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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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何のことでしょう?

ここからまたメアリィ視点に戻ります。


 窓の外を見れば港町を歩く人々に緊張が走っているのが一目で分かった。そこにはレリレックス王国の紋章を掲げた馬車が闊歩しているからだ。そして、その馬車の中に誰がいるのか皆知っているからこそ道をあけ、固唾を飲んで動向を伺ってしまっている。

 氷血の魔女は海外に恐れられるだけではない。彼女は身内にも、そして王国の人々にも容赦はしない。厳しい人なのだろう。

 そんなエリザベス専用の馬車を何事かと皆が恐れ半分で眺めている中、その馬車内はというと……。


「はぁ~ぁ、サフィナはフワフワしていてほんと可愛い子ねぇ~ぇ♪」


 今までの冷血そうな表情などどこへいったのか、見たこともないような恍惚とした表情で隣に座らせたサフィナをまるで可愛らしいペットを愛でるようにエリザベスがデレて撫で回している。窓の外から見える周りの緊張感とは裏腹の現場であった。

 ちなみに向かいの席には私しか座っていない。彼女の内面を看破してしまった私の前だからこその所行かもしれなかった。いわゆる、隠す必要性がない相手だから「まぁ、いっか」の精神だ。

 撫でられハグされ、やられ放題のサフィナは人形のように固まったまま、緊張がマックスを振りきってすでに気絶していた。

 王子とは随分と行動を共にしてきたおかげで王族に対する耐性がつき、普通にしゃべれるようになってきて、私は嬉しかったのだが、さすがにこれは無理だろう。この展開は一発KOであっても致し方ない。というより、サフィナが不憫すぎて見てられない。


(よし、話題を振ろう。そして、サフィナを取り戻すのだ)


 私はとっても聞きたいことがあったのでこの際ぶっちゃけることにした。


「エリザベス様、よろしいですか?」


「ん? 何かしら?」


 エリザベスも私が声をかけてくる頃合いだろうとふんでいたのか、あっさり聞き返して、サフィナを解放してくる。


「姫殿下を誘導して何を企んでいるのです」


 暗に私はあなたの手のひらでは踊りませんよ的なニュアンスを含めて言ってみた。私としては声の上擦りもなくどもることもなく上出来だろう。まぁ、その前にあんなデレデレ見せられたらこの人に対する緊張も失うというものだ。


「フフ、なるほど。それを聞きたくてわざと私を機嫌良くさせていた……と。しかも、友人に聞かせたくないという計らいかしら。優しいのやら非情なのやら。でも、嫌いじゃないわよ、そういう子」


 一人で何かを納得しながら、一度気絶しているサフィナの様子を確認した後、エリザベスは姿勢を正し、足を組み直す。その毅然たる態度、そしてうっすら笑みを見せるその美貌、威圧。先程までとは雲泥の差である。目の前にいるのは、可愛いモノを愛でたがるおばさまではなく、皆に畏怖される氷血の魔女、その人だった。


(くぅ、今のなし。緊張などないなんて気の迷いでした。威厳が、威圧が、私を萎縮させてくるぅぅぅ)


「企むだなんて人聞きの悪い。私はただあの愚姪にアドバイスをしてあげたまで」


「……そ、それにしては用意周到でしたね」


 会話が終わってしまったらまたサフィナへのハグが始まってしまう。下手すると何されるか分かったものじゃないので私はこの薄い笑みを見せる悪の女帝のような人に立ち向かうことにした。


(頑張るのだ、メアリィ! サフィナのためにも!)


「フフッ、まぁ、用意はしてたのだけれど、まさかあの姪に使うとはこちらも想像していなかったわ。あなたこそ、何を企んでいるの?」


「……?」


 妙な展開になって私は首を傾げてしまう。


「襲撃時の報告は受けたわ……あなた、襲撃の時、相手が姪を誘導したのをそのままにして、まるで計ったかのように相手が裏口から来るタイミングに単独で動いていたそうね。そして、見事生け捕りにするとは……あなた学園ではかなりの好成績をおさめているそうね。武術大会優勝、魔法習得の早さ、独学での神聖魔法習得、学園祭の立案……とっても優秀ね、白の姫。もしくは白銀の騎士と言った方が良いのかしら」


「…………」


 急に何か話が予想の遙か斜め上を行きだし、私の理解が追いつかない。前半部分が理解に追いつかないため後半部分の痛いところが私の頭の中に入ってきた時には、話が進んでしまったので無反応になってしまった。


「しかも、その後の展開を予測し、あえてフィフィの拘束をそのままにして、彼女にそのアイテムを隠させた。あの拘束アイテムには効果時間があるのを知っていたのね」


「…………」


「それに、報告では襲撃事件が起こる前、あなたはフィフィと二人でコソコソと何かをしていたらしいわね。もしかして、その時点で私も知らなかった彼女がマジックアイテムの中身を確認できてしまう希な才能に気がついたのかしら? 正直、あなたの計らいで私の計画が大いに短縮されたのは驚きよ」


「…………」


「あなたこそ、どこまで描いているの?」


「……なんのことでしょう?」


 含み笑いを見せるエリザベスの目がギラギラと怪しく光ってこちらを見てくるが、彼女の話の中で私が理解できたのは自分の成績の話くらいで、それを軽く押しのける程の想像を遥かに超えた勘違い部分は理解不能だった。なにせ、行動は合っていても、そんなこと微塵も考えてなかったからだ。なので、私は素でそう答えるしかなかった。


「フフフッ、良いわ。その何も知らないといった完璧な『演技』。さすが、イリーシャ様のお気に入りね。良いわ、とっても素敵」


(いやいやいやいや、これ演技でも何でもないわよ。めっちゃ素ですから。純度百パーセントの素ですからぁぁぁ! 勘違いしないでぇぇぇ! って、前にも何かこんなことなかったっけ? マズい! よく分かんないけどこのまま放置はマズいということだけはわかったわ)


 私が言い訳しようとした時、無情にも馬車が停車した。どうやらおしゃべりの時間は終了らしい。停車の振動でサフィナも復活したのか、ビクンと体を震わせ、動き出す。


「さて、参りましょうか。期待しているわよ、メアリィ」


 私に顔を近づけ、囁くエリザベスに背筋が凍り付く思いで固まり何も言えなくなってしまう。


(マズい、このままでは何か勘違いされて、そのまま私が何か妙なことをしでかして、最悪、私の隠している力がバレでもしたら……終わりだ。何とかして、彼女から離れなければ)


 私はそんなことを考えながら、サフィナと共にエリザベスに続いて馬車を降りるのであった。

 辺り一帯は騒然と化す。まぁ、あの氷血の魔女様直々の訪問なのだからそりゃぁ、びっくりして固まるだろう。商会の人が慌ただしく中からやってくると、自分がここの会長であると説明し始めた。

 私は騒ぎの邪魔にならないよう少し離れて辺りを見渡す。どこにでもある普通の商会に見えるのだが、何だか閑散としていて人が少ない。従業員を増やしていたと聞いていたのだが、はて、どこへ行ってしまったのやら。


(いや、それよりもエリザベス様から何とか離れられないかしら、別行動する言い訳でもあれば良いんだけど)


「あら? あれは……」


 私が考え込んでいるとその時、まるで天が私に味方したかのように後ろに控えていたスフィアが怪訝な声を上げ、商店とは違う方向を見ていたのを逃さなかった。


「なに? どうしたの?」


 今の私は何でも良いからチャンスが欲しく、スフィアに小声で聞き返す。


「あ、いえ、大したことじゃないので」


「私にとっては大したことかもしれないの。言って、お願い」


 自分で言ってて意味不明だと重々承知だが、これ以上ここにいて、私はエリザベスの前でやらかさないとはっきり言える自信がなくなっている。なので、ちょっとでも良いから離れる可能性に賭けたい。


「いえ、以前お話しした私に声をかけてきた画家らしき男が今し方、この商店から出ていったように見えまして」


(うん、全然関係なさそうだわ。でも、OK! それで行こう)


 私はすぐに動き始める。


「スフィアさん、その画家はどっちへ行ったの?」


「へ? あちらの方へ」


 自分の話に食いついてくるとは思っていなかったのか、スフィアは驚いた顔で方角を指さす。


「そう、気になるわね……エリザベス様、ちょっとスフィアさんの話で気になることがありますのでここで別行動させていただきます。相手を見失ってしまいますので、それでは」


 必殺、時間がないので強引に進めます戦法。私はサフィナとスフィアの手を握り強引に行動を開始した。もちろん、何も言わずにテュッテは私の後ろをついてくる。フィフィは……ごめん、エリザベス様の相手をしていてください。


「……よろしいのですか?」


「ええ……彼女の好きにさせましょう……っふふ」


 後ろの方でフィフィとエリザベスの会話が聞こえてくるが、エリザベスの何とも言えない含み笑いがとっても引っかかる。でも、別に深い意味はないだろうと思う。なんせ突発性で事件とは何の関係もないことで私は行動したのだ。


「メアリィ様、そちらではなく、こちらの通路へ入りましたよ」


「へ? あ、あぁ、ごめん、ごめん」


 考え事をしていて先に進んでいた私はスフィアに呼び止められ、慌ててコース変更するのであった。


(でも、とにかく、別行動に持ち込めたわ。しかも、今回の件とは全く関係ない人を追っているから危険はない。ついでに、これでエリザベス様が私に落胆してくれたら万々歳ね!)


 私は内心ほくそ笑みながら、スフィアに言われた道を進み、その画家とやらの後を追うのであった。


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