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always be with  作者: はるあみ
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 生命保険会社の仕事は半年が過ぎた。外交員さんの厳しい言葉にも今はそれほど傷つかない。

 考えてみれば、昔の私は勝手に傷つき、その相手を嫌い避けていた。いまでも、昼に言われたことを寝る前まで考えることはあるが、そういうものだと思えるぐらいは大人になった。

 春になり、また契約者が自殺した。今度は一人暮らしの老人だ。所長は黒いネクタイを机から出し「春になると増えるんだよね。じゃあ、行ってくるよ」と葬儀に向う。

 ここにいると、死や病気、事故が身近にありながら実感が湧かなくなる。そして、否応なしに昭島のことを思い出してしまう。

 江の島に行ったのが熊川ではなく昭島だったらどうだったのだろう。そうしたら、死んだのは熊川でインドに行ったのは昭島だったのかもしれない。

 そんなことを考えていたら、熊川が言っていたNPO法人が気になり始める。

【NPO法人って怪しくない】

 私は迷うと彼にメールをしてしまう。迷惑なのも図々しいのも十分承知しているが、そうせずにはいられない。

 そのことを彼に言うと、「僕たちはそういう運命なんだと思って、運命に感謝してるよ」と優しく応えてくれる。

【調べてみるよ】

 私のメールに彼はすぐに返信をくれた。そして、夜に携帯に電話がかかって来た。

「怪しくはないみたいだね。ただ、安全とも言えない。なにしろ、新興国ってのは十分な情報のある大企業でも騙される世界だからね。それを、人の繋がりだけを頼りに仕事を紹介したりしてるんだからさ。まあ、団体としては暴力団とも犯罪者集団ともつながりはないみたいだよ」

 彼の説明はいつも分かりやすく論理的だ。

「ありがとう、ちょっと興味があったけど関わらないでおくわ」

 私の返事に、彼は「本当かな」とくすくす笑う。

 私は臆病で人見知り、だから危ないことや危険な人には近づかないタイプだと周りから思われている。

 でも、本当は違ったようだ。どうも好奇心が強い上に間抜けな私は、うっかり危険に近づいていしまう。そのことを気づかせてくれたのも彼だった。

 まだ彼と暮らしていた私は、ある通販サイトにある洋服がとても気になった。彼には「優良なサイトとは思えないよ」と注意されたが、結局騙された。

 その時も彼はくすくすと笑うだけで、特に責めたり叱ったりはしなかった。

「君は止めても無駄みたいだね」

 彼の言うと通りだ。私は偏屈な頑固者。

 しかし、今度の件はそれ以上興味が湧かず、ただ、熊川がインドで元気に頑張ってくれることを祈るばかりだ。

 生活のリズムが整いだした私は、中古のパソコンで買物を始めた。宝石や雑貨には興味を持たないのだが、変てこなものに魅かれてしまう。自分ではへんてこだとは思ってないのだが、彼がそういうのだから、きっとへんてこなんだろう。

 例えば、夏に彼とショッピングに行ったとき、半袖からでる私の二の腕がぷるぷるしていた。そんな私の目に入ってきたのはバランスポール。あの、部屋にどんと構える長い棒が私には必要なものに思えた。

「家には他にもバランスボールもあるよ」

 掃除の邪魔にしかならない黄色い風船のことを彼は言った。でも、私はハンガーにもならないバランスボールがどうしても必要だと思った。

 しかし、今必要なのはテーブルだ。いつまでも床の上に食品を置いて食べるのは良くない。

 ネットで安くて小さくてシックな家具を探し回るうちに、私はまた変な人と知り合いになった。

 独り言のように詩をブログに載せているサラリーマン。ハンドルネーム『ハート・クラ』が書いたテーブルクロスという詩が検索に引っ掛かり、つい読みふけってしまったのだ。

 止せばよいのに、ついクラの詩に感想を送ってしまったのだ。

【とてもユニークな詩ですね、思わず笑ってしまいました】

 あまり良い感想とはいえないが、クラは喜んでくれた。

【ありがとう、こんな僕の詩を読んでくれるのは世界で貴方だけでしょう。本当に感謝します】

 クラは詩人になるのが夢だった。いや、正確には詩人になろうと思いたった。

 リストラになる不安と彼女に去られた悲しみ、そして、その中で世の中には自分と同じような境遇の人が多いことが分かった。そして、見知らぬその人のために詩を書こうと思い立ったそうだ。

【たぶん、病気だったのだと思います。僕は自殺に関するサイトばかり見てました。自殺の仕方、自殺の名所、自殺に適した時間。いろんな情報がネットには溢れてました。

 会社から帰ると、ひとりで部屋の中でサイトを見ては自分が細い紐を何重にも巻いて木にぶら下がるのを想像していたのです。

 醜いザクロのように目や鼻から血を流し、だらりと両手を下げた自分を想像すると安心できたのです】

 クラは、自殺サイト巡りの中であの男に出逢った。そう、江の島で熊川を助けたNPO法人の代表。

 私は総毛立った。恐怖とは違う感覚。

 私はクラにNPO法人の代表の話を聞きたくて会うことにした。


【君はどんどん先に進んで行くね】

 クラに会うことを彼に話すべきか迷ったが、その先に、あの男がいると思うと、相談せざる得なかった。

【先に進んでるのかな。なんだか、同じ場所をグルグル回って外に出れない感じだけど】

 本当にそんな感じだ。彼と暮らしてきたエリア、それは場所だけでなく自分自身の心の中の環境を含めたエリアから抜け出せないでいる。

 相変わらず、何も目標が見えず何をしたいのかも分からない。

【会ってみるといいよ。きっと彼に会うのが君の運命なんだと思う】

 彼は私と別れてから、前よりも運命という言葉を使うようになった。それは私も同じだ。きっと、二人でベッドの中でよくそんな話をしていたからだろう。

 そして、死んだ昭島が夢枕で「運命は生まれる前から決まっているの」と言ったことで、私たちには運命という言葉が共通の暗号になった。

 その暗号を解くために、私はクラに会い、そしてその男に会う。


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