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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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感動の師弟再会?

 中にこっそり侵入し、積まれた木箱の陰に隠れて辺りの様子を伺ってみる。辺りは私が想像していた以上に慌ただしく、周りを気にするような余裕のある人間は見あたらないくらい大忙しのようだった。

 外から見て分かっていたが、ここは大きな倉庫らしい。いろいろな物が次々と運び込まれてくる。


「……あっちは、武器一式といった感じ。あっちは何かを作る建材……」


 様子を伺っていたフィフィが説明してくる。運び込まれてくる箱には慌てていたのか蓋が閉まっておらず、そこから剣や槍が見え隠れしているものがあった。それが倉庫の一カ所に固められるように置かれたということはその周りにある箱もおそらく武器関係なのだろう。

 他にも保存食、衣料品、生活用品、何かを建てるための建材などなどいろんな物が次々と運び込まれてくる。


「あの箱全部に武器が? それに建材もあんなに? 何かを建てて争いでもする気なのかしら?」


「どうなのでしょう? 品物は揃ってますが、それらを扱う人がいないように見受けられますが」


 私の感想にスフィアが周りをこっそり覗きながら言ってくる。予想以上に私達は見てはいけない物を見てしまった感が強くなってきて、私はここから速やかに立ち去りたい気分になってきた。

 と、慌ただしい中、例の黒ずくめの男達が数人、集まっているのが見えて、私はそいつらの会話に意識し、私の地獄耳が彼らの会話をとらえる。


「それで、裏口方面はどうだった?」


「誰もいなかった。だが、裏口を隠すために使用した魔法が解除されていた。おそらく、何者かが侵入しているのは確かだ」


(なるほど、あの魔法は連中が使用したのね。もしかしてギルツさんはそれを知らなかったから、普通に裏口から入ってこいとメモ書きしていたのかも)


「なに、あの魔法を解除されただと! どこの高等魔術師だ。まさか、あの魔女の手の者か」


 男が忌々しげに口にする魔女とはおそらくエリザベスのことだろう。ついでにあの魔法を解除するのは相当難しいらしい。その情報は聞かなかったことにする。


「タイミングが良すぎる。おそらくそう考えてもおかしくないだろう。見たところ外から解除されてそれほど経ってない。まだこの中にいる可能性が高い。裏口はもう使えないように罠を仕掛けておいた」


「くそっ、まさかこれほど早く動いてくるとは。隊長の命令が少しでも遅れていたら見つかってしまっていた」


「隊長は?」


「見つかって問題ない物資の馬車をわざと遅らせ、別行動させて魔女を釣っている。もしかしたら交戦中かもしれん」


「あの人は魔族を切り刻みたくてしょうがなかったからちょうど良い。それにあの魔女相手など、隊長にしか務まらん。だが、あの方から授かった神獣は置いてきてしまっているのに大丈夫なのか」


「そうはいっても、あの豹は隊長が授かった例のアイテムを持つ者の言うことしか聞かない」


 何やら男達が切羽詰まった状態で会話を繰り広げているみたいだ。そして、その会話の中に私にとって耳寄りの情報が飛び込み、さらに意識を集中させた。


(やっぱりあの豹って神獣だったんだ。しかも、ここにいるかもしれないわね。にしても、エリザベス様の方、結構デンジャラスな展開になっているようだわ。よかったぁぁぁ、あっちに残ってなくて)


「とにかく、今もまだ、魔女に気取られないよう回り道をしながら物資は例の商会からこちらに移され続けている。そちらに人員を割かないと陽動がばれてしまう。船の用意も急がせるしかない」


「なぜだ。なぜこうも急に商会との繋がりがばれた? 今まで順調だったのに、急になぜ?」


 男達が頭を抱え始める。


(それはあんた達が襲撃した時に使った拘束アイテムの中を覗けるフィフィと、事前に全ての商会を調べていたエリザベス様のせいだよ)


 悩める男達に私は心の中で正解を伝えてあげた。


「まさか、あの爺か! そういえばあの爺、いきなり計画遂行に画家を紹介しろだの、エミリア姫のメイドと交渉したいだの、訳の分からないふざけたことを言っていたが、勝手に動いてそこから漏れたとかっ!」


「いや、監視は常につけていた。奴が外に出たことなど一度もない。こっちが驚くほどの引き篭もりっぷりだったぞ」


「画家の方も事前に調べたり尾行したが魔女とのつながりは全く皆無だった。本当に只の一般魔族だ。偽造した別の商会を利用して交渉させ、監視もしていた。俺達に繋がる情報を手に入れることはできなかったはずだ」


(なるほど! 変なちぐはぐがあると思ったら、ギルツさんと連中は全く別々に動いていたのね。トヤさん完全に部外者じゃん。そして、ギルツさんが警戒していたのはあいつらだったんだ。それにしても、連中がエミリアではなくメイドを狙った理由がギルツさんのせいだったとは。許すまじ)


「だが、メイドの方は隊長からめんどいから攫って来いといきなり言われて失敗した。そこから何かしらの要因で繋がったとか……」


(おっ、正解に近いわよ! ていうか、攫わせたのギルツさんの指示じゃなかったんだ)


「くそっ! 結局あの爺絡みじゃないか!」


 何かに思い至ったのか一人の男が激高し始めると、どこかへ行こうと足を進める。


「おい、どこへ行く?」


「あの爺を問いつめる。お前は侵入者を探して殺せ! この場所をあの魔女に報せさせるわけにはいかない! 他の者は運搬と船の準備だ! 急げ、これ以上の失態など断じて許されない。アルディアの二の舞にでもなったら我々は隊長かあの方に……」


 そう言うと男達は別々の行動を起こし始めた。


(ちょうどいい、ギルツさんの所へ案内してもらえるならこっそりついていこう。あの慌てっぷりだと私達のことにも気がつかないかも)


 私は皆の方を見る。皆、思い思いの方を警戒し見ていたので、先程の男達の会話を聞いていた者はいないみたいだ。私が皆を見ているのに気がつき、全員の視線が私に集中する。そして、私は皆に「こっそりあの人についていくよ」とハンドサインで指示をした。


「「「「???」」」」


 当然と言っても良いように皆が首を傾げてくる。


(くっ、アニメとか映画で見た侵入した時に使うハンドサインをしてみようとカッコつけたのがかえって恥ずかしいことになってしまったわ。しかも私も詳しくないからめっちゃいい加減だし)


 なんでそんなあやふやな知識でそんなことをしようと思ったのか、それは場の空気と若さ故の過ちと言うことで、どうかひとつ。


(あ、こういうときは伝達魔法があったじゃない。くっ、今はもう遅いか、後にしよう)


「……あの人に見つからないようについていくわよ」


 恥ずかしさをかみ殺し、小声で指示を出すと、皆は無言で頷き、行動を開始する。

 男は騒がしく動き回る現場から少し離れた倉庫の隅へと移動していった。見た感じ何もないように思えるが、何やら壁を操作している所からしておそらく隠し扉があるのだろう。私は開いた時を見計らい襲撃をかけようとサフィナを見る。彼女も私の視線に気がつきこちらを見てきた。

 そして、ついつい場の雰囲気に呑まれてまたやってしまう意味不明なハンドサイン。だが、今度は状況を理解していたのか、何となく私の意図していることが伝わってくれてサフィナが頷いた。


(あ、何か、ちょっと嬉しい。今度、自分達でオリジナルのハンドサイン考えようかしら)


 などと、思いに耽っていると、重い音とともに男の前の床がスライドして地下へと続く階段が見える。と、同時に私とサフィナが示し合わせたように左右から無言で襲撃をかけた。


「!」


 焦っており、さらにイライラが募っていたのか男はいきなりの襲撃に判断が遅れ、あっけなく両側からきた私達に対処できず沈められるのであった。

 開いた地下へと続く階段を慎重に降りていくと、幸いなことに見張りはいなかった。私は沈めた男をどうしようかと悩んでいると、スフィアとフィフィが軽々と言った感じで男を下まで運んでくる。


(やっぱ、獣人も私達とは基本的に体力が違うのね)


 さらにスフィアは相手が持っていたロープを使って意外にも綺麗に拘束していった。


「随分と手慣れてるのね」


「捕まえた姫様をエリザベス様にお渡しするため、逃げないようによくやってますので」


 思わず私が聞くと、サラリと笑顔で答えるスフィア。


(ほんと、この国の姫の扱いが雑すぎて、何かエミリアが可哀想になってきたわ。まぁ、自業自得なんだろうけどね)


 私は周りの安全を確認する。慌ただしい上に比べてここは静かなものだ。そして、閑散としている。皆上にかり出されているらしい。それだけ切羽詰まっているのだろう。チャンスと言えばチャンスだ。

 辺りは地下の割に広いスペースが作られており、それほど複雑な構造ではないらしい。地下倉庫と言っても良い大きな場所を中心に部屋が数個あるといった感じだろうか。

 ハンドサインはおいといて、サフィナとは今のうちに伝達魔法の契約をしておくことにした。魔法陣を地面に描き、二人で契約する。


『どうかな?』


『はい、聞こえます』


 とりあえず準備オッケーということで探索の開始だ。


(さて、ここにギルツさんとあの豹がいるとしたら、どこかしらね。呼んでみるというのは危険極まりないわ)


 こんな所で大声上げたら響くし、誰が出てくるか分かったものじゃない。私はどうしたものかと思案していると、フィフィが私達の前へと進み出てきた。


「……師匠の臭いがする。こっち」


 さすがは獣人と言っていいのか、鼻が利くようだ。これといって他に案がないので私達は周りを警戒しつつフィフィに付いていくことにする。

 程なくしてフィフィは一つのドアの前で立ち止まった。どうやらここが目的地のようみたいだ。

 ドアの向こうで何者かが待ちかまえているかもしれないので、慎重になる私とサフィナ。


(くっ、こんなことなら前世で呼んだ小説とかアニメで出てくる探知魔法とか覚えておけば良かった。まぁ、この世界にあるかどうか分からないけど……でもなぁ、そういったとても便利な魔法って大抵階級が高くて覚えるとまずいような気がするのよね。もしくは習得が難しいとか)


 私は今までの失敗の反省からあまりみんなが話題にしない、授業で習わない魔法を覚えることは避けてきていた。が、こういった時の便利さを考えるととても後悔する。


「……大丈夫、この部屋には一人分の臭いしかしない」


「そうですね、音も気配も一人しかしません」


 私達の警戒を察したのか、獣人二人の羨ましい生まれ持った性能に私は全幅の信頼を寄せて、扉を開けることにした。


 ギギギィ。


 幸いなことに鍵はかかっていなかった。が、あまり使われていなかったのか、ドアと壁をつなげている部分が錆びつき軋み音が鳴る。それに気が付き、中で誰かが動いた。


「なんじゃい! 急に移動させたと思ったらほったらかしにしおって! お茶の一つもないんかい!」


 いきなり扉に向かって怒声をあげてくる年老いた魔族のご老人がそこにいた。そして、開口一番の台詞で私はだいたいこの老人の性格が把握できたかもしれないと思った。

 見た感じ、頑固そうと言うか、わがままそうな老人だ。世話する人の気苦労が心配になってくる。


「ん? 誰じゃい、お前は? 見ない顔じゃな」


 入ってきた相手が私だと気が付き、いぶかしげにこちらを見てくるふてぶてしい態度のご老人。


「新しい使用人か? なら、茶の用意を頼むぞ! 儂は研究に忙しいんじゃ」


 そう言って興味をなくしたのか私から背中を向けて机に向かうお爺さん。私が呆気にとられていると、私の横からすり抜けるように部屋へと入るフィフィに、私は何か言おうとして、絶句した。

 彼女は相変わらずの無表情だが、その無表情が冷徹のように冷め切っているように見えていたからだ。


「……見つけた、師匠」


 ボソッとした声なのに、その声を後ろから聞いた師匠ことギルツがビクッと体を跳ねさせたのを私は見逃さない。

 ギルツは飛び上がるように席を立ち、振り返ってこちらを見てくる。先程とは打って変わって冷や汗ダラダラであった。


「フィ、フィフィ……な、なぜここに。探すなと書き置きをしておいたじゃろう」


「……いろいろあって。師匠を放置できる状態じゃなくなった」


 なぜか両の拳を握りポキポキと鳴らしながら近づいていくフィフィから離れようと下がっていくご老人。何かこの師弟の上下関係が分かったような気がする。一発ぶん殴るって本気だったようだ。


「こ、これにはいろいろとあってじゃな、その、お前には分からんじゃろうが」


「言い訳無用ッ!」


「ごほアァァァッ!」


 珍しくフィフィの大きな声を聞いてびっくりする私達。さらに、その言葉とともに繰り出された右拳からのボディを突き上げるアッパーが炸裂し、ギルツの体がくの字に折れ曲がって宙を飛んだ。


(見事に決まったぁぁぁ! いきなり容赦ないわね。もしかして彼女って怒らせると怖いタイプ?)


 地面に突っ伏しピクピクしているレリレックス王国最高の魔工技師。威厳も尊厳もあったもんじゃない。


「……め、迷惑かけて……すみま、せん、でし、た」


 ピクピクしながらもそう言ってきたギルツにフィフィは満足なのか、いつもの無表情に戻って、こちらへと戻ってくる。


(えっと、これはなに? 後は私に任せたということでオッケーなのかしら? 数年ぶりの師弟の感動の再会はないの? ないよね、あれじゃあ)


 とはいえ、私も正直ギルツに用があったわけではないので、さてどうしたものかと思案するが、そもそも、ここでのんびりしている時間もなく、とりあえず彼をここから引っ張り出すことにした。


「え、え~と、魔工技師のギルツさんでよろしいでしょうか? 私、メアリィ・レガリヤと申します。いろいろと事情もありましょうが、とりあえず、ここから出て、いろいろお聞きしたいことが」


 私が声をかけると、ギルツはさっきまでピクピクしていたのにもう復活し、そして、何かを凝視していた。

 言わずもがな、私の後ろに控えていたメイドの一人、スフィアである。目が合ってしまったのかスフィアが息を飲む音が聞こえてきた。


「おぉぉぉっ! スケッチ通りの理想の猫耳じゃあぁぁぁっ!」


 先程まで突っ伏していた老人とは思えないスピードと迫力で私を押し退けスフィアに迫っていくご老人。


(おいこら、私の話を聞けよ、お爺さん)


 押しのけられて少々イラッとする心の狭い私。


「おおおおおお、良いぞ、良いぞ! ちょっと肉付きが物足りないがそこはこちらで調整して、ええい、トヤはどうした! 奴にデザインさせんと!」


 一人興奮し、スフィアをジロジロ観察し、さらには耳や尻尾を撫で回すお爺さん。もはや端から見たら、興奮した只の変態爺だ。あまりの出来事にスフィアが涙目で思考停止し固まってしまっている。


「……チッ、あの程度では懲りないか。サフィナさん、お願い」


「え、あ、はい……あの、すみません!」


 事前にサフィナと相談していたのかフィフィがサフィナにお願いすると、彼女は躊躇しながらも持っていた刀の柄の部分でギルツの横っ腹を突いた。結構、力を込めて……。


「ごフッ!」


 そして、再び床に突っ伏すご老人。今度は効いた様なのかすぐには動けなくなってしまっていた。


(なんだかな~。こんなことしてて良いんだろうか、私達……)


 緊張感ゼロの現場に私は天を仰ぎ見、人の話を聞かないこの老人をどうしたものかと思い悩むのであった。


【宣伝】コミックウォーカー様よりコミカライズ連載中です。ご興味のある方はぜひメアリィ様の可愛さをご堪能くださいませ。またGCノベルズ様では書籍が1~2巻まで販売中です。書籍版はWEB版とは話の内容が異なる箇所や追加した部分もございますのでぜひよろしくお願いいたします。

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