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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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救世主現る

 私達は今、旧校舎の談話室へと移動していた。

「お久しぶりです、フィフィさん」

「……ん、お久しぶり」

 私は期待に逸る気持ちを抑えて、向かいに座るフィフィに改めて挨拶する。すると、彼女もペコリと頭を下げた。相変わらずの無感情の顔と声だが……。

「どうしてフィフィさんが学園に?」

「……注文を受けていたマジックアイテムの修復が終わったから、持ってきた」

 私の質問に淡々と答えるフィフィ。そういえば、そんなことを頼んでいたっけと思いだし、マギルカを見る。

「確か届けるのは姫殿下じゃなかったっけ? あの人、そこは譲らなかったんじゃ」

「姫殿下は来ておりませんわ。フィフィさんの話ではエリザベス様に捕まって姫殿下が放り投げようとした公務をさせられているとか」

 マギルカの説明にフィフィが頷く。

(あの姫様は相変わらずね……その時の光景が目に浮かぶわ)

 私はアイアンクローされて凍り漬けになっているエミリアとそれを実行している恐ろしきあの魔女様を思い浮かべてブルッと身震いしてしまう。

「……エリザベス様の命で代わりに私が来た。何か不具合でもあった場合すぐに対処できるようにと」

 フィフィはそう言うが、あまりにもタイミングが良すぎないかと私は思う。

 これは偶然なのか。もしかしたら、王子の状況を知ってエリザベス様が手を貸してくれたのか。いや、さすがにそれはないかと思いつつ、後者だと末恐ろしかった。確か、エリザベス様と王妃様は非公式で連絡を取り合う仲らしいのでもしかしたら、王妃様から相談を受けたのかもしれない。

 まぁ、とにかく、ここは偶然ということにしておいて話を進めよう。

「ちょうど良かったわ、フィフィさん。手を貸して欲しいのよ」

 私はさっそくこの天才魔工技師の力を借りることにする。すると、タイミング良く授業を終えたレイン様が談話室へと戻ってきた。

 途中で合流したのかザッハもついてきているが、何だか落ち着きがない。

「やあ、フィフィさん、話は聞いてるよ。修復アイテムを届けに遠路はるばる来てくれてありがとう」

 いつもの口調ではあるがレイン様のその姿勢、動きは段違いに変わっていた。スカートは落ち着かないと言っていた昨日までとは全然違い、優雅に、そして舞うように歩くその様は見惚れてしまうほどだ。

「……なぁ、少し見ない間にレイン様がお姫様っぽくなってるんだが、どうしたんだ?」

 私の側に来たザッハが恐る恐る小声で聞いてくる。

 その気持ちは分かる。あまりにも早い変わりように私はアマンダ先生の指導の恐ろしさを痛感しているところであった。

 そして、声をかけられたフィフィはというと無表情ながらも首を傾げている。

「……誰?」

 私達とは違ってそういった礼節がゆるい国出身のフィフィは大変失礼ながらも、そうだよねと頷けるような反応をして、私達に聞いてくる。

「信じられないかもしれませんけど、我がアルディア王国第一王子、レイフォース様です。今はいろいろあって女の子に変身してしまい、レイン様とお呼びしております」

 フィフィの疑問にマギルカが代表で答えてくれた。

「……女の子に変身。それは魔法? いや、魔法なら持続は難しい。なら、マジックアイテムによるもの。見たところ、そのサークレットが怪しい」

 さすがは専門家。ちょっと見ただけで原因を見抜いてくる。その頼もしさに私は心の中でこの事件の早期解決が見えてきて、安堵していた。

「その通りだよ。このサークレットが原因でね。しかも外せないんだ」

 困った顔をし、片方の頬に手を添え首を傾げるレイン様。その仕草はとても愛らしかった。

(困った時の仕草の癖までもが矯正されている。アマンダ先生、恐ろしい人……)

「……大変興味がある。見ても良い?」

 職人魂に火がついたのか、無表情のフィフィが了承を得ることなくスススッとレイン様に近づいていく。

 断る理由もなく、レイン様は椅子に座るとそのまま近づいてきたフィフィに体を向けて大人しくしていた。

 そして、フィフィの『鑑定』が開始される。

「……確かに、これは外せない。ある意味、呪いに近いかも」

「呪いなのかい、これ?」

 サークレットを見ながら言ったフィフィの呟きに大人しくしながらレイン様が聞く。

「……どちらかというと執念? のようなものを感じる。これは厄介」

「それ、外せないかしら?」

 私は雲行き怪しいフィフィの言葉に我慢できず、結論を急がせてしまう。

「……強引には無理。何が起こるか分からない。けど、二度と外せないというわけではないから、正規の方法で外すことをお勧めする」

「その正規の方法が分からないのよ。何とかならないかしら?」

 フィフィの答えに私はさらにお願いする。

「……私には無理。少し中を覗いたけどこれは『私達』が手掛けたものと根本的に違う。邪道もいいところ。マジックアイテムと呼べない。私からしたら愚作」

 フィフィには珍しく他人の作品にケチをつけ始めた。

「この学園の生徒が作った物らしいんだけど?」

「……学園の? それは人族ということ?」

「う、うん」

 フィフィの質問の意図がよく分からないまま、私は肯定する。

「……あり得ない。この邪道、人族の、しかも専門家でもない生徒ができる技術じゃない」

 その言葉で私はピンときた。

(確か、手帳にはもう一人の存在がいたわ、『あの方』が! その人が介入してあっという間に完成したって書いてあったじゃない)

「確か、手記にはもう一人、このアイテム製作に手を貸した人がいるわ」

「……なら、その人がこれを作った張本人かも」

 ここにきて新たな事実が判明して、ますます迷宮入りしそうになるこの事件に私は気が遠くなりそうな気分だった。

「あの……先程から邪道、邪道とおっしゃっておられますが、フィフィさんは何か分かったことがあるのでしょうか?」

 私が呆然としているとマギルカが代わりに質問する。

「……んっ、私が学んだ『魔族』の魔工技術、理論を完全に無視した暴挙中の暴挙がこのサークレットには施されている。だから、こんな摩訶不思議な効果が可能になった。だが、邪道は邪道」

 無感情ではあるが饒舌になってきたフィフィを見て、私は彼女が意外にも憤っていることに気がつく。

(彼女、怒らせると怖いタイプなんだけど……。とばっちりはごめんだからね)

「あの、もう少し詳しくお聞かせくれませんか?」

 フィフィの空気を察したのか、マギルカが恐縮そうに催促する。

「……これは『妖精の悪戯』と呼ばれる技法。私達の理論も常識も無視したメルヘンチックな論理でそれを可能にする暴挙。私達『魔族』から教わった魔工技師が毛嫌う『彼ら』の技法」

「彼らって?」

 ちょっと負のオーラが漏れ出始めるフィフィについには皆押し黙ってしまう中、私だけが好奇心に負けて聞き返していた。

「……『妖精の悪戯』を使えるのは一種族だけ。これは『エルフ』が関与している」

 フィフィの言葉に一同が驚愕する中、「なんですってぇぇぇ、きゃあぁぁぁ、エルフよぉぉぉ!」と心の中で嬉々する私がいるのであった。

「エ……エルフですか」

 数分の沈黙の後、マギルカが話を進めてくる。

「……んっ、これは確実。そのアイテムの重要な部分はエルフの魔工技師しか作れない。付け加えるとその『妖精の悪戯』がなぜかサークレットを外せなくしている」

 エルフの魔工技師。確かこの世界で魔工技術が発展しているのが魔族とエルフだったと私は思い出す。二大魔工技師の片方が今回の事件に荷担しているとは驚きであった。

 ついでにエルフは魔族同様、人族とはあまり交流を持たないことで有名である。そのエルフがこの学園にいたということに私は更なる驚きを隠せないでいた。

「となると、学園長にエルフが学園にいたかを聞き出せば良さそうだね。これは大きな進展だよ」

 確信を持って答えるフィフィに、レイン様は次なる行動指針を打ち出す。さすがの物忘れな学園長でもエルフが学園にいたという希少な出来事を忘れるということはないだろう。

 私達はさっそく行動に移るのであった。

 

 

 

「学園にエルフがいたか、じゃと。ふむ……」

 時計塔の中、学園長室へ向かった私達はそこで彼にエルフが学園にいたかを確認しているところだ。

 学園長は目を閉じ長い髭を弄りながら天井を見るように頭を上げる。

「うむ、いたぞ。いつじゃったか正確には覚えておらんが確かにエルフはおったのう。あの娘はとても綺麗じゃった。うんうん、良いスタイルじゃったわい、グフフッ」

 何を思い出したのかにやける学園長。どうやら、この学園に来たエルフは女性のようだ。

「なぜエルフが学園に? 学園長が呼んだのですか」

 冷ややかな視線を一度向けた後、マギルカが学園長に聞く。

「いいや、儂にエルフとの繋がりはない。彼女の方から突然やってきたのじゃ」

「突然ですか……」

「うむ、放浪の旅をしながら自身の魔工技術を未来溢れる少年少女達に教え回っているそうじゃ。この学園にも先生として短期間雇ってもらえないかと言ってきてのう。今もそうじゃが、魔工技術は人族にとって情報不足じゃし、技術も発展不足じゃったから教鞭を執って貰えるのはとてもありがたく、了承したわけじゃ。あ、確かぁ~、その時にぃ~」

 話の途中で学園長が立ち上がり、大きな木箱を漁って何かを探し始めた。

「おお、あった、あった」

 学園長は木箱から筒を一つ取り出すと、私達の所へ持ってくる。

 その筒をマギルカが受け取り中身を確認するとおもむろに中から一通の紙を取り出した。それを彼女が机の上に広げると、皆が集まり覗き込む。

「何ですか、これは?」

 数瞬、紙を確認したマギルカが訝しげに学園長を見ながら聞いた。

「契約書じゃと言っとった。こういうことはきっちりと契約しないと気が済まないらしくてな。何をするにも契約書やらなんやらにサインを求めとったよ。少々めんどくさっ、ゴホン、お固い性格じゃったが生徒達に教え、手助けすることにもの凄い情熱を燃やしておって良い子じゃったのう。ほんと、綺麗じゃった……グフフ」

 何かを思い出し、再びにやける学園長。どうせ、話している内容とは全然関係ない彼女のことを思いだしたに違いない。私にとってはおそらく不必要な情報なので、聞かないでおくことにする。

「でじゃ。それはせっかくエルフに会うという貴重な経験をしたのでな。彼女が去った後、記念にと最初に交わした契約書を残しておいたのを思いだしたのじゃ」

「確かに、学園長のサインがありますわ。それに、もう一つ……これはエルフの名前でしょうか。『シェリー』と書かれていますわね」

 話を聞いてマギルカが食い入るように契約書を見つめて、分析を開始する。

「ご丁寧に契約時の年月日まで記載されていますわ。これで、例の開発者がいつの人か分かります」

 さらに有益な情報が入ってきて、私達の捜査は怖いくらいとんとん拍子に進んでいく。これもきっかけを作ってくれたフィフィ様々であった。

 そのフィフィだが、ここにはいない。しばらく王都見学をし、ここの魔工技術を見学すると言って私達が学園長室へ乗り込む時に別れていた。

 願わくば、我々の貴重な魔工技師の心をへし折るような行動はしないで欲しい。彼女なら無意識にやりかねないので、ほんとお願いします。

 話が逸れたが、こうして「王子TS事件」の捜査は進展し、後はそのシェリーなるエルフか、もしくは年月日から割り出したその時期の「俺様くん」を見つけだせば、サークレットの外し方も分かるだろう。

(いや~、あぶない、あぶない。もうちょっと長びいたら王子がマジで王女に変えられるところだったわよ)

 私は事件解決に向かって進展したことにホッとするより、そっちの方にホッと胸をなで下ろすのであった。


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