表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
125/288

挿話2―1

時間が戻って別視点になります。おかしい、メアリィがいないのでシリアスになるはずがエミリアのせいで……

 時間を遡る。

 これは、メアリィ達がギルツがいるだろう場所へ向かった時と同じくしてのことだった。

 煌びやかで豪奢なシャンデリアが光り輝くホールの下、ダブザル主催の夕食会が華やかに行われていた。お転婆で堅苦しいことが嫌いなエミリアがすぐさま帰らないようにと考慮して、立食パーティにしたおかげで、エミリアがすぐさま帰る素振りは見られない。

 本来ならホッとするはずのダブザルだったが、今は違う。何とかしてこの夕食会を早急に終わらせたい一心だった。

 理由は夕食会が開始されて、最初の挨拶を終えたばかりの彼の元に届けられた知らせである。そこには「魔女が例の商会へ捜索に入った」と書かれていたのだ。

 ダブザルは焦っていた。そう遠くない時点であの商会はばれるとふんでいた彼の予想を遙かに越えた迅速な行動に驚きと焦りを表に出さないようにするのが精一杯であった。

 一方、エミリア一行もまた、ダブザルへの抑止としての時間稼ぎをしたく彼から目を離さなかった。例の商会とダブザルが何かしらで繋がっている可能性がある。なので、メアリィ達が向かっている先に何かしらの指示を出すのを見逃さないためでもあった。もともと非公式の夕食会故、来客も少なく、ほとんどの魔族はエミリアに挨拶をしてくるため、その他の三人は比較的自由に動けていた。

 ダブザルはそこを利用して客によってエミリア達からの目を逃れて何とか現状を把握し、対策をとりたくて仕方なかった。

 だが、思惑とは裏腹にエミリアは基本、そういった格式は嫌いで、挨拶する者達の話を早々に終わらせてしまう。しかも、それがエミリアだと皆が承知してしまっているのでどうしようもなかった。


「どうかしましたか、ダブザル町長。先程から落ち着きがないように見受けられますが?」


 視線を動かしすぎたのか、まるでダブザルの心境を察しているような物言いをする異国の王子にダブザルは舌打ちしたい気分だった。もっか、彼の一番の邪魔がそこにいるからだ。彼の前には先程から異国文化に興味を示すレイフォース王子殿下がいる。立場上、邪険にするわけにもいかない。

 だが、王子は上手い具合にダブザルとの会話を途切れさせないようにし、時に他の客との会話に彼を引き入れてくる。

 ダブザルは上手いと思った。そしてこの男を甘く見ていたと後悔もし始めた。アルディア王国第一王子は父王似などではない。その皮を被って今まで姿を隠していたのだ。あの決して侮ってはいけない王妃似の息子なのだと再認識するしかあるまい。

 ダブザルは突然舞い込んできたここ数日の思い通りにいかない憤りを抑えられなかった。なぜ、自分はこのような状況下でこんな宴を開いているのか、彼は時間稼ぎのつもりで企てた自分の計画が目の前の王子に逆手に取られているとしか思えなくなってしまっていた。


「いえ、エミリア姫様がまた何かしでかさないかと気が気でなくて……ついつい。申し訳ございません」

「いえ、お気持ちお察しします」


 二人はやんちゃ姫の話題で苦笑しあう。が、ダブザルの内心はそうであろうか。いや、全く違う。ダブザル的にはエミリアが何かをやらかし夕食会を台無しにして早急に終わらせたかったのだ。


「殿下、ダブザル様、少々宜しいでしょうか?」


 そこにやってきたのは金髪を揺らして気分が悪そうな顔をしたマギルカであった。


「何でしょう?」

「申し訳ございません、少々気分が優れず、席を外させていただいても宜しいでしょうか?」


 ダブザルが促すとマギルカが申し訳なさそうに言ってきた。ダブザルはまさに渡りに船といった心境だったが、大喜びで承諾するのはいただけない。


「それは、気がつかず申し訳ありません。休憩室へ案内いたしましょう」


 手を差しだし、マギルカを案内しようとするダブザル。本来なら近くのメイドなどにやらせる作業を自らかって出たのは何もマギルカが心配だからではない。席を外す口実ができたからだ。


「そうか、ではザッハ。キミも付き添ってあげてくれ」

「はい、殿下」


 そうして、ダブザルは何とか会場を後にできた。

 近くに用意されている控え室に二人を案内し、メイドに面倒を見るようにダブザルは指示すると、慌てないように必死に心を抑えながら紳士的に部屋を後にするのであった。

 そして、ダブザルは会場には戻らず執務室へと歩き出す。


「行ったかしら?」

「ああ、足音からして会場とは別方向だな」


 気分が悪い令嬢の世話をするように言われたメイドは、ダブザルがいなくなった途端、まるでそんなことがなかったかのように動き出し、外の様子を伺い始める二人に唖然としていた。


「あ、もう、大丈夫ですわ。戻ってくれて構いませんよ」


 マギルカはそんなメイドに笑顔で答え、彼女を下がらせる。


「それで、どうするんだ?」


 メイドがいなくなってから二人は今後の打ち合わせを始めた。


「見たところ動揺しないようにしていたみたいですけど、こちらに集中しておらず、何か別のことを考えていたのは態度で分かりましたわ。おそらく、商会へ行ったメアリィ様達のことを報告されたのでしょう。もしかするとここにある証拠を隠滅する可能性がありますわ」

「追うのか? 場所分かってるのかよ?」

「おバカなあなたと一緒にしないでくださる。私はエリザベス様から見せていただいたここの地図をちゃんと頭の中に入れておりますのよ」

「へいへい、優秀なことで」


 座っていたマギルカがドアの前で聞き耳を立てていたザッハを退けて廊下へ出ると、ザッハも後ろからついて行く。

 なるべく音を立てないように早足で移動を開始する二人。マギルカはおそらく自分が仕事を秘匿にできる場所、もしくは仕事をしている場所でここから一番近い所を頭の中の地図で確認し、迷いなく早足で移動する。すると、あっという間に彼の後ろ姿を発見することができた。


「いましたわ」

「すげぇな、お前。メアリィ様以上かよ」

「あの方ならもっと上手く立ち回っていらっしゃるわ。こんなに時間をかけたりせずにね」

「……かもな」


 廊下の曲がり角に隠れて会話をする二人。もし、ここにメアリィ本人がいたなら断固反対するだろうことを納得しあっていた。そんな二人に慎重派のダブザルは焦りから解放されたという油断と、今後のことで頭がいっぱいだったのだろう、全く気がついていなかった。

 そうして、ダブザルは自分の執務室へと入っていく。


「執務室らしいですわね。さすがに押し掛ける……なんてことできませんわ」

「どうする? 聞き耳立ててみるか?」

「無駄じゃ、あの部屋には今、防音の魔法がかけられておる。あやつらしい徹底っぷりじゃ」

「「!!!」」


 二人の後ろから会話に交じってきたもう一人の存在に、マギルカもザッハも驚いて声を上げそうになり、自分で自分の口を塞いだ。


「ひ、姫殿下。どうして、ここへ? パーティの方をお願いしたじゃありませんか」

「こちらの方が面白そうじゃったので、あっちは王子に任せておいたのじゃ」


 あぁ~といった感じでマギルカは両目を片手で覆い、天を仰ぐ。困り果てている母国の王子の姿がその目に浮かんだ。


「ザッハ。あなたは戻って殿下の護衛を」

「安心せい、クラウス卿を側につけさせておる。それに、先程連絡があってな。伯母上が例の商会で偽造した魔工技師を締め上げた。あの拘束アイテムは王国管理の物、言わば王国の物を横領したことになる。直に王国兵がこちらに押しかけてくるじゃろう。とはいえ、それ以外の物はすでに場所を移動させられてしまったらしいのじゃ。連中の本拠地は別にあったらしい」

「そ、そうですか」


 王国兵が来るならなおさら姫が待機していた方が良いのではないだろうかとふと思ったが、この人に果たして人を迅速に動かす力量があるのか疑わしくなったマギルカは、これ以上言うことを諦めた。おそらく、向こうも姫を当てにはしていないだろう。前もってエリザベスの指示通りに動くだけだ。


「まぁ、朗報もある。伯母上が運ばれる馬車に追いついてな。何とかダブザルの不正に繋がる物を手に入れられたそうじゃ。しかし、連中は逃がしたものの、相手は魔族ではなかったらしい。ダブザルと繋がっているのはやはり他国の者のようじゃな。とはいえ、その問題も解決するじゃろう。どうやら伯母上が一戦交えているうちに、別行動していたメアリィがちゃっかり本拠地を突き止め、潜入中じゃそうじゃ。そこにギルツもいるそうじゃぞ。やれやれ、すごいな、あやつは」


 エミリアの言葉にマギルカとザッハは顔を見合い、苦笑する。


「ね、あの方ならば……」

「ほんと、すげぇ~なぁ、メアリィ様は」

「おっと、誰か出てきたようじゃな……あれは執事か? 何かを持っておるな。鳥か何かにつける手紙……か」


 目敏くもエミリアは部屋から出ていった者を一目でそこまで観測する。


「よし、スフィア。あやつを……って、しまった。奴は伯母上のところじゃった。全く使えんメイドじゃな」


 メアリィのように自分で向こうに送ったのだろうとは言えないマギルカとザッハは無言のまま、どうしようかと考える。


「あれがもし、例の商会への何らかの連絡となると見逃すわけにはいけません」

「そうじゃな、では、王族の権限で中身を拝見といこうではないか」


 そう言うと、エミリアは執事が向かった先へと歩き出した。


「ちょ、姫殿下」


 慌ててマギルカはザッハを監視に残し、彼女を追った。

 角を曲がるとすでにエミリアが執事に近づき、フレンドリーに肩へと手を伸ばしている。


「やぁ、ダブザルの執事よ。忙しそうじゃな」

「エ、エミリア姫さっ」

「マインド・ブレイク」


 執事の言葉を遮るようにエミリアの力ある言葉とともに、執事の足下に魔法陣が浮かび上がった。すると、彼はガクッとまるで操り人形の糸が切れたように倒れ込んだではないか。

 意識を奪う魔法。座標固定であり、相手に接触していないと発動できないとても面倒な魔法であり、かける相手の階級が自分より上もしくは同等の場合、意味をなさない魔法であるが、アルディア王国では存在は知っていても行使できる者がいない魔法である。

 魔術師であるマギルカは自分達より遙か上を行く魔族の魔法水準に恐怖するとともに、是非とも学びたいと思うのであった。

 そして、ふと気がつくマギルカ。


「姫殿下。今のが王族の権限ですか?」

「そうじゃ! 実力行使、後でもみ消す! これぞ王権!」


 サムズアップして自信満々に言うエミリアにマギルカは言葉を失いため息をつくしかなかった。いや、それは絶対違うと心の中で言葉を返しているマギルカをそっちのけで、エミリアは倒れた執事の持つ手紙を奪うと躊躇なしにそれを広げて中身を確認している。


「やはり、例の商会への密書か……これで証拠が増えたぞ、クククッ」


 もはや王族のすることではないな……と思えてならないマギルカではあったが、何もせずなじりあい責任を押しつけあう人族の貴族連中に比べれば、とても行動的だ……とすら感じてきてしまい、首を横に振って、今の考えを打ち消した。


「ところで、姫殿下。こんな屋敷内で魔法を使って大丈夫なのでしょうか? 警備的な意味合いでも」

「ふむ、我々魔族は基本的にそういった警備システムはない。高位の魔法を操るものなら魔法感知という特殊な能力というか、勘が鋭くなるのじゃよ。近くで魔法が使われればそういう輩なら気がつく」

「では、先程の姫殿下の魔法。町長様に気づかれたのでは……」

「あ……」


 エミリアとマギルカが一瞬無言になって固まる。

 そして、慌ててザッハの元へと戻っていく二人であった。


「ザッハ、町長様は?」

「ん? いや、執事以外誰もあの部屋から出てきてないぞ。ていうか、何しに戻ってきたんだお前ら? 執事を追ったんじゃないのかよ」

「それはもう良い。しかし、出てこぬのはおかしいな」

「出てこぬも何も、部屋に人の気配が感じられないんだよな。ついさっきまでは感じていたんだけど」


 珍しく考え込むエミリア。そこにザッハがシレッと大変なことを言ってきた。そして、再び天を仰ぐマギルカは、メアリィはよくまぁ、この二人を相手に上手く手綱を引いているなぁと感心してしまう。まぁ、本人がそこにいたら引いた覚えはないと断固反対するところだが……。


「それ、部屋の中に隠し通路か何かがあって逃げた可能性がありますわ。町長なのだからそれくらいの準備はしているはずです」

「なんと! しまった、その手があったか! よし、乗り込むぞ、者共」


 慌ててエミリアが飛び出し、執務室のドアを開けようとする。そして、この展開で当然といえば当然だろう、扉には鍵が掛かっていて開かなかった。


「鍵を掛けおって、小賢しい真似を! よし、ザッハ。ぶち破れ!」

「おう! って、無理無理。何言ってるんだよ姫殿下」


 場に流されドアの前に立ったザッハが正気に戻ったのかエミリアの指示を拒否してきた。


「ええい、この根性無しめが! 肩が外れてからそういうことを言え!」


 こっちもこっちで無茶なことを平気で言ってくる。


「ならば、王権行使じゃあ! バーストォォォッ!」


 もう無茶苦茶である。慌てて飛び退いたザッハの後ろで執務室の扉が爆裂魔法で吹っ飛んだ。さすがにこれでは、周りが騒ぎ出してもおかしくなかった。すぐに、町長の兵が執務室へと駆けつけてくる。

 が、神は我らに味方してくれているのか、外が騒がしくなっていた。マギルカが窓の外を見ると、レリレックス王家の旗をつけた馬車や部隊が集まっているのが見える。すでに、内部へと入り、抵抗する者を取り押さえている所も見られて、駆けつけた兵達もそれを見て戸惑い始めていた。

 そんな兵達をよそに、エミリアは執務室へと入り込んでいく。爆裂魔法のせいでドアの残骸が辺りに散らばり、その余波か近くにあった物も吹っ飛んでいた。

 だが、ザッハの言う通り、ダブザルの姿は見当たらない。もし、ザッハの言い分が間違っていてダブザルが扉の近くにいたらどうしていたのだろうとふとマギルカは思ったが、それはそれで、捕まえやすくなってちょうど良いのかと、自分の思考が姫よりになってきたのを慌てて修正した。そもそも、タブザルがその魔法を受けて生きている保証がないからだ。エミリアがエリザベスのお仕置きで魔法を食らっていたのを見ていたので、あぁ、魔族なら大丈夫なんだろうなぁと思っていたがそれは姫の実力だからなのかもしれないのだ。


「チィ! やはり逃げおったか、小賢しい!」


 悪態をつくエミリアを余所に、マギルカは部屋内部を見渡すと、奥にある綺麗に整頓された本棚と本棚の隙間に違和感を感じた。よほど慌てていたのか、周りがきっちり整頓されすぎていたせいで、その本棚と本棚の間だけが少し開いているのに違和感を感じたのだ。


「姫殿下、あの本棚があやしっ」

「バーストォォォッ!」


 ほとんど条件反射でマギルカが何かを言う前に指定した本棚を吹き飛ばすお姫様。周囲の人がどんどんこの人の扱いを雑にしていくのが何となく分かったような気がしてくるマギルカであった。何と言うか、その……破天荒というか、豪快というか、他人の迷惑顧みないというか、人の話を最後まで聞かないというか……。

 だが、エミリアがふっ飛ばした本棚の後ろから通路のような物が見えた。おそらく、これが隠し通路だろう。


「姫殿下……もう少し慎重に」

「結果オーライじゃ! ザッハ! 武装を許す、剣を取れ」


 呆れているマギルカに笑顔でサムズアップするエミリアはザッハに帯刀を命ずるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ