学校案内、不審な影
俺は始めてエヴァトランスにやって来た水歌に学校案内をする為に彼女の教室に向かった。
ちゃんと俺に言われたとおりに自分の教室前で待っていたので直ぐに合流した。
「それじゃあ、歩きながら説明するぞ。何か分からなかった言ってくれ」
「うん」
先程、今年俺の学校は増築されたと言ったが、新校舎に教室が8個増えた程度だ。だから、主な案内は特殊な教室がある旧校舎になる。
ブラジルでは室内でも靴を脱がない為、校舎の入口は階段があるだけで上がれば教室の扉があるだけ。
休み時間ではこの学校では絶対に校舎の外に行かされる為、階段に午前中の生徒がほぼ全て集まる。
何とか下り切ると俺は大量に置かれているテーブルと椅子を見る。
カフェテリアである。
此処エヴァランス学校だけでなくブラジルの他の学校にもある学校内での飲食店だ。
此処で午前なら朝食、午後ならおやつを食べるが、メニューはブラジルでよく見る揚げ物や、飴、チョコの様なお菓子ばかり。
ホットドックやサンドイッチもあるが、殆どの生徒は作るのに時間の掛かるホットドッグより、既に出来ている揚げ物系、この学校では生地の中に肉が入っているパステオや、生地の中がコロッケの様になっているコシンニャが人気で結構早く完売になる。
「ホットドックも良いんだが、出来上がるまで約4分。15分の休み時間でそれはちょっと長いよな~」
「でも美味しい」
水歌はホットドッグを嬉しそうに食べる。
パンに挟んであるのはグリーンピースとコーン、それとポテトチップス、ソーセージだ。
それを食べながら旧校舎……と言っても特別古いわけではないが、そちらを目指す。
旧校舎の階段を上りながら俺は水歌に説明していく。
「此処にはパソコン室、図書室、理科室、職員室、相談室、補修室みたいな特別な教室がある」
旧校舎の1階には3つ程普通の教室があるが、2、3、4階は今挙げた特殊な教室しかない。
「うん、補修室って何?」
「まあ、成績の悪い生徒がそこで更に勉強するんだよ。補修を受ける生徒は少数だから先生も教えやすいしな」
この補修室には出来たら今年は来たくない。
各学期の成績で平均を下回った場合、点数の悪かった教科を再テストをする事になる。
一応、テスト前に補習授業があるので、挽回するチャンスは十分にある。
しかし、このテストは普通より難しい。
此処に来る事がない事を祈ろう。
「まあ、後は……」
「これは?」
4階まで上がって2階まで降りた所で、俺が何を紹介しようと悩んでいたら、水歌がある教室を指差した。
「此処は…Não pode entrar? 関係者以外立ち入り禁止みたいだな」
「入れないの?」
「そうみたいだな。だけど、こんな張り紙あったかな?」
札には放送室って書いてある。
生徒が入っていけないのは当たり前だが、何故去年なかった立ち入り禁止が貼られているんだ? もしかして誰かが此処にイタズラでもしたのか?
「まあ、良いか。立ち入り禁止だから入れないし」
俺達は直ぐにその場を後にした。
放送室付近の窓に迷彩色の羽根が落ちているのに気付かずに……
***
清黒達が外で放送室に注目している時、中では普通ではない事が起きていた。
「休み時間が終わったら作戦開始か……」
「んー! んー!!」
「少し黙ってろよ!」
放送室の中にはロープで縛られ、口を塞がれた教師と防弾チョキを着込み、迷彩色の服を着ていて無線機や銃などを所持している怪しい男がいる。
「流石に、校舎内の2階の此処には警備員はいないか」
恐らく、変身能力で飛んで来たのは一目瞭然だが、この学校の外で変身能力を使用すると、警察に探知されてしまう筈だ。
やがて、縛られていた教師の腕に注射機が打たれ、そのまま教師は動かなくなった。
しかし、それに清黒達が気付く事は無かった。
***
階段を降りて旧校舎と新校舎を繋ぐ広場に着く。
「まあ、ソロソロ帰るぞ。もう2分しか時間無い」
「分かった」
俺達は其々の教室に移動する。