初日 変身学
今回は説明回。
「それでは、8年1組はクリスチアニ先生の後ろに付いて行って下さい」
ポルトガル語の教師、クリスチアニ先生に俺達のクラスは付いて行く。
ここからは普通に授業が始まる。
日本の小学校みたいに初日の授業は普通より早めに終わる様な事は無い。
と言うか、ブラジルの授業時間は元から午前か午後のどちらかだけだ。
8年1組は新校舎の階段を上り、今年新しく増築された校舎を見ながら、去年と同じ教室に入った。席は自由らしいので、去年と同じ先生の席に一番近い窓側から2番目の列の先頭だ。
学校初日最初の授業は俺の苦手科目、ポルトガル語だ。
「Oi、81クラスの皆さん、去年と同じくポルトガル語の担当のクリスチアニです。では窓側の人から自己紹介をどうぞ」
と、40代辺りのクリスチアニ先生が言ったが、俺の頭は一瞬でパニックになった。
やばい! 自己紹介とかマジ緊張する! 他人の紹介なんて聴いてる場合じゃない!
え~と、名前言う時は俺はアレン!? それとも俺の名前はアレン!?
恐らく後者だ。
他の人の自己紹介を聞いてみれば、好きな物と好きな教科を言うらしい。
混乱した頭でごちゃごちゃ考えている内に俺の出番は回ってしまう。
「次はアレンの番ですよ?」
先生に呼ばれてハッとする俺。
やばい、考え事に夢中で順番忘れてた!
俺は緊張しながらも立って口を開いた。
「E, eu sou Allen. Shiguro. Kumizu, gosto de sushi e minha matéria favorito é matematica!(お、俺の名前はアレン・シグロ・クミズ、寿司が好きで、好きな教科は数学です!)」
な、なんとか言えた……よね?
「おめでとう! 今年は自己紹介ちゃんと出来たね!」
クラス全体からパチパチパチと拍手される。
マジで緊張した~、なんて思いながらもこんな布団を床に敷けた幼稚園児の様に褒められてもは嬉しくない。
文句の1つも言いたい所だが緊張感から開放された為、心臓がバクバクして出来ればジッとしておきたい。緊張しすぎなのは自分でも重々承知だ。因み、日本語ならこんなコミ症みたいな反応はしない。本当だぞ?
「では次の人」
自己紹介が終わる頃に、漸く俺の心臓は落ち着いた。決して、コミ症では無い。
***
10分後、81クラス30名の自己紹介が終了し、漸くポルトガル語の授業が始まった。
先生の話を聞いても何を説明しているのか分からないので黒板に書いてある内容を必死にノートに写す。
いま説明されているのは……、家帰ったら母さんに聞こう。
2時限過ぎて次の授業は変身学。
見た感じ30代前半の女の先生が入ってきた。
「どうも皆さん、私はタチアナと言います。今年は変身学の担当になりました。一年間、よろしくお願いします。では、まずは去年のおさらいから……」
1985年のルナギフトトランス事件、略称LGT事件。
月の一部が地球に落下し、大気圏内で爆発、なんて、何も知らない俺達の世代からしたら突拍子のない話だ。
「この爆発で地球上に散らばったのが新たな原素、変身素です」
これが原因で俺達人間は他の生物への変身能力を身につけた。変身能力は変身素が常に耳から入っていれば変身できる。
「変身能力は個人差があります。変身できる生物や属性が其々別れています」
俺の変身能力はシャチ、属性は海水。
水の中に住む生物の属性は海水と淡水の2種類だけだ。属性が合う場所なら最大限に力が出せるが、合わない場所なら半分程度の力になる。
因みにシャチは結構レアみたいで、100人に2人いるかいないか位の珍しさだ。
「ですが、そんな能力を悪用する組織が存在します」
国際的犯罪組織。
目的は不明だが世界中の優秀な変身能力者を集めた犯罪組織で、既に何度も変身に関係有る施設や地区を攻撃している。
変身能力は自由に使えるがその力は簡単に察知され易く、街で犯罪に使用すれば直ぐに警察が現れ取り押さえられる。探知自体は簡単だし、人によっては街中では普通見れない様な動物が現れたりするので簡単に発見、通報される。
街中で変身が感知されないのは学校や、変身を研究する研究所等だけだろう。
だが、《ワールドイーター》は様々な変身技術を盗んでいる為、重要施設の警備を何度も通り抜けている。いったいどうやってそんな技術を手に入れたのだろうか……
「では最後にこの学校での能力の評価についてですが……」
この学校では変身能力の評価は3つに分けられる。
変身限界時間、変身元の生物の再現率、種族的な評価。
俺の変身限界は1時間1分40秒、俺の年齢13歳の平均的な時間だ。
再現率なら時速60Kmを叩き出しており、その体重や身長も同じ位な為結構高い。
シャチの種族的評価は水泳の他に音波を出せる等、種族的行動が出来るので問題ない。
因みに属性的な能力で海水を体から出せるが、出すだけなので余り役に立たない。後、決して汗では無い。海水だ。ちゃんと検査してもらったから。
「アレン君の総合評価はBです」
A~Fランクの中で俺はBランク、高い方だ。
その後も出席番号順に先生は皆の評価を言って行く。
ある程度の説明が終わると相変わらず日本でなら警報だと思われるくらい紛らわしいチャイムが鳴り響く。
「それでは次回からちゃんと今年の授業に入りたいと思います」
そう言って先生は教室から出て行った。
こうして初日の授業は過ぎて行き、3時限目の授業終了と共に15分の休み時間になる。