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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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挿話――

書籍版二巻の方でメアリィ視点ではない所謂一方その頃に挑戦してみて、今回も挑戦してみようかなっと。なので今回はメアリィ出てきません。なぜだろう、メアリィがいないとギャグがない(汗)

 綺麗に掃除され磨き上げられた大理石の廊下。そこに並べられた調度品はレリレックス王国の物とは異なる物も含まれており、ここが多くの国との交流をしている者の住む場所なのだと暗示させる。

 無造作にただ置いているのではなく、計画的にその調度品が映えるように置かれたそのセンスから、それを指示した者の几帳面さというか、気難しさが伝わってきそうだ。

 そんな豪奢な廊下を優雅に歩く中年の男こそ、この館の主にして町を治めることを魔王から許された者、町長のダブザルである。


「ダブザル様、例の方が執務室にてお待ちでございます」


 彼の到着と共に執事の男がダブザルにしか聞こえないようにそう告げると、彼の余裕ある表情が忌々しそうに歪められた。


「いつもの通り、誰も通すな。後、夕食会の準備は?」


「はい、急ではありましたが、何とか……」


 それを聞いてダブザルは執事を廊下に残して、執務室へと入っていく。部屋の中は綺麗に整頓され、彼の几帳面さがにじみ出している感じだ。

 なのに、今回の失態……。

 ダブザルは思い出しただけでも腸が煮えくり返る思いである。


「随分とご機嫌斜めのようだね♪」


 ダブザルの表情が少し変化しただけでそれが分かったのか、すでに部屋へ通された男が出されていたお茶を飲みながら言う。男……と言うよりは若者と言った方が正解のような容姿をしているにも関わらず、その醸し出す雰囲気は口調からくる無邪気さとは裏腹な威圧感があった。さらに、彼には魔族独特の角もなく、獣人特有の獣耳も見られない。彼は人族だった。そして、胡散臭さでいったらダブザルの遙か上をいく雰囲気である。

 その胡散臭さを増幅させているのがその出で立ちだ。

 軽い口調にチャラけた表情の彼が着ているのは厳粛を形にしたような司祭の服装である。しかも、その若さにしてはかなりの高位を示す出で立ちであることがさらに彼をミスマッチな存在にさせていた。

 司祭風の出で立ちですぐに分かるのが、そう、教会の人間。そして高位となるといきつくのはエインホルス聖教国の者。そんな人間が敵視しているはずの魔族の部屋で平然とお茶を啜っており、それをダブザルが許しているのだ。それはある意味異質めいた光景だった。


「あたりまえだ! 貴様等は私の長年の計画を無駄にする気かッ! 『栄滅えいめつ機関』が聞いて呆れるッ!」


 青年の冷静な態度が癇に障ったのか、ダブザルが珍しく激高してくる。


「おいおい、一応秘匿の機関名をそんな大きな声で叫んでくれるなよ。誰かに聞かれたら僕が困っちゃうだろ?」


 全然困った感じもなく、青年はお茶をいただいていく。聞かれることが絶対ないという自信の現れでもあった。ダブザルも頭の悪い魔族ではない。こんな所で怒りをぶちまけていても意味がない、行動こそが今やるべきことだと眼鏡の位置を直す素振りをしながら気持ちを切り替えていく。


「あの行動は一体何だ? 計画にはなかったぞ。口封じと証拠隠滅に姫が不信をいだいてしまったではないか……あの姫は良い、何とでも言いくるめられる。だが、その後ろにいるのはダメだ。あの女はすぐに動き出すかもしれん」


 ダブザルは青年が座るソファーの向かいにあるソファーに座るなり愚痴めいたことを吐き捨てる。ダブザルが言う姫とはエミリアのことだ。そして、その後ろ、あの女とは言わずもがなエリザベスのことだろう。彼女に少しでも不信感を抱かれないよう、長年良い町長を演じてきたつもりだった。

 だが、今回の件での対応は些か強引であり信用に小さなヒビを入れたかもしれない。たかが小さなヒビ。されど几帳面で慎重なダブザルにとってそれは許せないことでもあった。不安要素を一つでも抱え込みたくないのだ。


「いやぁ、ごめんごめん。例のくそ爺が駄々をこねてね。姫のメイドと交渉したいとか何か訳の分かんないことほざいてきて、挙げ句、計画していた作業の手を止めてきたんで、めんどいからちょうど外出しているって聞いてよく分かんなかったけど攫わせた」


「だからといって、例の貴重なアイテムを持っていくバカがどこにいる!」


 あまりの無計画な物言いにダブザルは抑えていたはずの怒りがこぼれ出てしまって、声が大きくなる。が、一度深呼吸をしてその怒りを無理矢理押し込めようと努力していった。


「いやぁ、あの拘束アイテムって便利だよね。うちも欲しいくらいだよ。うちではだ~れも作れなくってさ」


「現時点であれだけ完璧な物を作れるのはあの老人だけだ。丁重に扱え」


 ダブザルが眼鏡の位置を直しつつ、睨みつけても若者はそんなこと気にもせず持っていた空のカップをクルクルと指で回し、遊び始める。


「はいはい。それにしても、まさか、失敗するとは思ってなかったなぁ。ねぇ、あの工房には姫以外に誰か魔族の手練れがいたの?」


「話では手練れはいなかったはずだ。全て外にいたと聞いている。ただ、工房内には姫の客人が数人いた。非公式とされ、私の方にも詳細は来ていなかったがいつもの姫の気まぐれかと流してしまったのがまさかこんな所で裏目にでるとは……」


 苦虫を噛み潰すような表情を見せ、手に力を込めるダブザルとは対照的に若者は緊張感無くクルクルとカップを回し続けて遊んでいる。


「あっそ。それで、客人って?」


「一人はすでに分かっていた。アルディア王国第一王子だ」


 その言葉に若者は驚いたことに回す指を止め、カップをテーブルに戻した。その表情は先程までの気の抜けた表情から少し変わって、興味津々といった感じである。


「へ~、王子殿下か。そういえば、アルトリア学園での計画でも彼がいたね」


「学園内で催された王子主催の全く新しい試みだったと聞いていたが……王妃が訪問するということで……お前達、そこでも関与していたのか」


「ま、失敗に終わったけどね。あの王子、もしかしてやり手かもよ」


 ヤレヤレといった感じで肩をすくめてチャラける若者を見て、ダブザルは驚きを隠せなかった。


「王子は現王同様、女に現を抜かす愚かな男だとか聞いていたのだが、違うのか?」


 貿易の要でもあり島の入り口でもある港町は他国の情報も入手しやすい。だが、多いことが弊害となり、どれを入手するか選択が増えた結果最新の情報を自身が逃すこともある。意味がないだろうとアルディア王国の情報は王妃を中心に収集していたが、まさか、王子が愚者の皮を被っていたかもしれないという情報はダブザルを驚愕させるに値した。


「さぁね。確かにそうだったはずなんだけど、学園に入る前あたりから人が変わったみたいになったらしいよ。学園祭とやらの動向を外で監視していた者からの報告だと、その警備は隙がなくかつ迅速で今まで見たことが無い警備体制だったから、ほとんど手が出せなかったそうだよ。それを主導していたのが王子が率いる配下の者だってさ。しかも、崇高なる神の御技を使ってすら失敗に終わるほどにね。聞いたときはうえ~マジかよ~て信じられなかったよ」


 ケラケラと笑い出す青年とは反対にダブザルは真剣な表情で考え始めた。

 迂闊であった。まさか、姫がつれてきたのがそのような得体の知れない未知数な男だったとは。もしかしたら、自分が認識していない所で別働隊が潜み、王子周辺を密かに警護していたのかもしれない。

 そこで思い出したのが戻ってきたボロボロの男が若者の所へ戻され処分される前に情報を聞き出そうとした時のことだ。何か訳の分からないことを言っていたことを思い出すダブザル。確か「白銀の少女に殺されかけた」とか何とか言っていたようなことを思い出し、自分で失笑してしまった。なぜなら、あの時自分が出会った王子以外の中に確かに白銀の髪色をした少女はいたが、とてもか弱く儚げな雰囲気の可愛らしい少女だったからだ。しかも、姫からの連絡では彼女は恐怖に高熱を出して倒れ、現在寝込んでしまっているらしいではないか。そんな貧弱な乙女が屈強な大人の戦士の戦意を喪失させ、恐怖させるほどの存在になるなどありえない。


「とにかく、迅速に行動することにかわりはない。私は夕食会を開き、彼らの足止めをしておく。その間に場所を移せ」


 おかしな想像は頭の中から追い払い、今なにをすべきか再確認するようにダブザルは目の前に座る若者に言う。


「え~、めんどくさ。そんなすぐに場所がわれるとは思えないんだけど?」


 心底面倒くさそうに天井を見る若者を一瞥するダブザル。


「姫がやたらと拘束アイテムについて調べ回っていた。中身を調べて誰が作ったかなど分かるような魔工技師はそれこそ、最高技師と並ぶ天才だ。姫の同伴にそんな有名な技師はついていなかったから、気がつくとは思えない。が、拘束アイテムが一つ足らないのが気になる。いずれ、気がつかれる可能性もあるから、用心にこしたことはない。一つの点から一気に我々に結びつく線へと変わる可能性もある。そうなったら貴様等の計画も気づかれるぞ。お互いの利益のためだ」


「はいはい、やっときま~すよ」


 めんどくさそうに立ち上がると若者はブラブラと慌てることなく出口へと向かう。


「あぁ、そうそう。キミら罪深き者がさ僕の邪魔をしてきたら、それが誰であろうと、もうさ、神の名の下に葬ってもいいよね? キミら見てると時折僕、斬り刻みたくてしょうがなくなるんだよ。我慢するのってすっごいストレスだし、神への背信行為だもんね」


 首だけ動かしてダブザルに向かって笑うその若者の表情はとても神に仕える司祭とは思えないほどの狂気に満ちたものであった。さすがのダブザルも背筋がゾッとし、今までの怒りが一瞬にして消え去ってしまう。

 若者は一瞬だけそんな表情を見せた後、いつものチャラけた表情に戻り部屋を後にしていく。

 だが、彼らはこの時点であの魔女がすでに動き出していることにまだ気がついていなかった。ダブザルが失笑と共に打ち消した白銀の少女と、いないと高をくくったその天才技師を連れて……。


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[一言] 確信を持って動く魔女(エリザベス)と天然!?で動く少女の皮を被ったメアリィ……最強タッグ?
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