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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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運命とは脆いものです

ここ2週間ほど病気の為、検査・通院を繰り返していたため更新が滞ってしまいました。申し訳ございません。皆様もお体にはお気をつけください。


 フィフィの見立てによると、壊れたアイテムはギリギリ修復可能だそうだ。魔工技師は加工を生業にしているため、無くなったものを戻せと言われても無理らしいが、幸いにして今回は補うことができるレベルの破損なのだそうだ。それを聞いてマギルカがホッと胸をなで下ろしている。


「……でも、師匠の作品をここまで破損させたの見るの初めて。一体何と戦ったのか興味ある」


 そうフィフィが言うと、迷いなくザッハとマギルカが私を見てきた。


「なんでこっち見るのよ! モンスターと戦って壊れたんでしょ!」


 私は要らぬ誤解が生まれる前に訂正しておく。


「う~ん、まぁ、少々面倒な話になるのであまり公表できないのじゃ。察してくれ」


 エミリアがポリポリと頬を掻きながら、難しそうな顔をする。まぁ、国家間の問題に発展しそうな案件であるし、しかも禁忌のアイテムを使用されたとあれば、そこかしこにペラペラとしゃべるわけにはいかないのだろう。そこら辺を察したのか、フィフィは頷くと以降、それに関して聞かなくなった。

 そして、修復には時間がかかるのでアイテムは一旦引き取り、修復後、エミリアの方からマギルカに返送するということになった。

 話が終わり、フィフィが解放されたので私は逸る気持ちを抑えながら、例のアイテムについて聞くため、彼女を呼び寄せる。


(もしかしたら、もしかするのだ。ここはなりふり構ってられないわよ)


「あのぉ、このアイテムだけど、さっき装着者の力を抑えるって言ってたよね」


 期待に満ちあふれすぎて声が大きくなるのを必死に堪え、私は冷静を装いながら話を進めていく。皆が気がついて集まってきたら非常にまずいのだ。幸いにして、マギルカとエミリア、王子は返送に関しての話し合いをしており、ザッハは疲れたのかぐったりしている。サフィナも別のアイテムに興味があるのか私の側にはいない。今がチャンスなのだ。


「……そう。以前、師匠が町長に頼まれて犯罪者を捕縛するために作ったマジックアイテムを真似して作ってみた。理論上なら力と魔力を抑え込み並以下のレベルになる……はず」


 アイテムのことになるとフィフィは滑舌が良くなるみたいだ。その説明に私は内心狂喜乱舞する。


(ぃよっしゃあぁぁぁっ! 私が楽に平凡な自分へとジョブチェンジできるアイテムが今、目の前にぃぃぃ!)


「……着けてみる?」


 私があまりにも興奮してアイテムを凝視しているものだからフィフィが何かを感じて、私に勧めてきた。


「え? いいの?」


「……んっ、被験者のデータが欲しい」


「へ? それって誰もこれを使ったことないってこと?」


「……そう。マジックアイテムのテスト、とっても危険。被験者に何が起こるか未知数。だから皆やりたがらない。でも、大丈夫。そのアイテムは理論上なら機能している。とりあえず、動物で試したから発動していないことはない」


 なんとも不安なことを言われて私のテンションが少々下降してしまった。


(憧れの平凡人生を手に入れるためなら、わずかな可能性だって私は食らいつく!)


「ちょ、ちょっとだけ着けてもいい?」


「……歓迎。自分から拘束されたいなんて変わっている。あ……うん、そうね、人それぞれだものね」


「何を納得したのか知らないけど、たぶん違うから。あなたが考えていることたぶん誤解だからね。そこのところよろしくお願いします」


「……んっ、了承した」


 私が装着を希望すると、フィフィは何かを考え、一人納得した。それは私にとってとっても良くない結論なような気がして、一応否定しておくことにする。

 フィフィが私に近づき、手枷アイテムを準備し始めた。私はその様子を見守りながら、逸る気持ちを抑えるのに一苦労している。


(あぁ、ドキドキする。はっ、これは、もしかして恋? って、落ち着け、私。緊張しすぎて思考がおかしくなってるわよ)


 す~は~と数回深呼吸をしていると、準備ができたのかフィフィが手枷を輪を開けてこちらに持ってきた。

 ここで着けているとさすがに変に思われるかもしれないので、私はさりげなくフィフィをつれて部屋を出る。彼女もアイテムを持ちながら何の疑問も持たずについてきてくれた。

 誰もいない廊下の片隅に陣取り、私はいよいよ運命のご対面をする。


「そ、それじゃあ、お願いします」


「……んっ、手、出して」


「ふぁい」


 緊張しすぎて上擦った声になりながらも私は言われたとおり両手を差し出した。私の手首に宝石など散りばめた無駄に豪奢な手枷が着けられていく。


(お願いします、神様! どうか私を封印してください!)


 何かお願いする言葉がおかしくなってはいるが、私は心臓バクバクで自分に着けられていく手枷を見続けていた。


「……んっ、装着完了。そして、起動」


 フィフィは手枷から手を離し、私から少し離れると、着けていた手枷の宝石類が光り出す。その演出に期待が膨らむ反面、自分の今の姿を客観視するとどうしても喜べない。

 なぜなら、今の私は端から見れば豪奢な手枷を両手にはめられ、拘束されたご令嬢なのだから。


(これって、あれよね。何というか、断罪イベントを終わらせた悪役令嬢が拘束されて、塔に幽閉されていく場面みたいよね。いや、まぁ、実際見たことないけど)


「……どう?」


 たぶん興味津々といった感じでフィフィは聞いているのだろうが、いかんせん、無表情なのでその真意は測れない。


「……どうといわれても、幽閉コースに突入した悪役令嬢の気分ですとしか……」


 私は、先ほど感じたことを素直に言葉にすると、何のことやらとフィフィが首を傾げてきた。正直、手枷が全く機能していないと疑ってしまうくらい私には何の変化もない。体よりもこの姿を省みた精神ダメージの方が大きかったりする。


「悪役令嬢って何ですか? メアリィ様」


「うにゃあぁぁぁぁぁぁっ!」


 私へのツッコミがフィフィではなく後ろから投げかけられ、私は奇声をあげて飛び上がってしまった。

 そして、反射的に振り返るとそこには不思議そうな顔をしたサフィナが立っているではないか。私は慌てて両手を後ろに隠そうとして動かし、何の抵抗もなく手枷は綺麗に真っ二つとなって床へと落ちていく。


 バキィィンッ!



「? 何か落ちましたよ?」


 ガシャンと重たい音を立てて私の足下に落ちた元手枷に気がついたサフィナが下を見てきた。


「おほほほ、何でもないのよ、サフィナ。それよりも何か用かしら?」


 私は汗だくになりながらひきつった笑顔でサフィナの顔をのぞき込み、彼女が下を見るのを阻止する。ついでに、足で残骸を遠ざけていった。

 人様の物を壊しておいてぞんざいな扱いをしているのは重々承知の上だが、いかんせん、焦っていて現状、私にはこれが精一杯なのだ。許してください。


「用と言うほどではないのですが、お二人が見当たらなかったので、どうしたのかなっと」


「そ、そうなの、ごめんね。私、ちょっとフィフィ様と個人的な相談があったの。用件が済んだら戻るって皆に言っておいてくれないかしら」


 こっそり出て行ったのが仇となり、心配してくれたサフィナが来てくれたようだ。こんなことなら、一言断ってから離れるべきだったと後悔してしまうが、まぁ、もう遅いので仕方ない。とりあえず、誤魔化しておいて、私は終始強ばった笑顔のままサフィナを見送るのであった。

 そして、再び二人っきりになる廊下の片隅。


「……壊れた」


「すみませんでしたぁぁぁ!」


 ぼそっと言うフィフィの第一声に私は土下座したくてたまらなかったが、この世界ではなじみがないので誠意が伝わらないと思い、そのまま深々と頭を下げる。


「……おかしい。理論上なら冒険者レベルなら一般人以下まで封印できるはず……壊すなんてできない……なぜ?」


 壊れたアイテムを拾い上げ、マジマジと調べ始めるフィフィに、私は内心冷や汗が滝のように流れ落ちる気分だった。


(あぁ、私の運命の出会いは、出会って数秒で破局してしまった。世知辛い世の中ね……そして、今度は非常に不味い状況になっているわ。どう、誤魔化そう)


「……まぁ、所詮は理論……ということね。データ不足……」


 フィフィが一人で何だかあさっての方へ納得してくれたみたいで内心ホッとする私。


「……もっと強力な封印具を試してみよう」


「え? まだあるの?」


 フィフィのその言葉に思わず私は食いついてしまった。


「……んっ、それなら魔王様すら封印できる……理論上は」


 とってもデンジャラスな発言を聞いたような気がするがこの際、聞かなかったことにして、私は新たな運命の出会いに心ときめかした。私は、懲りない女なのだ。


「是非とも、お願いします!」


「……そんなに拘束されたいって……あ、うん、人の趣味に干渉しないんだった」


「だから、それは誤解だって! 趣味とか言わないで」


 私の食いつきようにフィフィが再び、変な誤解をし始めて、私はすかさず修正を入れる。


「……んっ、ついてきて」


 フィフィは一人歩きだし、私はそれにつられて歩き出す。私達は家の奥まで入っていき、驚くことに地下室へと続く階段を下りていった。

 そして、重厚そう扉の前にフィフィが立つと、こちらを見てくる。


「……ここにある。入って」


 ゴクリと唾を飲み込み、私は重い扉を慎重に開けていった。扉の奥は薄暗く、扉の外から入る光だけが頼りになっている。そして、その奥にそれはあった。

 それはとても大きく、何て言えばいいのだろうか、私の知識では表現に苦しい。が、明らかに大がかりな全身隈なく拘束するやばそうな代物であった。


 断言しよう! アレは私のような幼気な乙女が触れて良い代物ではない……と。



「……さぁ、テストしよう」


「できるかぁぁぁっ!」


 私のツッコミが静かな地下室に木霊したのは言うまでもない。それと同時に私の淡い期待は水泡に帰すのであった。もっとこう、お洒落でコンパクトになってくれると嬉しい限りなのだが……。マジックアイテム業界のめざましい躍進を期待するしかないみたいだ。


【宣伝】GCノベルズ様より「どうやら私の身体は完全無敵のようですね」2巻の発売が決定しました。皆様のおかげでございます。今回は加筆修正した学園編2年と3年が収録されております。アリス先輩やエミリア姫、王妃様と新しいキャラも可愛いイラストで登場します。もしかしたらメアリィの全身鎧も……。よろしくお願いいたします。

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