まずはお友達から
ブックマーク、評価などありがとうございます。
「「申し訳ございません、殿下ぁっ!」」
私は体裁なんて気にもせず、彼が部屋に入ってくるなり、両膝をついて額を床に擦り付けた。
いわゆる、「DO・GE・ZA」を敢行したのだ。
チラッと、横目で見てみれば、同様のポーズでマギルカも隣にいる。
私が迷いなく土下座するものだから、彼女もつられて意味も分からず行ってしまったみたいだ。
少女二人が少年の前で土下座というかなりシュールな絵面の中、王子は苦笑を漏らしながら、私達に近づいてくる。
「殿下!誠に申し訳ございませんでした、今の発言はトチ狂った女どもの戯れ言だと聞き流していただけると幸いです!」
「ええ、頭のおかしい私達の世迷い言だと失笑してお忘れいただけると幸いですわ!」
もう、自分たちが何言ってるのか全然分からないくらい、今の私はパニックを起こしていた。
よく見ると、額を擦りつけていた床に小さなヒビが入っているが、もうそんなの気にしている余裕もない。
「いやいや、そんなにかしこまらなくてもいいよ、何かそのポーズはキミ達に似合わないさ」
ハハハッっと乾いた笑いをこぼす王子。
(まずいよぉぉぉっ!怒ってるよね、怒ってるよねぇぇぇっ)
「それに、キミ達が言うのなら…そうだね、これからは改めるとしようかな」
「へ?改める?」
「…殿下のあの言動は彼が父親を見て覚えたモノなのです。決して彼の個性ではありませんわ」
王子の言葉に驚いて、私は土下座のままポロッと小声で言葉を漏らすと、それを補足するようにマギルカが土下座のまま小声で私に話してくれた。
「父親って…まさか、国王陛下?え!アレ、陛下の受け売りなの?」
「はい…お父様の話では陛下は若い頃、女癖が悪くああいった言動で周りの女性たちにチヤホヤされておりましたの。それが染み着いてしまい、今もポロッと言動に出てしまって…それをご覧になっておられた殿下は、女性と接する男とはそういうモノなのだと学習し振舞ってしまったのです」
(マジでか…まだ見ぬ私の中の国王陛下がめっちゃチャラい人になってしまったよ)
「私はお側にいながらそれを否定できませんでしたわ。それを否定するという事は陛下を否定すると同じ事なのですから…」
「だよねぇ…」
「だから、せめて殿下のアレが定着しないように、近づく女たちを遠ざけておりましたのに…あなたの所為で全てが台無しですわ」
「面目ない…」
「そろそろ二人とも、顔を上げてくれないかな、さすがにこの状態はいたたまれないよ」
「し、しかし、不敬を働いた私達がこのままお咎めなしとなると他の者達に示しがつきません」
「ちょぉ!何言ってるのあなたは。許してくれるって言ってるんだから乗っかろうよ」
変に気真面目なマギルカに驚き、小声で非難する私。最低だな、私って。
「ふむ、罰ね…」
そう言って何かを思案し始める王子。
「それじゃあ、これからは僕と接する時は友人のように接するように」
「「へっ?」」
言っている意味が分からず、私達は揃って頭を上げた。
「あっ、でも、公の場ではわきまえてもらうよ」
王子は膝を着くと、私達の手を片方ずつ掴みあげる。そのまま立ち上がると、つられて私達も立ち上がった。
「それでいいかな?」
「は…はい、殿下がお望みとあらば…」
ポカ~ンとした顔で答えるマギルカを満足そうに眺めた後で王子は私を見てくるので、コクコクコクッと高速で首を縦に振り続けてしまった。
「フフッ、あっ、ザッハも同罪と言うことで、よろしく頼むよ」
「え?何で俺まで…ん~、まぁ、いいけど。堅苦しいのは苦手だし、むしろ助かったぜ、もうこれ以上かしこまった台詞なんてはけなかったところだったし」
「いきなりくだけすぎですわよ!この馬鹿者がぁぁぁっ!」
「グフッ!」
一気にフランクな口調になって近づいてきたザッハの横っ腹に蹴りをいれるマギルカ。
(いやいや、王子の前であんただって失礼だよ、それ)
ホッと一息ついて、緊張がほぐれた私はクスッと二人を見ながら笑みをこぼすと、王子はいつもの爽やかな笑顔を贈ってくる。
「フフッ、やっぱりキミの笑顔は宝石のように素敵だ。その微笑みでいつまでも僕の心を癒して欲しいな、その為なら僕は何だってするよ、お姫様」
などとのたまって、私の頬に手を添えてくる。
「ブハッ!」
もうないと思っていたのに不意打ちをくらって、私は吹き出してしまった。
「あっ…」
やってしまったとバツが悪そうに王子が頬をかく。その仕草は年相応の男の子だった。一気に親近感がわく。
「本当にいいのですか、殿下」
「殿下はやめてくれないかな、メアリィ嬢、レイフォースでいいよ」
「それでは…あの、レイフォース…様」
王子にさん付け、ましてや呼び捨てなんてできるわけもなく、恥ずかしさも相まって、私は様付けでごまかしてしまう。
「お~い、王子!この凶暴女を何とかしてくれ」
「あなたはくだけすぎッ!」
マギルカから逃げてきたザッハが王子に向かって暴言を吐くものだから、私も彼のボディに肘鉄をくらわせてやる。
(決して、照れ隠しによる八つ当たりじゃないわよ、うん…)
そうして、私達はテュッテを連れて4人でお茶をするべく、場所を中庭に変えることにした。
――――――――――
「にしても、何で王子はこいつらを友達なんかに?いいいっ」
丸テーブルを囲み、テュッテから受け取ったお茶を一口飲んでからのザッハの言葉に、私とマギルカが揃ってテーブルの下で彼の足を踏む。ちなみに、テーブルから見えている上半身は優雅にお茶をいただきながら笑顔だが。
「う~ん…そうだね、キミ達はなんかこう、話しやすかったというか、面白そうだった…かな。ほら、僕は王族だから、皆かしこまってばかりでつまらなかったんだよ」
そんな下の攻防に気がつくこともなく、王子は話し始める。
「それに、僕の側には四六時中大人たちだけで、同じ年の皆とは話せないし、王宮の外にも出られないし、何をするにもアレはダメ、コレはダメって息が詰まる思いもあったのかな…」
苦笑しながら独白する王子に、私は、いや、前世の私は共感してしまった。身分も立場も全然違うが、四六時中大人に囲まれ、病室の外にも出られず、友達も作れない閉鎖された世界、それが私の前世の記憶。その心の置き所が何となく似ていたからだ。
私は今、こうして新たな人生をもらって、そこから飛び出せた。
ならば、これも何かの縁、王子もまた、ここはこんなに楽しい世界なのだと思ってもらえるように、私も助力しよう。そう心に誓いつつ、私は紅茶をいただく。
神様、いろいろあったけど私は今日、素敵な友人たちを手に入れました。ありがとうございます。
私はそう、神様に心の手紙を送るのでした。
メアリィ様、激動の7歳時はこれにて終了。長かった…ここまで読んでいただきありがとうございます。