学校初日
大賞に応募しようとして、間に合わなくなった作品です。
とりあえず、一巻分位は完結したい。
――2009年、ブラジルの南地方、リオグランデドスルの港町トラマンダイ。
砂浜付近はお世辞にも綺麗とは言えない海だが、沖の方は綺麗だなと思いながら俺、 九水清黒は――
「もっと、スピードアップ」
――背中に従妹を乗せて時速約60kmのスピードで泳いでいる。
「いや、これが限界だから、無理だから! 背中のヒレ引っ張んないで、痛いから!」
俺のシャチとしての速度に不満があるのか、ヒレを引っ張って無理矢理スピードを上げようとする従妹。しかし、そんな機能は俺には無い。痛いだけだ。
「あ、サメ」
「嘘! 何処!?」
自分がシャチなのも忘れて、サメの単語を聞いた瞬間にUターンして最高時速80Kmで砂浜へと戻る。
「嘘」
「って、嘘かよ!」
俺のツッコミがシャチの超音波と一緒に沖で響く。それと同時に俺の尻尾だけ青色だった華麗なるシャチの体が、黒髪で青い海パン一丁の冴えない男の姿に戻ってしまった。
「変身限界1時間1分40秒、少し伸びた」
シャチだった俺の背中に座っていた俺の従妹、水蓮エレナ水歌が呟く様に報告してくれた。
「伸びたのは1分だけかよ……って言うか脅すなよ」
俺はその報告と先の嘘に肩を落とす。
「戻って早く遊ぼ?」
ピンク色のビキニを着ていた従妹がそう言うとピンクのイルカに変身する。
先のテストで限界時間までシャチになった俺は5分間の間、シャチになれない。
それにいつまでもこんなだだっ広い沖に2人ぼっちでいたくない。
元の姿なら女の子におんぶして貰う様で情けないが、俺はイルカになった水歌の背中に捕まり、水歌は最大速度で移動し始めた。
「ねぇ、この後……」
「おう、寿司だな。どうせ何時もの量じゃ膨れないだろうし、今の内に新鮮なのを食べれば?」
「む、そこまで食いしん坊じゃな、ッモグ!」
否定しておいて即効でトビウオらしき魚を口に咥えやがった。
「美味しい……」
「まあ、美味しいよな」
俺がシャチだったらな、っと心の中で呟きならが、俺は嫌な事を思い出した
5日後には俺の夏休みが終わるのか……
***
やっぱり海って、最高だったなー……
「なーんて、思い出に浸って現実逃避しても何も変わらないな……」
夏休みが終わった2月25日7時10分、学校初日に小汚いバスの中で俺はそう呟いた。
共感する人は多いと思うが、俺は学校に行くのが嫌いだ。
勉強は勿論進んでやりたい訳じゃないが、それ以上に嫌なのは俺の通い先がブラジルの学校だからだ。
「マジで日本帰りてぇ……」
「清黒に賛成だ……」
「2人とも、ファイト」
俺は12年間住んでいた日本から移住して今年で2年目に入るが、今だポルトガル語は中途半端で去年は日系人だからと単位関係無しに進級させてもらった。
登校時間、休み時間、下校時間は学校に兄弟と従妹の3人しか居ないアジア系の顔な為、嫌な程目立ってしまう。
俺のフルネームは九水アレン清黒、ブラジル生まれの両親を持つ3世だ。
そんな俺は現在バスの中、夏休みの出来事を思い出しながらもこれから着いてしまう国立変身学校エヴァトランスから少しでも意識外そうとしているが、緊張が止まらない。
「そう言えば、ブラジルの学校で始業式とかやるのか? 俺まだ国歌覚えてないんだけど大丈夫か?」
「俺は知らない」
「2人が知らないなら、私も知らない」
学校近くのバス停に降りた俺は弟である九水アレックス蒼清と水歌に訪ねて見たが、俺と同じで初の始業の日なのでそんな事を知っている筈が無かった。
***
学校に着いたら生徒全員が体育館に向かっていた。どうやらそこにクラスの張り出しがあるらしい。
「Bom dia!(おはよう!)」
「Bom dia!」
「Bom dia!」
警備員や教師、生徒の挨拶の声がそこらじゅうから聞こえてくる。俺も適当に挨拶して体育館を目指す。
俺は6年生で進級したから今年は7年生。
ブラジルには中学が無く、代わりに7年生と8年生がある。
俺は先程述べた通り7年生、蒼清は俺の2つ下で今年は5年生、水歌は7年生だ。
昨年の4月にブラジルに来た俺と蒼清は去年、6年生と4年生のクラスに入った。
母さん曰く、最初の1年はポルトガル語を覚える為の期間だから6年と4年をもう一度やり直して来い、だそうだ。
水歌は今年からこのエヴァランスに入る事になったが彼女は口数少ないので少々不安だ。
正直、俺と同じクラスの方が良かったんじゃないかと心配している。
何にせよ、俺達は自分のクラスの表を探し始めたのだった。
「Allen、Allen…あった」
今年のクラスは7年1組。どうやら去年の組と同じ数字らしい。
「他の奴らは……殆ど同じだな」
クラスメイトも去年と同じらしい。これには少し安心した。少なくとも教室内で興味の目で見られる事は無い。
そんな事を思っていると後ろから聞いた事のある声で呼ばれた。
「Oi、アレン! 元気?」
ブラジル人の一般的な挨拶をして来たのはこの学校で最初に友達になったマテウス・アミゥ。
眼鏡を使用していて、生まれながらの金髪で目の色は青。あだ名は、とある映画の魔法使いの少年に似ているのでハリー。
最初はブラジル人達の多彩な目の色に違和感を覚えたが、既に過去の出来事だ。それと、ハリーと呼ぶと怒るから俺はあまり呼ばない。
「Oi、マテウス! 元気だよ。そっちは?」
「僕も元気だよ。休みはどうだった?」
「Bricar na praia com minha familia(家族と海で遊ぶ)」
そうポルトガル語で言ったら苦笑された、ってまた動詞を間違えたか。
「間違えた。Brincamos na praia(海で遊んだ)」
「今度は正解」
やはりポルトガル語は難しいな……
動詞は基本、rで終わるのだが、自分を示す場合はaやoとかで終わり、自分達ならmosを付けなければならない。しかも、それが過去形、現在進行形、未来形で細かく違うのだから、日本語慣れしている俺からしたらややこしい事このうえない。
「この後、何がある?」
「校長先生が新しい先生を紹介してから教室に移動するよ」
「分かった。ありがとう」
話し終わると体育館のステージに校長先生や他の先生が居た。
俺の言語力では校長先生の話は全く分からない為、適当に聞き流しながら終了時間を待っていた。それに他の生徒達も結構五月蝿い。
このエヴァランス、というかブラジルでは先生達は生徒を余り叱ったりしない。モンスターペアレンツが、というより国全体的に国民が貧乏なので減給が日本より怖いらしい。日本生まれの俺はゆる過ぎないかと思いながらも、時間が過ぎるのを待った。
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