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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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芸術とは何ぞや?


 そして今、私達は件の画家と一緒にお洒落なオープンカフェでお茶をしているところだった。


(え、何でそうなったかって? ふっ、私が慌てて道を曲がったらそこで立ち止まっていた彼と後ろからぶつかってしまっただけよ)


 ちなみにその際に彼は数メートル飛んで地面にダイブしてしまい、これはさすがに見て見ぬ振りはできないと救出に出てしまって、見つかったということになる。飛ばされた本人もぶつかる時後ろの私には気づいていなかったようで、自分に何が起きたか理解できていなかった。幸いなことに大きな怪我もなく、人通りが少なかったため目撃者もいない。

 目撃者になりえそうな私の後ろをついていったサフィナとスフィアだが、彼女達は私が曲がり角を曲がった瞬間、テュッテになぜか止められて、「あ、あれは?」と逆方向を指さされ、二人の意識は思わずそちらに向いてしまったため、衝突現場を見ておらず、二人は地面に突っ伏す彼しか見ていなかったそうだ。


(ほんと……優秀なメイドで私は助かるわ。っていうか、私が曲がり角を慌てて曲がろうとしたとき、「やらかす」と体が勝手に動いたってどういうことか後でテュッテと話し合う必要がありそうだけどね)


 まぁ、そんなこんなで彼を救出していたら必然的に私の後ろにいるスフィアに彼は気づくというものだ。そんでこの画家様はなし崩しに、お話でもと言うわけでここにいるってわけ……。


(私、尾行には向いてないわね)


 一人心の中で失笑する私はおいて、画家がさっきからスフィアに向かって猛烈アピールをしていた。その画家は『トヤ』と言うらしく、聞けば結構有名な画家のようだ。いろいろ作品を出展させては高値で買い取られているらしい。私としてはへ~としか思わないが、訳も分からず巻き込まれ、今もなおモデルをお願いされているスフィアはたまったもんじゃないだろう。時折、こちらを見て、何とかしてくれと目で訴えてくるのがよく分かる。


(ほんと、ごめんね、私のわがままにつき合ってもらって……さて、そろそろ戻っても向こうですべきことは終わってるかしら)


 私は注文したお茶を飲み干し、お開きにすべく話に割り込むことにする。


「それでですね、私も新しい画風、作風を模索しておりまして、何かないか、斬新なものはないかっと部屋に閉じこもり、描いては捨てを繰り返して、ついに、新境地にたどり着いたのです!」


 興奮しながら言うトヤは自分が描いただろうスケッチブックのような紙の束をテーブルに置き、私達に見せてきた。お断りしようとした私だが、ついつい興味の方が上回ってしまって、言葉を呑み込みそちらを見てしまう。


 そして、絶句した。


 そこには一人のうら若き魔族の女性が描かれていた。かなり薄着の格好であることもさることながら、それ以上に絶句したのはその絵そのものだ。

 モデルの彼女はこれといったポーズを取っていない、ただ棒立ちでどこかの風景もなかった。その代わり、そこにあるのはびっしりつまった彼女の細部の絵である。全体像の彼女の周りに所狭しと描かれた体のパーツ絵。指やら、爪、瞳、耳、髪の生え際、脇、踝、角の形状などなど外面の全てがパーツに分けられ事細かく描かれ詰まっていたのだ。


(一種のホラーだよ、これ。素朴で人の良さそうな顔して、何があったらこんな境地に達したのあんたの中で)


 唖然としている横で座っていたサフィナが気絶寸前で上体がフラフラしているところをテュッテが慌てて支えている。

 そして、そのモデルにと言われていたスフィアはどん引き通り越して顔面蒼白だった。


「どうですか! 私の新しい作品!」


 ものすごく嬉しそうに聞いてくるトヤに私は笑顔が引きつる。


(本人を前にホラーだよ、怖いよ、とは言えないわよね)


「こ、個性的ですね。私、芸術には疎くて、うふふふ」


 公爵令嬢としてちょっとは芸術関係も学んではきたがこれは、私の中では斬新を通り越している。スフィアもドン引きしているのでこの国でも一般的な感性ではないと信じたい。エミリアあたりが観たらどう反応するか甚だ疑問だが……。


「はぁ、だめですか……ギル爺さんは大絶賛だったのになぁ……」


「ギル爺さん?」


 私の反応にトヤは受け入れてもらっていないことを知るとがっくりと肩を落として呟いた。が、私にはとっても気になるワードがそこに含まれていたので、思わず聞き返してしまう。


「え? あ、ご存じですか? ギルツというお爺さんで私はそういう界隈には疎いんで知りませんが結構有名な魔工技師らしいんですよ。何か画家が必要だとかで巡り巡って私の所に話がきました」


 笑顔で答えるトヤを私達は呆然と見、そして、お互いを見合っていた。


(なんと言うことでしょう。ひょんなところでギルツさんの情報をゲットしてしまったわ。ハッ! しまった。これではエリザベス様の私の評価が上がってしまうじゃないのよ。いやまって、まだギルツさんが今回の事件に関わっているという確証はないわ。全然関係ないかもしれないじゃない)


 心の中で問答しながらも、とはいえ、このまま聞かなかったことにするわけにはいかない立場なので、私は話を進めなくてはいけなくなった。


「あの、お伺いしたいのですが、あなたの絵をそのギルツさんが欲しているのですか?」


「そうですね。お見せした私の作品を見てこれじゃあぁぁぁと唸っておりました。とはいえ、私の描くモデルの全体像と細部画を分けて描いて欲しいと言っていましたね。作品としては中途半端で私としては釈然としませんでしたが、私のこの新しい作品に興味を持っていただけたのが嬉しかったのでお受けしました。で、モデルの要望は獣人の若いメイドさんというわけ……あっ、これは内緒だったっけ?」


 言い終わってから気がついたように言うトヤ。


(いや、もう遅いでしょ。もしかしてうっかりさんなのかしら?)


「それで、こちらのスフィアさんを?」


 口が軽そうだったので私は話を止めずに聞くことにする。何となくだが話しているうちにポロポロと情報がこぼれ落ちてきそうだったからだ。


「はい! 町でお姿をお見受けしてこれだぁぁぁと思わずスケッチしてギル爺さんに見せたところ、これじゃあぁぁぁと喜んでいました!」


 嬉しそうにいうトヤとは裏腹にスフィアの尻尾がブワッと逆立ち、身震いしながら自分で自分の体をギュッとつかんでしまっている。


(うん、恐怖だね、狂気だね。心中お察しします。というか、爺さん、弟子放っといて何やってるのよ。とはいえ、これは直接会ってみるしかないわね)


「失礼ですが、お話を聞きますと、あなたご自身の依頼ではなく、そのギルツさんの依頼であなたは動いているようですよね。あなたはスケッチをし彼に見せて、それを了承され、彼の依頼のもとスフィアさんを誘っているように見受けられますが」


「へ? あ、はい、そうなりますね」


 急に話が変わってトヤも戸惑いながら頷いてくる。


「では、その基本的なモデル代、その間の時間拘束費、そして、彼女の仕事の時間を削るとなるとそれを埋め合わせる何かしらの計らい、もしくは追加料金、並びに日取りなどの時間交渉など、あなたが決定権をお持ちなのですか?」


「へ? い、いえ、そう言われると私には……爺さんと相談しないと」


「でしたら、そういった交渉のお話は依頼者とするのが筋と言うものではありませんか」


 笑顔を絶やさず、私は正論じみたことをスラスラと言った。


「そ、そうですけど……ギル爺さんはいろいろとあって、今は誰とも……」


「依頼者の誠意が見られないのでは私達も信用できません。とても興味深いお話で、ご本人とのお話次第では考えようかと思いましたが、残念ながらこの話はなしと言うことで……はぁ~、とっても残念ですわ。でも致し方ありません、今後一切彼女には近づかないよう……」


 などと、他人のメイドをあたかも自分のメイドのように言い、決定権は私にはあるぞとうそぶく私。


「ちょ、ま、待ってください」


 私はトヤにしゃべらす暇と考えさせる時間を与えず、一方的に言うだけ言って席を立とうとすると、彼は慌てて私を呼び止めた。


「わ、分かりました! ギル爺さんの所へ案内します。爺さんの要望なんだからたぶん会わせてくれるはずですから」


「……あら、それは嬉しいですわ」


 まぁ、所謂「私には決定権がございませんので、戻って上司と相談しますって言うなら最初からその上司も連れてこい」的なものをアレンジしてみたまでである。冷静に考えれば、スフィアは姫の専属メイドで有名かもしれない。一歩間違えたら「お前こそ誰だよ」となるところだったが、どうやらトヤはテンパってしまって冷静な判断ができなかったようだ。もしくは世俗から離れすぎた無知なのかもしれない。それか、こういった交渉は初めてだったのかもしれない。まぁ、とにかく、まさかこうも上手くいくとは思わなかったので私は彼には見えないように思わずニヤリとどこかの魔女様みたいな薄い笑顔を見せてしまった。


「……メアリィ様、あなたってやはりエリザベス様と同類だったのですね。うちの姫様が一番ピュアに見えてきました」


「…………」


 横で見ていたスフィアが半眼になって言ってきた。エリザベスと同類と言われると何となく釈然としないが、エミリアと同類と言われてもそれはそれでまた釈然としないので、私はモヤッとした思いだけが残ってしまい、素に戻ってしまう。


(というか、やはりというワードがすごく気になるんだけど)


「それじゃあ、ギル爺さんの所へ案内します!」


 私がスフィアにそこのところを聞こうとしたら、気持ちを切り替えたのか、お気楽なのか、元気よくトヤは席を立つと私達を案内しようと見せていた絵を鞄にしまいこみ、出発の準備を始めた。

 少し離れたところで見守っていたのか遅れて登場のイクス先生に事情を説明し、エリザベスの方へ連絡してもらうよう計らってもらう。

 イクス先生は一人の兵にそれを伝えに向かわせ、危険かもしれないと私達に同行してくれるそうだ。念のためだとサフィナにも彼女の刀を渡してくれる。


(おや? 私には?)


 イクス先生は私に武器を渡す素振りはなく、私は「おや?」と笑顔のまま首を傾げてしまった。すると、テュッテが私の後ろに近寄り、囁いてくる。


「お嬢様の剣は私が持っています。他の人に持たれると材質に疑問を持たれるかもしれませんので」


 もう優秀すぎるメイドに私は感極まってしまい、彼女の方を見た。


「さすが、テュッテ。もう私、あなたなしじゃ生きていけないかもしれないわ。っで、その剣は?」


「馬車の中です」


「意味ないじゃん!」


「すみません、お嬢様。まさか、このような事態になるとは思いもしなかったので」


「最初から渡してくれれば良かったのに」


「何か持たせると絶対やらかすので、ギリギリまで黙っておりました」


「おい、ちょっとまて。今失礼なこと言わなかった?」


 失礼なことをいうメイドを半眼で睨むと、テュッテもまた半眼になってこちらを見てくる。


「では、絶対ないと言い切れますか」


「言い切れません!」


 私は即座に降参した。私とテュッテの漫才めいた会話が聞こえたのかスフィアがクスクスと笑い出す。


「仲がよろしいのですね、メアリィ様とテュッテさんは。まるで姉妹のようですよ」


 そんな言葉を聞いて、私とテュッテは互いを見て、何だか照れくさくなり二人で俯いてしまう。


「と、とにかく、出発しましょう。トヤさん、案内してくれますか」


 私は恥ずかしさを誤魔化すように言う。そして、カフェの精算を済ませると早足で歩き出した。


「あ、あの~、そっちじゃないんですけど」


 そして、お約束になってきたパターンをトヤに指摘され私は耳まで真っ赤になり立ち止まる。

 こうして、予期せぬ所からギルツへの情報をゲットし、会える機会を手に入れることに成功した私達は彼の元へと向かうのであった。


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