終章(24)
「レーミットォォォッ!」
隕石雨の中からいち早く飛び出してきたレーミットへ、エイザーはポールアックスの切っ先を向けて突撃した。
「どこまでも我々に盾付くつもりか、エイザー・エーツェル!」
レーミットは走りながら二本の剣を抜く。
以前見た時とは違う。その刃は、まるで宝石のように青く輝いていた。
「貴様たちのような者がこの街に、我が同胞の聖地に、足を踏み入れるなど! 断じて許すわけにはいかない」
「人様の街を荒らし回ってるてめぇらがぬけぬけと!」
まっすぐに突き出したポールアックスの先端と、振り下ろされた青い刃が絡み合う。
「用がなきゃこんなとこには来ねぇよ! 原因を作ってんのはてめぇらだろうが!」
腕力ではあちらが上。武器ではこちらが上。互角の勝負になるか――と思われたが。
次の瞬間、レーミットの青い刃から稲妻が迸った。
「!」
エイザーは咄嗟に柄から手を放して後方へ跳ぶ。
次の瞬間、ポールアックスが黒焦げになってどこかへ弾け飛んだ。
握ったままだったらエイザーの体まで同じようになっていたかもしれない。
初めて見る技だ。レーミットは先の二回とも、まったく手の内を見せていなかったのだ。
「武器を持てば勝てるとでも思ったか。そんな付け焼き刃で埋まるような力の差ではないと、己の命で思い知れ」
彼の背後から、一拍遅れて隕石雨を突破したハイブリードが駆けてくるのが見えた。
それを足止めするように、今度は数多の光条が打ち込まれる。
パルヴィーによる援護だ。
すかさず走り込んだドルフがそのハイブリードをブロードソードで袈裟がけに斬り裂く。
そして間髪を入れずに他の三人のハイブリードたちへと躍りかかっていった。
「一流の鍛冶職人が焼き刃を付けたら正規品にも劣らねぇってことをお前にも思い知らせてやりたいところだが、今は我慢しとくぜ」
エイザーは背中から二本のショートソードを引き抜いて半身に構えた。
相手も二刀流。こっちも二刀流。条件は同じだ。
ドルフとパルヴィーはふたりがかりで残る三人の相手をしている。
「ここまでお膳立てをしてもらってんだ。付け焼き刃だろうとなんだろうと、勝つためにはなりふり構っていられねぇんだよ!」
エイザーはスタンガントレットの応用で刀身にも電撃を流し、斬りかかった。
「リータレーネが待ってんだからなぁぁぁっ!」
「貴様が会うことは二度とない!」
レーミットが稲妻の剣で迎え撃つ。
エイザーは切っ先だけを当てるようにしてその剣を捌いた。
共に『魔術』の力をまとわせた刃。出力はレーミットのほうが圧倒的に上だが、思った通り少しの接触であれば対抗できるようだった。
「絶対に会う!」
「ならば死体になったあとで会わせてやる!」
エイザーは二本の短剣で乱打する。レーミットも同じく二本の剣を精密に舞わせて応戦した。
「貴様の首を見せつければ彼女とてあきらめがつくだろう!」
「趣味の悪いこと思いついてんじゃあねぇぜ!」
甲高い衝突音が断続的に響く。
刃が短いぶんだけ攻撃スピードはエイザーに分があった。
ひと息に押し込もうとした、その時。右手に持った短剣が半ばから砕け散った。
「……!」
稲妻の刃とまともに衝突してしまい、受け流せなかったのだ。
「貴様といても彼女が不幸になるだけだ。所詮は異種族!」
動揺。
苦し紛れに残った柄を投げつける。
それはたやすく切り払われてしまったが、わずかに出来た隙を利用して真横へ駆けた。
エイザーは腰から最後の短剣を引き抜く。
振り返ったのと、背後からレーミットが斬りかかったのはほぼ同時だった。
「共存など不可能!」
考える間もなくエイザーは短剣を振る。
焦るエイザーとは反対にレーミットはどこまでも冷徹だった。
エイザーが右腕を振り抜いた時には、またしても短剣の刃は砕かれていた。
「彼女のためを思うなら分不相応な希望を抱かせるな! いずれそれが刃となって彼女の心を傷付ける!」
今度は逃がすまいと言わんばかりに、レーミットは即座に稲妻の刃を振りかぶった。
「人間に産まれついたことを恨んで尽き果てろ! エイザー・エーツェル!」
至近距離。
逃げる隙はない。
次の瞬間――まっすぐ振り下ろされるはずだったレーミットの腕が、急激に軌道を変えた。
ほぼ真横へ向けて振り抜く。
衝撃音。
彼の剣が、高速で飛来したなにかを斬り飛ばしていた。
エイザーにはそれが何なのか見なくともわかっていた。
後方からヒューイングが放ったクロスボウの矢だ。
当てることはできなかったが、レーミットの注意を一瞬だけ引くことはできた。
それで充分だった。
「うおおおお!」
エイザーは残った左手の短剣を突き出す。
それがレーミットの右腕をざっくりと切り裂き、血飛沫を上げさせた。
「人間共がっ……!」
レーミットは表情を歪めて右手に持っていた剣を取り落とした。
斬ったと同時に送り込んだ電撃が効いているならば、一時的な麻痺状態にあるはずだ。
千載一遇のチャンス。
「たしかに俺には分不相応なくらいにかわいい奴だけどなぁぁ! だからこそなぁぁ!」
折られた短剣を投げ捨てて、残ったほうを両手持ちにして叩きつける。
「ここで良いとこ見せときてぇぇぇんだよ!」
「付け上がるな下郎!」
左手の剣一本で受け止められる。
刃の押し合い。単純な力比べに移行する。
エイザーは両手、レーミットは片手。さらに右腕を負傷して電撃も効いているだろうその状態で、ようやく互角だった。
「お前がいくら邪魔しようとなぁっ、俺は絶対にリータレーネをあきらめねぇっ!」
「人間という連中は非力なくせに欲深い……! 身の丈に合わないものを望もうとする! だから徒党を組んで争いを始める!」
レーミットの背後に五つの光球が浮かび上がった。
それが刃の形を成し、切っ先がすべてエイザーへと向けられる。
「故に消さなくてはならない! この世界から!」
「演説台の上でやってろ!」
射出される寸前、エイザーはどうにかレーミットの剣を押し返し、後方へ逃れた。
しかし五つの光刃は追尾して襲いかかってくる。
矢のような速さ。
「そんな屁理屈じゃ俺の反骨心は揺るがねぇ!」
エイザーは電撃をまとわせた短剣でそれらを叩き落とす。
「揺るがせらんねぇんだよ!」
一撃。二撃。三撃。四撃。五撃――を叩き込んだところで、負荷に耐えきれずに短剣の刃が砕け散った。
息つく暇もなくレーミットが突っ込んでくる。
残された剣はエリスから借り受けたひとふりのみ。
エイザーは砕けた短剣を捨て、それを引き抜いた。
ライトグリーンに輝く刃に電撃をまとわせる。
その瞬間。
さながら間欠泉のような勢いで電撃が放出し、今までにないような脱力感がエイザーを襲った。
力が吸われていく感覚、とでも言おうか。
『魔術』の伝導率が高すぎてまるで加減が利かないのだ。
自分でも制御しきれないほどのフルパワーが剣によって引き出される。
だがあまりに強力すぎた。
何秒も保たずに倒れる、と直感する。
「これ以上ハイブリードの理想を妨げるな! エイザー・エーツェル!」
レーミットが稲妻を宿した剣を振りかぶり――振り下ろす。
「これ以上俺とリータレーネの間に入ってくるんじゃねぇレーミットォォォォッ!」
エイザーは意地だけで意識を引き止め、渾身の力を込めて、横なぎに叩きつけた。
互いの剣が衝突する。
勝負は一瞬でついた。
レーミットの剣が小枝のように両断され、振り抜かれたライトグリーンの刃が、彼の胴体を真一文字に斬り裂いた。
「はぁっ……はぁっ……たいそうなお守りだぜ……!」
エイザーは立っていられなくなって地面に膝をつく。
体力を根こそぎ奪われた感覚だった。
「けど……こいつのおかげで助かった……」
自前の武器だけではとてもじゃないが太刀打ちできなかった。
この剣が限界以上の力を引き出してくれたからこそ、レーミットを倒すことができたのだ。
――いや。
「……!」
ふと顔を上げたエイザーが、大きく目を見開いた。
倒れたはずのレーミットが、ゆらり、と立ち上がったからだ。
「ハイブリードの理想は……果たす……! 同胞以外は全て殺す……! この身砕けようとも……!」
「執念深さは負けてねぇぜ、てめぇ……!」
エイザーは思わず圧倒されて息を呑んだ。
斬撃は深かったはずだ。
その証拠に白装束は前面ほとんど血に染まっている。裾から滴り落ちんばかりだ。
いくらリゼンブルの強靭な体だったとしても、相当な重傷だ。立てるわけがない。
しかしレーミットは立った。
もはや武器もない。満足に戦う力も残っていないだろうその状態で。なおもエイザーの前に立ちはだかっていた。
「エイザー・エーツェル……貴様は始末すると言った……! 二言はない……!」
「いいえ。残念だけど、ここで終わりよ」
凛とした声が割り込む。
パルヴィーとドルフがすぐ近くにまで寄ってきていた。
見ると、他のハイブリードたちはすべて倒れていた。
あちらの勝負もついたのだ。
「わかるわよね。とどめを刺されたくなかったら、大人しく道を空けなさい」
「……」
レーミットの蒼白の顔は、しかし戦意を失っていなかった。
「そう」
それを見て取ったパルヴィーが剣を構える。
「決着はまだついてねぇぜパルヴィーおばさん!」
エイザーは言いながら、剣を杖のようにして立ち上がった。
「どうにも許せねぇ奴だが、こいつの意地も大したもんだ……。だから、俺にも意地を張り通させてくれ」
剣は地面に突き立てたまま手を放す。そして前を見据えて両拳をぐっと握りしめた。
「レーミット。お前言いやがったよな……俺といたらリータレーネが不幸になるとかなんとかってよ」
がくがくとふるえる足を踏み出す。今にも倒れてしまいそうだったが、それでも強く、地面を踏みしめる。
「けどそんなことにはならねぇ。そんなことにはさせねぇ。それをお前に見せつけてやる。今の世界も捨てたもんじゃねぇって、証明し続けてやる。そのために……!」
右の拳を振り上げる。
レーミットも左の拳を固めて引く。だがその動きは明らかに鈍かった。
「この道は押し通る!」
エイザーの拳がレーミットの顔面へと打ち込まれる。
レーミットは背中から倒れて、今度は立ち上がってこなかった。
◆
エイザーは体力を消耗しすぎたためドルフに背負われて、再び舗装路を疾走した。
愛馬セトラは一行の最後尾をしっかりとついてくる。
エリスたちのほうへと戦力が集中しているためか、あの後一度も敵に遭うことなく市街地へ飛び込むことができた。
「白い街だな……!」
エイザーが呟く。
建物から道まですべてが白い石材で構成されていたからだ。
ハイブリードたちが白い装束を着ているのはこの街を象徴する意味合いがあるのかもしれない。
街の中を走る。
住人らしき姿はほとんど見えなかった。
エーツェル騎士団との戦闘が始まったということで家の中に避難しているのだろうか。
「あそこだ!」
ドルフは広い道のはるか先にある、二階建てで扉が緑色の家を指差した。
「あの中にトレイシーがいる」
と、言うが早いか。
進路を遮るように、ハイブリードの集団がわらわらと飛び出してきた。
三十人以上いるだろうか。手に手に武器を構え、あっという間に道を塞がれてしまう。
「おいおい、街の中じゃ戦闘にはならねぇんじゃなかったのかよ」
「エリスの楽観論は今に始まったことじゃないでしょ。エイザー君、いけそう?」
「……正直厳しいぜ。走るくらいはできるかもしれねぇけど、あの数を相手に戦うには、あと半日くらいは休みたいところだ」
「なら、ただの足手まといね」
パルヴィーはドルフの顔を見る。
彼女の言わんとすることを汲み取ったのか、ドルフはエイザーの体をひょいと持ち上げてヒューイングの馬に移した。
「まともに相手をしていられる数じゃないわ。私たちがあれを引きつけておくから、ふたりは先に行ってその子を拾ってきて。その後はリータレーネのところまで逃げまくるわよ!」
「頼んだぞ!」
ドルフもその作戦に賛成のようで力強くうなずいてみせた。
どの道考えている時間はない。
白装束の集団は人の波となって、もう目前にまで押し寄せてきていた。
「わかった!」
ヒューイングは覚悟を決めた顔で手綱を握り直す。
敵陣を突っ切る勇気は並大抵のものではない。しかしヒューイングの表情には、やり遂げてみせるというたしかな意志が宿っていた。
「よし! 任せたぜヒューイング!」
エイザーは振り落とされないようその背中にしっかりとしがみついた。
パルヴィーが馬上で抜いた剣に光が灯る。切っ先を前へ向けるとともに、矢のような光条が数多発射された。
敵陣のド真ん中に打ち込まれたそれを、ハイブリードたちは左右に散ってよける。
おかげでほんのわずかに道が開けた。
「今よ!」
パルヴィーの指示を受けてヒューイングは馬を加速させる。
だが敵も中央突破を見過ごすはずがない。
全員の注目が彼らへと集まった。
武器が、『魔術』が、集中攻撃の気配を高める。
その一瞬前に。
ドルフが跳躍し、向かって右側の集団に飛び込んだ。
パルヴィーが馬を駆り、向かって左側の集団に飛び込んだ。
乱戦の嵐が巻き起こる。
わずかな隙間をすり抜けるようにして、ヒューイングたちは戦線を突き抜けた。
剣戟の響きを背中に受けながらヒューイングとエイザーを乗せた馬は街並みを走る。
「さすがにあのふたりでも厳しい数だぜ! 急いでトレイシーを見つけてこねぇと!」
「ああ! ――あの家だ!」
ドルフが示した二階建ての家の前で馬から飛び降り、緑のペンキで塗られたドアに取り付く。
だが、鍵がかかっていて開けられなかった。
「くそっ!」
エイザーは、ならば窓を、視線をめぐらせる。
「どいてて!」
背後でヒューイングが叫んだ。
馬の荷箱からメイスを取り出してきてドアノブを叩く。
一撃で鍵ごと破壊し、すぐさま中へ押し入った。
エイザーも続く。
家の中には若い女性がひとりいて、目を丸くして固まっていた。
いきなり男ふたりが玄関を壊して侵入してきたのだから無理ないだろう。
「トレイシー! トレイシー!」
ヒューイングはそれには構わず声を張り上げた。
すると天井からドタバタという足音が聞こえた。
すぐにドアを開ける音が続き、階段を降りる音に変わる。
部屋の奥からトレイシーが飛び出してきた。
「お兄ちゃんっ!」
今にも泣き出しそうな顔でヒューイングに抱きつく。
「うそっ! ホントに来た!」
「ああ。外に父さんもいる。無事でよかった……」
ヒューイングは妹の体をしっかりと抱きしめて安堵の表情を浮かべた。
その光景を見てエイザーも心を和ませる。しかしすぐに気を引き締め直した。
「悪いがゆっくりしてる暇はねぇぜ。リータレーネは? 一緒じゃなかったのか?」
「そうだっ、レーネちゃんあの白い服着た人たちに連れてかれちゃった」
「連れてかれた!?」
「うん、なんか、誰々の娘だとかどうとか言われて……」
「奴らにバレちまったか。あのふたりもけっこう悪名高いからなあ……!」
ということはハイブリードはリータレーネの立場を最大限に利用しようとするだろう。
恐れていた事態が現実になってしまった。
しかし今さら後込みしてはいられない。
「とにかく行こうぜ! パルヴィーおばさんとドルフおじさんが待ってる!」
未だに呆然と立ち尽くしている女性を残して玄関へ急ぐ。
トレイシーだけは彼女に向けて「あっ、お世話になりました」と小さく頭を下げた。
エイザーたちは家の外へ飛び出して――ぎょっとして身を固くした。
家の前はすでにハイブリードたちに取り囲まれていたのだ。
「やべぇ……!」
十人近くいるだろうか。
先ほどの連中が追いかけてきたのか、新手の集団か。
どちらにしろ窮地に違いはなかった。
「ここまでだな、エイザーとやら」
その中の一人が挑戦的ににたりと笑う。
見覚えのある顔だった。
あの橋の上でレーミットと一緒に残ったもうひとり……たしかブリュックナーと呼ばれていた男だ。
「さあ、その同胞を家の中に戻して、お前たちふたりはこっちへ歩いてこい」
そのブリュックナーとやらが大剣を構えて命令する。周囲のハイブリードたちもぞろりと切っ先を向けた。
荒々しく仕掛けてこないのは、やはりトレイシーが巻き添えを食う恐れがあるからだろうか。
非道な連中ではあるが、決して同胞を傷付けないという理念は本物のようだった。
ヒューイングは、そんな要求を呑む気は無いとばかりにトレイシーを背にかばう。
エイザーはそのふたりの盾になるようにさらに前へ出た。
「アホかよ。はいそうですかと素直に従う性格だったらこんなとこまで来てねぇぜ! 腕ずくでやってみやがれ!」
「お前たちが八つ裂きにされる姿をその女の子に見せないようにしてやろうという配慮だったんだがな」
ブリュックナーが歩を進める。それに合わせて白装束の包囲も狭まった。
「どうやら余計なお世話だったようだ。――やれ!」
号令と共にハイブリードたちが一斉に襲いかかってきた。
体力はまだ戻っていない。それでもやるしかないと腹をくくった、その時。
エイザーたちの眼前で、十人全員が、まるで凍らされたかのようにぴたりと動きを止めた。
「……!」
いや、まるで、ではない。
彼らの手足に薄氷が張り付き、氷漬けになって拘束されていた。
エイザーの頭上を黒い影が飛ぶ。
バサリと羽ばたく音を立てて、ブリュックナーたちの背後へと降り立った。
黒ずくめの女性だった。
黒い髪。黒い翼。黒いローブ。おまけに黒い刃の剣をその手に握っていた。
「リュっ……!」
思ってもみない人物の降臨にエイザーはつい呼吸を詰まらせる。
「こいつは、まさか……」
かろうじて首を動かして背後を見たブリュックナーが驚異と脅威を絡ませて目を見開く。
「――問答無用」
女性は黒い風となってブリュックナーたちへと斬りかかった。
まさに風が吹き抜けたごとく。次の瞬間には十人全員が地面へと倒れていた。
エーツェル騎士団最強の座はやはり伊達ではなかった。
「うわっ! すごっ! つよっ!」
トレイシーが目をぱちくりさせる。
「リュシールおばさん……!」
エイザーは衝撃から立ち直ってようやく息を吐いた。
「えっと……知り合い?」
ヒューイングが訊ねる。エイザーは「ああ……」と震えた声で答えた。
「リータレーネのお母さんだ」
「えぇっ!?」
ヒューイングとトレイシーが声を揃えて驚く。
剣を鞘に収めたリュシールが、エイザーへと視線を移した。