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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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再び馬車の旅でございます

『っで、なんでまた私がついてこなくちゃいけないのぉ』

「あなたがそこにいるいないで、私達の旅の平和度が違うということが分かったからよ」

 馬車の外からこちらを眺めるスノーを私は窓を開けて眺め返して教えてあげる。先の馬車の旅で護衛についてきてもらった兵士の話では、馬車の外をスノーがウロウロするだけで盗賊といった物騒なモノが近寄ってこなかったらしい。まぁ、あの巨大な雪豹を見たら誰だって怖じ気づくだろう。というわけで、私達の旅の安全のため、ひいては私がうっかりやらかさないためにもスノーにはいてもらわなくてはならないのだ。

 現在、私達はいにしえの森を目指して再び馬車の旅をしている。

 今回はマギルカ・サフィナ・ザッハの三人が一緒についてきてくれてるので気が楽だった。

 後、出発する時に意外な展開だったのが、フィフィだ。

 なんと、彼女はどこで話を聞いたのか私達に同行したいと言ってきたのである。なんでもエルフの魔工技術をこの目で見たいらしい。

 旅は道連れ世は情けというか、断る理由もないのでフィフィも私達と一緒に馬車に揺られて移動中であった。ただ、彼女がポロッと新たな技術でメアリィ様が提案した武器がどうたらこうたらと呟いていたのが超気になるところだが……。

(何か知らないけど、名義はフィフィさんにして頂戴。私は一切関与していないということでお願いしますね)

「お姉様、クッキーを焼いてもらいましたの。はい、あ~ん」

「あ、ありがとうございます、ヴィクトリカさん」

 私が考え事をしていると目の前でヴィクトリカがクッキーを一枚取りだし隣に座るレイン様に差し出していた。困った顔でそれを受け取ろうとしたレイン様の手からクッキーを離すとヴィクトリカが再び彼女の顔にそのクッキーを寄せてくる。

「はい、お姉様。あ~ん」

 どうあっても、あ~んさせたいみたいである。

(美少女二人の仲睦まじい光景なのだろうけど……なんだろう、私には片方汚れきった邪なオーラを感じるのだが、気のせいだろうか)

 その邪なオーラを感じるクッキーを持った吸血鬼を私は半眼になってジト~と見つめてみる。

「な、なんですの、そんなに見つめて? あ、このクッキーが欲しいのですわね。フッ、意地汚い食いしん坊さんですこ、いだだだだだだっ!」

 私はヴィクトリカが鼻で笑った時点で椅子から体を浮かせ、彼女が言い終わらない内に手を伸ばし問答無用でその顔面にアイアンクローを喰らわせてやるのであった。

 

 

 

「平和ね~。前の馬車の旅は誰かさんのせいでバタバタしてたけど、今回はほんと平和な旅になりそうだわ」

 私は休憩中に馬車から降りて、のどかな空を見上げながら今の平和を噛みしめている。

「ほんとうに順調ですね~、このまま何事も、ぐっ」

 横で私と一緒にくつろいでいたマギルカの迂闊な台詞を私は手で彼女の口を塞ぐことで阻止した。

「あっぶないわ。どこで神様が聞き耳立ててるか分からないんだから、不用意なことを言っちゃダメよ」

 私はそっとマギルカから手を離して彼女を窘める。

「不用意ですか? 私はただこのまま何事も起こらなけっ、んぐ」

「そぉ~れが不用意なのよ。フラグなのよ。分かってマギルカ」

 私は再びマギルカの口を塞ぐと彼女の顔に自分の顔を寄せ真摯にお願いする。すると、マギルカはちょっと頬を赤くしながらもコクコクと口を塞がれたまま頷いてくれた。

「なぁ~、あのヴィクトリカっていう吸血鬼の女の子。なんかオレに対してだけ扱いが違わなくないか?」

 私がホッとしてマギルカを解放すると、ザッハがレイン様と共にこちらに近づいて聞いてきた。

 ザッハの話を聞いて私はレイン様の隣にヴィクトリカがいないことに気がつき、辺りを見ると少し離れた場所にウゥ~と威嚇するような声をあげているヴィクトリカがいた。

 威嚇の対象者は明らかにザッハである。

「あなたがお姉様の側にいるからじゃないの?」

「お姉様?」

 私が教えてあげるとザッハは今一分からないといった感じで首を傾げて聞いてきた。私がジト~とレイン様を見ると、そこにいた皆が彼女を見る。

「私としては女性に囲まれた状況より、男性といる方が心落ち着くのですけど……」

 苦笑交じりで答えるレイン様の気持ちはとても分かるのだが、事情を知らない人間が聞いたら誤解を招きそうで怖い内容である。

「ちなみにレイン様。そのようなことをヴィクトリカに言いました?」

「ええ、まぁ、ザッハさんと一緒にいたときに聞かれたので」

 私の質問に小首を傾げて答えるレイン様。うん、可愛い、可愛い。

「……ザッハさん。あなたヴィクトリカにライバル認定されたかもしれないわよ。そのうちレイン様をかけて勝負を挑まれるかぁ~もねっ」

「マジかよ! なんか知らんが吸血鬼にライバル認定されるなんてワクワクするな。あ、ちなみに彼女って強いのか? 見た感じかなり強そうなんだが。メアリィ様戦ったんだろ?」

 冗談半分脅かし半分で言ってやった言葉にザッハは嬉々して聞いてくる。

「さぁ? どうだったかしら。一応自称最強の吸血鬼って言ってるんだから強いんじゃないの?」

 私の思惑とは大きく違いつつも「まぁ、ザッハだし」といえば納得してしまう彼の反応に呆れて投げやりに答える私。正直な話ヴィクトリカが強いのかどうなのか、私の尺度では測れない。なにせ私が反則級だから……。

「よぉし、じゃあ、とりあえずどんな感じか模擬戦してこよう。うん、そうしよう! ヴィクトリカァァァッ!」

 私がいい加減に答えてもザッハはそれを聞いて嬉しそうに剣を取り、離れた場所で唸っていたヴィクトリカの方へ満面の笑顔で走り寄っていった。KYな戦闘民族、恐るべし。

「あの~、メアリィ様」

 今まで私の隣で私達の様子を客観的に眺めていたサフィナが恐縮そうに聞いてくる。

「なにかしら、サフィナ?」

「学園や王都から離れたのですから、殿下は無理に女性の振りをしなくてもよろしいのではないのでしょうか?」

 言われて確かにそうだと思う私であったが……。

「甘いですわよ、サフィナさん」

「そうですね」

 間髪を容れずにサフィナの意見をマギルカとレイン様が否定してきた。

「この旅にお母様の監視の目がないわけではありません。事実、私につけられた従者の中にはお母様専属の人間がさも当たり前のように紛れ込んでいます。メアリィさんはすでに気づいていたようなので先の旅では終始、私を女性扱いしていましたよ」

「そうなのですか、さすがはメアリィ様です」

 レイン様の話で初めて知ったその事実に冷や汗かきながら私はキラキラした目で見てくるサフィナを直視できなかった。

「そ、そんなことないわよ。私だって……」

「あぁ、もう、鬱陶しいですわねっ! 私は男とじゃれ合う気はありませんのっ!」

「なんだよぉっ、剣は不得手か? だったら体術でも良いぞ」

「話を聞けっですわぁぁぁっ!」

「ハハハッ、恥ずかしがることないだろっ」

「誰が恥ずかしがっていますのっ! こっちくんなっですわぁぁぁっ! 蹴り飛ばしますわよっ」

「おっ、やるか! よし、こいっ!」

 私がサフィナの間違いを訂正しようとした言葉は私達の後ろでそんな言い争いをしながらあっちこっちと走り回るヴィクトリカとザッハの大声にかき消される。しかも、その微妙に噛み合わない会話に呆れた顔で皆がそちらを眺めはじめたせいでこの話は終わり、訂正のタイミングを失った。

「……んっ、どうした、メアリィ様。そんな死んだ魚の目みたいな瞳で半笑いして?」

 私がどうにも世の中の理不尽さに自虐的な笑みを見せていると、先程まで馬車で寝ていたのか、あくびをしながらフィフィが非道い表現で指摘してくる。

「ううん……何でもないわ」

 私は両手両膝を地につけ、地面に拳を叩きつけたい気持ちを抑えながら、ひきつった笑顔をフィフィにみせるのであった。

 

 

 

 旅は怖いくらいに順調で私達は他の領内を越え、すでにカルシャナ領へと入っていた。もうすぐカルシャナ領都に着く予定だ。サフィナの話によればそこからさらに先へと進むと、森と領土を分断している川があり、そこに砦があるらしい。

 その砦を通過して森に入るのが一番簡単で安全な方法なのだが、いろいろ手続きがいる。今回はそこを領主の娘であるサフィナの力を遺憾なく発揮して顔パスくらいにしてもらいたいものだ。

『ねぇ、メアリィ。なんであなた馬車に乗らず私の背に乗ってるわけ?』

「馬車の中はヴィクトリカのせいで甘~いオーラが充満して胸焼けがするのよ」

 私が物思いに耽っているとそれを遮るようにスノーの声が響いてきたので、答えてあげた。

『大丈夫なの、それ? 誰もいないからってあの王子様、吸血鬼に押し倒されてないかしら?』

「……だい、じょうぶよ。あの子だってそこまでバカじゃない、はずよ? それにリリィを置いてきたし、私の代わりにマギルカを同席させてるから」

 自分で大丈夫だと言っておきながら、その対応をしているので些か説得力がない。が、まぁとにかく大丈夫だろうと私は深く考えることをやめた。

「お嬢様、街が見えてきました」

 私の後ろでスノーの背に揺られていたテュッテが教えてくれて、私も遠くの様子を見る。

 まだ遠くに見える段階だが、この時点で堅牢な城壁に囲まれた街だと分かるくらい立派な壁が見えてくる。予定ではここで一泊し、明日砦を通過してヴィクトリカの案内でシェリーがいるエルフの村へ行くことになっている。

(エルフか~、楽しみだな~)

 私は前世の知識にあるエルフを想像し、夢膨らむのであった。

 サフィナのおかげで門前の検問はサラッと終わり、私達は街の中へと入っていく。

「ここがサフィナの故郷なのね」

 私は未だスノーの背に乗り街中を闊歩していた。いや、私的にはそんな目立つことはしたくないのだが、スノーが一人歩きしていると領民が驚くので、ちょうど背に乗っていた私がそのまま上に乗って大丈夫だよアピールをしなくてはならなくなったのだ。この地は他の領土と違い、モンスターと遭遇する確率が高いため、皆警戒心が高いみたいだ。

(とはいえ……あぁ~、皆さんの視線をめっちゃ感じる。こんなことならスノーの背に乗ってるんじゃなかったわ)

 馬車とは違い隠れる場所がないため、私はもろに道行く人達の視線を浴びている。さらには窓からこちらを伺う人まで現れる始末であった。

『なんだか、メアリィのせいで視線が集まってるんだけどぉ~』

「私じゃなくて、あなたのせいでしょうがぁぁぁっ」

 シレッとこの状況の原因を私にしてきたスノーの頭をペチペチ叩きながら私は彼女に猛抗議する。

「あの、お嬢様。なんだか拝んでおられる方も見受けられるので、私は降りた方がよろしいでしょうか」

 私と共にいたたまれない気持ちになっていたテュッテが私の背から恐縮そうに言ってきた。

「まってまって、私をぼっちにしないで。って、なんで拝まれてるわけ?」

 私から離れようとするテュッテを止めるように私は彼女の方を見、彼女が口にした不穏なワードに気がつき聞く。

「それはスノー様が神獣様であることを知り、その背にお嬢様が座ってらっしゃるからではないでしょうか?」

 私の質問にさも当たり前のように答えてくるテュッテ。

「ごめん、話の前半は理解したけど後半が理解できないわ」

「そうですね、ご本人はその神々しさを自覚できないのは致し方ありませんね」

「まってまって、なにその不穏なワードは。私は普通よ、どこからどう見ても普通の公爵令嬢なのよ」

『そんなことよりさ、メアリィ』

「そんなこととはなによっ」

 私の抗議をそんなこと呼ばわりで中断させてきたスノーの頭を私は再びペチペチする。

『いやね、この街ってば、なぁ~んか武装した兵が多いなぁ~って思って』

 街の人達と視線を合わせないようにしていたので言われるまで気がつかなかったが、確かにこの街は他の領内の街に比べて兵の数が多い。カルシャナ領ではこれが一般なのかもしれないので私はスノーにお願いして、サフィナが乗る馬車へと近づき、窓から彼女を呼んだ。

「なんでしょうか、メアリィ様?」

「ねぇ、サフィナ。あなたの街ってこんなにも多く兵が常時勤務しているの?」

 私は窓から顔を出したサフィナに聞こえる程度の声で彼女に聞く。

「……いえ、普段はこんなに兵を配置することはないはずですが」

 サフィナも言われて周りを見ながら答えてきた。

「普段はってことはこの状態になるときがあるの?」

「はい……森からモンスターがあふれ出る可能性が出た場合の厳重警戒のときとか、ですか」

 サフィナは自分で言ってハッと何かに気がつき、言葉が尻すぼみになっていく。なにやら雲行きが怪しくなってきて私は天を仰ぎ見るのであった。

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