あまのじゃく(ほのぼの)
ブログ短編
「天馬 渚です。よろしく」
「あまめ?甘党?」
「どちらかと言うと辛党です」
その軽そうなおつむにしっかり叩き込んで追いてくださいね、と笑顔で言ってやると、相手の顔が若干ひきつった。しかしそんなことは僕の知ったことじゃないので変わらずニコニコと愛想笑いを浮かべてやる。
「?みぎ…」
「なぎさ、ではなく、みぎわ、です。自己紹介はしましたからね、言い間違えられでもしたら僕何するかわかりませんからね」
ニコニコ。
ヒクヒク。
僕と相手の口元の形容をするなら、これ以外の言葉はないだろう。
部屋割りの紙を手に名を訊かれたので応えてやればこの反応だ。全く、男の癖に肝っ玉の小さい奴だ。ちょっと見た目と中身が違うくらいでこうも固まっていたら世の中を巧く渡るなんて夢のまた夢に違いないだろう。
大体なんだ。人の名前がそんなに不思議か。いい名前じゃないか水偏にあつまるで渚。一見簡単な字ばかりなのに一筋縄では読めないところも僕にぴったりの捻くれ具合じゃないか。何が不満なんだお前は。
そんなことを思いつつも顔には笑みを浮かべたままだ。しかしもう用件は済んだのだから、顔を保ったままサラッと固まったままの相手を無視して荷物を片付ける。
暫くして、ようやく相手が解凍してこぼした言葉に、
「名は体をあらわすの権化みたいな奴だな…」
僕は聞こえなかった振りで応えてやった。
なんだか…自分で言うのはいいけれど他人に言われるのは我慢ならない心地を初めて味わわせてくれた、奴の名前が気になった。
(2008/08/03)