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always be with  作者: はるあみ
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 今、私の部屋には大きなテーブルが真ん中にデンと構えている。枯れた茶色の天板に短い脚の四角いテーブル。ネットで見た時はそれほど大きくないと思ったが、部屋に入れてみると布団を敷くのに往生するほど大きかった。

 お蔭で、化粧品を並べたままで食事も出来るし、ネットも出来る。

 倉科とは、毎日のようにネットの中で話をする。私たちの話題はいろいろだったが、気がつくと仏教的な話しになっている。

 倉科は天狗と話をするうちに、ヨガについて興味をもったようだ。そして、私は古本屋で手に入れた一冊の本によって、仏教と出会った。

 私と彼との暗号である運命について解き明かそうとすると、それはキリスト教ではなく仏教に近づいてしまう。経典を読めるわけでもないし、詳しく研究した専門書を読んだわけでもない。

 そして、簡単に解説された専門書のなかでも、分からないことや同意出来ないことは多い。

「僕もヨガの全てを知ってるわけでもないし、全部が正しい教えだとは思わないんだ」

 倉科は私と意見があった。完全に全てが合うわけではないのが、私と倉科の会話を続かせる。知的な刺激が心地良い。

 それは、彼の時にはなかった刺激。彼との会話も脳を十分に刺激するが、それは、あくまで子弟の関係だった気がする。

 出来の悪い生徒が、優秀な先生に食ってかかる。そんな会話だったかもしれない。それは、今も変わらず続き、私の安心に繋がっている。

 そして、倉科は会話の中に微かに自分の恋心を忍ばせるようになったのを、私も悪い気がしていなかった。

【僕は美帆さんは可愛いタイプだと思ってるよ】

 決して美人でもなくスタイルが良い訳でもない私に、倉科はそんなことをメールしてくれる。

【可愛い人って、目が大きくて顔の小さい人でしょう。私はどちらにも当たらないから、可愛くも美人でもないの】

 私は半分本気、半分期待を込めて返信する。

【そうでもないよ。目も円くてウサギみたいだし、太ってるってこともないじゃない】

 倉科は褒めているつもりのようだが、それはあまり上手ではない。

【ウサギかあ、あんまり嬉しくないな】

 私は笑いながらキーボードを叩く。昔むかし、私がまだ中学生だったら、きっと夕暮れの公園のベンチでしたであろう会話を、今は茶色く大きなテーブルの前でお茶を飲みながらしている。

 そして、私は彼には相談せず倉科と映画を見に行くことにした。

【水曜はカップルデーだから、一緒に行くと安く見れるよ】

 デートの誘いとしては五十点と言うところだろうか。しかも、水曜はレデイースデイだから、カップルで行かなくても私は安く映画が見れる。

【じゃあ、安く映画を見せてあげる代わりに、夕飯は倉科さんの驕りね】

 私の返事も五十点というところか。

 インターネットを通して無料で顔を見ながら電話も出来ることは二人とも知っている。でも、私たちはそうしない。

 顔を見て声に出して会話をするより、文字だけの方が良いことを私たちは知っているから。それは、会う時の楽しみにとっておかなくては。

 そろそろ、半袖の上に何か羽織りたくなる季節、私と倉科は有楽町で待ち合わせた。

 駅前の家電量販店と同じビルの中で、マイナーな映画がやっている。日比谷の大きな映画館とも、マルチスクリーンのシネコンとも違う小さな劇場の入口は待合の椅子も少なく、私と倉科は次回上映のポスターを見ながらポツポツと話をした。

 メールでは気楽に話せるが、やっぱり現実は違い、上手く会話が弾まない。この空気感も懐かしく感じる。そう、やっぱり、昔むかしに味わったときめきだ。

 映画は正直面白くなかった。私の頭が全体に薄暗い画面で起こる心理描写を理解するには知識が不足していたからだろうか。

 映画が終わったあと、倉科に感想を

聞かれたときなんて答えようか。映画の終盤ではそんなことばかり考えた。

【よく分からなかったね】

 倉科が映画館を出るとすぐに、そう言ったので私の心配は無用だった。でも、よく分からなかったことで、帰りに寄った居酒屋では話が弾んだ。

 彼とは来たことがないチェーン店の居酒屋は、水曜の遅い時間も混んでいて、店内も騒がしい。

「あの映画で言いたかったのなんだろうね」

 倉科はただ女優が綺麗だったことだけしか理解できないと言い、私は「特に言いたいことはなくて、要するに日常ってこんなことってことなんじゃない」と解説にすらなっていないことを言う。

 お互いに笑い合っていると、どんどんと話は映画から離れ、倉科の飲物はビールからチューハイになった。

「そういう離婚もあるんだね」

 離婚した彼と私の話を聞いた倉科は不思議だと言う。

「僕の場合は、単純に僕の浮気。意外でしょう」

 倉科の言う通り意外だった。容姿が特別悪いわけではないが、浮気をするほど元気があるタイプだとは思えない。むしろ、色恋沙汰に不器用な男だと思っていた。

「気がついたら好きになっててさ」

 不器用だからこそ、浮気ではなく本気になり、離婚した。でも、その恋は長続きしなかった。

 そこから不運が始まったと倉科は笑う。

「左遷もされ、盲腸にもなり、挙句は自殺願望の鬱」

 自嘲気味に言う倉科を見てるのが辛かった。盲腸にはなっていないが、離婚をした直後の自分も同じような境遇だった。

「離婚して後悔してますか?」

 私は倉科と自分自身に聞いてみた。

「今は後悔してない。だって、その人を好きになったのは幸せなことだし、左遷されたのは自分の性格だからね」

 過去は記憶だと彼は教えてくれた。でも、目の前にいる男は記憶の中を彷徨って出口さえ探そうとしていない。

 私はどうだ? 私も後悔はしていない。しても仕方がない。これは私の運命であり運命に良いも悪いもない。

「運命って決まってると思いますか?」

 私は倉科の目を見つめ問いかけた。

「わかりません」

 倉科の瞳の中に見たことのない私が映っている。その顔は、どんな時よりも優しそうな私だ。


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