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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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探すのです

 学園を歩く私達一行。

 特にこれといって目的地がないので、かなり漠然と歩いている。

「些か、無計画すぎたかな? もう少し区画を絞った方が良かったかも」

 私がキョロキョロと辺りを見渡していると、王子がそんなことを言ってきた。確かに範囲が広すぎて、効率が悪い。いっそのこと皆バラバラに探す手もあるかなと考えると、私はそれを王子に伝えることにした。

「レイフォース様、ここは皆バラバラに探した方がよろしいかと」

「そう言われましても、私達はメアリィ様のように隠された物を探すのは得意ではありませんから、素通りしてしまいますわ」

 私の進言にマギルカが即座に異を唱えてくる。

(あ~、そっかぁ……皆が見つけられるとは限らないんだったわ。う~ん、どうしたものか)

 私はう~んとうなりながら、両腕を組んで瞳を閉じ、考える。

 とはいえ、考えるのは苦手だ。そこはマギルカに任せたいところだが、彼女も良い案があれば即座に行動しているはずなので、現状、案がないのだろう。

「リリィ様、何をしてらっしゃるのですか?」

 うなる私の耳にテュッテの声が届いて、私は目を開けると、件のリリィを探した。

 彼女は地面に鼻を寄せ、クンクンしては、上を向き、少し移動してまたクンクンしている。それはまるで、犬がその嗅覚を使って何かを探しているのと同じような素振りだった。

(でもあれって犬でしょ? 豹のあの子にそんな芸当できるわけないわよね)

「リリィも探してくれてるのでしょうね。でも、匂いを嗅いで探すってもね~、目標物の匂いもないし無理じゃないのかしら?」

『うんにゃ、そうでもないわよぉ~』

 私の呟きにスノーが返してくる。

「どういうこと?」

 私は組んでいた腕を解き、スノーの方を見た。私の行動に皆もつられて私とスノーを見る。何となく、期待の眼差しに見えるのは気のせいだろうか。うん、気のせいだ。たぶん……。

『私達は魔力に結構敏感なのよ。リリィは匂いを嗅いでいるというより魔力を探知しているといった感じかしらねぇ~。いやはや、健気で働き者の妹にお姉ちゃん感動だわぁ~』

 ヨヨヨッと器用に前足の片方を使って涙を拭うような素振りを見せるスノーを私はとても素敵な笑顔を見せて言ってあげる。

「ほんとにね。お姉ちゃんの方は役立たずの大飯食らいなのにねぇ~」

 私がスノーの日頃のぐうたらっぷりを言ってやると、涙を拭う振りをしていたスノーがそれをやめ、器用にも半眼になってこっちを見てきた。私もすこぶる笑顔だったのを一転させて、半眼になり見返す。

『…………』

「…………」

 しばし、私とスノーが見つめ合い沈黙する。別に心と心が通じ合うような甘酸っぱい感じの見つめあいでは決してない。

 お互い牽制しあっているだけの無言の睨みあいだ。

(そういえば、目を逸らしたら負けだとかいうのが動物社会にあったような、あれって犬だったかしら?)

 沈黙の中、どうでも良いことを思いだし、考える私。

 そして、挑発に乗って動いたのはスノーであった。

『よぉし、その喧嘩買ったわ~! 私の本気を見せてあげるっ』

「わぁ~い、それは頼もしいわね~」

 鼻息荒く意気込むスノーとは裏腹に、私は棒読み状態でそれを歓迎した。まぁ、正直な話、このぐうたら神獣様をあてにしていない私はちょっとでも探しあてるきっかけでも作ってくれたらそれで良いかなぁくらいにしか思っていない。

 そして、スノーの探索が開始された。

『スンスンスン、スンスンスン。こっちからいかがわしい魔力を感じるわね』

 地面どころか壁やら何やら至る所に鼻を寄せ、匂いを嗅ぎまくる神獣様。

 その図体のでかさに正直、通りかかる皆様にとっては迷惑極まりなかった。

 さらに、いきなり近づいてきてスンスンと匂いを嗅ぐから腰を抜かして動けなくなった生徒もいる始末。

(うん、まぁ、それよりも……)

「ねぇ、そのいかがわしい魔力って何? 皆様の迷惑顧みずあなたは一体何を探しているの?」

 スノーがもうちょっと小さかったら、そのどたまにチョップを喰らわせて止めているところだが、いかんせん、あの図体なのでとどきゃしない。

『何って? ……はて? 何だったかしら……ねぇ~、何探すんだっけ?』

「ダメだわ、この神獣」

 匂いを嗅ぐのをいったん中断してこちらを見たスノーは、何をしているのか分からなくなった自分に気がつくのであった。

(一ミリでも期待した私がバカだったわ。今までにご迷惑をおかけした皆々様には大変申し訳ありません。全部この神獣様が悪いんです。焚きつけた私じゃありません)

 私はがっくりと肩を落としながらも心の中で連れ回してしまった王子達や、遭遇してしまった生徒達に謝罪し、責任逃れをしてみる。

「もうあなたに期待しないから、戻ってらっ」

『シッ! これは……なにやら強力な魔力を感じるわ』

 呆れた顔で私はスノーを呼び戻そうとすると、彼女は私達がいる場所とは違う場所を目を細めながら見つめ、そう言って私の台詞を遮るのであった。

 しかし、そんなシリアスな雰囲気醸し出しても私は騙されない。

 どうせ、悪足掻きといったところなのだろう。だいたい、何を探すのかすら分かっていない、というか忘れているのだから、この神獣様は……。

「はいはい、悪足掻きは良いからって、うぉい、ちょっとぉぉぉ」

 大きくため息をつき、肩をすくめて目を閉じた私はスノーに近づいていき、説得しようと次に目を開けたときにはそこに彼女の姿はなかった。

 慌てて辺りを見渡すと、再び皆様の迷惑顧みず園内を爆走するバカでかい豹が遠のいていくのが何とか確認できた。

 しばしの沈黙。

 遠くに聞こえる驚きの声やら悲鳴やらなんやら……。

「えっと……メアリィ嬢。これは一体どうなったのかな? 説明してくれると助かるんだけど」

 私とスノーの会話は皆には聞こえていないので、現状、把握ができない王子が大変困った顔で私に聞いてきた。

(それは私も知りたいです! でもそれを言っちゃうと何だか不味いような気がしてならないわ)

 何だか『ペットの不始末は飼い主の責任』みたいな感覚に襲われて、私は返答に困ってしまう。

「あの、殿下。とりあえず、スノー様を追いかけた方がよろしいのではないでしょうか?」

「そ、そうです。とりあえず追いましょう。説明は後でいたします」

 王子の横で見ていたマギルカがごもっともな意見を言ってくれ、私はそれに乗っかることにする。

 そうして、私達はスノーが走り去っていった方へと走っていくのであった。


 そこはすでに人が集まりちょっとした騒ぎになっていた。

 ザッハとマギルカが集まっていた生徒達に対して道を開け、王子を通すように言う。すると、綺麗に道が開いて、その先が見えるようになった。王子は私とサフィナを引き連れ、その間を通っていく。リリィはテュッテの腕の中で生徒達をキョロキョロと興味津々に見渡していた。

 そして、生徒達の間を抜けて、その先で見たモノは――。

『フアハハハッ! ここね、ここなのね! お宝の匂い』

 いろんな物、人の匂いを嗅ぎ回り、好き放題に学園を駆け回った挙げ句、開けた場所で前片足を器用に使って地面の土を掘り起こしている駄豹こと、スノーであった。

「……掘ってるね」

「掘ってますね」

 何だかとっても楽しそうに地面を掘り起こす神獣様に困った顔と一筋の冷や汗を垂らしながら呟く王子に、私もつられて答えていた。

 しばしの沈黙。

 だが、その間もスノーの穴掘りは止まらないので、私は思考停止している場合じゃないと、頭を振って王子の前に出た。

「申し訳ありません、レイフォース様。学園から出禁をくらう前にあのアホを止めて参ります」

 あまりにも慌てていた私は王子の前で敬語で話しながらもお下品な言葉使いをつかってしまっていた。それほどに私は焦っていたのだ、見逃してちょうだいませ。

「できん? くらう? アホって……あ~、うん……任せるよ」

「はい、ではっ!」

 ポリポリと頬をかいて空笑いを見せる王子の了承を得た私は、すぐさま行動に移った。

 本来なら「なにやっとるんじゃ、われぇ~!」とあやつにドロップキックをかましてやりたい私ではあったが、相手は一応神獣様なのでそんな失礼なことはできない。後、人の目もあるし……。

 私は一度、いや、二度、いやもうちょっと、三度深呼吸をして心を落ち着かせると、ズンズンと今なお楽しそうに穴掘りしている駄豹に早足で近づいていった。

「な、何してるのかなぁ~、スノーォ~」

 私は大声を上げるのを堪えるあまり、何だか震えた声になって、トーンも低くなってしまった。

 そして、笑顔を崩さず、こめかみに青筋立てて、フヨフヨと楽しそうに揺らぐスノーの尻尾を鷲掴みにして力を込めた。

『うにゃぁぁぁぁぁぁ』

 予想通り、スノーが穴掘りをやめて飛び上がる。

『し、尻尾はらめぇぇぇっ』

「変な声出すんじゃないわよっ!」

 そして予想外の反応に私はツッコミをいれながら慌てて尻尾を放すのであった。

『ちょっとぉ~、乱暴にしないでよ。今、良いところなんだから』

 私に掴まれた尻尾をフヨフヨさせて、その様子を見ながらスノーが抗議してくる。

「良いところって……あなたね、あんまり好き放題しているとほんとに出禁になるわよ」

『できん?』

 私の言葉が分からなかったのかスノーが首を傾げてきた。

「出入り禁止ってことよ」

『え~、なんでよ~。私、怪しい場所を見つけただけだよ~』

 私の言葉に不満たらたらでスノーは片方の前足でタシタシと軽く地面を叩いて抗議する。私はその話の中のとある言葉に反応した。

「怪しい場所?」

『そうそう~、ここが怪しい感じがするのよね~』

 そう言ってスノーは再び土を穿くりかえし始める。私はそれを見ながら、ある現象を確かめた。

(いつものパターンで魔法をかけて隠している感じはないわね)

 私に幻覚魔法や認識阻害魔法の類は効果がなく、むしろそこに何か隠してますよと教えるだけであった。

 だが、スノーが掘っている場所は私から見てもぶれたりしていない。

「そこには何もないわよ。いい加減諦めてっ」

『あっ、何か岩が出てきた~。うりゃぁっ!』

 呆れた顔で私がスノーにやめるように忠告しようとすると、掘っていたスノーの頭が穴の中に入って、そんなことを言ってくる。次の瞬間、ゴバァッと大きな破砕音が鳴り、スノーの頭がさらに深く入り込んでいった。

『おぉ~、なぁ~んか広い所に出たぁ~』

「え、うそっ!」

 スノーの言葉に私は止めるのを忘れてスノーのそばへ行くと、彼女は穴の中から頭を上げ、むふぅ~と鼻息荒くドヤ顔を見せてくる。

『どおぉ~、これが神獣の本気よ~』

「近い近い」

 近づいた私にその大きな豹の顔が視界いっぱいに広がっていく。私は一歩下がると、振り返って待機していた皆を見た。

「レイフォース様、どうやらスノーが何か見つけたようです」

「さすが神獣様だね。よくそんな所を探し当てたものだよ」

 私の言葉に王子がスノーを誉め、スノーは気分を良くしたのか誇らしげに上体を起こすと、またむふぅ~と鼻息荒くドヤってきた。

『ふっふっふっ、どう、メアリィ。私ってばすごい? ねぇ~、すごいぃ~?』

「あぁ、はいはい、すごいすごい」

 そして、再びスノーがその頭を近づけてきて、私は鬱陶し気にグイッと彼女の頭を押しのける。まぁ、確かにすごいといえばすごいだろう。こんな何も情報がない状態で、微弱な魔力を感知して探し当てるだから。とはいえ、結果は良しとして、その過程に問題があったのは素直に喜べない。

(これは、あれかしら……後で迷惑かけた皆様には私が謝っておいた方が良いのかしらね。焚きつけたの私だし……)

 私はスノーを押しのけながら、彼女が掘りまくったせいで辺りにぶちまけられた大量の土と、その先に見えるここまで来る際にスノーが強引に通って破壊してしまった場所、そして未だ腰を抜かしている生徒達を見つめながら乾いた笑いを零すのであった。

 

 スノーが何やら探し出した後、すぐに皆で行動を開始する。

 私は一人、謝罪の旅へと出かけていき、戻ってきたときにはそれなりの形になっていた。

 ザッハとサフィナによってここら一帯を関係者以外立ち入り禁止にして、さらに見張りに立ってもらっている。

(キープアウトのあの黄色のテープが張られてあったら、雰囲気出るのになぁ。んで、そのテープをくぐって現場に入るの。くっ、やってみたかったわ)

「あっ、メアリィ様。お帰りなさい」

 サフィナが私を見つけて駆け寄ってくる。

「サフィナ、そこはご苦労様ですって敬礼して」

「へ?」

「ううん、何でもないわ」

 二人の仕事ぶりを見ながら私はしょうもない考えを実行しようとしてしまい、サフィナに首を傾げられ、そう言えばこのネタは自分にしか通用しないことに気がつき、残念ながらも訂正していると、そこに王子がやってきた。

「マギルカには学園長へこの場所について報告と、情報収集に行ってもらったよ」

「そうですか、では中の調べはどうしましょう、警部」

「へ?」

「いえ、何でもありません。行きましょう、レイフォース様」

 気持ちの切り替えがまだ完全ではなかったらしい私は無意識に妄想を口に出してしまったらしく、王子がポカンとした顔でこちらを見ている。そこで、私ははたと自分が何を口走ったのか理解し、内心冷や汗ダラダラながらもすかさず笑顔でなかったことにした。さらに、強引に話を進めようと例の穴の方へそそくさと歩いていく。

 ちなみにお手柄だったスノーは私の作ったプレゼントの看板を首に下げ、ブチブチ文句を垂れながらぶちまけた土をリリィと一緒にかき集めていた。テュッテにはそれを見守るため、彼女達の側にいてもらっている。

 ちなみに私の作った看板には「私が園内を破壊し、皆を驚かせ、土をぶちまけた犯人です」と書いてある。

 ふとここで、現場に入るのは私と王子の二人だけだということに気がついた。

(二人っきりで暗い地下の中へ。そして、不運にも閉じこめられてしまった二人は互いを励ましあい、協力しあって脱出を試み、そして……)

 刑事ドラマの次はちょっとしたパニック映画と、またしょうもない妄想を繰り広げる懲りない私。

「あ、メアリィ嬢」

「はい、なんでしょう、レイふぉっ」

 王子に呼び止められ、妄想から戻った私は振り返り、彼に声を掛けようとして、言葉が切れた。

 まぁ、簡単に言うと落ちたのだ。

 恥ずかしながら、前方不注意でスノーが掘った縦穴に見事落ちたのだ。

 それはもう、綺麗にストォンとね。

 ついでにスカートがフワッと全開……うん、忘れよう。

 とはいえ、そこで怪我をするような普通人ではない私はそのままのポーズで綺麗に着地してしまい、あまりの恥ずかしさと、もはやギャグにしかならないその身体能力に顔を赤らめ、掘られた穴の隅に頭をつけ立ったままうなだれてしまっていた。

「だ、大丈夫かい! メアリィ嬢!」

 慌てた王子の声が私の頭上から聞こえてくる。

「大丈夫です……あの、今の私をしばらく見ないでいただけると幸いです。後、できれば先程の醜態を記憶から即座に抹消していただけるとなお嬉しいです」

 私は赤くなった顔を両手で隠し、王子の方を見上げることができずにうなだれたままお願いしてみる。

「…………うん……」

 王子の微妙な沈黙の後に小さな返事がくると、私は何だか余計恥ずかしくなってきた。沈黙はおそらく、私が余計なことを言うものだから先程のお間抜けな光景を王子が思い出してしまったのだろう。

(あぁ、恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だわ。って、もう穴に入ってるじゃないのよ、あなた。あら、やだもう、私ったらうっかりさんっ、テヘッ♪)

 それでも、心の中でノリツッコミをしてしまう自分のバカさかげんに思わず目の前の土壁に頭を打ち付けたくなる私であった。


活動報告にも書きましたが書籍版第三巻が8月9日にコミックス第一巻と同時発売予定となりました。ありがとうございます。さらにコミカライズ第六話もコミックウォーカー様より更新されております。

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