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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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これは、運命の出会いか?


 午前中の海水浴を終え、私達は馬車に揺られてある場所へと向かっていた。マギルカが前々から言っていたマジックアイテムの修復を頼む件で、幸いにもその魔工技師が近くに居を構えていると知ったからだ。

 私はというとあのポロリ事件のせいで皆にどう顔合わせすればよいのか分からず、終始沈黙している。

 あの後、男性陣からは大人達と今後の話をしていて見ていなかったと言われ、その言葉を信じてホッとしている。とはいえ、出来事が出来事なので気持ちの整理がなかなかつかないのが現状であった。


「まったくもう……お色気担当はマギルカでしょ、何で私ばっかり……」


「そんな担当初めて聞きましたわ。最後までメアリィ様がお務めくださいな」


「まぁまぁ。メアリィ嬢もそろそろ機嫌を直してくれると嬉しいのだけど」


 私が窓の外を見ながら愚痴をこぼすと、マギルカが半眼になってツッコんでくる。そんな私達に挟まれて座っている王子が仲裁に入ってくる。

 と、程なくして馬車が停車した。どうやら、ここからは徒歩らしい。馬車を降り、案内されるがまま密林の中へと入っていった。


「おお、何かジャングルって感じよね」


 私は感慨深げに周囲をキョロキョロと眺めながら歩く。幸いにして、道は整えられていて歩きやすかったのだ。とはいえ、馬車などが通れるほどの広さはないのが残念である。


「はぐれるでないぞ、森の奥にはモンスターがおるからのう。襲われたら大変じゃ」


「襲われるって……魔族の人は話ができるから大丈夫じゃないの?」


 私がキョロキョロしすぎて遅れ始めると、エミリアが注意をしてきて、私は疑問をぶつける。


「フッ、会話というものはある程度知能があって初めて成立するものじゃ。ここいらにいるものはバカじゃから会話にならん」


「そんな危険なところに居を構えておられるのですか? 魔工技師様は」


 私達の会話にマギルカも加わってきた。


「うむ、奴は偏屈爺でのう。他人と接するのを嫌っておるのじゃ。じゃから、人が寄りつかないところに住んでおるのじゃよ。変わった爺じゃて。とはいえ、腕は確かじゃ、我が国最高の技師と言っても過言ではないぞ」


 エミリアが我がことのように言って胸を張る。その他人嫌いを気にして、今は案内役のエミリアと私達学生陣だけで住まいへと向かっていた。大人達は馬車で待機している。大勢で訪れたら警戒されて話しも聞いてくれないらしい。


「ところでさぁ、何で俺が全部持っているんだ?」


 木々に何か珍しい動物でもいないかと周囲を見ていたら、一番後ろを歩いていたザッハが恨めしそうに私達を見てくる。彼は壊れたマジックアイテムを全て背負っていたのだ。さすがに総重量が重いのか汗だくである。


「そりゃあ、力仕事は殿方って、ねぇ?」


 私はマギルカとサフィナを見て同意を求める。殿方なら王子もいるがこれは論外である。不敬罪で死にたいなら止めはしないが……。


「力仕事なら、メアリィ様だって」


「おいこら、私を殿方と同一視しないでくれる」


「え~ぇ」


「え~って何よ」


 ザッハがさも当たり前といった顔でとっても失礼なことを言ってきたので、私はすぐさま訂正を求めた。


「頼りにしていますわよ、ザッハ。それにあなた、鍛錬がしたいとおっしゃっていましたよね。これも鍛錬と思えばよろしいのではなくて」


 私とザッハがキャンキャン言い争っているとマギルカがさりげなく彼を焚きつけてくる。


「なるほど、そう考えると確かにそうだな。よし、頑張ろう!」


 恨めしそうな顔から一転して、やる気全開で歩き始めたザッハを笑顔で見送る私達。


「……チョロいわね」


「……ですね」


「あはは……」


 あっさりとマギルカに懐柔させられたザッハの後ろ姿を半眼で見つめながら、私が言うとマギルカも同意してきた。悪党な二人を見ていたサフィナが乾いた笑いしか出てこず、困り果てている。


 そうこうしていると、森が開けて奥に木造建築の家が一軒見えてきた。鬱蒼と茂っていた木々が退いたせいか、その家に光が射し込んでいて、何とも幻想的な風景である。


「着いたぞ。あれが我が国最高の魔工技師『ギルツ』の工房じゃ」


 先頭を歩いていたエミリアが足を止め、こちらを向いて紹介する。私はもう一度、その家を眺め直した。最高の技師と言われている割には随分と小さく、質素な家である。もっと、こう、アルディア王国の最高鍛冶師デオドラがいたような工場のようにスケールの大きいものを想像していたのでちょっと拍子抜けだった。


「数十年前に一線を退いて、今は一人で隠居しておるのじゃよ」


 私が思っていたことを察したのか、エミリアが補足してくる。


(すでに引退しているのね、納得)


「そうなのですか……修復依頼を受けていただければよろしいのですが」


 引退した身なので仕事はしないと言われるかもしれないとマギルカが心配顔で家を見つめていた。まぁ、こればっかりは本人の意思次第なので、何ともいえない。


「とりあえず、入ってみるかのう。話はそれからじゃ」


 エミリアはドアを叩き、中にいるだろう人物に呼びかける。


「お~い、ギルツぅぅぅっ! 妾じゃ、レリレックス王国一の美少女姫、エミリア様がそなたに会いに来てやったぞぉぉぉ」


 随分な言い草であった。


(言うに事欠いて、自分で美少女って……大した自信ですこと。私達も類友と思われたらどうしよう)


 ドンドンとドアを叩くエミリアを感心半分心配半分で見る私。すると、扉の向こうで人の気配を感じ、エミリアが叩くのを止めて後ろに下がると同時に扉が開かれた。

 どんな偏屈お爺さんなのかと緊張感が走る。

 いきなり帰れっ帰れはないと思うが、油断はできない。私は、ゴクリと唾を飲み込むと、扉から出てきたその人を凝視した。

 身長は私達よりちょっと高いくらい。薄黄色の綺麗な髪がサラサラと風になびいている。

 そして、その頭上でピンと立った大きな耳!

 後ろに見えるモフモフそうな大きな尻尾!

 綺麗な緑色の目がこちらを見つめてくる。

 それは、正に――


(狐だ! はい、どう見ても目の前の人はお爺さんじゃなくて、狐の獣人お姉さんにしか見えません!)


 エミリアも予想していなかったのか、ホケ~とした顔で狐さんを見つめている。どうやら、この人がギルツではなさそうだ。狐さんの方も出てきてから何も言うことはなく、ただただ私達を眺め続けている。今気がついたが彼女、とっても無表情であった。

 そんな状態がしばらく続く。


「……あ、どうも、姫様」


 何かを思い出したのか今更ながらペコリとエミリアに頭を下げる狐さん。彼女は無表情で、感情のこもっていない口調だった。だが、それによってエミリアも再起動できたのか、見開いていた瞳が瞬きを繰り返し始める。


「あ、うむ……えっと、ギルツに会いに来たのじゃが……そ、そなたは?」


「……私は『フィフィ』。ギルツの弟子」


 今一状況を把握できないエミリアが話すと、狐さん、改めフィフィはさらりと答えてきた。エミリアを見てもフィフィは表情一つ変えず、言葉が端的で感情がこもっていない。もしかしてあれが素なのだろうか?

 とにかく、彼女の自己紹介のおかげで何となくだが現状を把握できてきた。ギルツがお爺さんからモフモフ狐のお嬢さんに変身したのではなく、彼女はお弟子さんであることが分かった。


「そ、そうじゃったか。会うのは数十年ぶりじゃから驚いたわ。して、ギルツは?」


「……師匠はここにいない。夢に向かって没頭中とのこと」


 そして、エミリアとフィフィのやりとりを見守っていた私達に、残念な事実が告げられる。マギルカの方を見れば、彼女も私と目が合い「仕方ありませんわ」と囁いてきた。だが、せっかく来たエミリアは納得できないのか引き下がらない。


「いない? で、奴はいつ帰ってくるのじゃ?」


「……不明」


「呼び戻せ」


「……連絡不能」


「ええ~い、何をやっとるんじゃ? 今どこにおる?」


「……不明。どこで何をしているのか情報一切なし」


「ちなみに、出かけてから一度も帰ってきておらぬのか?」


「……二年ほど、帰ってこない」


 変わらぬ無表情で、フィフィはエミリアの問いに淡々と答え、望みがどんどん遠ざかっていく。それにしても、二年も帰ってこず、所在もやっていることも不明って、それでいいのか? お弟子様。まぁ、魔族や獣族の時間の感覚は私達人族とは違うのかも知れない。


「……用は?」


「ん、あぁ、こやつらが持つギルツ作の宝具級アイテムの修復をして欲しかったのじゃがのう。奴がおらぬのでは」


「……んっ、私がやる」


 諦め半分でエミリアが肩を落として答えると、やっぱり無表情でフィフィがすごいことを言ってきた。私含めて皆が「えっ」とフィフィを見てしまう。


「……修復なら可能。よく任されていた」


 フィフィはそう言うと私達を家の中へ招くように扉から退いた。

 宝具級は他の者に作れないから宝具級である。なのに、彼女は修復とはいえできると言ってのけたのだ。それすなわち、フィフィの実力がギルツと同等、もしくはそれ以上ということなるのかもしれない。まぁ、この際、直るなら誰でも構わないか、無駄骨で帰るよりはマシだ。

 自分の仕事部屋なのか広いスペースの部屋に案内され、フィフィはザッハが持ってきた武器を大きなテーブルに置くよう言ってくる。

 そして、思いの外破損の多いそれを近くで見てきた。無表情なので驚いているのか分からない。


「……見る。少し待ってて」


 そういうと、フィフィはアイテムを黙々と見始め、私達は取り残されてしまう。時間を持て余した私は周囲を見渡すと、そこかしこにいろんなアイテムが置いてあった。


「ねぇ、あのアイテムはあなたが作ったものなの?」


 仕事中に声をかけるという大変マナー違反なことをしてしまったが、大変興味があったので目を瞑ってもらいたい。


「……んっ、私が作った。興味あるなら見ていい」


 私の気持ちを汲み取ってくれたのかフィフィが壊れたアイテムを見ながら答えてくれる。お許しがでたので、私は置いてあったアイテム類に近づくと、皆もつられて見にきた。

 いろんなアイテムが無造作に置かれている中、ふと、私は手枷のような物を見つけて、興味本位に聞いてみる。


「ねぇ、これはどんなアイテムなの?」


 私の無礼にイヤな顔(無表情なので分からないが)せず、フィフィは私が指さした物を一度見て、再び壊れたアイテムの方を見ると言った。


「……それは、装着者の力と魔力を抑え込むマジックアイテム」


 その言葉に私の鼓動がドクンッと大きく高鳴る。


(力を抑えるアイテムですとぉぉぉ!)


 ゴクリと唾を飲み込み、私はその夢のような素敵アイテムを凝視するのであった。


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