表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
127/288

挿話2―3

今回で別視点は終了です。

「何も起こらぬ……ぞ?」


 警戒していたエミリアが周りを見ながらそう呟くと、ダブザルの表情が余裕から焦りへと変わっていく。


「どういうことだ! なぜ起動しない!」


 ダブザルは大声を上げながら装置周辺を確認し始めた。何が起こっているのかいまいち判断が追いつかなく三人はまさかの事の成り行きを見守るという愚行に出てしまった。


「な、なんだこれは!」


 ダブザルの言葉にやっと動き出す三人。ダブザルは震える手で何かの装置を握っていたが、そこから垂れ下がっている線が途中でなくなっていたのだ。見た感じ、切れてしまったとか、千切れてしまったとか、そういった感じではない。もともとその長さで終わっていた。そんな感じだった。


「ふっふっふ……どうやらあの爺めに一杯食わされたようじゃな。ダブザル」


 そして、何だかよく分からないがとりあえず勝ち誇ってみるエミリアだった。


「くそぉぉぉっ! あの我がまま爺めぇぇぇっ! あれだけの資金と材料を与えてやったというのにぃっ!」


 ダブザルはそんなエミリアの言葉に現状を理解し、持っていた装置を地面に叩きつけ、激高した。それこそ、頭の血管が切れそうなほどに……。

 ダブザルの絶叫が静かな部屋に響き渡っていく。彼は胸を掻き毟るような素振りを見せてその怒りを抑えられないでいた。

 このまま冷静さを失ったダブザルをエミリアが魔法で取り押さえる。もしもの場合でもザッハとともに援護をし、時間稼ぎをすれば、突入しているはずの兵達がもう間もなくここへ押し寄せてくるだろう。マギルカはそう確信し、ダブザルを見た。

 そして、彼女は怖気を感じた。


 彼は笑っていたのだ。


 起死回生の何かを胸を押さえた瞬間に思いついたのか、その眼鏡から覗く瞳は狂気に近かった。


「姫殿下! ダブザル様を取り押さえてください!」


 一国の姫に命令するなど他国の令嬢であるマギルカがすることではないのだが、彼女はダブザルの行動を今すぐ阻止しなければいけないと直感で叫んでいた。


「フィールド・ダウンフォース」


 エミリアがマギルカの言葉に反応するより、ダブザルの方が行動が早く、彼の力ある言葉が、マギルカ達を襲った。

 彼女達周辺の空気に異変が起こり、その中にいたマギルカとザッハがまるで何かに上から押さえつけられてしまったように、地面に膝をつく。


「く、空気が……魔族は……こんな魔法まで使え、ます……の」


 空気に押し潰されそうになりながらもマギルカは現状を把握しようと努める。


「ヌルいわ、下郎がぁぁぁっ! ブレイク・オブ・スペルフィールド」

「アクセル・ブースト」


 一人、まるで歯牙にもかけないエミリアがそう叫ぶと魔法はパァァァンと風船が破裂したように霧散する。エミリアとダブザルの階級差の現れか、彼の魔法をあっという間に無効化してしまった。

 魔族の魔法での戦い。見たこともない魔法の数々を目の当たりにして、マギルカはいかに自分、いや、アルディア王国の魔法が遅れているのかを痛感した。

 だが、次の瞬間にはダブザルの姿が見えなかった。魔法合戦で負けるわけないと余裕を持ってしまっていたエミリアもまた、彼を一瞬見失ってしまう。


「エアー・ブレット!」

「ボディ・プロテクトッ!」


 そして、ダブザルとザッハの力ある言葉が重なって聞こえ、二人はザッハの方を見ると、そこにはダブザルが彼に魔法の空気弾を至近距離から打ち込み、そして、ザッハが持っていた豹の首根っこを掴みあげて奪いとっているところだった。


「ザッハッ!」


 壁の方まで飛ばされるザッハに、興味がないといった感じで、ダブザルは持っている豹へと視線を移す。


「くそぉ、やっぱそこいらにあった武器じゃ駄目か」


 マギルカは慌ててザッハの元に駆けつけると彼は悪態をついて起き上がる。ザッハは姫の許しで部屋に飾ってあった剣を拝借し、さらに咄嗟にとった防御魔法のおかげでダメージはなかったようだ。代わりに剣がポキッと折れてしまっているところをみると、相手の魔法の威力はかなりのものだったと思われる。


「おや、アレを咄嗟に防ぎきったのですか、大した判断能力ですね。いやはや王子の側近はどれも優秀ですな。まぁ、良いでしょう。コレも手に入ったことですし」


 ダブザルは汚いものでも掴むように豹の首根っこを掴んだまま歩き始める。豹も嫌がるようにもがくが離れることができなかった。


「ダブザル、その子を離せっ!」


 エミリアの激高に意外そうな顔でダブザルは彼女を見た。


「おやおや、問答無用に神獣ごと私を消し炭にしてくるかと思いましたが、姫様も随分甘くなられたようですね。とんだ腰抜けですな」


 嫌味のように笑うダブザルにギリギリと歯噛みするエミリア。


「それでは、こいつは私が有効利用させてもらいますよ。ハハハッ! 私は非常についていますね。これは、まさに神の導き! このような事態も解決できてしまう物を私は譲り受けていたのですからね! そして、それを瞬時に考え出せる私は素晴らしいぃぃぃっ!」


 先程の装置があった所まで歩くダブザルは振り向き様に、懐からあるクリスタルを出した。

 それを見たマギルカがヒュッと息を飲み、絶句する。それは、自分の命を危険に晒した代物と似ていたからだ。


「リベラルマテリアじゃとっ! ダブザル、貴様ぁぁぁっ! それは我が国でも禁忌中の禁忌! 手に入れるなど万死に値する代物をよくもこの国にぃぃぃっ!」

「それを渡したのはエインホルス聖教国ですね」


 一定の距離をとりつつ、相手の隙を伺うマギルカが激怒して頭に血が上るエミリアを冷静にさせるため、あえて彼女の前に立ち静かに言葉を発した。


「フフッ、察しが良いようですね。それに、ここで冷静になれるとはあなたも優秀そうで、王子殿下が羨ましい限りです」


 マギルカの行動とダブザルの言葉でエミリアの熱量が冷めていき、徐々に冷静さを取り戻していく。とはいえ、完全とはいかなかった。ここまでエミリアが激怒するのも全ては歴史が語っているとマギルカは知っている。過去リベラルマテリアの犠牲者となった者の最多が魔族であった。魔力保有量が多い、ただそれだけで昔どれだけの魔族が攫われ、実験に使われたことか。それを知っているエミリアの、いや、魔族達のあのアイテムへの憎悪は測り知れないだろう。


「ダブザル……聖教国と内通しているだけでは飽き足らず、そんな忌まわしい物まで手にしていたとは。この魔族の面汚しめぇっ! 恥を知れっ!」

「恥を知るのはあなた達王族ですよ、姫。たかが人族風情の白銀の騎士一人に敗れ、我ら高貴なる魔族が劣等種である人族と同盟まで組まされるなぞ、面汚しの腰抜けどもは貴様達の方だぁぁぁっ!」


 冷静でいたはずのダブザルも興奮してきたのか、語尾が荒くなっていく。


「そんな私の思いと彼らの利害が一致しただけですよ、姫ッ!」


 人族風情と組むなどこの腰抜けがと罵声しておいて、自分もまた同じように人族と手を組んでいる矛盾にダブザルは本気で気づいていないみたいだった。それに気がついたエミリアは一つの答えを導き出す。彼の今の考えは彼自身の物ではない。第三者に吹き込まれたものだ……と。


「高貴……劣等……ダブザルよ、貴様、いつからそんな考えになったのじゃ。少なくとも我ら魔族にそういった他種族への差別意識などなかったはずじゃが。はて……さては貴様、どこぞの国の誰かさんにちやほやされて誑かされたか、愚かな奴め」


 優位に立っていたはずのダブザルの言葉にエミリアは哀れだなと鼻で笑ってきた。


「だ、黙れぇぇぇっ!」


 ダブザルは顔が赤くなるほど大声を張り上げる。それだけで彼が図星だったのだとエミリアは理解した。


「どいつもこいつも私をバカにしおって! 私こそが次代の王に相応しいと言われたのだ。だから、私はこれを譲り受けた! 魔王を越える神の御技を!」


 そう言うと、ダブザルはクリスタルと豹を抱え上げる。


「さぁ、リベラルマテリアよ。その奇跡を私に見せよ! その贄にこの神獣をくれてやる! 超大型殲滅魔工兵器を動かすのだぁぁぁっ!」


 ダブザルの叫びに答えるようにクリスタルが薄暗いはずの部屋を眩しいくらいに光り輝かせるのであった。

活動報告でも書きましたが、コミカライズ第三話公開中です。マギルカも登場しいよいよ幼少編のメンバーが揃いました。書籍ともどもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ