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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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到着です

 予想通りというかトヤは私達が来た商会からどんどん離れた方向へ私達を案内していく。


(くっ、これならいっそ、例の商会の所に戻ってしまってもうギルツさんは見つけてますよ的な展開になっていれば、エリザベス様の評価も落ちていたかもしれなかったわね)


 ままならぬ出来事に私は勝手に苦悩しながらそれでもトヤについていくのであった。

 ふと、歩いていて気になったのがそのルートである。なぜか表通りではなく裏通りを歩き、活気ある町から離れるように進んでいくのが何か怪しい。しかも、代わり映えしない道になっていくため自力で戻れる自信がなくなってきた。


「町からちょっと離れただけで随分と殺風景というか人気がなく入り組んだ場所に出てきたわね」


 私は辺りを見渡しながら誰に言うでもなく呟く。


「ここら一帯はもともと港町の一部でしたが、昔、エリザベス様の改革計画をダブザル様が実行した結果、現在の位置から利便性を損ない、住人が移動してしまったなれの果てですね。ほとんど廃墟、スラム街と言っても良いです」


 私の呟きにスフィアが答えてくれて納得はしたが、「そんな所に案内するってどうなの?」と疑問が浮かんでくる。


「じゃあ、こんな所にいる住人って……」


「そりゃあ、まぁ、訳ありな人た……ち」


 スフィアの答えに私が何を示唆しているのかそれに気がついたのか一番後ろを歩いていたイクス先生も周りを警戒し始めている。

 人気のない路地を歩く貧弱そうな男と数人の女性達、とくれば、とある方々には格好の獲物のようにも見える。私がそんなことを考えていると、案内のため先頭を歩くトヤの前に立ちはだかるように大男がわき道から出てきた。


「ふへへ、兄ちゃん。なかなか上玉つれてるじゃねえか。いっぱいいるんだからこちらにも分けてくれよ」


 やっぱりというかなんというか、絵に描いたようなゴロツキ達が現れ、ベタな展開へと発展していく。


「な、ななな、なんですか、あなた達は!」


 ものすごく焦っているトヤを見ると、どうにもグルのようには見えない。それに相手もトヤに対しての威圧がすごい。本当にお約束パターンに遭遇してしまったのかもしれない。


(まぁ、でも、今回はイクス先生もいるし、サフィナも武装しているし、私だって……あ、武装してないわ。でもまぁ、魔法があるから大丈夫よね。できたらこっちには来て欲しくないかな~。手加減とか難しいし)


 私がそんなことをポケ~と考えているうちに事態は動き出す。チンピラ達が「いただきだ!」と一斉に動きだして、なぜか私に向かってきた。


「何で皆して、私の方へ来るのよぉぉぉ!」


「それはもう、お嬢様が一番可愛くて、一番高く売れそうだからです」


「あらそうなの、嬉し……くないわぁぁぁっ!」


 後退していく私の横でテュッテが答えてくれたので、ついついツッコミをいれてしまう私。


「ファイヤー・ボール!」


 私は炎球を相手の足下に投げつけ炎が飛び散り、彼らの足を止めさせた。


「ま、魔術師か!」


 私が魔法を使えることを知って驚愕するチンピラ達。


(おい、なぜ私が魔法を使うとそんなに驚愕するの?)


 私が心の中でツッコミを入れているうちに事態は一気に片づいていく。彼らはイクス先生とサフィナに背中を見せていたのが運の尽き、その後、ボッコボコのボコにされたのは言うまでもなかった。




「咄嗟とはいえ見事な囮だった、レガリヤ。おかげで、連中は真っ先にお前を狙ったな。読み通りで事がすんなりいったぞ」


 チンピラどもを黙らせた後、余裕の状態でイクス先生が誉めてくれる。やはりと言っていいのか、その判断に些か疑問が浮かんだので、こちらにも聞いてみることにした。もしかしたら、戦術的な何かすばらしい理由があるに違いない。


「あの、何で私に群がると?」


「ん? ああ、武装もせずポケ~として一番間抜けそうな良い所のお嬢様ぽかったからな。咄嗟とはいえなかなか見事な演技だったぞ。まぁ、後は見た目的に一番高く売れそうなのがお前かな~と」


(戦術もへったくれもなかったぁぁぁ! しかも、最後の理由がテュッテとだだ被り! ま、まさか、あいつら、私が魔法を使った時驚愕してたのって……私が間抜けそうだったから? 確かに考え事はしてたけど、そ、そんなに間抜け面してなかった……はず、よ?)


 私は一人打ちひしがれる。


「あの、トヤさんは?」


 サフィナがキョロキョロと辺りを見渡すと彼の姿が見あたらない。まさか、逃げた。やはり、グルだったのかと思い、警戒する私の横でスフィアが呆れたような顔をしてある方向を指さした。


「ずっと見てましたけど勝手にアワアワして、勝手に壁に頭ぶつけて、勝手にそこでのびてますよ」


(うん、グルじゃない!)


 私はスフィアの証言の元、地面に突っ伏すお間抜けさんに判決を下す。


「しかし、随分と物騒な所に案内してきたな。それにこいつら、人族もいる。もしかして、ここは密航者達が集まりやすい場所か? さて、こいつらどうしたものか。放置しておくわけにもいかんし」


 イクス先生は辺りを警戒しながら、トヤが起きるとチンピラ連中を縛り上げたので、町内を見回っている兵の誰かを連れてきて欲しいと言う。ということは、その間、私達はここで待ちぼうけを食らうわけだ。


「でも、あまり時間をかけると日が暮れてしまいますよ。日が暮れるとここらは厄介なことになりませんか?」


 イクス先生の提案に私は口を挟んでしまった。とはいえ、夜になってこんな所を歩いていたら、狼がいるところに山羊が突っ込んでしまう気分である。ちなみに狼が私で山羊がゴロツキだったりする。


(何しでかすか分かったもんじゃないから、びくびくしてしまうよ)


「わ、分かりました。では、ギル爺さんから貰った地図を渡しておきます。何でも急に場所が移動したとかで、私もさっきこれを他の人からこっそり受け取って移動しようとしていたところでした」


 そう言うと、トヤは何か地図と走り書きのメモが書かれた紙を私に渡してきた。


「いいのですか?」


「手紙の内容は誰にも教えるなとか書いてありましたけど、ギル爺さんと交渉するモデルさんなのですから大丈夫でしょう。どうぞ持ってってください。この紙を持っていればギル爺さんに会わせてもらえますよ」


 何から何までいたせりつくせりなのだが、どうにも向こうは秘密裏に動いて欲しい気満々のような気がしてならない。


(こんな軽く、情報を漏らすわ他人に託すわの人に教えて大丈夫だったのかしら、ギルツさん。人選誤ってない? とはいえ、モデルというか絵が必要なんでしょ? そんな秘密裏に動くようなこととはとても思えないけど)


 楽観的なトヤを見ていると私も楽観的な思考になってしまい、了承してしまった。


「では、私はトヤ殿が戻ってくるまで、こいつらを見ている。レガリヤ達はその地図で先に行っていてくれ」


 イクス先生が指示を出し、私達はさらに別行動となった。

 トヤは皆に見送られて元来た場所を走って戻っていく。それを見送った後私は目的地に向かうことにした。ちなみに土地勘のない私達では分からないので地図はスフィアに持たせている。


(決して、私が方向音痴とかそういう疑惑があるからじゃないからね、じゃないからね)


 大事なことなので心の中で二回ほど言い訳しておく。しばらく歩いていると地図を見ながらスフィアが何気なく話してきた。


「これ……すっごく下手くそな地図と字ですね。ある意味暗号化しそうですよ」


「そうなの? ギルツさん直筆だってことらしいわよ」


 私はスフィアが見ている地図を見る。


(うん、子供だってもうちょっと綺麗に書くわよ。なんという汚い字と絵かしら、文と絵の才能無さそう)


「……ねぇ、大丈夫、スフィアさん。道、間違ってない?」


 私は心配になってスフィアに聞いてみた。


「大丈夫ですよ、ここら辺の地理は一応頭に入ってますので、それを照らし合わせて何とか」


 何とも頼もしいことを言ってくれるスフィアなのだが、何でこんな所の地理に覚えがあるのだろうか疑問に思ってしまう。


「ちなみに、何で地理に詳しいの?」


 知的好奇心に勝てず、聞いてしまう私。


「姫様が無断で外に出て騒ぎを起こした後、この町に帰ってきた時、待ちかまえていたエリザベス様のお仕置きから逃げようと、よくここら一帯に隠れるんです。それで、何度も連れ戻していたら覚えてしまいました」


 スフィアにとびっきりの笑顔で答えられ、私はその笑顔の後ろに潜む多大なる苦労にお疲れさまですと心の中で労うだけにしておくことにした。


「ふと思ったのですが……」


 先頭を歩くスフィアが地図を見ながら話を続けてきた。


「何かしら?」


「トヤさんって今日、この地図を受け取ったんですよね?」


「そうね」


 スフィアの質問に私はトヤとの会話を思い出しながら相づちを打つ。


「私達にその地図渡して、自分は目的地にどうたどり着くつもりだったのでしょう?」


 足を止め、こちらを見てくるスフィアに習って、私達も足を止めて、微妙な空気が広がっていった。あまりにも自然と何の躊躇もなく渡してきたので今の今まで疑問すら感じていなかったのが今更ながらに認識してしまって、冷や汗が出る。


「き、きっと暗記しているか、知っている場所だったんじゃないかしら?」


 私はほとんど願望に近い考えをスフィアに伝えて、自分を説得する。あの緊張感のないほんわかした笑顔の男を思い浮かべてみた。


(ないわ~。何も考えてなかったというのが濃厚だわ)


「だと良いのですが。もし、分からないとなると残ったイクス様もこちらにたどり着けなくなるのでは……」


 スフィアのさらなる事実に私は青ざめる。トヤがあまりに自信たっぷりに私に地図を渡したからおそらくイクス先生も行き先を把握しているのだろうと勝手に考えてしまったかもしれない。


「だ、大丈夫よ……たぶん……画家なんだから最悪、地図を写していたとかあるかも」


「だと良いんですけどね」


 私の言い訳を聞き、スフィアは再び歩き出す。私はトヤの用意周到さに期待しつつも、イクス先生という戦力を失った感を拭いさることはできなかった。




 しばらくグルグルと歩いていると、スフィアが立ち止まり再びこちらを向いてきた。


「ここですね?」


 なぜか疑問系になっているのは、私達の目の前に立ちはだかる行き止まりな壁のせいだろう。皆、ポカ~ンとした顔で壁を見ているが私はここが正解なのではないかとふんでいる。

 なぜなら、私の視界には壁の一部が少しぶれて見えるからだ。


(またもや発見、視界阻害魔法、もしくは幻覚魔法かしら。ほんと、何かを隠す時は皆これよね)


 分かってはいるものの、そこに魔法がかかってるからなどと言ったものならなんで分かったのか説明するのが非常にめんどくさい。というか、誤魔化して説得する自信がない。


(さて、どう誤魔化そうかしら……っていうか、入り口を隠すなんて何か怪しさ大爆発よね。行かない方が良いのかしら……)


 普通にどこかに隠れ住んでいるならともかく、わざわざ魔法まで使って場所の特定をされないようにしている厳重さに私は慎重になる。そうまでして最高の魔工技師は何をしているのか。その割にはあの口の軽く、慎重感ゼロのトヤを外に出していろいろやらせているし。なんだか、ちぐはぐさを感じ始めてきた。


(そもそも、これじゃあ、トヤさんだってここに来ても入れないんじゃないかしら? どうするつもりだったのお爺さん?)


 そこで、トヤの言葉にもう一つ引っかかるものを思い出した。


(そういえば彼、紙を持っていればどうのこうの言ってたわね。もしかして)


「スフィアさん、その地図の紙、壁につけてみてください」


「は? はい、こうですか?」


 私が急に訳の分からないことを言ってきて、いぶかしげながらもスフィアが言われたように壁に地図の紙をつけた。


 するとどうでしょう!



 何も起こらないではないか!


(くぉらぁぁぁ! くそ爺ぃぃぃ! どういうことよぉぉぉ!)


 自信たっぷりに言っちゃった手前、私は滅茶苦茶恥ずかしくなり、その恥ずかしさへの怒りを会ったこともないギルツにぶつけてみる。


「何も起きませんね?」


 サフィナも恐縮そうに言ってきたので、私はもう強攻策に打って出ることにした。


「ちょっとその地図貸して、私がやるわ」


 私はスフィアから地図を受け取るとそれを握り、視界がぶれる所の前までいく。


「…………」


 皆が注目する中、私は一度深呼吸をしさっきまでの恥ずかしさを落ち着かせる。

 そして、思いっきり紙を押しつけるように壁に叩きつけた。私の手が壁に触れた瞬間、パリ~ンと言う音が私にだけ聞こえてきて、壁に見えていた所が空洞と化し、向こうの風景が見える入り口へと変わるのであった。


「「「おぉぉぉ!」」」


 見ていた三人が感嘆の声を上げ、拍手までしている。


「すごいです、さすがはメアリィ様」


「なるほど、その紙は解除の魔法が込められていたのですね。私の時は位置がズレていて認識できなかったということでしょうか。さすが、メアリィ様、お見事です」


「びっくりしました。恥ずかしさのあまり八つ当たりで壁を破かぃっ……」


 実際、紙のおかげで解除したのではなく、私がスキルで無効化しただけだが、周りからは紙のおかげに見えただろう。サフィナ、スフィアの称賛はありがたく頂戴するとして、真実を知るテュッテのうっかり言い掛けて呑み込んだ言葉は聞きずてならないので、無言で彼女を二人から離すように引きずっていき、壁の隅で有無も言わさず無言で彼女をくすぐり始める私。めっちゃ高速でいろんな場所を……。


「ひあぁあ、お……おじょう、しゃま。すみ、しゅみま、あはは、ひゃめ、ひゃめてぇぇぇ」


 テュッテからしたらほとんど同時に二本の腕からでは到底できないだろう複数箇所のくすぐり攻撃に今まで見たこともないくらい笑い泣き状態である。まぁ、半分はテュッテの言う通り八つ当たりだったのだし、いつもお世話になっているのにちょっと失礼なことを言おうとした人に意地悪はいけないと思った。が、一番やめなければいけない理由は、何かテュッテをくすぐっていると、私の中の何か変な扉を開けそうだったのでこのくらいにしておかないといかんと私の理性が警告してくるからだった。なので、私は彼女を解放してあげる。


「あぶなぁ……テュッテのせいで変なものに目覚めそうだったわよ」


「だったら……はぁ、はぁ、しないで、ください……」


 私達が二人でじゃれている間、サフィナ達はそれよりも開いた入り口の方が気になってそちらを覗いていたので私達を見ていなかった。二人が再び私達を見た時には、自分の中で何か得体の知れない物を見つけてしまったかのように驚愕する私と私の高速くすぐり地獄の刑を受けたテュッテがぐったりしているところであった。

 とにかく、道は開けた。

 いよいよ最高の魔工技師、ギルツとのご対面だ。私は気持ちを切り替え、意気揚々と姿を現した入り口を目指すのであった。


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[気になる点] ところでいつメアリィの問題への遠慮さが消えたかな?それとも最後まで彼女が現実逃避するのですか?
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