3.彼女は友達を知らない
朝イチの講義をする教室は、すでに数十人の生徒がいた。
アタシと彼が入ってきたことに数人の生徒が気付き、その数人は驚いたようにこちらを凝視した。
「美子、こっち!」
黒髪のおかっぱの髪の女子がこちらに手を振った。
四人がけの机のその子の席の隣には茶髪の巻き髪の女子がいて、彼女は不思議そうにアタシを見つめていた。
じゃあ後でね、と彼がにっこり笑顔でアタシに呟いて、彼も自身の友達らしき人たちの輪へと入っていった。
おかっぱの髪の彼女のもとに行くと、おはようと言って、自分たちの真ん中の席を空けてくれた。
アタシも朝のあいさつとお礼をして真ん中に座る。
「どーゆー風の吹き回し?」
茶髪の巻き髪の彼女がにやりと口角をあげ、アタシの顔を覗きこんだ。
おかっぱの彼女も気になっていたようで、にこにこしながら身体をこちらに向けた。
「なにが?」
「なにが?じゃないでしょー?理央くんのこと」
理央くん、とは彼のことか。
「あんなに一緒に行動するのイヤがってたじゃん。目立つからとか、目つけられるから、とかなんとか言ってさ」
確かに目立っていたかな。
いるだけでも人目を惹く容姿だと思う。
彼女はイヤだったのか。
でもまぁ、アタシは気にしないけれど。
「別にいいかな、と」
「うわぁ、美子、かっこいー!」
おかっぱの彼女が何やらきゃらきゃらと笑う。
どうしてかっこいいになるのかがわからないので、首を捻った。
巻き髪の彼女は関心したような声を漏らした。
「美子、性格変えた?」
「まぁ、そんなとこ」
「前からもっと強い性格になりたいって言ってたもんねぇ。幸恵も見習わなきゃなぁ」
「幸恵はキツいんじゃん?」
「えー、なっちゃんひどーい」
二人の話にだんだん着いていけなくなったところで講師が教室に入ってきたので、教室のざわめきはなくなった。
二コマの講義を終え、アタシは一人おかっぱの彼女もとい幸恵に聞いた食道に向かった。
二人はレポートを提出するからと言うので、場所とりをと頼まれている。
魚があるといいな。
ふと、前を歩く三人の男子生徒の集団が目に入る。
正確に言えば、一番左の彼のポケットに突っ込まれたケータイのストラップ。
そんなに大きなものではなかったが、ふわふわしていて、歩く動きに合わせて右へ左へと揺れている。
無償に掴みたい衝動が沸き上がる。
身体はヒトにはなったが、習性とか本能は以前のままらしい。
あぁ、掴みたい………。
いつの間にか相当に距離をつめていたらしい。
ふわふわが大きく動いたために、アタシは咄嗟にそれを掴んだ。
「は?」
「………」
はたから見たら、男子生徒がポケットから取り出したケータイのストラップをアタシが掴んでいる、という図になっている。
ヤバイことをしたと自分なりにも思っていたので、顔を上げることができなかった。