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4.彼女はナンパを知らない


ニコニコというよりはニヤニヤにちかい表情のその男子生徒は、アタシの顔を覗き込むようにして見上げた。

あまり関わりたくないと思うのは、アタシの本能だろうか。

彼の友人は彼の両隣に座り、片方は興味なさげに、もう片方は呆れ顔をしていた。

食堂の白いテーブルに向かい合わせるようにして、その人等は座った。


「……なんでそこに座るんですか」


ん?と目の前の彼が言う。


「あんなナンパのされ方始めてだったからさぁ」

「ナンパ?」

「揺れていたのでつい掴んでしまいました、って。すごくない?よく思い付いたよね」

「本当のことですから」

「くくっ……!猫かよっ」


案外鋭いな。


彼は肩を震わして笑い始め、両隣はそれに対しため息をついた。

ため息をつきたいのはこっちだ。

何が嬉しくてヒトの男をナンパしなければいけないんだ。

いくら見た目ヒトになったからといって、そういった対象がヒトになったわけではない。


「席、まだ他にも空いてると思うのですが」

「だから?」

「……移動する気はありませんか?」

「は?なんで?あんな笑えるナンパ断るわけないじゃん」

「ナンパじゃない」

「くくっ!君ツンデレ属性ってやつ?」

「ツンデレ?」


どんな属性にわけられたかわからないが、彼は面白そうだ。


どうやら本気で動く気はないらしい。

彼は隣の友人に俺日替わりA定食、と注文し、一人の男子生徒がのそりと立ち上がる。

するともう一人の男子生徒も俺はBで、と当たり前のように言った。

パシリなのか?


「………あんたは?」


アタシ?


「注文してきてくれるんですか?」


立ち上がった男はのっそりした動きで、こくりと一つ頷いた。

こういうヒトをパシリ体質というのだろうか。

二人はお弁当があるから注文しといていいよ、とも言っていた。

でもアタシは注文のやり方を知らなかったので、二人が来るまで待っているつもりだったのだ。

どうしても魚が食べたかったし。


「………魚」

「………B?」

「………たぶん」

「………わかった」


これで魚が出てこなかったら泣いていたと思う。

ジローよろしくーとナンパの彼の言葉を背に、ジローと呼ばれたパシリ体質の彼はのそのそとカウンターに向かった。

黒髪のあちこちに跳ねた髪が人混みの中でもよくわかるのは、彼がヒトよりも頭一つ分以上には大きいからなのだと気付いた。

なるほど。

あぁして食を手に入れるのか。


「………どういうこと?」


ジローがアタシに魚を運んできて少ししたぐらいに、幸恵と奈都が食堂に現れた。

アタシはちょうど魚を一口食べたところで、二人は驚いた顔をアタシと向かい側の三人に向けた。


「なんで豹塚さんと犬居さんと熊切さんと一緒なのよ!?」


そんなのこっちが聞きたい。

それよりも、奈都から三人の名前がすらっと出てきたことに驚いた。

どれがどれだかは分からないが。


「知り合い?」

「はぁ!?こんだけの有名人と知り合いなわけないでしょ!?」


有名人?

この人たちがか?

アタシが首を捻ると、あんたねぇ、と奈都に呆れられた。


言われてみれば、確かにこの三人は人目を惹く容姿ではあるかもしれない。

ナンパの彼は肩まで長く伸ばされた金髪を赤いゴムで括り、もう一人の彼は黒い短い髪をさらりと風に流している。

パシリ体質の彼は平均よりも高い身長だ。

アタシレベルではそれぐらいの特徴しか把握できない。

人間的な感覚がまだ掴めていないので何とも言えないが、カッコいいの部類に入る人物なのだろう。

理央みたいなかわいい要素ならもう少しわかるのだけど。


そういえば朝と似たような視線を感じる気もした。

食堂という人が群がる場所だ。

人目は仕方がないとは思っていたが。


「ほんとに変わったね、美子………」


先輩たちをナンパしちゃうなんて、と続いた幸恵の言葉に、ナンパじゃないと本日2回目の否定をした。

金髪の彼がまた肩を震わしたので、すごくいらっとした。

このヒトはアタシの癪に触るヒトだ。





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