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第四章(12)

 

 そして、朝が来た。

 集う面々の心境を見るなら、来てしまったというほうが正しいだろうか。

「えっ……マジで戻ってこなかったの……?」

 昨日から変わっていない状況に、起き出してきたパルヴィーがようやくといった感じで緊迫さを持ち始める。

「……私たちには、大きな目的があるわ。それに協力してくれるという仲間たちも待っている」

 皆を見渡しながら、アリーシェが心痛そうな面持ちで口を開く。

「いつまでも、ここに留まっているわけにはいかない……」

 すでに決めたことなのだ。エリスを待つのは朝までと。そして、その朝は来た。

 ならば行動は決まっている。……のだが、彼女の口は、なかなかそれを言い出せなかった。

 他の面々にしても同じである。暗黙の了解。頭ではわかっているが、声に出せない。

 口に出すことで、それが確固たる現実として認められるのを無意識的に避けているのだ。

「行きましょう」

 沈黙を打ち破ったのは、レクトだった。

「……見捨ててくのかよ?」

 ザットが呟くように言う。

 それは、皆が自問自答したことだった。どんな理由を持ち出そうが、根本的にその後ろめたさを払拭することはできない。

 人情というものがあるのだ。

「そうじゃない」

 レクトは、落ち着いた様子で首を振った。

「エリスも、目的地は知っているはずです。森を北に抜けた先……港町『レタヴァルフィー』。ここへ戻ってくるのが困難なら、あいつはひとりでそこへ向かうはずです」

 この中で彼女をことを最も知っているのがレクトであるというのは、周知の事実だ。そして彼女と最も親しいのが彼である、ということも。

 口ではどう言おうと、エリスの身を一番に心配しているのは彼のはずだ。

 そのレクトが言ってしまえば、他に反論は出せなくなる。

「いいのね?」

 重々承知しながらも確認を取るアリーシェに、レクトは「はい」とうなずいてみせた。

 

 

 太陽の位置からおおよその方角は把握できる。

 やや空腹を感じながらも軽快に森の中を進むエリスは、やがて大きな川に突き当たった。

「たしか、海の近くの町とか言ってたな」

 あえて口に出すのは、寂しさを紛らわすためだろうか。

 人里もないところでひとりぼっちという状況を特に悲観することもなく、エリスは川下へと体の向きを変えた。

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