影踏み(シリアス/高校生)
ブログ短編
そんなものが欲しかったんじゃない。
小さい頃は年齢なんて関係なくて、山に遊びにいくのも、空き家になった廃屋に忍び込んで秘密基地を作るのも、何をするのも一緒だった。
それでも一学年の違いは確実に僕たちを離して行った。僕より先に中学生になって、僕とは違う友達と付き合って、僕には追いつけないタイムを弾きだすのは、僕の知らない先輩だった。
先輩はそれでも昔のように僕を構ってくれたけれど、それは対等だった、仲間だった僕たちの関係を粉々に壊してしまうものでしかなかった。
どうしてこうなってしまったんだろう。
もし僕が先輩と同い年だったら、僕たちは昔のままでいられたのだろうか。
倉庫の中が薄暗いのは今が夕方の所為だけではない。ハードルを運び入れる時には開けていた扉を、数人分の人影が塞いでしまっているからだ。
幼馴染だというだけで先輩に目をかけられている僕が許せないのだと、彼らの一人が言った。他の数人に服の下を殴られる感触をまるで他人事のように感じながら僕は考えに沈む。
けれどそれも長くは続かず、僕を呼びに来た先輩が事を治めに割って入ってきた。小さかった頃のように相手に向かっていくのではなく、言葉で、"先輩"という権限を使って。
確かにそれは僕を守ってくれようとしての行動だった。
けれど。
"目をかけられる"
"守ってくれる"
保護者と被保護者のような関係なんて、そんなものが欲しかったんじゃない。
昔のように手を引いて歩いてくれる先輩の体温すら子供の頃とは変わってしまったことを感じながら、僕はひたすら涙を流し続けた。
子供の頃の思い出は宝物。
そんな言葉をよく耳にするけれど、僕は思い出になんてしたくはない。
それなのに、思い出を現在に求めてしまうことはどうしてこんなに虚しいのか。
逆光で見えない先輩の背中は、僕が知らない道の一歩先をこれからも歩いていく。
(2008/03/27)