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序章(3)

 

 ドートや他の団員たちの歓喜と祝福。そしてその次に振りかかってくる、様々な歓迎の表現。

 酒が入っているせいかそれは苛烈で、質問責めや酌の誘いなどはまだいいほうだった。自慢話や逸話を散々聞かされ、大して面白くもない芸を見せられ、さらにはそれへの参加を強要され。

 飽きたのか酔い潰れたのか、リフィクの周囲が落ち着いたのは夜もかなり深まった頃だった。

 今『モンスター』たちが襲ってきたらどうするんだろうと思う余裕もなく、リフィクは酒瓶の散乱するテーブルに突っ伏していた。

 元々、傷を負った団員たちに『治癒魔術』をかけて回った時点で相当疲労が溜っていたのだ。

 それに加えてこのバカ騒ぎである。性分故に途中で抜け出すことができなかったが、もう限界であった。

 意志とは無関係にまぶたが落ちてくる。

「よう」

「はっ、はい」

 とはいえ。かけられた声に律儀に応えてしまうあたり、損なというのか殊勝なというのか。

 リフィクは上体を起こして、声の主へと振り向いた。そしてやや面を食らう。

 ななめ後方に立っていたのは、先の戦闘でも目立っていたあの少女だった。どうやら自警団の中で女性は彼女だけのようである。

 リフィクが面を食らったのは、彼女の服装についてであった。

 丈の短い袖なしのジャケットに、その下はこれまた丈の短いタンクトップ。そしてもはや下着と見まがうばかりのショートパンツ。

 日中の戦闘の時から、そんな肩出しヘソ出し太もも出しといった露出度の高い格好していたのだが、近いところで目にしリフィクは思わずドキリとしてしまったのだ。

 目のやり場に困って、赤くなりながらうつむく。

「お前、名前は?」

「はい、リフィク・セントランです……」

「ならリフィク、あたしの子分になれよ」

「はい……。……えぇっ!?」

 極度の疲労と照れから、よくわからない返事をしてしまったことに気付くリフィク。

「よし、忘れんなよ」

 少女はあっさり流して、リフィクの隣に座り中身の残った酒瓶に手を伸ばした。

「ちょっ、ちょっとまっ、まっ、ちょっとまっ、待って、まっ……!」

 リフィクは全身で動揺を表しながら、なんとか彼女に弁解を試みる。言葉が通じたかどうかは怪しいが、とりあえず少女は面倒くさそうに振り向いた。

「あー?」

「い、今なんと仰いましたか……?」

 リフィクは恐る恐る尋ねる。なんだか物騒なことを言われた気がした。

「なんか、子分がどうとかって……」

「あたしの子分になれとは言った。そんで、お前はそれを引き受けた。終わり。なんも問題ねぇよ」

 問題大ありである。そんなことにうっかり「はい」と言ってしまったことに対して、リフィクは自分で自分の頬をひっぱたいてやりたくてしょうがなかった。

「あのー、それはキャンセルみたいなことは……?」

「……てめー」

 リフィクの取り消し宣言を耳に入れて、エリスは不機嫌そうに目尻を上げた。

「まさか自分のその口で言ったことを撤回しようってハラじゃねぇだろうな」

 勢いや弾みとはいえ、言ってしまったことには変わりない。少々乱暴ではあるが、今はエリスに理があった。一応は。

「でもっ、でもー……」

 まるで子供のように反論しようとするリフィク。そんなものは無視して、

「それでも男かっ! 自分で言ったことには責任持ちやがれ、うすらバカ!」

 エリスは激しく追い詰めた。まさに炎のごとし。

「そ、それはそうですけど、でもっ、嫌ですよぅ子分なんて! せめてお友達から始めましょ、ねっ?」

 くたくたですでに頭が回っていないのか、リフィクの反論は的を外しまくっていた。

「女々しいーっ!」

「それくらいにしておけ、エリス」

 今にも噛みつかん勢いのエリスを制止したのは、彼女と同年代ほどの青年であった。

 山賊の一歩手前のような団員たちとは雲泥の差がある、穏やかな物腰。顔立ちも思慮深そうで、なにやら場違いな雰囲気さえただよっていた。

「弟分は引っ込んでろよ!」

「まだそんな昔のことを……」

 青年は横目に流してから、改めてリフィクを見て、深々と一礼した。

「レクト・レイドです。死にかけていた俺を、あなたが救ってくれたと聞きました。感謝の言葉もありません」

 先ほど『モンスター』の手により大ケガを負い、リフィクが術治療を施した青年。それが彼だった。

「いえ、そんな……お気遣いなく。困った時はお互い様ですから。お元気になられたようでなによりです」

 リフィクは照れたように小さくなる。青くなったり赤くなったりご苦労な奴だ。

 レクトは先ほどまで団長が座っていたイスに腰かけ、再びエリスに視線を戻した。諭すような表情。

「人の迷惑を考えろといつも言ってるだろ」

「うっせぇバーカ。そんな説教をしにわざわざ起き出してきたのかよ」

 対するエリスは、まったく聞く耳持たずといった態度だった。

「礼を言いに来たんだ。だが恩人に因縁をつけるな人間がいるなら見過ごすわけにはいかない」

「誰が因縁つけてるってんだよ、このボンクラ! お前の目はガラス玉か?」

「あのー……おふたり共、仲良く」

 口ゲンカに耐えかねて、リフィクが仲裁を買って出る。

「子分は黙ってろ!」

 が、エリスに一蹴されてしまった。

「だからそれはぁ…………もういいです」

 ついに限界を越えたようだ。リフィクは観念して、再びテーブルの上に突っ伏す。

「お疲れなら、もう休んでください。エリスの言うことは気にせず」

 そんな様子を見て、レクトが微笑みながらそう促した。

「はぁ。では、お言葉に甘えて……おやすみなさい……」

 『待て』を解かれた犬のように、リフィクは心底ほっとして体を起こした。ふらふらと左右に揺れながら奥のほうへと消えていく。

 

 祝いの席ももうお開きのようだ。帰ったり酔い潰れたりしていないのは、今やエリスとレクトをのぞいて数人ほどである。

「……無駄な心配かけさせやがって、バカが。あいつがいなきゃ死んでたんだぞ、てめー」

 すねるように呟くエリス。

「そうだな。……すまなかった」

 レクトは心から申し訳なさそうに、それに応えた。

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