にいささか不安を感じていた。

「レ、レイン様はそのままスノーの背にいてください。どうやら相手はスノーが怖くてこちらには手を出さないみたいですから。フィフィさんも」

 そう言って私はテュッテとともにスノーにすり寄ると、なぜかフィフィは私の方に近づいてきた。解せぬ……。

『いや、どっちかっていうと怖いのは私よりメアリィの方じゃないの?』

 この怪現象の原因かもしれない私の懸念を代弁するスノーに向かって私はシ~と人差し指を口に当てて皆には聞こえないのに彼女を黙らせる。

 そして、私達だけがそんな緊張感のないことをしている内に戦闘は終わった。私達の圧勝である。

「……それにしても、皆さんちょっと見ない内に強くなりましたね。というか、手慣れてましたね」

 私と同じことを感じたのか集まってきた皆にレイン様が聞く。

「……ええまぁ、お二人が留守中学園内に大鼠を持ち込まれたり、甲殻蟲の大群に追いかけ回されたりといろいろありましたので」

 なにを思い出したのか知らないが疲れた顔をしてマギルカが遠い目をしている。ザッハとサフィナもうんうんと頷いていた。

(ほんと、うちの学園は自由と混沌にまみれているわね~。よくまぁ、崩壊しなかったわ。いや、崩壊寸前だったのかしら?)

「さて、お遊びはこのくらいにして、さっさと村へ行きましょうか」

 先ほどのは戦闘とは呼べないお遊びと称して、ヴィクトリカは自分の手に汚れがついていないか確認しながら歩き始める。

 皆もそれに続いて歩き出したが、サフィナだけ難しい顔をして倒した大鼠を見ていた。

「どうしたの、サフィナ?」

「あ、いえ。この大鼠達、学園でみたモノより小柄で痩せてるんです。おそらく力もなく衰えていたと思うのですが、そんな状態で『メアリィ様がいる』のに襲ってくるなんて余程飢えていたのかなと」

 不思議に思ってサフィナに聞くと、彼女は考え込みながら答えてきた。が、一部訂正個所があるのに気がつき、私はサフィナの両肩に手を添える。

「ねぇ、サフィナ。私じゃなくてそこはヴィクトリカとスノーね。そこ重要だから、間違えちゃダメよ」

「へ? でも、メアリィ様はスノー様やヴィクトリカ様と戦って勝ったとか」

 私の言葉にキョトンとした顔でサフィナが恐ろしいことを聞いてくる。

「物騒なこと言わないで。デマよ、デマ、私は戦ってないわ。二人とも平和的に話し合いでお友達になっただけ。そこのところ、間違えないように」

 実際、スノーとはサフィナと一緒に戦ったが、あの時はすでに彼女は屈服、もとい、戦う気はなかったし、ヴィクトリカとも戦った覚えはない。ちょっと、神聖魔法使ったが倒してないし、最後はただ壁ドンしただけだ。

(うん、戦ってない。断じて戦ってないわっ!)

「……真の強者は戦わずして勝つ」

 私がサフィナを説得しているとフィフィがボソッとそう言って通過していった。

「……なるほどっ」

 私の言葉に納得したのかフィフィの言葉に納得したのか分からないがサフィナはポンッと手を打ち、フィフィに続いて皆の方へ歩き出す。

「待って待って、サフィナ。今のは何に対してのなるほどなの、ねぇ、サフィナ、サフィナァ~」

 私はそんなサフィナを追いかけて皆と合流するのであった。

 

 

 

 それ以降、これといった危険が訪れることもなく、私達は森の中を歩いている。先頭はヴィクトリカで私達は思い思いの位置から彼女の後を付いていった。行けども行けども代わり映えしない森の風景に自分達がちゃんと村へ向かって進んでいるのか分からなくなってくる。

「ねぇ~、ヴィクトリカ。村まであとどれくらいかしら?」

「もうすぐですわ」

 私の問いにヴィクトリカがこちらを見ることなく答えてくる。何を根拠にそう言っているのか私には分からないがヴィクトリカには何か目印みたいなものがあるのだろうか、その歩きに迷いは見られなかった。

「!」

 その時、私の全身に違和感のようなものを覚えた。

(なに、今の? なんか空気の壁みたいな見えない膜を通過したみたいな感じは?)

「くっくっくっ、さすがは私の好敵手。気がついたみたいですわね」

 私が違和感に周囲をキョロキョロしていると、前を歩いていたヴィクトリカが私を見て言ってきた。

「エルフの村が人に見つからないのはその周囲に人払いの魔法結界を張っているからですわ。今、その結界の壁を通過したのです」

「へぇ~、人払いなのにヴィクトリカにはその魔法が効かないの?」

「くっくっくっ、愚問ですわね。この結界はさほど強力な魔法ではありませんので、むしろ私にとってはその魔力を辿って村へ行ける良い道しるべですわ」

 私の質問にクルクルと日傘を回しながら淡々と答えるヴィクトリカ。

「まぁ、仮に強力な魔法結界にしたとしてもこの最古にして最強の吸血鬼、ヴィクトリカ・ブラッドレインを阻むことはできませんけどねっ!」

 自信満々に膨らみの乏しい胸を張ってヴィクトリカはレイン様の方をチラチラと見ている。大方、誉めて欲しいのであろう。

「さすがはヴィクトリカさんです。あなたに頼って正解でした」

「あぁぁぁん、お姉様。って、ガルルルッ」

 想像通りというか、さすがはレイン様と言うべきかヴィクトリカの望む言葉をサラッと笑顔で投げかける。すると、彼女は嬉々して空中を飛び、レイン様に近づこうとして膝の上のリリィに威嚇され、それを威嚇で返していた。

「だから、そこの大人げないヴァンパイア。幼子を威嚇して張り合おうとしないでちょうだい」

『ところでなんだけど、メアリィ』

 私がやれやれと嘆息していると、スノーが会話に割り込んでくる。

「どうしたの、スノー?」

『結界が一時的にだけどその効果を消失した時点でこちらに誰かが来てるんだけどぉ~。今も気配を消して木の上にいるわ。一人じゃないわね、これは出迎えかしら?』

 スノーの言葉に私は凍り付いた。

(結界が一時的に消失……まさか、私のスキルのせいじゃないよね? いや、たぶん私のせいなんだろうけど一時的なら壊してないからセーフだよね? でも、出迎えなら隠れる必要ないからそれはつまり……)

「気をつけて皆っ! 誰かいるわっ」

 私のせいで皆に迷惑をかけられないと私は声をあげて皆に警告した。

 私の声に驚く皆と同時に周囲に聳える大きな木の上でもザワッと驚いた気配が感じられる。

「あら、村からの出迎えかしら? わざわざご苦労様ですわね」

 周囲が緊張する中、唯一余裕のヴィクトリカが気づいた気配の方を見上げて言う。すると、その視線の先に人影が現れた。

(うおぉぉぉ、エルフだわ。アニメに出てくるようなエルフのイケメンだわ)

 そんな場合ではないと重々承知なのだが、やはり待望のエルフに遭遇すると心が躍ってしまうダメな私。

「誰が村へと迎えるかっ! この災厄の吸血鬼めぇっ!」

 男の言葉に隠れていたエルフの男達が一斉に姿を現し、私達に向かって弓を構えてきた。

(ど、どどど、どゆことぉぉぉ? 神様、教えてぇぇぇ)

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