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序章(4)

 

 翌朝。

 『フィアネイラ』の村の入り口に、完全武装を施した自警団の面々が集結していた。

 前日と同じく、ないよりはマシ程度の『レザーアーマー』に、お世辞にも新しいとは言えない剣や槍、斧、弓矢。辺境の村でこれだけ集めるのは苦労しただろう。

 しかしエリス・エーツェルは、やはり昨日のような露出度の多い軽装のままであった。服に対して腰に吊らした剣が妙に浮いてみえる。

「よーし! 全員いるなっ!?」

 団長の気合いの号令に、地響きに勝るとも劣らないような声が返された。

「これからオレたちを苦しめてきた、あのモンスター共のアジトに乗り込む! 総力戦だ! この村のために、フィアネイラ自警団の意地を見せつけてやろうぜっ!!」

 おおおお……というやかましい意気込みに、リフィクは不調子そうな表情で耳をふさいだ。

「どうしてこんなに元気なんでしょう……」

 そして力なく呟く。

 昨夜だいぶ遅くまで酔いどれ騒ぎを繰り広げていた、昨日の今日である。というか朝である。翌朝。早朝。

 諸事情により酒は口にしていないリフィクだったが、充分な睡眠も取れずに叩き起こされたためにまだ頭がボーっとしているのだ。

「なにもこんな早く……」

 タフすぎる彼らにはついていけそうにない。

「頼むぜ、兄ちゃん。あんたにかかってるんだからな」

 近くにいた男性が、激励を込めてリフィクの肩を叩く。

 その衝撃にすら耐えられず、リフィクはつまずいてすっ転んでしまった。


 

 二十人弱という大所帯が、朝焼けの残る空の下を進んでいく。周囲から草木の姿が少なくなり、大きな岩石が目立ち始めた。

 皆を引き連れるようにエリス・エーツェルが先頭に立ち、リフィクはドート団長と共に集団の中央辺りに控えていた。

「奴らが住み着いたのは、もう十年以上も前のことだ」

 自警団の経緯を尋ねたリフィクに、ドートがいかつい表情で語り出す。

「ここらへんは小さい村がぽつぽつとあるから、絶好の餌場だとでも思ったんだろうが……。ある日突然、オレたちの村にやってきやがったんだ」

 当時の光景を思い起こしているのか、ドートの目にありありと炎が燃えさかっていた。

「最初にやられたのは、村の入り口で見張りをやってたエルネスト……あいつの親父だよ」

 ドートは言いながら、仲間たちの先頭に視線を向けた。リフィクの顔がわずかにしかめられる。

「エルネストだけじゃねぇ。村の連中も自警団の連中も、数え切れねぇ人間が奴らにやられた。今の団員たちは、だいたいがそんな仇を持ってる手合いなんだよ」

 仇討ち。恨み。憎しみ。そういう強い気持ちがあるからこそ、『モンスター』という強大な相手にも立ち向かっていけるのだろう。

 そんな話を聞かされては、眠気もどこかに飛んで行ってしまうというものだ。先ほどよりもだいぶしっかりしてきた頭で、リフィクは彼らの意気を思い知る。

「ちっぽけな村だからな。この団どころか、村全部が家族みたいなもんだ。黙ってらんねぇんだよ、ああいう奴らに好き勝手されんのは」

 激情とは別に、共に生まれ育った村を守りたいという意志が彼らの中にはある。だから戦えるのだ。我が身を犠牲にしてでも。

 リフィクはふと思う。自分の中に、彼らのような強い意志があるだろうかと。

 答えはすぐに出た。ない。復讐を誓うような気概も、故郷に執着するような気持ちも。なにひとつなかった。

 故にどこか憧れを感じ始めているのかもしれない。確固たる決意を胸に生きる、このがむしゃらな人間たちに対して。

 

 

「見えてきたぞ」

 先のほうからそんな言葉が聞こえてきて、リフィクは顔を上げて前方を眺めた。

 なだらかな荒野。岩場に囲まれた、大きな石造りの建造物がそびえ立っていた。

 塔のような円柱形で、二階建てほどの高さがある。ところどころが風化して崩れている様を見ると、それはなにかの遺跡なのかもしれない。

「こんな近いところに……」

 リフィクは愕然と呟いた。村を出てから、まだいくばくも経っていない。早朝から朝に変わった程度だ。

「見た目はあんなもんだが、地下が案外広くてな。どれくらいの数がいるのかわからねぇぞ」

 気を引き締めるように、ドートが口を開く。

「詳しいんですね」

「ガキの遊び場だったんだよ、奴らが住み着くまではな」

 近付くにつれ、団員たちからあふれ出るような気迫が感じられた。戦意は最高潮にまで達している。

「作戦はこうだ。まずオレたちがあのアジトを取り囲む。で、お兄ちゃんが派手なヤツをぶっ放して、あのアジトを崩れさせる。……できるだろ?」

 ドートの確認に、リフィクは「あれくらいなら、なんとか」とうなずいた。

「そうするとグースカ眠ってる奴らは、なにごとかとアジトから慌てて飛び出してくる。そこを攻め立てるんだ」

 包囲。奇襲。強襲。常套手段ではあろう。

 フィアネイラ自警団はやや離れたところから散開し、素早く包囲網を完成させていく。準備完了の合図が来たのもそのすぐだった。

「最初の一発を打ってしまうと、僕はしばらく動けなくなると思いますが……」

 進攻を目前にして、リフィクが念を押す。全力を出すので最初以外は戦力になれない、と。

「心配すんな。手ぇ貸してくれた礼だ、きっちりオレが守ってやるよ」

 自分の身の心配をしていると取られたのか、そばにいたドートがたのもしくそう言い切った。それならそれで安心ではあるが。

「さぁ、やってくれ」

 ドートに促されて、リフィクは意識と『力』を集中させていく。昨日の攻撃よりも、さらに強く、深く。

 この奇襲戦、リフィクにかかっていると言っても過言ではない。最初のこの一撃で『モンスター』にどれほどの損害と混乱を与えることができるのか。

 それによって結果が左右する。ひいては自分たちの死活が。

 恐怖と不安で逃げ出したいリフィクだったが、彼らの手前そうするわけにもいかなかった。

 自分を信じてここまで来ているのだ。ならばこちらも彼らを信じなければ。

 リフィクの体の周囲に、ほのかに光が集まり始める。『魔術』を使役する時特有の現象だ。はたから見ると、それはなんとも神々しい光景であった。

「いきます……!」

 意を決して、リフィクは集中させた『魔力』を解き放った。

「フラッシュジャベリン!」

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