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always be with  作者: はるあみ
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 街はすっかりクリスマスイルミネーションでデコレートされている。クリスマスに興味ない私は新しいマフラーを買い、ぐるぐると首に巻いて通勤している。

 彼が辞めてから来た新しいデイレクターは、この会社には珍しく温厚で、年配の人だった。

 昭島が言うには「リタイア組ですよ」ということだ。大手の銀行からの転職で、能力よりも人脈を買われたのだろうというのも、昭島の推測だ。

 新しいDの元、私の生活は変わらないように思えたが、それは違っていた。同じように仕事をし、同じように「ご苦労様」と言われても、その声は彼じゃない。

 そう思うと、彼の声が聞きたくて仕方がなくなる。

【always be with you.】彼からのメールはそれ以来なかった。

【いつも君の傍にいる】彼はどんな気持ちで、このメールを打ったのだろう。冗談、それとも不安で泣いている私をあやすため。

 昼休に、一人で外に出た。ゆっくりと彼のメールを読返したくて。

【always be with you.】私は彼が私にくれた文面と同じ文章を書いて彼にメールを送った。

 すると、すぐに彼からメールが返ってきた。

【どうかしたか?】

【意味が知りたいの、always be with youの意味が】

 返信がないまま昼休は終わった。休憩のたびに私はメールを確認してはガッカリしたり後悔したりしていた。

 そして、夜、一人の部屋に彼からメールが届いた。

【返信が遅くなりました。ずっと、躊躇っていました。

 君に言いたくて言えなかったこと。

 それは、I always be with you becouse I love you

僕は君が好きです。いつまでも君の傍に居たい。出来ればずっと。

 僕のようなオジサンに告白されて、君は困っているでしょうね。

 でも、我慢ばかりしていると損をすると僕もちょっとは気がつきました。でも、告白したからと言って気にしないで、今まで通り困ったことがあれば相談して下さい】

 彼はずっと迷い躊躇い私にメールをくれた。【ありがとう】ではないメールをくれた。

【ずっと傍にいてください】私は震えながらメールを返した。


 それから、私たちは頻繁にメールをし、そしてデートをした。

「もう、若くないから」と言って手をつないで歩きたがらない彼の腕を掴み、軽井沢のイルネーションも見に行った。

 お正月には明治神宮の玉砂利の上を、音を鳴らしながら歩いた。

 彼が前に買ったマンションには私の荷物が増え、ついに私は自分のアパートを引き払った。

 一緒に住むにあたり、私の父は大反対して彼にまで電話をかけた。それには彼も驚いたようで、すぐに実家に挨拶に行くことになった。

 結婚には興味がなかった。一生独身でも構わないと思っていた。

 だから、実家の父の前で「結婚させて下さい」と彼が言いだした時はビックリした。

 新宿から乗った特急「あずさ」の中でも彼はそんなことは言っていなかった。だいたい、実家に挨拶に行くことなどないと私は彼に言っていたのだ。もうじき三十歳になる大人が誰と暮らそうと文句を言われる筋合いなどないのだ。

 私は教員をしていた父が嫌いだった。「非常識だ」を口癖のように使い、愚痴を言いながらお酒を飲む父が鬱陶しかった。

「一応さあ」彼は電話で父に約束をした手前、挨拶に行かない訳にはいかないと言うのだ。

 彼は忙しく、最近は一日中一緒にいれることなどない。そんな彼を父の我儘に付き合わせるようで心苦しい。

「式はまだ先になりますが、とりあえず籍は出来るだけ早く入れようと思ってます」

 愕然とする私の横で、彼はすらすらと父に自己紹介をして話を進めた。

「まあ、それが筋というものだね」

 十歳も年上の彼に反対していた父も、丁寧に今後のことを説明され「非常識だ」とは言えなかったようだ。

 帰りの特急あずさの中で名物の信玄餅を食べる彼に、私は詰め寄った。

「ねえ、結婚なんて聞いてなかったよ」

「そうだっけ、僕は前から計画していたよ。君のお父さんも僕の計画に賛成してくれたみたいだしね」

 彼は父へのプレゼンを何度も練習したらしい。

「人生で最高のプレゼンが出来たよ。しかも、パワーポイントも使わずにだよ」

 私が文句を言っても彼は楽しそうに信玄餅を頬ばっている。

「父が賛成しても私は納得してないのよ。それはどうするの、秋川D。」

「僕じゃダメなのかな」今までニコニコしていた彼が急に心配そうに私の顔を覗き込んだ。

 彼は今でも自分が私の恋人であるこに疑問を感じていた。

「君が僕の年になったとき、僕は五十歳だよ。それに、髪も薄くなてたしさ」

 そんなこと言ったら私だって負けてない。

「美人じゃないし、スタイルも良くないよ。それに英語も出来ないしね」

 何度も同じことを言いあっていた。まるで、二人とも別けれたいみたいに聞こえるが、そんなことはない。

「マネージャーが駄目なんじゃなくて、私はプレゼンを受けてないってこと」

 父を熱心に説得する彼を頼もしいと思いながら、私は何か違う気がしていた。それは、私がプロポーズの返事をしていないということ。

「どういうことだろう」頭が良くて、良く気がつくの彼なのに、ときどき本当に馬鹿なんじゃないかと思うほど勘が悪い。

「プロポーズ」言っておいて自分で恥ずかしくなり、耳を赤くしながら車窓に顔を向けた。

「してなかったけ?」彼は不機嫌に外を見る私の横で、自分の耳を引っ張りながらプロポーズの言葉を考えているようだ。

 真っ赤になるほど耳を引っ張っているうちに、電車は新宿駅のホームに入った。

「always be with me。僕が死ぬまで傍にいてしい」

 電車がまる寸前で彼はプロポーズしてくれた。

「嫌よ。だって、私をずっと励ましてくれるんでしょう。だったら、私の方が先に死ぬんだから」

 電車がまっても、私たちは席を立たなかった。

「それは難しいよ。僕は君より十歳も年寄なんだからね」

「そんなの駄目」

 結局、車内を掃除の係の人が来て、私はちゃんと返事をしないまま籍を入れることになった。



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