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やらかしました、リターン

ブックマークありがとうございます。

 従者を引き連れ、私は外にでると、豪奢な馬車が玄関に止まっていて、中から従者ではない少女が、まず出てきた。私は彼女を見て思わず凝視してしまう。


(た、縦ロール!金髪縦ロールだとぉぉぉっ!)


 そう、出てきた少女は蒼色を下地に黒色のレースをあしらったドレスに身を包み、フワッフワッと顔を挟むように両サイドがロールした金糸の髪をなびかせていた。


「…コホンッ…」


 空想だと思っていた物体に遭遇した私が固まっていると、後ろでテュッテが軽く咳払いをする。

おかげで正気を取り戻した私は、馬車を降りこちらを見ている縦ロール嬢にスカートを摘み、軽く礼をする。


「あれが、マギルカだ」


 小さな声で近くに控えていたザッハが教えてくれた。


(なんと、噂のご令嬢は金髪縦ロールだったのか!)


 続いて、馬車の中から優雅に金髪をかきあげて、少年が姿を現す。

もっか私の頭痛の種、アルディア王国、第一王子、レイフォース殿下だ。私が、最上級の礼を行うと、続いて後ろの者達も礼をする。


(私だってだいぶ成長したのよ!もう緊張なんてしないわ、レガリヤ家の令嬢としてビシッと言って…)


「よ、ようこそ、レガリヤ家へ、殿下。わざわざ殿下がお越しくださらなくとも、お、お呼びだてしていただければぁ…わ、私が赴きましたのに」


(だめだったぁぁぁ!緊張して、どもってしまったぁぁぁ!私ってホント本番に弱いわね)


 バツが悪そうに私は俯いてしまうと、そんな私を何か愛らしいモノを眺めるように王子は目を細め、笑顔を作っていた。


「いや、僕が我が儘を言ってしまったのだ。迷惑だったかな」


「そんな…滅相もございません。ただ、急なことで最高のおもてなしができず心苦しく思っております。もっと早くご連絡いただければよろしかったのですが」


「気にすることはないよ」


 さりげなく釘をさしておいたのに、爽やかな笑顔でスルーされた。


(もしかして王子はKYなのか!KY王子なのか!)


「立ち話もなんですので、どうぞ、こちらへ」


 私はこの緊張の空気に堪えられず、侍女達に後は任せたと、王子を案内させた。

屋敷内でもっとも豪奢な客間に王子を案内させ、彼がソファーに座るのを見計らって、私は向かいのソファーに座る。

気づけば、ザッハはソファーの後ろに立ったままだった。


(あれ?私一人だけなの!一緒に座ってよ!)


 何だか土壇場で裏切られた心境になって私は思わず後ろを見てしまう。それに気がついた王子はザッハを見た。


「そういえば、キミがこの屋敷にいるとは驚きだったよ、ザッハ」


「恐れ入ります、殿下。たまたま居合わせておりましたので、ごあいさつをと思い、同行させていただきました」


 普段の彼とは思えない紳士な礼で答えるザッハに、私は驚きつつ、王子の方を見る。


「お二人はお知り合いだったのですか?」


「ああ、僕もクラウス卿から剣を教わっていてね。それに、将来僕に仕えるだろう宮廷騎士団長とは、早くから行動を共にしておかないと…最近、姿を見ないと思ったらこんな所にいたんだ」


「申し訳ございません。父上の命で、こちらのメアリィ様の鍛錬の相手をしておりました」


「へ~、彼女の相手を…」


 二人の会話を聞いていると、なぜか私はソワソワしてしまい、王子とザッハを交互に見てしまう。


「あ、あの…えっと…ところで、殿下は何用でこちらへ?事前に詳細をご連絡いただけなかったので…」


 私は話題を変えるべく、王子の用件を聞くことにした。


「そうだったね。フフッ、そんなに難しいことではないよ。僕がキミに会いたかった…ただそれだけだったんだけどね」


「私に…ですか…」


「ああ、レガリヤ卿から自慢の可愛い娘の事を毎日のように惚気られていてね、前々から気になっていたんだよ」


(おい、父よ。なんて事してくれてんの)


「神託の儀の時に会った時は心躍ったよ、想像以上に可愛らしく、そして可憐な白きお姫様だったからね」


「ブフッ!」


 サラッと金糸の前髪をかきあげて、私に涼やかな微笑をくらわせてくる王子に、私は思わず吹き出しそうになって、俯いてしまう。


(ダメだぁぁぁ!王子のこのキザったらしい言動が私には笑いのツボに入ってしまったみたい…)


「それに、王宮での事を聞いてね、可愛いお姫様が悲しみに濡れていないか心配でいてもたってもいられなかったんだ。僕がその雫を全て拭ってあげようと思ったから…」


そういうと、彼は俯いていて前に垂れ下がった私のサイドの髪を一房すくい上げて、まるでふき取るようにすいてみせる。


「お…おそれ…いりまふぅ…」


 私は俯いたまま、堪えるように言葉をつむぐ。だって、笑ってしまうから…

そして、私はごまかそうと用意されていた紅茶カップを持ち、一口飲もうとしたところで、その紅茶が異様に熱い事に気がついた。


「アツッ」


(やばッ、全然大丈夫なのに、条件反射で避けちゃった)


 私には私の体を害する物理攻撃が無効になっている、言うなればマグマに手を突っ込んでも熱いな~っ程度に思いながら、手には全く損傷がない状態になれるのだ。だから、紅茶が火傷する程度に熱くても慌てることはない。なのに、私は今までの常識が邪魔をして、ついつい反射的に動いてしまった。

 私の行動に驚いた周りが一斉に私を心配して動くなか、私は見つけてしまった。王子の後ろに控えていて、私のカップに向かって手をかざしていた人間がスッとその手を背に隠す様を、その手から魔力の残滓が見えた事を…


(マギルカ・フトゥルリカ…やっぱり犯人はあなただったのね)


 気がつくと、紅茶は全然熱くなかった。


(一瞬だけ熱を上げたのかしら、なんて器用でしょうもないことを)


 テュッテが私からカップを受け取ると、その手に何もないことを確認している中、私は王子の後ろで何食わぬ顔をしている縦ロール少女を見る。彼女的には私がカップを落としてドレスをダメにする失態まで想定していたのだろうか。


「申し訳ございませんが、少し席を外させていただきます。ザッハさん、少しの間、殿下のお相手をお願いいたします」


 そう言って、私はテュッテをつれて席を外すと、マギルカも王子に何かを耳打ちして、部屋の外へ出て行こうとする。大方、心配そうな王子に代わって私に怪我がないかを確認するためだろう、というのは彼女の建前で、本質は別にあると見て、私は部屋を出ると隣の部屋へと入る。思った通り、彼女もついてきた。


「マギルカさん…あれは冗談が過ぎるんじゃなくって?生活魔法で紅茶を温めましたね」


 マギルカが部屋に入り、テュッテが部屋のドアを閉めると、私は直球で彼女に問いただした。


「やはり、気づいていたのですか…侮れませんね、メアリィ様は」


「前回の件もあなたの仕業ね…」


「ええ、そうですわよ、これも殿下を想ってのことですわ」


「…にしては随分としょ~もないいやがらせをするのね?」


「しょ、しょうもない!殿下の前で辱めや失態を見せ続けてほとんどの令嬢が彼から離れていった恐ろしい所行のはずなのに…あなたという人は…」


(ん?王子を想って私を彼から遠ざけたかった…この展開はもしや?)


 私はお約束の甘くこっぱずかしい展開になると見越して言葉を続ける。


「王子から私を離したくて嫌がらせをしたって、あなたまさか、王子の事…ムフッ♪」


口元に手を添えて、ムフフっと邪推した顔で彼女を見ると、それに気がついた彼女は、


はぁ?っと呆れた顔をしたではないか。


「何ですかそれ、もしかして私が殿下に恋心でも抱いていると思ったのですか?」


「あら、違うの?」


「はあぁ~…あの言動さえなければ、いい線いってると思うのですけどね…」


(ん?あの言動?)


 ため息交じりに遠くを見るマギルカに、私は何となく親近感を抱き始めた。


「やめて欲しいですわ、アレ…笑いを堪えるのに私がどれだけ苦労しているか分かってらっしゃるのかしら…」


「同志ぃぃぃぃぃぃっ!」


 私は目をキラキラと輝かせながら、瞬間移動したかのようなスピードで彼女に近づき、その両手を自分の両手で包み込んで胸元に寄せる。


「え、あれ?今、あなた、あっちにいませんでした、あれ?」


「そんなことはどうでもいいの!私と同じ思考の人がいて私は救われたわ!私だけがおかしいんじゃなかったのね」


「人をおかしな人間の部類に入れないでくださらない!って、離しなさいよ、近い、近いですわッ!」


 私が詰め寄ると、なぜか顔を赤くして、しどろもどろになるマギルカ。残念だが、私は彼女の手を離し、離れる。


「はあ~ぁ…反則的な可愛さに…私までヤられるところでしたわ…」


 なにやら、ブツブツ言っているマギルカだったが、聞こえなかったので追求はしない。


(だって、今の私はとっても気分がいいからぁ~ッ!ついでにテュッテがドアの方へ移動していくけど気にしない、だって、気分がいいからぁ~ッ!)


「周りの皆は王子のアレにうっとりするから、私が異端なのかと心配していたけど、仲間がいてくれて嬉しいわ!やっぱり、あの歳でアレはこっぱずかしいわよね」


「そうそう、そうですわよね!もうちょっと歳を重ねてからじゃないと、あまりにもミスマッチすぎて、笑いしかこみ上げてこないですわよね」


 私の独白に今まで溜めていたのが今こそ解放されたのか、マギルカもつられてぶっちゃける。

と、そこでコンコンとドアを内側から叩く者がいた。私達はハッと我に返って、そちらにギギギッと軋ませる感じでゆっくりと頭を向ける。


「あ~、お取り込み中、申し訳ないのだが、本人の前でそれはちょっと…」


 そこにいたのは不味いタイミングでドアを開けてしまったと青ざめるテュッテとドアの前で顔を引きつらせたザッハ、そしてその後ろで完全に固まった王子がいた。


 私…再び、やらかしました!


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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