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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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お姫様です


「メアリィ嬢……ボクはどうなったのかな?」

 自身を客観視できない王子の方が冷静さを取り戻し、自身の垂れ下がる長い髪を触りながら私に問いかけてきた。

「え~と……あの、私の主観ですが……えっと、その……」

 私は今の現状に理解が追いつかないのと何と言っていいのか言葉に困り、しどろもどろになる。だが、王子はそんな私を急かすこともなくジッと待ってくれていた。本人も心の準備をしているのかもしれない。

「お姫様です」

 いろいろ考えた結果、私の回答は何とも間抜けなモノになってしまった。

(仕方ないでしょ! だって、そうとしか言いようがないんだもん!)

 綺麗な金糸の長い髪の下に輝く綺麗なサークレットがより彼をお姫様っぽくしていた。着ている服は男物だが……。

「お姫様……ボクはもしかして、女性になっているの……か、な?」

 半信半疑で王子は私の言葉を聞き入れると自分の体を確認するように触りだした。

 シャツからこぼれ出そうな双乳に手が伸びるとムニュッとした感触に王子は驚き、顔を赤らめてしまう。

(ん? 離れているからよく見えないけど……もしかして、大きい?)

 私は目敏くもそんな、今はどうでも良いことを気にしてしまう。

 私が怪訝な顔で王子を見ていると、ハッと気がついたように彼は胸から手を離し、額につけていたサークレットへ手を伸ばした。

「……メアリィ嬢……」

「……なんでしょう、レイフォース様」

 とても困った顔で王子はサークレットに手を添えながら私に言ってくる。その光景から私は次の台詞が容易に想像でき、且つ、聞きたくなかった。

「……外れない……」

「そうですか……」

 こんな状況で王子が冗談を言うとは思えないし、本人も結構力を込めて外そうとしているのは見ている私でも分かる。

 それでもあのサークレットはまるで彼の体の一部と化したかのように一ミリも動かなかった。

 再び私達はどうして良いのか分からずに、そのままの状態で時を過ごしてしまう。

 ふと、ここは一つ私の力であのサークレットを握り潰そうかと一瞬考えたが、あのサークレットのせいで王子の身が変化している可能性がある以上、強引に破壊して彼の身に何かあっては大事である。なんといっても彼はこの国の王子なのだ。下手なことはできない。

「殿下! メアリィ様!」

 私達がどうしていいのか分からずマゴマゴしていたら縦穴の出入り口からマギルカの声が響いてきた。二人揃ってそちらを見ると、危なっかしい素振りでマギルカが縄梯子を使って降りて……あ、落ちた。

「マギルカ、大丈夫!」

 もうちょっとで地面だったのでそんなにダメージを受けたわけではなさそうだが、私は尻餅をついているマギルカの方へ慌てて駆け寄っていく。

「いたたた……だ、大丈夫ですわ。それよりメアリィ様、部屋の中はどうなっておりましたか?」

 駆け寄る私を手で制しながらマギルカはスカートの土を払いながら立ち上がる。どうやら本人が言う通り問題なさそうである。だが、彼女の問いには問題が含まれるが……。

「う~んとね……破棄されたみたいで、部屋は問題なかったのよ……部屋は……」

 私はどう説明していいのか分からず、というか、今の時点でも実は頭が追いついていないので何とも言えない状態だ。なので、歯切れが悪くなってしまう。

 そんな私を見てマギルカが首を傾げて私の次の言葉を待っていた。そして、それに答えるように私の後ろから王子が近づいてくる。

 縦穴の光に照らされて現れた王子のその姿を見たマギルカはクワッと目を見開いた。

「で……殿下……なの、ですか?」

 震える手を押さえながらマギルカは一回唾を飲み込むと私の後ろに立つ王子を見ている。

「あ~……うん、そうなんだけど……ボクは今、どんな姿になっているのかな?」

 ポリポリと頬をかきながら困った顔を見せるいつもの王子。だが、その仕草は同じでも声や体つきが別物に変わっているのがマギルカにも一目で分かった。それほどに、今の王子は誰の目からも紛うことなく見惚れるほどに美しい女の子であったのだ。

「で……で、ででで、殿下が……ひ、ひめ、姫、様にぃ……」

 それだけ言うと、マギルカがあまりの衝撃に耐えられなかったのかフラッと体を揺らして後ろに倒れそうになる。

「マ、マギルカ、しっかりしてぇぇぇ! あなただけが頼りなのよぉっ!」

 私は慌てて彼女を抱き抱えるとその体を揺さぶり、この状況をいち早く理解し、次にどうすべきかを瞬時に考え出す私達のブレインをたたき起こすのであった。もはや、この状況をどうすべきかなど考えられないのでマギルカに丸投げしたい私は無情にも彼女が夢の世界へ向かうのを阻止する。

「もう大丈夫……大丈夫ですから揺すらないでください。考えが纏まりませんわ」

 私のわがままのせいで夢の世界から強制帰還させられたマギルカが揺すられながら抗議してきた。私はホッとしながら彼女を解放する。

「何が起きたのか説明してもらえますか?」

 一度深呼吸をしてマギルカが私から離れると私と王子を見ながら問いかけてくる。そう言われて私は王子を顔を見合わせて、今までのことを振り返ってみた。

「えっと……メアリィ嬢が穴に落ちて……」

「はい? 落ちた?」

「レイフォース様、それは忘れてくださいと」

「あ、そうだったね」

 巻き戻りすぎた王子の回想に私は今一度忘却をお願いすると彼は申し訳ない顔をする。そして、そんな私達を怪訝な顔でマギルカを見渡してきた。その目には話を進めろという催促が含まれている。

「えっと……それから部屋に入って、何もなかったのですよね」

「そうだね、メアリィ嬢が引き出しを開けて妙な箱を見つけだすまでは」

「…………」

 王子の言葉にマギルカの私を見る目がジト目になっているのが分かる。なので、あえて私はそちらを見ずに王子だけを見た。内心冷や汗ダラダラである。なぜかって、冷静に話し始めるとこの騒ぎ、なんとな~く私のせいなのではないだろうかと思えてきたからだ。

「それで?」

 促すマギルカの言葉が何だか私を尋問しているように聞こえてきて、心が痛い。

「う~んと、メアリィ嬢が机にもたれたら風化していたのか机が壊れて、彼女を助けていたら箱が落ちて蓋が少し開くと、声が……」

「声?」

 王子の発言にマギルカは怪訝な顔をし私を見る。私は知らないというのを伝えるように反射的に首を横に振りまくっていた。

「そこからはちょっと記憶が曖昧になっているんだ。気がついたら頭にこのサークレットをつけていて、こうなってたんだ」

 王子は前髪を上げ額のサークレットをマギルカに見せながら苦笑する。サークレットは自己主張するかのように射し込む光に怪しく反射して輝いていた。

「ちなみにあのサークレットは外せないみたいよ」

「……はず、せ……」

 私がとどめとばかりにそう言うとマギルカの体が再びフラッと揺らいで夢の世界へ旅立とうとする。

「マギルカァァァ! ダメよ、あなただけが頼りなんだからぁぁぁっ!」

 ふらつくマギルカの両肩を掴み、私は再び彼女を強制帰還させた。

「と、とにかく……殿下はこの部屋から少しお離れください。メアリィ様、他に何かないか私達だけで調べましょう」

 気を取り直して、マギルカは王子を出入り口の縦穴付近に待機させ、私と共に再び部屋の中へと入っていく。

「どうするの? マギルカ」

「箱の中を調べます。何か情報があれば良いのですが」

「なるほど。あっ、そういえば、学園長にここのこと聞いたのよね」

 箱が落ちている場所へ歩きながら私はふとマギルカが不在だった理由を思い出した。彼女は学園長に報告しにいったのだから、この部屋に関する何かしらの情報を得たはずだ。

「それが……相変わらず、身に覚えがないとの返答でしたわ。まったく……自由すぎますわよ、昔の学園は……」

 珍しくマギルカが悪態をついてくる。それほどに杜撰な管理だったのだろう。まぁ、今に始まったことではないが……。

 そうこうしているうちに私達は例の箱までたどり着く。そして、マギルカがおっかなびっくりで箱をツンツンし始めた。

「これですか……普通の箱のように見えますが。殿下の言う『声』というのも聞こえませんし」

「声はおそらくサークレットの方じゃないかしら、この箱はあくまで保存用だと思うのよ」

 触っても何も起こらないのを確認したマギルカがおもむろに箱を持ち上げ裏返したりして詳細に調べていく。

「ちなみにメアリィ様にはその声は全く聞こえてなかったのですよね」

「うん、まったく」

 箱を見ながらマギルカが聞いてくるので、私はうんうんと首を縦に振りながら彼女の動向を見守ることに徹する。下手に私が動いて二次災害でも引き起こした日にはもう目も当てられないからだ。

 そして、私はマギルカの行動を客観的に見ながら一つのことに気がついた。

「ねぇ、マギルカ。その箱、いやに底が厚くない?」

 そう、マギルカがいてくれたおかげで冷静になってきた私は彼女がクルクルと箱を動かして見ているうちに、その底が横から見ると深いように見えてきたのだ。私の指摘にマギルカもそれに気がつくと、耳を寄せ箱を振ってみる。

 そうするとガコッと小さくではあるが何かが中でぶつかった音がした。

「二重底になっていますね」

「ど、どうするの? 開ける?」

 また変な物が出てくる可能性があるので私はあまりお勧めしたくない気分であった。

「何か手掛かりがあるかもしれませんし」

 そう言うとマギルカは警戒しながらも底の板を外しにかかる。

 それは思いの外簡単に外れ、やはりその後ろに何かが隠されていた。

「……本……いえ、手帳のようですわね」

 マギルカが取り出したのは古びた手帳のようなものであった。

(手帳か……ホラー系とかだと、肝心なところでページが終わっているとか破られてたりするのよね。しかも、日に日に書いている内容がおかしくなっていくとか……まさかあのサークレット、それ系じゃないわよね)

 私は一人、ゲームや映画などでみるパターンを思い出して身震いしていた。そんな私に気がついていないマギルカはこれまた慎重に手帳を調べ、何もないことを確認してから、ゆっくりとページを開いていく。ここら辺の慎重さが私にもあったら、こんなことにはならなかったのにと自分の浅はかな行動を振り返って後悔するばかりである。

「え~と、なになに……『まず、最初に言っておこう。オレ様は完璧超人にして超絶イケメンである』」

「「…………」」

 マギルカの言葉に私は何とも言えない表情になって、ん~と唇を引き結んでしまった。マギルカも私と似た感情を抱いたのか、読むのを止めて固まってしまっている。

(最初からぶっこんできたわよ。イヤな予感しかしないわ)

 とはいえ、私達の調査はまだまだ始まったばかりだ。いきなりやめようかなと挫けそうだが……。


活動報告にも書きましたが書籍第3巻とコミックス第1巻が発売いたしました。見かけたら買ってくださいね。3巻の方は加筆修正に開幕と終幕、番外編を2本追加しておりますのでWeb版を読んだ方でもお楽しみいただけると思います。

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