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「昭島が・・・・」
私から昭島の話を聞いた秋川は、顔を青ざめて絶句した。
葬儀は家族だけで行うという連絡だけが会社に入り、場所も時間も教えてはくれなかった。
失礼な言い方だが、死体には興味はない。葬式に行くのは義理だけのことだと思っている。自由になった魂は、葬儀場などにまっているはずがない。
もしも私が死んだ空を飛び逢いたい人に逢いに行く。きっと、昭島も葬儀場なんかにいないと思う。今頃は、私たちが住むマンションの上を飛んでいるかもしれない。
【昭島が亡くなりました。葬儀は家族だけで行うそうです】
私は久しぶりに熊川にメールを送った。
熊川と昭島は、短い期間だったが引継ぎをしていた。年上の昭島が姉さん口調で熊川に教えていたのを思い出すと、可笑しくて涙が出る。
【そうですか。出来るなら僕の命を上げたかったです】
事情を知らない熊川のメールに腹が立った。昭島は命を失っても構わないと思うほどの恋をしたんだ。それが、正しかったかどうかなんて誰にも分からない。苦しもうともしない熊川の命なんか欲しい訳がない。
【昭島は自分で命を絶った。精一杯人を好きになった】
私は荒っぽく指を動かしメールを送った。
【知りませんでした。すいません】
彼は何も悪くない。悪いのは私だ。自分の悲しみの処理が上手く出来ず、当たり散らしている。
マネージャーは、そんな私をそっとしておいてくれる。黙って、ただ黙って傍にいてくれる。
【僕は死にません。絶対に自分で命を絶ったりしません。
この星のどこかに、僕のような男でも安心して生きられる場所があると信じています。未来が、そして運命が僕に何を用意してくれているのか、それがどんなに悲惨なことでも、それが僕に決められた生き方だと思うから】
真夜中に熊川からメールが来た。疲れて眠る彼の横で、私はそのメールを読んで心配で仕方がなくなり眠れなくなった。
「姉さん、私は間違ってたのかしら。好きになってはいけない人を好きになるのって間違ったことだったのかしら。
彼は言ってくれたの。生まれ変わったら最初に私を探してくれるって。
可笑しいでしょう。そんなことを私が信じるなんて。まるで姉さんみたいだわ。
知ってた?人は何度も生まれ変わるって。そして、何度も何度も運命の人を探し求めるの。でも、運命は簡単にはその人に出会わせてくれないのよ。姉さん」
朦朧とする私の横に昭島が現れ、そう言って消えて言った。
何度も生まれ変わり、何百年もかけ、人は運命の人を探す。そうなのかも知れない。
昭島は運命の人に出会い幸せだったのだろうか。
【運命を受け入れて生きましょう】
私は短いメールを熊川に返信した。