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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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何を言ってるの?

「……師匠、帰るよ」


 今なお突っ伏しているギルツにフィフィは帰ることを宣告すると、ご老体はガバッと上体を起こした。


(もう復活したんかい! 魔族ってすごいなぁ)


 私は変なところで感心してしまった。


「いやじゃ! 儂はここで儂の野望を作るのじゃ!」


 ギルツはその場で胡座をかいて座り込み、てこでも動かない素振りを見せる。


「ここは良い! 三食昼寝付きで、おまけに身の回りの世話は全部してくれるし、小言を言う奴もおらん! さらに、要望を言えば何でも用意してくれる。予算だって使いたい放題! まさに、パラダイスじゃ!」


 両腕を広げ、ものすごく夢見るような恍惚とした表情で語るお爺さん。


(うん、だめだこれ。そのうち相手の口車に乗って取り返しのつかないもの作り出すぞ、この爺)


「ちょっと良いですか?」


 私は黙っていられなくて師弟の会話に入り込むと、ギルツがこちらを見て不思議そうに首を傾げた。


「誰じゃい、このちんちくりんは? 使用人なら茶ぐほぉぉぉ!」


「ちんちく……」


 さっき自己紹介したのにもう忘れられているショックとちんちくりん呼ばわりされて心が抉られ、怯む私を支えるテュッテ。と、同時にふてぶてしい態度で地面に座っていたギルツの顔面を踏みつけるフィフィ。


「……アルディア王国公爵令嬢、メアリィ・レガリヤ様。その自分の欲望を満たすだけの腐った脳味噌に叩き込め」


 師匠の顔をグリグリと足を動かし踏みつける弟子。無表情がかえって怖いかもしれない。今まで冷静で落ち着いている雰囲気のフィフィだっただけに師匠に対する辛辣な態度に私は先程のショックを忘れてしまうくらいだった。


「……それで、メアリィ様。何か?」


 そのままの状態で話を進めてくるフィフィ。


「ん、ああ、えっと。ここは良いと言ってたけど、ギルツさん。あなたの世話をしている連中のこと分かっているのですか? そもそも、どうしてこうなったのです?」


 私は根本的なことを聞きたくて話しかけたのだが、思わぬ脱線で忘れてしまいそうだった。


「はあ? 連中のこと? そんなの全く知らんに決まっとるじゃろう。理想の仕事場を提供してくれる、それで十分じゃ。バカか小娘」


 フィフィが足をどけ、その足の跡を顔面に残したギルツが心底呆れたような顔で私に言って、鼻で笑ってきた。言っていることは間抜けすぎるのに、どうしてそんなに人を小馬鹿にした態度で堂々と言えるのか理解不能である。


(どうしよう……とってもぶっ叩きたくなってきた)


 フルフル震える私の拳が剣を握り、その手をテュッテが握りしめ、「ここは堪えて」と小声で何度も私に言ってくる。フィフィが好戦的な態度になってしまう理由が何となく分かってしまった瞬間であった。こんなのと毎日いたら、我慢の限界もくるってものだ。そして、吹っ切れたのだろう、フィフィは。

 よく見ると、反対側ではスフィアが同様に目に光を失って今にも刀を抜こうとしているサフィナを必死に止めていた。ブツブツと何かを呟いているサフィナだが、何だか怖くて私の方が素に戻ってしまう。


「ウォッホン、言い過ぎた。すまん」


 さすがのギルツもサフィナのただならぬ殺気に当てられ、萎縮したのかすぐさま謝ってきた。


「じゃが、先にも言ったように儂は連中のことは興味がなかったので何も知らん。ずっと引きこもって研究に没頭しておったので現状、どうなっておるのかさっぱりじゃ!」


「あ、そうですか。それで、誰の紹介で連中と? それとも向こうから直に接触してきたのですか」


 私はあまり期待しないで、取調べめいたことを聞き続けていく。


「そんなの決まっておろう。ここの町長、ダブザルの紹介と依頼じゃよ」


 ギルツのあっけらかんとした爆弾発言に一同、凍り付いた。


(予想はしていた。していたけど、やっぱり町長もグルだったのか~。ハッ! 王子達、夕食会に行っているんだった。大丈夫なのかしら)


 敵陣へ乗り込んでしまっている王子達が心配になってきて、私はどうしようかと焦り始める。


「……師匠。何を作っていた」


 いつの間にか机に移動していたフィフィが置いてあった資料に目を通している。


「ん? 何じゃったっけかなぁ。儂にとっては二の次じゃったんで……あぁ、そうそう、『超大型殲滅魔工兵器』じゃ!」


 いとも簡単にそんなデンジャラスなワードを言うギルツに私は気が遠くなりそうな気分で天を仰いだ。


(神様。こういう人に才能を与えちゃダメだと思います)


「じゃが、実の所アレは儂の野望を実現させるための言わば試作品でな。正直な話未完成品なのじゃよ。起動だってせんじゃろう。何てったって大きすぎてアレを動かす動力源の魔力がないのじゃよ。それに、早くしろとうるさいのでそこら辺は適当に作っておいたしな。ま、ダブザルの奴には言うとらんし、製作中に所々の部分テストは見せてちゃんと機能しているように見せかけてはいたが、全部組み込んだあんな大きいのをこっそりテストなんぞできんし、納品したのもつい先月辺りじゃったからまだまだ気づかんじゃろうよ。がはははっ!」


 高笑いをするギルツ。


(未完成品を納品するってそりゃ詐欺でしょ。まぁ、この場合は良かったのかしら?)


「あのぉ……そんな兵器を作ってダブザル町長は何をしようとしていたのでしょうか? 町の治安維持ですか?」


 元に戻ったサフィナが会話に加わってきた。


「そんなもん知らん! ついでにあれを治安維持に出したら、それこそ町が崩壊するぞ」


 ギルツの言い草に再び天を仰ぐ私。


「えっとぉ、じゃあ、何のために」


「決まっているだろう。港町を制圧した後、王都に向かわせるためさ」


 私のぼやきに全く予期していない若い男性の声が答えてきて、一同、緊張が走る。

 私はテュッテを庇うようにしてドアの方を見ると、そこには司祭のような服を着た若者が楽しげに立っていた。


(くっ、ギルツさんのインパクトにつられて長居しすぎてしまった。それにしても、全く気配を感じ取れなかっただなんて、何、この司祭のような人?)


 司祭のようなと言っているのは私が知っているアルディア王国にいる司祭と少し服装が違っていたからだ。それに、厳粛なイメージの司祭にしては随分若いし、その態度には品がなかったからでもある。


「誰?」


「自己紹介をするつもりはないし、キミらにも求めていないよ。僕らの存在は云わば陰だから、名前なんて不要。そして、キミらもここで会ったが最後だし……ね」


 にっこりと笑う若者に友好の意志は感じられない。あるのは、敵意だけだ。


(まぁ、是が非でもお名前を聞いてお友達になりたいとは思わないので、名乗らないならそのままでいいか)


「おっと、せっかく話の途中なんだ。野暮なことはするなよ」


 そう言うと、若者は懐から出したダガーより少し長めの剣を一瞬の間に引き抜き、警戒していたのだろう扉近くにいたスフィアに向けた。


「さてと、話が逸れちゃったね。僕も聞きたいなぁ、アレが未完成品だとかなんとかって耳にしたんだけど。いけないな、仕事はちゃんとしてくれないと」


 スフィアに向けられた剣が彼女にジリジリと迫っていく。


「やめんか! その子は儂の野望を叶える大事な素体となる子じゃぞ! 丁重に扱かわんか、小僧!」


 かっこいいこと言っているように見えてその実、何か恐ろしいことをさらりと言ってのけたギルツに私は「おい、こら爺」とツッコミを入れたい衝動を抑える。

 が、ある意味、私よりも抑えられなかったのは若者の方だった。


「ハハハ、どいつもこいつも僕に指図しやがって。僕に指示していいのはねぇ……我が主とあの方だけなんだよ……薄汚い魔族風情が僕に指図するんじゃねぇぇぇっ!」


 先程までのヘラヘラした笑顔が消え、若者はギルツへと突進してきた。その時、後ろにいたフィフィがギルツを押しのけ、自分が身代わりになるように出てくるのが見える。なんだかんだ言って師匠が大事な弟子でちょっとホッとする私。


 ガキィィィン!


 剣と私の剣がぶつかる音が部屋に響き渡った。

 そして、何も言わなくても分かっているように、反対方向からサフィナが若者めがけて抜刀する。

 だが、間一髪のところで若者は後ろへ跳躍し、飛び跳ねながら、私達から距離をとっていった。後ろに下がったおかげで彼は部屋の外へ出てしまう。


(あれは、司祭がとるような動きじゃないわ。あ、分かった。あの人司祭を装って人を騙しているチンピラね。黒ずくめの仲間かしら)


 この時の私は今までモンスターなどの人外と戦うことが多かったため、人族に対する力量の差異がうまく計れなくなっていた。ぶっちゃけ、皆同じ力量にしか見えていなかったのだ。最初の一撃だって、ザッハと同じくらいかな程度にしか思っていない。実際は全然違うらしいのだが……。

 私はこの隙をついて、部屋から出て、広い空間に出た。部屋の中では狭く、皆がいて不利だ。これで、他の人も広い場所に出られて逃げやすい。最悪、ドアを閉めて守ることもできる。


「ひゅぅぅぅ! 驚いた。キミのような可憐な少女が僕の剣を受け止めるなんてね」


 おどけながらもう一本の剣を抜く若者。


(双剣使いか……双剣と言えば前世のゲームで射程距離が短くて、大型モンスターに全然届かなくって逆ギレしてたな~)


 などと、どうでも良いことを今思い出す私。


「白銀……そういえば、アルディア王国の王子殿下の取り巻きにいたね、そんな子。まさか、キミだったとは」


「それが何か……」


 何かしゃべり始めたので私はラッキーと思いつつ、話を延ばして皆をどう安全に逃がそうか考え始めてしまった。


「ククク、まさか、足止めの為に催した夕食会が、逆にダブザルの足止めになってしまうなんてね。商会にあの魔女が来たと報告を受けても王子殿下の接待で動けやしない。裏目に出たのは傑作だよ。そういえばキミ、高熱を出して寝込んでいるんじゃなかったっけ? あれはキミを動きやすくするための嘘だったんだ」


 くつくつと笑い出す若者を話半分聞きながら警戒し、私は後ろを気にすると、向こうではあのお爺さんが空気も読まずスフィアに傷でもついていないかと調べて皆から引き剥がされているのがチラリと見える。


(何やってるのよ、あの爺さん! 空気読め!)


「そうだ、高熱と言えば、襲撃の際、撃退したのはキミだってね。報告を受けた時は何言ってるんだこいつはと斬り捨てたけど。今ので本当だったと確信したよ、僕の一撃を止められる奴なんてそうそういないから」


「そう……」


 皆の方が気になって彼の話は半分聞いてるだけになり、よく分かってないのに相づちを打ってしまう私。


「商会に来た時も隠れて見てたよ。まさか、こうも早く来るとは思ってなくて少し焦ったんだ。キミが連れてきた狐の獣人、なんでもアイテムの中身を見ることができるらしいね。商会で披露されたときは信じられなかった。だが、それで合点がいったよ。ダブザルは拘束アイテムが一つ足りないと言っていた。持って行ったのはキミか。ダブザルの邪魔が入るのを見越していたのかな」


「……さぁ」


 何かどこかで聞いたような言い回しが耳に入ったが、あの爺さん、まだ懲りずになんかしようとしているのがチラチラ見えて、こちらの話はほとんどスルーして誤魔化す。


「あの魔女の隣にキミがいたのをあの時捨て置いたのは失敗だった。キミ、着いたと同時にどうでも良いと捨て置いたあの画家に真っ先に目を付けたね。ここの位置が分かったのと何か関係があるのかい?」


「ギルツさんの手紙よ」


 もう話半分しか聞いてなくて、ここの位置が分かったという言葉だけに反応して正直に答える私。


「そうか、あの画家から手紙を……確か彼はアルディア王国では貴族に高く買い取ってもらえる有名な画家だったね。キミは貴族のようだから、もしかしてすでに面識があったのか。魔女との繋がりはなくてもキミにはあった。

 ハハハッ、そうか! もうその時点で僕らはアウトだったんだね。キミはいつから動いていたんだい。こうなってくると何もかも怪しく思えてくるよ。キミは画家を通して、現状を理解して利用できると逆手にとってギルツと連絡を取ってたのか。だからギルツが僕らにメイドとか訳の分からない要望を言ってきたのか。キミの思い通りに動かすために、そして証拠を出させるために。

 キミらは今回の件の解決に姫の客人を装ってあの魔女が密かに呼んだのかな? どうやら僕らはあの魔女ばかり警戒しすぎたようだ」


「……はい?」


 何だか、話がおかしなところへいっているような気がして私は彼の話をまじめに聞くことにした。


「フフッ、まんまと嵌められた僕らはあっという間に尻尾を見せてしまった。そしてキミはあの魔女すら利用して周りを焦らせ、慌ててギルツをここへ移動させるように仕向けた。ギルツは画家を経由して手紙を送り、僕は魔女によって足止めをくい、キミは悠々とギルツの元へ、つまり今まで隠していた隠れ家まであっさりと来た……というわけだ。

 ハハハッ! こうなってくると、先程の未完成の話もキミの入れ知恵かな。恐ろしい……警戒すべきは魔女や王子じゃなくキミの方だったんだ」


「……えっと、何を言ってるの?」


 話が見えなくて私は首を傾げてしまう。


「フフフッ、そうやって『知らぬ振り』をしてどれだけの者を後ろで操っていたのかな。キミは危険だ。あの方の障害となる。ここで葬らせてもらうよ」


(いやいやいや、何言ってるのか全然分かんないんだけど。これは『素』です。演技でもなんでもなく百パーセント『素』って、何かこんなこと前にもあったような)


「来い! 神獣!」


 若者は懐から宝石入れのような蓋の閉まった豪奢で頑丈そうな小さな箱を取り出すとそう叫んだ。

 すると、地下にあった扉の一つがキ~と音を立て開き、その中から巨大な件の豹がものすごぉ~く気怠そうに欠伸をしながら現れたのであった。緊張感ゼロである。


(おい、神獣様なんだから、もうちょっとそれっぽく登場しなさいよ。何、器用に前足で扉開けてるの。あと、その今の今まで寝てました感醸し出すのやめてぇぇぇ)


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