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第二章(4)

 

 ラドニスの耳を頼りに、六人はそれぞれ木の陰に隠れ、接近者の様子をうかがっている。

 それはやはり『モンスター』であった。

 恐らく先ほど一戦やらかした連中と同じ種族であろう。そしてまたまたやはり、数は四体。全身覆う茶色い体毛をさらに鉄の鎧が覆い、それぞれ剣や槍といった武器を保持している。

 進行方向から予測すると、ちょうどエリスたちが潜むすぐ近くを横切ることになるだろうか。

 ざっくりとはいえ林立する木が目くらましになっているためか、向こうはまだこちらの存在に気付いていないようだった。

「私が合図したら、一斉に飛びかかって」

 風に消え入りそうな小声で、アリーシェがジェスチャー混じりに指示を出す。

「なんでてめーの言う通りにしなきゃなんねーんだよ」

 エリスもできる限りの小声で異論を送り返した。異論というよりは、いちゃもんに近かったが。

 見かねたレクトが、やはり小声で彼女に言い聞かせる。

「エリス、年の功だ。年長者の言うことは尊重したほうがいい。いくつ上の人だと思ってるんだ」

 悪気はまったくなかろうが、レクトのひとことがアリーシェの女心に小さく傷を付けた。

「なにが年の功だっ。あたしらの倍ぐらい長く生きてるのがそんなに偉いのかよっ」

 そしてエリスの言葉が追い討ちをかける。

「倍……!」

 直視したくない現実である。

「ちょっと、アリーシェ様の前で年齢の話はしないでよっ。気にしてるんだから、婚期とかっ」

 パルヴィーもつられるように参加し出し、フォローなのかトドメなのかよくわからない言葉を口にした。

 小声とはいえ飛び交うセリフに、いつバレてしまうのかとハラハラしっぱなしなリフィクであった。

「……私のことはいいとして」

 あらぬ方向へひた走る話を、アリーシェは自力で修正する。

「……それなら合図はエリスさんに出してもらうわ」

 なにやらその表情から元気がなくなっているように見えるのは、木漏れ日の差し加減によるものだろうか。

「ガッテンよ……!」

 彼女とは対照的に、エリスの表情には元気が満ちあふれていた。

 

 

 紫の血にまみれた『モンスター』の死体が四つ、転がっている。

 それらを見下ろしながら、エリスは剣をサヤに収めた。

「まっ、不意打ちならこんなもんか」

 加えて言うなら、数の上での利もあった。

 エリスとしてはあまり実感していないものの、やはり頼もしいものなのである。仲間というものは。

「住みかは近そうね。『彼ら』を見るに、方向もこちらで合っているようだし」

 アリーシェは今々倒した『モンスター』たちがやってきた方角へ、顔を向ける。エリスたちが荷馬車の男性から聞いた場所も、たしかそちらで合っているはずだ。

「なぁ」

 ひと息つくアリーシェへ、エリスが声をかける。

「あたしらが『奴ら』に歯向かってるってのを奴らが知ったら、関係ねぇ人間を巻き込むかもしれねぇっていうのはわかった」

 先ほど彼女が言っていたこと。それをエリスは、自分なりに考えていたのだ。

「けどそれを隠し通すってのも無理な話じゃねぇか? いつか絶対バレるだろうよ」

 現にこうして戦い、スズメの涙ほどとはいえ『モンスター』は減っているのだから。完全なる隠蔽など不可能に近い。

「そうね」

 無論のことと肯定するように、アリーシェがやわらかく返事をする。

「ただ、知れ渡るのを可能な限り防ぐ方法というものもあるわ。私たちはそれを心がけているの」

「なんだよ?」

「簡単よ」

 アリーシェは女神のような微笑みのまま、それを告げる。

「私たちの姿を見た『モンスター』を、すべて葬ればいいだけ」

 やさしげな表情とは裏腹に、物騒なことを言ってのける彼女である。とはいえそれはそれで、言うは易し行うは難しというヤツではなかろうか。

「なるほどな」

 しかしエリスは「たしかに簡単だ」とあっさり納得し、

「いろいろ考えて損した」

 それまで頭の中で考えていた一切合切を適当なところへ放り捨てた。

 

 

 林を抜けた先に、すたれた小さな村があった。

 箱のように屋根が四角い木の家が並び、村を横切って穏やかな広い川が流れている。

 家々の外見は古く、ところどころ破損しているように見えた。

 人が住んでいる気配はない。

 それもそのはず。

 そこには、『モンスター』たちが住んでいた。

「彼らが作ったにしては小さすぎる家。……村ごと略奪された、といったところね」

 林に身をひそめながら村を遠目に、アリーシェが冷静に呟く。

「街道を行く人間を無差別に襲う、野盗じみた連中ですもの。暮らしていた人間たちはもういないと見てよさそうね」

 彼女の拳が、ぐっと握り込まれた。

「……許せない」

 瞳に映るは激昂。静かだが激しく燃える彼女の戦意に、エリスは同調するように犬歯をのぞかせた。

 村をざっと見渡してわかるのは、奴らが道中で出くわしたのと寸分変わらぬ『シカ』に似た頭部をした種族だということ。

 そしてそれほど大量にいるわけではないということだ。

 建物の中にいるであろう連中を計算に入れても、せいぜい二十体以下。アリーシェらが最初に戦っていた『モンスター』たちよりいささか多いくらいだろう。

 特技なのかなんなのか、ゼーテン・ラドニスがそう断言した。根拠は己の聴覚らしい。耳の良さは先ほど証明済みである。

 さほど多くはないとはいえ、それでも正面からやり合うには危険な数だ。

「いつまでも隠れてないで、さっさとやっちまおうぜ」

 が、まったく危機感のないエリスである。

 普段通りといえば普段通りなのだが、了承も得ずに飛び出したりしない辺り少しは成長しているのかもしれない。

「やっぱり考えナシ」

 パルヴィーがぼそりと呟いた。

「黙ってろ、マヌケっつら」

 同じくぼそりと言い返すエリス。パルヴィーは頬をふくらませた。

「っていうかナニその薄着。戦う気あるわけ?」

「てめーみたいなだせぇカッコでもしろってのかよ。 んなもんあたしの勝手だろうが。口出しすんな、ふぬけっつらが」

「なによぅ。女は愛嬌って言葉知らない? 品なさすぎ」

「それしか能がねぇ奴はせいぜいお上品に愛嬌振りまいてろよ」

 ふたりは視線と視線を静かに激突させた。水面下で激しい火花が散っている。

 双方さすがに身をひそめている状況でそれ以上発展させるつもりはないらしい。

 

 どこか緊張感に欠ける両少女を横目に、アリーシェは気を張って思案をめぐらせていた。

 普段の三人での戦術は一旦よそに置き、エリスらを含めた六人での作戦行動を組み立ているのだ。

 人数が増えれば可能なことも増えるぶん、選択肢も増えていく。その中から最善の策を導き出すのは、少々骨が折れる作業である。

「あの川は使えませんか?」

 熟考するアリーシェへ、レクトが進言した。

 川。たしかに村の真ん中を通るように、幅の広い川が流れている。

 幅が広いとはいっても水量はそれほど多くなく、底は浅い。水かさは大人のスネまでもいかないだろうか。

 レクトは自分の案策をテキパキと伝える。

「……うまくいけば、一網打尽に」

 みなまで聞いて、アリーシェは感心するように「なるほど」とうなずいた。

 川を利用して一網打尽。……机の上では可能な作戦ではあるが、実際にやるとなると話は違ってくる。

 レクトとしてもそこから先の現実的な算段は、自分よりも経験の多いアリーシェに意見をもらおうと思っていた。

「半分が引っかかれば上出来……といったところね」

 アリーシェの予測はそれである。さすがに一網打尽とまではいかないだろうと。

「それでも半数を無力化させられれば勝機は見えてくる。……あなたに乗るわ」

 アリーシェは作戦に賛成の意を示してから、気付いた改善点をいくつか提言した。

 

    ◆

 

 『モンスター』の暮らしといっても、人間とそれほど差があるわけではない。

 村の広場をざっくり見てもわかる。

 立ち話に興じている者がいたり、武器の露店を開いている者がいたり、日も高いうちから路上で酒をあおいでいる者がいたり。

 人間の生活場でもよく見られる光景である。

 しかしその実体は、人間たちのそれとはまったく異なっていた。

 立ち話の内容は、手にかけた人間の恐怖や混乱の様子をあざ笑っている。

 武器を見る客は、それでどうやって人間を虐殺しようか考えている。

 飲んでいる酒類も、人間たちから奪った物だ。

 まさしく暴虐の徒。

 しかし彼らにとって、それらはごく普通のことなのだ。なんてことはない日常。

 弱肉強食。強き己らが、弱き人間らから思うがままに搾取する。当たり前のように。

 そこには悪気も、感謝も、罪悪感もない。

 それが許されているからだ。

 故に彼女らは反抗する。

 

 最初に『それ』に気付いたのは、取り引きを終えて手の空いた露店商だった。

 大小様々並べられた武器の前に座っている彼の目は、村の外へと向けられている。

「……?」

 ひとりの人間が、こちらに向かって走ってきていた。

 人間が『モンスター』を種族の違いでしか見分けられないように、『モンスター』も人間をそうそう見分けられないものである。

 体が大きいか小さいか。若いか老いているか。男か女か。それくらいでしか判別できないのだ。

 村の外から走ってくるのは、若い女だった。人間を見分ける能力の低い『モンスター』なら、髪の短さや肌の露出具合から男だと思うかもしれないが。

 なぜ人間が……? と露店商が疑問に思ったと同時に、人間は走りながら腰元の剣を引き抜いた。

「……!?」

 村と外との境界線付近で笑い話をしているふたりは、それに気付いていない。

「オーバーフレアぁぁーっ!」

 自分の存在を主張するかのように叫んだ人間の剣から、炎が勢い良く噴き上がった。

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