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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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白銀の聖女って誰ですか?

 

「……知らない天井だわ」


 それから、私はうっすらと目を開けると、台詞の通りに見たことない天井が目に入ってきた。


「お嬢様! 目が覚めたのですね」


 私の台詞を聞いて、テュッテが私を覗き込んでくる。何か、このパターンにだんだん慣れてきた私は落ち着いた感じで、テュッテを見た。


「ここ、どこ?」

「姫殿下の別邸です。幸いにもあの騒動の被害を受けていなかったので使わせていただいております」


 ぼんやりとした思考でテュッテの言葉をゆっくりと呑み込んでいく。そして、私は気がついたようにガバッと上半身を起こした。


「あの子は!」


 神獣のことが気になって私が起きあがると、私の横でフワァ~と大きな欠伸をして丸くなる小さくてフワフワな豹をテュッテが指さした。


「……よ、良かったぁ~」


 私はホッとした顔で横で丸くなる小さな豹の背を撫でる。豹は嫌がりもせず、私に撫でられっ放しのまま丸くなっていた。


「それはこちらの台詞ですよ、お嬢様。あれから丸一日、ずっと眠りっぱなしで、本当に心配しましたよ」


 テュッテが安堵したように何やらいろいろと準備し始めていた。


「丸一日も寝てたの? 何で?」

『ああ、それは調子に乗ってちょっち魔力を吸い過ぎちゃったせいかもしれないわねぇ~。ごめぇ~んね』


 私の頭の中に悪びれた感じのない声が聞こえ、私は辺りを見渡すと、ベッドの近くにうずくまっていたスノーが上体を起こしてきた。


「あなた、どんだけ私から吸い取ったの? ごめ~んねっじゃないわよ!」


 私は近くにあった枕をスノーの顔にめがけて投げつける。彼女はそれを甘んじて受けるようにボフッと顔で受け止めた。


『あなたが丸一日寝てたのは魔力枯渇のせいじゃないわよ。全然余裕だったもの。でも、あれだけの量の魔力消費は初めてだったせいで、精神がまいったのかもしれないわねぇ~』


 確かに、スノーの言うとおり、私は大量の魔力を一気に消費した経験が今まで無かったような気がして、何となく納得してしまう。


『そんなことよりもぉ~、メアリィ。あなた今、すんごいことになってるわよぉ~』


 枕を自分の顔から落とすと、スノーが器用に前片足で口を隠してニマニマと笑みを見せてきた。


「すんごいこと?」


 私は怪訝な顔でテュッテを見る。すると、彼女も私が何を聞きたいのか察したらしく困った顔をしていた。


(とてつもなく、嫌な予感しかしないんですけど)


 そして、私は眠っている間に何があったのかテュッテから説明を受ける。

 

 簡潔に言おう。

 

 

 それは、『白銀の聖女』の誕生であった。

 

「あぁぁぁあああ~」


 私は呻きながら頭を抱えることしかできなかった。

 どうやら、神獣に少女が一人乗っていたことが王子と会話していたとき、そこに居合わせた住人達によって認識されたこと。フィフィ達の話で神獣と唯一会話できるのが現在私だけだという事実。その理由に私がつい口に出してしまった聖女のいう言葉が強引に使った言い訳の魔力と周波数なるものより皆に理解されてしまったこと。そして、極め付けが、最後にあの子を助けるためにしていた私の行為が神々しくも光り輝く私と二匹の神獣の光景となり、死にかけていた神獣の子が元気になっていくのがまさに奇跡の光景のようだったらしい。結構時間をかけてしまったらしく、現状把握に来たエミリア率いる兵隊さんにも遠巻きで目撃されてしまった。さらに、まずかったのが、そこで私だけが倒れてしまったことでこの奇跡を私が起こしたと思われてしまったこと、などなど。

 それらの情報が一日で復興中の港町に噂として広がっていき、でてきた名前が『白銀の聖女』である。

 暗黒の島で聖女とはこれいかに……。

 フィフィの証言により私が神獣と会話できることが皆に納得してもらえたのだが、もはやその呼び名のせいで嬉しいのやら悲しいのやら複雑であった。


(幸いなのが、島の人達は遠目でしか見てなくて、正確に私だと言うことを認識していないということだけね。まぁ、身内は後で何とか誤魔化すとして、多くの人に特定されないようにしないとなぁ。そんな人はいないのよ、このまま誰にも認知されずに島を出なくては。あ、白銀の髪というのは認識されてしまったからそこは帽子でもかぶって気をつけよう。はぁ~、非公式の旅でほんと良かったわぁ~)


 私は早々にこの島から脱出する方法を考え始めていた。


「ちなみに、帰りの出航は?」

「いろいろとありまして、明後日でございます」


 私の考えをくみ取ったのか、テュッテがすでに調べて答えてくれた。


「じゃあ、私、出航までここから出ないからよろしく……」


 そして、私は再びベッドの中に潜り込んだ。


「だろうと思いまして、いろいろ用意いたしました」


 完全な逃げの体勢になる私に、心得ましたとテュッテが引き籠もりようにいろいろ用意する。先程から黙々と何やら準備していたのはその為だったのか。できるメイドでほんと助かる。


『あれ~? 皆に崇め奉られに行かないの?』

「行くわけないでしょ! 私のモットーはノーイベント、グッドライフなの」


 布団を被ったままで私はスノーを見ずに自身の人生設計を宣言してやった。


『ノーイベント、グッドライフ。どこが?』


 スノーの容赦ないツッコミに私はうぐっと言葉を呑み込むことしかできなかった。

 その後、テュッテにより私が目覚めたことを知って、皆がお見舞いに来てくれた。忙しいはずのエミリアがいの一番に顔を出したのが驚きだったが、彼女には私のことは広まらないようにあれは神獣が倒したということで徹底して情報規制をしてもらうことにした。「私達友達よね」と話の節々に添えて。まぁ、向こうも自国の町長が反乱を起こしたのだ。そんな大々的に広める気はないそうだった。

 ちなみにギルツさんはこの度の件で王国からの監視付きの生活になるそうだ。外出やら何やら全てに制限が掛かるそうだが、お見舞いに来たフィフィが言うには基本、人付き合いも悪く、引き篭もりなので世話を国がしてくれるという事実だけ受け止めて本人は万々歳らしかった。とはいえ、今後妙なモノを作らないようしっかりと監視しておいてほしいものだ。頼むよ、フィフィさん。

 余談ではあるが、その他いろいろとイベントがあったらしいが私は丸一日寝こみ、さらに目が覚めた後も体調不良を理由に全てを欠席するという暴挙に成功して、白銀の少女の存在は公に出ることはなかった。危ない、危ない。

 

 

 

「ところで、メアリィ様。この子はなんて名前なのですか?」


 私のお見舞いに来ていたマギルカが小さな妹豹を抱きしめながらそんなことを聞いてくる。


「スノー、この子の名前って」

『禁則事項です~』

「まだ禁則事項なの? じゃあ、仮の名前にしましょうか」


 私はスノーの答えに自然と思案し始めた。すると、なぜかスノーがオロオロし始める。


『メ、メアリィはもう私につけてくれたから、その、あの、えっと、無理しなくていいのよ。あ、他の人、他の人の案も聞いてみましょう』


 なぜそんなに私に名前をつけさせないようにするのか少々不満ではあったが、皆に聞くのも良いかなと、私はちょうど部屋にいた皆に聞いてみる。


「名前か? 白くて斑点だからシロマダラで良くね?」


 ザッハが言った名前が完全に被った私はベッドの上で額を押さえて思わず項垂れてしまった。


(だだ被りもそうだけど、いざ他人に言われるとひどいセンスだと自覚できたのが非常にショックだわ)


 ちなみにザッハの案は女性陣から凍てつく視線で黙殺された。


「名前をつけるのは難しいよね。何かに例えたり因んだりするとか、印象でつけると良いんじゃないかな?」


 ザッハが怯んで王子の方へ逃げていくと、彼は困った顔でとりあえず案を出す。


「私はそういうのは苦手ですので……マギルカさんはどうですか?」


 サフィナは白旗を上げると、マギルカに振る。彼女は抱いていた豹をジッと眺めていると、豹もそれに気がついたのか、首を上げてマギルカを見てきた。


「……リリィ……」


 ボソッとマギルカが呟く。


「確か、古い物語の中に『無垢』という花言葉を持った神の国に咲く白い花の名がそんな名でしたわ。この子にピッタリじゃないでしょうか」


 マギルカは嬉しそうに豹を抱え上げると、彼女も嬉しいのか鳴いて応える。


「リリィ……由来といい、響きといい、完璧だわ」

『メアリィ……あれがネーミングセンスというモノよ~』


 私が一人唸っていると、側にいたスノーの声が頭の中に重く響いてきた。


「悪かったわね、センスなくて。あなたもマギルカにつけ直してもらえばいいじゃないのよ」


 ふてくされて私は布団を被ってしまう。それをスノーが宥めるように前足でポフポフしてきた。


『まぁまぁ、私は好きよ、スノーって名前。あなたがつけてくれたのだから』


 こうして妹豹、改め『リリィ』ちゃんが誕生したのであった。

 

 

 

 そして、帰国の時がやってきた。港町は復興やらで忙しく、そのためか私達の見送りが派手にならなくて私は内心ホッとしていた。さらに、事件が事件なだけに警備が厳しくなり、私達の船の周りには関係者以外近寄れなくなっていた。だからといって油断しない私はつばの広い帽子をかぶって髪を隠している。


(ふふふっ、これで逃げ切ったわ、私!)


 私は心の中でガッツポーズをする。

 さて、話が変わるがシレッと私についてくるスノーに何でついてくるのか訪ねたら、


『これといって行くとこないし、メアリィの魔力は豊富だし、おしゃべりできるし、面白そうだからぁ~』


 と、姉妹揃ってすでに沖へ出て出航を空中で待っているそうだ。理由のほとんどが釈然としないが、追い返す理由も私にはなく、そのまま連れて行くことにしている。


(お父様に何て言おうかしら? 許してくれると良いんだけど)


 そんな心配をよそに、出航準備が進んでいく。フィフィとギルツも見送りに来てくれ、私はこっそり力を抑制するアイテムの小型化、おしゃれな発展をさり気なくお願いしておいた。さらに、驚くことに今回の件でいろいろ忙しそうなエリザベス様も見送りに来てくれた。私は焦ったが、王子が代表で対応してくれたので、私は後ろでこそこそ隠れ、頭を下げているだけに成功する。話が終わり、テュッテに帽子をかぶせて貰っていた私に、エリザベスがそっと近づいてくると、顔を寄せ耳元で私にだけ聞こえるように囁いてきた。


「あなたは本当に素敵な子ね。アレを放置してくれて、本命を潰すことができたわ。ありがとう」

「へ、なんのことでしょう?」

「フフ、あなたならそう言うと思ったわ」


 そう自分だけ納得顔で言うとエリザベスは薄い笑みを見せて優雅に帰っていった。意味が分からなかった私はポカンとした顔をしていたと思うのだが、たぶん向こうはそれを『演技』だと思っているのだろう、どうせ……。


(どうして、こうなったの? 教えて、神様?)

「よぉし、では皆の者、出航するぞ!」


 エミリアの声で私は我に返り、慌てて乗船する。


「ところで姫殿下、この帆船、どこかで見たことあるんだけど、まさか行きと同じ……」

「いかにも! 我が国が誇る最速の帆船でそなたらを送るぞ」


 甲板に上がったところで気がついた私の疑問にエミリアが誇らしげに答えてくる。


「まさか、この下にまた『ケン子』さんがいるんじゃないでしょうね?」

「けんこさん? ああ、あのクラーケンか? あやつはいろいろ問題あるが仕事は帆船業内ではトップクラスじゃから、安心せい!」


 エミリアが私の心配を察してくれず、軽快にサムズアップしてきた。


「その心配じゃないわよ! ケン子さんの家庭問題は? もう行方不明になったお兄さんとかいないわよね!」

「ん? ああ、そこら辺も会話できるやつに聞いたぞ。もう行方不明になった他の兄はおらんそうじゃ、安心せい」

「そ、そう……それは良かっ」

「あ、そういえば、昔、母と喧嘩して家を飛び出して行方不明になった不良妹がいたとか言っとったそうじゃが、まぁ、大丈夫、大丈夫」

「大丈夫じゃないでしょ、それぇぇぇっ!」


 私の絶叫と出航の合図が港町に響き渡る。


 こうして、私の初めての海外旅行は終始波乱に満ちた旅行となって幕を下ろすのであった。


 今回の更新で暗黒の島への旅行のお話は終了です。ここまで読んでいただきありがとうございました。活動報告でも書きましたが、コミカライズ第四話も公開中です。書籍ともどもよろしくお願いいたします。

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