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どうやら私の身体は完全無敵のようですね  作者: ちゃつふさ
第2章 学園編 三年目
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魔王様、登場。そして……


「ち、父上。どうしてここに? 王都にいたのでは? というか、この件は内緒だったはずなのじゃが……」


(非公式って身内にも非公式かい!)


 あわあわと信じられないといった顔でエミリアが言う。そんな彼女に私は心の中でツッコんだ。


「甘いな、エミリア。この余に隠し事などできないぞ。この筋肉がある限りッ!」


 再び妙なポーズをとって高々と宣言する魔王様。「そんなことあるか~い」と思わずツッコみそうになって私は唇を噛んで踏みとどまった。


「さ、さすが父上」


 ゴクリと唾を飲み込み、彼の言うことを真に受けたおバカな子を残念そうに私は見てしまう。周りを見ると、皆同じような表情をしていた。たぶん、考えていることは一緒だろう。若干一名、ソルオスのクラスマスター様はエミリアと同じように驚愕していたが、見なかったことにしておこう。


「んんっ、エミリア姫」


 話が進まないので王子が咳払いをして、エミリアに紹介を促す。


「あっ、うん。いきなりのことで取り乱してしまった、すまぬ。こちら、妾の父にしてこの国の王『ヴラム・レリレックス』じゃ」


「ふんん、堅苦しいことはなしで良いぞ。ふんっ、歓迎する」


 さすが、お姫様だけあって気持ちの切り替えは早い。王子の意志をすぐさまくみ取り、話を進めてくれる。が、紹介された魔王様はしゃべる度にポーズを変えていき、そのインパクトのでかさのせいで、言葉が頭に入ってこなかった。皆もポカ~ンとした顔で突っ立っているだけだ。若干一名だけ瞳を輝かせていたが……。


「さて、こんなところで立ち話もなんだし、部屋に入ろうか。娘の客人を余がこの筋肉をたっぷり披露し歓迎――」


「ホウ、こんなところにいたのね」


 爽快な笑顔で恐ろしいことを言ってきた魔王様に戦々恐々した私達の背中の方から、これまた冷気とともに底冷えするような冷たい声がした。

 それと同時に表情が固まり、動きが停止する魔王様。ついでになぜかエミリアも停止している。

 私は恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはいつのまにいたのか一人の女性が腕組みをして立っていた。

 足下まであるかと思えるほどの長く綺麗なストレートの髪は、黒紫色をしており、エミリア同様毛先に向かって桃色がかっていた。体にぴったりとしたドレスが妖艶な体つきを誇張し、その醸し出される強烈なオーラから、私は一目見て女王様と勘違いしてしまうほど、彼女は王者としてふさわしい風格であった。どこぞのパンイチの王様に比べれば……。


「あ、あ、姉上……どうして、ここに。余がここにいる件は極秘であったはずだが」


 なんだか数分前にエミリアが言った言葉と同じようなことを話す魔王様。緊張しているのか、ダラダラと汗が出ている。


「甘いわね、愚弟。この私に隠し事など一千万年早いわよ」


 これまた先のやりとりがリプレイされているような展開に私は呆然とするしかなかった。というか、さっきから呆然としてばかりのような気がする。


「勝手な行動で王都に残った私の可愛いベルを困らせ、挙げ句、他国の客人の前でこの醜態……」


 冷え冷えとした口調と共に彼女は私達に近づいてくる。心なしか周りの気温が下がったように感じた。いや、下がっているのだ。その証拠に彼女の足下が少し凍り付いている。

 魔王様を見れば汗ダラダラの足ガクガクである。これではどっちが王なのか分かったものではない。ついでにいうとエミリアもなぜか、同じ状態だ。

 女性は私達の前まで来ると、その底冷えするようなオーラが一瞬にして霧散し、優雅に淑女の礼をしてみせた。


「皆様、初めまして。わたくし『エリザベス』と申します。アルディア王国第一王子、レイフォース殿下とそのご友人様方には大変お見苦しいところをお見せして、申し訳なく思いますわ。大変失礼ではありますが、皆様にはホールに入っていただき、今しばらくお待ちくださいませんか。すぐに終わらせますので」


 最後の言葉に再び底冷えするオーラがにじみ出す。私達は有無も言わさずスフィアに連れられ、部屋へと入っていった。異を唱える気など私には微塵もないので流されるままである。

 『エリザベス』――レリレックス王国での外交全てを任され、私達人族の前に出てくる『氷血の魔女』とも呼ばれ、畏怖されている魔族だ。

 授業で教わっただけで実際見たのはこれが初めてだが、レリレックス王国の話になると私達アルディア王国内で登場するのは魔王よりも彼女の方が多い。ちなみにベルとはベルトーチカの略で魔王様の妻、王妃様の名前だと後で知った。


「そ、それじゃあ、妾もこれで……父上、伯母上、さらばな――」


 私達に続いてエミリアも立ち去ろうとして、その頭を鷲掴みにされるところが目に入る。


「あなたもよ、エミリア。イリーシャ様から、『よろしく』とこの度の件について、報せをうけているわ。私が不在だったことを良いことに……随分と好き勝手なことをしてくれたわね」


「あ、いや、その、妾は……。あぁぁぁぁぁっ!」


 エミリアの叫びを遮るようにメイド達によってドアが閉められる。

 エミリアの悲鳴と、魔王様の慈悲を乞う声が遠ざかっていった。向こうで何が繰り広げられているのか想像したくなかったので、私はドアを見ないでおくことにする。




 しばらくすると、何があったのか知らないがエミリアがテンションだだ下がりで帰ってきた。魔王様はエリザベスによって強制的に王都へ帰されていったらしい。


(まったく、何しにきたのやら……)


 こうして、呆気にとられた前座が終了し、やっとのことで私達の立食パーティが始まるのであった。


「あ~、終わったぁ~……妾の自由は終わりを迎えたのじゃ……これからは籠の鳥のごとく閉鎖された状態になるしかないのじゃ~……あの恐ろしい伯母上に監視される毎日が……」


 にぎやかに行われるはずの晩餐会の中、壁際に置かれた椅子に横座り、壁に頭を預けて俯くエミリアは、かなり哀愁を漂わせていた。服の所々がまだ凍っているのがまた何ともいえない。

 普段テンションが高い子が沈んでしまったところを見ると、何となく励ましたくなるのが人情と言うもの。私は彼女に近づき励ましの声を掛けようとする。


「姫殿下……そんなに悲観的にならっ」


「ま、それはさておき。晩餐会を楽しもうではないか。皆のもの、飲んで食えっ!」


「さておきって、切り替え早いなッ!」


 エミリアに声をかけると、彼女はケロッとした顔で立ち上がり、料理が並んでいる場所を爛々とした瞳で見つめていた。あまりの切り替えの早さに思わず場所も弁えずにツッコんでしまう私。


「あ~それと、今更なのじゃが、伯母上に釘を刺されてしまってのう……この度は先の事件の解決、見事であった。感謝する」


 ほんとに今更感があるが、元々そのために招待されたみたいなものなので、私は皆と一回苦笑しあってから一緒にお辞儀をした。


「よぉし、すべきことはしたのじゃ! 皆のもの、飲むぞ、食べるぞぉぉぉ! わはははっ!」


「わはははじゃないわよ、エミリア。はしたない」


 と、エミリアが声をかけてきたその人の存在に気がつき、再び凍り付いたように固まる。


「な、なぜ伯母上がここにぃっ……ち、父上と一緒に帰ったんじゃっ」


「ホウ、私がここにいては何か不都合でも?」


「い、いえ……そんなことはありません……のじゃ」


 固まったまま妙な敬語になるエミリアをエリザベスの鋭い目が細められ睨みつけてくる。その目が心なしか赤く光っているようにも見えるのは気のせいだと思いたい。


(正直、第三者でも見てて怖いです、エリザベス様。正に女王様の貫禄。まぁ、女王じゃないんだけどね)


 その後、エリザベスがいてくれたおかげで晩餐会は問題なく進められていき、私もおいしくご馳走を味わうことができた。

 魔族の食文化がどうなっているのか、若干興味があったが蓋を開けると至って普通だった。ただ、南国ということなのか海産物が主流のように見受けられる。


(まぁ、虫料理とかゲテモノ料理とかにならなくて良かったわ)


 私は安心して料理を堪能することにしつつ、ふと、気がつくのであった。

 それはエリザベスの行動だ。

 彼女は威厳溢れるかっこいい佇まいで、大人達と談笑したりしているが、隙を見ては私達のところへ来て何かと気を使っているように見えた。まぁ、客人を気に掛けるのは普通だと思って気にしなかったが、あらかた大人達との付き合いが終わった後は私達にべったりである。

 特に、今も緊張で小動物のように縮こまっている可愛らしいサフィナにべったりであった。それによって、私はふとある仮説を思い浮かべてしまう。


(ああいう怖い感じの容姿のお姉さんって意外と……)


「意外とエリザベス様って小さくて可愛いモノとかフリフリ系が大好きとか」


 私は迂闊にも考えを口にしてしまった。そして、最悪なのが皆と一緒に本人がそこにいる時にである。

 王子とマギルカがギョッとした顔で私を見てきて、私はしまったと口に手をあててしまう。恐る恐るエリザベスを見てみると、なぜか彼女の動きが固まっているではないか。


「おやおや~ぁ、伯母上どうしたのじゃ? 伯母上が固まるなんぞ、久しぶりにみるぞ。もしかして図星か? 氷血の魔女と呼ばれ恐れられているくせに実は可愛いモノがだ~い好きな乙女かっ! 部屋は可愛いヌイグルミとフリフリ装飾で彩られているとかなのかぁ」


 止めとけばいいものをエミリアが面白がってエリザベスを煽ってくる。


「お黙り」


 底冷えするような低い声でエリザベスがエミリアをアイアンクローで締め上げる。


「あだだだだだだ、図星か、図星なのじゃな! うわはははっ! 伯母上とヌイグルミ、恐怖のくみあわ、すえぇぇぇいっ」


 積年の恨みを晴らすようにエミリアがアイアンクロー状態で尚も煽るとエリザベスはズルズルと彼女を引きずり、そのまま近くの扉へ行く。と、タイミング良くメイド達がドアを開け、そこからポイ捨てするようにエミリアを外へ放り投げた。そして、エリザベスは扉の前に立ち、エミリアがいる方向へ向かってブリザードのような氷結魔法を放つ。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁ、やめろぉぉぉ! おのれ、伯母上ぇぇぇ、実力行使とは卑怯なのじゃぁぁぁあああ!」


(さすが魔族。魔法耐性高いからあの程度大丈夫なんだろうけど、黙らせるだけなのに随分とまぁパワフルだこと……)


 エミリアの絶叫空しく、そのまま扉は優雅にメイド達によって閉められる。一応、あれでもこの国の姫様なのに、随分な扱いで空笑いしか出てこなかった。と、私達のところに今の出来事がまるでなかったかのように澄まし顔でエリザベスが戻ってくる。


「聞き取れなかったわ。ごめんね、何か言ったかしら?」


「ひいえ、にゃにも!」


 そして、私の前に立つエリザベスが心底怖かったので、私は声を上擦らせ首を横に高速振りするしかなかった。他の選択肢など今の私にはない。


「……それにしても、わずかな時間で相手を見抜くその観察眼。確か、祭りの際、間者の存在にいち早く気づいたのもあなただそうね。フフッ、とても興味がでてきたわ」


 一息ついて私にだけ聞こえるように言ったエリザベスが目を細め、口に手をあて笑みを見せる。


(いやいやいや、これは前世で得たちょっとした設定をポロッと口にしてしまっただけで。決して何か証拠があったわけじゃないのですよ。変に評価を上げないでください! 怖い、獲物を見つけたドS女王様みたいでとっても、怖いよぉぉぉ)


 皆がエミリアが消えた扉の方を見て唖然としている中、私だけが別の意味で青ざめるのだった。口は災いの元とは正にこのことなのだろうか。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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